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井戸から又子がきっと来ると思ったら、そのまま落ちて異世界転移でした  作者: 優未緋


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第3話 最初に会った人、私の井戸を見てドン引きしました

人だ。


 森を抜けた先、踏み固められた一本道の上を、確かに人が歩いていた。

 二本足。荷物持ち。剣っぽいもの腰装備。


「……人、だよね?」


 モンスターじゃない。

 幻覚でもない。

 ちゃんと文明側。


「やっと……やっと人に会えた……!」


 私は考えるより先に走り出していた。


「あの! すみません!」


 声をかけた瞬間、その人はぴたりと立ち止まり――一歩、後ろへ下がった。


「……」


 え、距離取られた?


「えっと、怪しい者じゃないです! 高校生です!」


(言った後で気づく)

(高校生って何の証明にもならない!)


 相手は私をじっと見て、次に足元、荷物、手。

 観察がやたら丁寧だ。


「……一人か」


「はい! 完全ソロです!」


 言い方が軽すぎたのか、相手は眉をひそめた。


「……この辺りは危険だ」


「知ってます! 昨日うさぎに殺されかけました!」


 沈黙。


 あ、引かれた。


 でも今はそれどころじゃない。


「えっと……水、分けてもらえませんか……?」


 喉が限界だった。


 相手は少し考え、首を振る。


「余裕はない」


「ですよねー……」


 完全に詰みかけた、その時。


(……あ)


 思いついてしまった。


「水なら……出せます!」


 ノリで。

 本当に、ノリで。


 私はしゃがみ込み、地面に手をかざした。


「えいっ」


 ごぽっ。


 乾いた土が沈み、綺麗な円形の穴が開く。

 底から、水音。


「――――」


 井戸。

 どう見ても、井戸。


「ほら! 水です!」


 顔を上げた瞬間、私は気づいた。


 相手は――井戸を見ていない。


 その周囲の地面を、一瞬で見回していた。


「……下がれ」


「え?」


 剣に手がかかる。


「ちょ、待ってください! 水ですよ!? 親切心です!」


 相手は一歩、さらに距離を取った。


「……それを、どこで覚えた」


「覚えたっていうか……なんか使えました」


 短い沈黙。


 低い声が落ちてくる。


「……それは、掘る魔法じゃない」


「はい?」


「立ち入り禁止を増やす魔法だ」


「……???」


 意味が分からない。


「井戸ですけど? 水、出てますけど?」


 相手は息を吐いた。


「勝手に井戸を作るな」


「え、ダメなんですか?」


「ダメだ」


 即答だった。


「地盤が変わる。水脈が歪む。

 街の近くなら、説明じゃ済まない」


「……街?」


 その単語に、私は希望を見つける。


「街あるんですか!?」


「ああ」


「行きたいです! 一緒に――」


「無理だ」


 遮られた。


「……お前の魔法は危険すぎる」


 悪意はない。

 でも、拒絶だ。


「悪気がないのは分かる。

 だが……関われない」


 相手は水筒を一つ投げてよこした。


「これだけだ」


「……ありがとうございます」


 街の方向を指差される。


「人前で使うな。

 見られたら、終わる」


 剣を納め、彼は背を向けた。


 私は思わず叫ぶ。


「井戸出しただけなのに!?」


 一瞬、足が止まる。


 振り返らずに、彼は言った。


「……だからだ」


 それだけ言って、去っていった。


 私は一人、井戸の前に立ち尽くす。


「……井戸、罪重すぎない?」


 でも。


 さっきの視線。

 地面を見る目。


 あれは――知ってる人の目だった。


「……とりあえず」


 水筒の水を飲み、私は歩き出す。


「街、目指そう」


 井戸は、消えないまま。

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