第28話 封印の話をちゃんとすると、現実味が重すぎる
朝になっても、答えは出ていなかった。
それでも時間は進む。
進んでしまう。
(異世界、容赦ない)
簡素な部屋の机に、私は座っていた。
向かいには兵士が二人。
少し離れて、フードの人。
空気が、やたらと固い。
「……では」
兵士が、淡々と切り出した。
「改めて、“封印”について説明します」
改めて、って言葉が怖い。
(つまり、正式なやつ)
「封印は、井戸との反応を遮断する処置です」
「あなた自身に施します」
私は、思わず眉をひそめた。
「……井戸じゃなくて?」
「井戸は、道具にすぎません」
「反応の起点が、あなたです」
(はい来た、核心)
「封印が成功すれば」
兵士は続ける。
「あなたは、井戸魔法を失います」
「完全に、です」
胸が、少しだけざわついた。
(失う、って言われると惜しく感じるのずるくない?)
「その代わり」
「現在起きている異変は、沈静化する可能性が高い」
可能性。
またその言葉。
「……黒幕は?」
私は、すぐに聞いた。
「止まりません」
即答。
兵士も、フードの人も。
「あなたがいなくなっても」
「別の方法を探すでしょう」
(ですよね)
私は、椅子にもたれた。
「……封印って」
ぽつり。
「私が楽になる選択、ではないんですね」
兵士は、少し困ったような顔をした。
「……街にとっては、即効性があります」
それが答えだった。
(私じゃなくて、街の都合)
「……失敗したら、どうなります?」
一瞬の沈黙。
嫌な間。
「……魔法だけが残る可能性があります」
「制御できない形で」
(最悪じゃん)
私は、乾いた笑いをこぼした。
「成功しても失う」
「失敗したら、もっと危険」
「……封印、博打すぎません?」
フードの人が、ここで初めて口を開いた。
「だから、最終手段だ」
低い声。
「選ぶなら、覚悟がいる」
私は、深く息を吸った。
「……私」
言葉を探す。
「正直、怖いです」
「逃げられるなら、逃げたい」
本音。
「でも」
拳を、ぎゅっと握る。
「封印したら、問題が解決した“気”になるのが」
「一番、嫌です」
フードの人が、静かにうなずいた。
「それが、封印の罠だ」
「“解決したと思わせる”」
私は、目を閉じた。
(やっぱり)
「……じゃあ」
目を開ける。
「今は、選ばなくていいですよね」
「いい」
即答。
「だが」
一拍。
「選ばされる時は、来る」
兵士が、資料を畳む。
「街としては」
「あなたがここにいる限り、監視を続けます」
「……ですよね」
もう慣れた。
会議は、それで終わった。
外に出ると、街は普通だった。
人が歩き、
水が使われ、
笑い声もある。
(全部、当たり前)
(でも、当たり前じゃない)
フードの人が、隣に立つ。
「……後悔しているか」
唐突な質問。
「いえ」
即答できた自分に、少し驚いた。
「怖いですけど」
「後悔は、してないです」
「そうか」
それだけ。
それで、十分だった。
私は、空を見上げる。
「……封印って」
小さく呟く。
「逃げ道でもあるけど」
「責任を、全部押し付ける選択でもありますよね」
返事はない。
でも。
この世界に来てから、
一番はっきりしていることがあった。
(私は)
(“楽な方”は、選べないタイプだ)
それだけは、分かった。




