第27話 役に立ちたいって思っただけなのに、重すぎませんか
その日は、静かに終わった。
正確には、
無理やり終わらせた感じだった。
被害は小さい。
怪我人もいない。
街も、まだ立っている。
それなのに。
(全然、終わった気がしない)
仮の宿の部屋。
私は、ベッドに腰掛けたまま動けずにいた。
服は汚れている。
靴も泥だらけ。
でも、それを脱ぐ気力すらない。
「……はぁ」
ため息が、やけに大きく聞こえる。
(止めたつもりで、逃がした)
(良かれと思って、別の場所壊した)
頭の中で、同じ場面が何度も再生される。
地面から噴き出す水。
驚く街の人。
自分の、動けなかった足。
(向いてない)
ぽつりと、思ってしまった。
(私、こういう役目向いてない)
異世界に来た時は、
もっとこう、勢いで何とかなると思っていた。
実際は。
(何もかも、重い)
ノックの音。
――こんこん。
「……はい」
力のない返事。
扉の向こうに、フードの人が立っていた。
「……大丈夫か」
その言葉で、少しだけ胸が痛くなる。
「大丈夫、ではないです」
正直に言った。
「別に、泣いてもいないですし」
「でも」
言葉が、詰まる。
「……私、やらかしましたよね」
フードの人は、すぐには答えなかった。
部屋に入り、壁にもたれる。
「……ああ」
肯定。
はっきり。
それが、逆にありがたかった。
「でも」
続く。
「最悪は、避けた」
私は、顔を上げる。
「……それ、慰めですか」
「事実だ」
即答。
少し、間が空く。
「君が何もしなければ」
「被害は、もっと大きかった可能性もある」
私は、膝の上で手を握った。
「……でも」
「次は、同じやり方使えないですよね」
「ああ」
「じゃあ」
小さく笑う。
「私、もう役に立たないじゃないですか」
自嘲だった。
フードの人は、しばらく黙っていた。
そして。
「……役に立つ、とは何だ」
問い返してきた。
「結果を、完璧にすることか」
「失敗しないことか」
私は、答えられない。
「それは、誰にもできない」
淡々とした声。
「少なくとも、初手ではな」
(フォロー下手だけど、優しい)
「……逃げたくなりませんか」
私は、ぽつりと言った。
「私、なります」
「今も、ちょっと」
フードの人は、否定しなかった。
「逃げるのは、悪くない」
「だが」
一拍。
「君は、逃げなかった」
その言葉が、胸に刺さる。
「……結果、失敗ですよ」
「それでもだ」
はっきりした声。
「逃げずに、失敗した」
「それは、次に繋がる」
私は、目を伏せた。
(そんな簡単に切り替えられたら、苦労しない)
でも。
(全部投げるほど、嫌いじゃない)
矛盾しているけど、
それが本音だった。
「……封印」
小さく口にする。
「本気で、考えた方がいいですか」
フードの人は、少しだけ目を細めた。
「考えるべきだ」
「怖いから」
即答。
私は、息を吐いた。
「……怖いです」
「なら、正常だ」
また、その言葉。
「怖いまま、考えろ」
「決断は、急ぐな」
窓の外で、風が鳴る。
街は、まだ眠らない。
問題も、終わらない。
「……私」
顔を上げる。
「もう一回、同じ失敗したら」
「その時は」
フードの人が、即答する。
「一緒に止める」
短い言葉。
でも、重い。
私は、思わず鼻で笑った。
「……ずるいですね」
「そうかもしれない」
その返しに、少しだけ肩の力が抜けた。
ベッドに倒れ込む。
天井を見る。
(役に立ちたい、だけだった)
(それが、こんなに重いとは)
でも。
(投げ出したくない)
それも、確かだった。
私は、目を閉じる。
まだ答えは出ない。
でも。
立ち止まって考える時間は、無駄じゃない。
そう思えるくらいには、
少しだけ、呼吸が楽になっていた。




