第25話 仕上げに来た人は、私たちを見て当然みたいな顔をしていた
その人は、最初からそこにいた。
気配もなければ、足音もない。
ただ、気づいたら立っていた。
完成しかけの井戸。
そのすぐそば。
「……っ」
私の喉が、ひくっと鳴った。
(いる)
(しかも、普通に)
フードの人が、一歩だけ前に出る。
兵士たちが、遅れて構える。
でも、その人は――動じない。
「やっぱり来てたか」
落ち着いた声。
状況に、まったく緊張していない。
「予想より早かったな」
(え、知ってたの?)
私は、思わず一歩下がった。
「……あなたが」
声が、少しだけ震える。
「これ、作ったんですか」
その人は、私を見た。
一瞬だけ。
そして。
「ああ」
あっさり、肯定した。
(あっさりすぎる)
「……目的は?」
フードの人の声は、低い。
「確認だよ」
軽い言い方。
「理論通りに動くかどうか」
井戸を、ちらっと見る。
「順調だ」
(最悪の評価)
私は、歯を食いしばった。
「……街が、巻き込まれます」
「だろうな」
否定しない。
「でも、必要だ」
「何のために!」
声が、思ったより大きく出た。
その人は、私を見て首を傾げた。
「……君が、例の子か」
胸が、ひやっとする。
(知ってる)
「反応が、面白い」
井戸を見る目と、同じ目。
観察する目。
「……人が住んでるんですよ」
必死に言う。
「水が止まったら、死ぬんですよ」
その人は、少し考えるような素振りを見せてから言った。
「だから、調べる必要がある」
「壊れるなら、どこまで壊れるか」
空気が、冷えた。
(価値観、違いすぎる)
フードの人が、低く言う。
「……やり方が、昔と同じだな」
一瞬。
その人の視線が、フードの人に向いた。
初めて、表情が変わる。
「……まだ生きてたのか」
短い沈黙。
重い。
(知り合いだ)
(しかも、良くないやつ)
「君が止めに来るなら、もう少し場所を選ぶべきだった」
「だが」
私に視線が戻る。
「この子が来るなら、話は別だ」
(私、完全にキー扱い)
「……完成させる気ですか」
私の問いに、その人はうなずいた。
「もちろん」
「途中でやめる理由がない」
井戸が、低く鳴った。
模様が、また一つ増える。
「……止めます」
私は、言った。
震えてるけど、言った。
「ここで、止めます」
その人は、少しだけ笑った。
「無理だ」
「今、止めれば」
「別の場所が壊れる」
(知ってる)
(でも)
「それでも、やります」
フードの人が、こちらを見る。
止めない。
否定しない。
選ばせている。
「……いい顔だ」
その人は、そう言って、一歩下がった。
「今日は、ここまでにしよう」
「完成は、次でいい」
(え?)
「君たちが、どう動くか」
「確認できた」
そして、振り返る。
「次は」
井戸に、視線を投げて。
「もっと、分かりやすくやる」
風が、吹いた。
次の瞬間。
その人の姿は、もうなかった。
静寂。
井戸は、まだそこにある。
未完成のまま。
でも。
(宣戦布告)
私は、そう思った。
フードの人が、低く呟く。
「……始まったな」
私は、唾を飲み込んだ。
「……はい」
逃げ道は、もうなかった。




