第24話 止めるか、下がるか、間に合わないか
正直に言う。
選択肢が少なすぎた。
「……時間、どれくらいあります?」
私は、井戸から目を離さずに聞いた。
「分からない」
フードの人の即答が、重い。
「早ければ、数分」
「遅くても……今日中だ」
(今日中って言い方、幅広すぎない?)
井戸は、静かだった。
さっきまで唸っていたのに、
今は逆に、静かすぎる。
(これ、嵐の前のやつ)
兵士の一人が、低い声で言う。
「……封印陣、用意できます」
その言葉で、空気が変わった。
私は、思わず振り向いた。
「今から?」
「簡易的なものなら」
「成功率は?」
一瞬の間。
「……高くない」
(ですよねー)
フードの人が、私を見る。
「封印すれば、この井戸は止まる」
「少なくとも、ここは」
私は、唇を噛んだ。
(“ここは”って言った)
「でも」
続く言葉が、分かってしまう。
「別の場所で、同じことが起きる」
私は、ゆっくり息を吐いた。
「……下がる、って選択肢は?」
「街は守れない」
即答。
分かってた。
分かってたけど。
(異世界、厳しすぎない?)
井戸の縁に、再び光が走る。
模様が、増えている。
「……進んでますよね」
「進んでいる」
フードの人の声が、低くなる。
「向こうは、こちらの様子を見ている」
(性格悪い)
私は、拳を握った。
「……止めに行ったら、どうなります?」
「君の魔法が、引き金になる可能性がある」
「最悪」
一拍。
「完成を、早める」
(やるなってことじゃん!)
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。
止めたい。
でも、触れない。
封印は、根本解決じゃない。
(詰んでる)
その時。
胸の奥が、違和感を訴えた。
引っ張られる感じじゃない。
押し返される感じでもない。
(……ずれてる)
「……あれ?」
思わず声が出る。
「どうした」
「井戸……」
私は、目を細める。
「これ、暴走してないです」
「……何?」
「ちゃんと、“待ってる”」
フードの人が、はっとした。
「……起動条件が、まだ揃っていない」
「だから、止まっている」
(つまり)
(何かを待ってる)
「……人?」
私が言うと、
空気が、さらに重くなった。
「可能性は高い」
兵士が、歯を食いしばる。
「……儀式か」
その瞬間。
遠くで、地面が鳴った。
ごく、低く。
でも、はっきりと。
「……来ます」
私の声は、震えていなかった。
怖いけど、分かってしまった。
「この井戸、完成させる気です」
「今から」
フードの人が、一歩前に出る。
「……退路を確保しろ」
兵士たちが動く。
私は、井戸を見る。
静かな水面。
でも、その奥に――
(意思、あるよね)
私は、決めきれないまま、口を開いた。
「……私」
喉が、少し詰まる。
「止めに行くべきですか」
フードの人は、すぐに答えなかった。
数秒。
その沈黙が、何より重い。
「……選べ」
短い言葉。
「君が、どうしたいかだ」
地面が、もう一度鳴る。
近い。
時間が、ない。
私は――
間に合わないかもしれない選択を、
これからしようとしていた。




