第23話 完成しかけの井戸って、もう爆発寸前って意味ですよね
その井戸は、隠す気がなかった。
むしろ――
見せつける気満々だった。
「……っ」
私は、足を止めた。
さっき見た“未完成の円”とは、明らかに違う。
地面が、抉られている。
石が、積まれている。
井戸の形を、してしまっている。
(……やめて)
完成してない。
でも、もう「井戸」だ。
「……これ」
声が、自然と低くなる。
「完成しかけ、ですよね」
「そうだ」
フードの人が即答した。
「一番、厄介な段階だ」
兵士たちが、無言で距離を取る。
正解だと思う。
(見てるだけで、引っ張られる)
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
私の井戸魔法が、
勝手に反応しかけている。
「……音、聞こえます?」
私は、井戸から目を離せずに言った。
ごぽ……
ごぽ……
低く、湿った音。
「溜めてるな」
フードの人の声が、硬い。
「水も、魔力も」
(ああ、これ)
(第19話のやつより、やばい)
「……噴いたら、どうなります?」
聞きたくなかったけど、聞いた。
「制御されなければ」
一拍。
「街一つ分、巻き込む」
兵士の一人が、息を呑んだ。
私は、乾いた笑いが出そうになるのを必死で堪えた。
(スケール、上がりすぎでは?)
その時。
井戸の縁に、淡い光が走った。
「……え?」
次の瞬間、
空気が、きしんだ。
ぞわっと、鳥肌が立つ。
「下がれ!!」
怒鳴られて、反射的に後退する。
井戸の内側で、
水が、形を変え始めた。
でも、噴き出さない。
代わりに。
井戸の縁に、
細かい模様が浮かび上がる。
「……魔法陣?」
「制御式だ」
フードの人が、歯を噛みしめる。
「誰かが、起動した」
(遠隔!?)
胸の奥が、冷える。
「……私、何かしました?」
「いや」
即答。
「これは、君を使っていない」
その言葉に、逆に背筋が寒くなった。
(私、関係ないのに動く)
(じゃあ、完全に“道具”として作られてる)
井戸の水面が、盛り上がる。
でも、まだ――出ない。
まるで。
(待ってる)
「……時間稼ぎだな」
フードの人が、低く言った。
「完全に仕上げる気だ」
私は、拳を握った。
「……じゃあ」
声が、少し震える。
「完成する前に、止めないとですよね」
誰も、否定しなかった。
その時。
風が、吹いた。
草が、一斉に同じ方向へ倒れる。
――圧。
はっきりとした、視線の気配。
(見てる)
(絶対、見てる)
私は、確信した。
この井戸は、事故じゃない。
実験でもない。
宣言だ。
――次は、もっと大きくやるぞ、って。
胸の奥が、冷たくなる。
「……異世界来て」
小さく呟く。
「井戸と頭脳戦する人生、想定外すぎる」
誰も、笑わなかった。
それが、答えだった。




