第2話 私の魔法、全部井戸基準なんだけど
生きてた。
目を覚ました瞬間、まずそれを確認した私は、地面に大の字になったまま天を仰いだ。
「……昨日のうさぎ、夢じゃなかったかぁ……」
草原。森。空。
どう見ても異世界。
現実を受け入れたくない気持ちを一旦横に置いて、私は考える。
「……でもさ」
異世界といえば。
「魔法、あるよね?」
あるでしょ。
ないと困る。
私はむくっと起き上がり、両手をじっと見る。
「ステータス画面は出ないけど……まあいいや」
深呼吸して、集中。
「えーっと……それっぽく……」
その瞬間。
ごぽっ。
「……え?」
足元の地面が、音を立てて沈んだ。
「ちょ、ちょっと待って?」
見下ろすと、そこには――
「……穴?」
直径一メートルほどの、円形の穴。
しかもやたら深い。
底が見えない。
「……井戸?」
完全に、井戸だった。
「いやいやいやいや!!」
私は後ずさる。
「なんで魔法使ったら井戸できるの!? 用途限定すぎない!?」
試しに小石を落としてみる。
……。
……。
「音、しないんだけど!?」
怖っ。
「いや、埋めて! 今すぐ埋めて!」
焦ってもう一度手をかざす。
「戻れ! えいっ!」
ごぽぽぽっ。
今度は、穴の中から水が噴き出した。
「うわっ!? ちょっ、待って!」
水は勢いよく溢れ、私の靴を一瞬でびしょ濡れにする。
「これ……井戸水!? 清潔!? 飲めるやつ!?」
そんな疑問を抱いている場合じゃない。
「止まれ止まれ止まれ!」
再度、魔法っぽく念じた瞬間。
水は止まった。
代わりに。
「……バケツ?」
井戸の上に、木製のバケツが出現した。
しかもロープ付き。
「……は?」
完全に、井戸セット。
「いや、なんでそんな再現度高いの!?」
私は頭を抱えた。
「攻撃魔法は!? 防御魔法は!? なんで生活用水特化なの!?」
と、その時。
草むらが揺れた。
「……まさか」
嫌な予感的中。
昨日とは別タイプの、小型モンスターらしき影。
「ちょっと待って! 今それどころじゃない!」
私はとっさに魔法を使う。
「えいっ!」
ごぽっ。
モンスターの目の前に、井戸が出現した。
……落ちた。
「……あ」
一瞬、勝ったと思った。
でも次の瞬間。
ぴょん。
普通に跳び出てきた。
「井戸、全然効いてない!!」
むしろ、足場にされてる。
「ダメだこれ!!」
逃げる私。
追ってくるモンスター。
足元が濡れていて、滑る。
「水出したの自分だったぁ!!」
転びかけた拍子に、私は井戸の縁を掴んだ。
「……待って」
ふと、ひらめく。
私は全力で念じた。
「深くなれ!!」
ごぽぽぽぽっ!!
井戸が、異常な速度で沈んだ。
モンスターはバランスを崩し、そのまま――
すとん。
落下。
……静寂。
「……」
数秒後。
「……勝った?」
恐る恐る覗き込む。
底は、見えない。
「……これ、帰ってこれないやつでは?」
ぞっとして、私は井戸から離れた。
「……魔法」
便利そうで。
「……全然、使い物にならない……」
むしろ地形破壊魔法。
「これ、街で使ったら即捕まるやつだ」
私は深いため息をついた。
「井戸しか出せない魔法とか、聞いたことないんだけど……」
でも、一つだけ分かった。
この魔法。
「……使いどころ、めちゃくちゃ限定される……」
生き延びるためには、
知恵と運と、あと井戸。
「……本気で、一人は無理だな」
私は遠くに見える森の向こうを見つめた。
「人のいる場所……探そう」
井戸を背に、私は歩き出した。
――役に立たない魔法と一緒に。




