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井戸から又子がきっと来ると思ったら、そのまま落ちて異世界転移でした  作者: 優未緋


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第18話 出ない井戸って聞いてたけど、これはちょっと違うと思う


 門をくぐった瞬間、違和感があった。


 別の街。

 同じような石壁。

 同じような建物。


 なのに。


(……空気、重くない?)


 人の数は、少ないわけじゃない。

 ちゃんと生活音もある。


 でも、声が低い。

 動きが、慎重。


「……雰囲気、違いますね」


 私が言うと、兵士がうなずいた。


「水が使えない街は、こうなる」


 その一言で、全部伝わった気がした。


 井戸は、街の中央にあった。


 石で囲われた、ごく普通の井戸。

 壊れてもいないし、封鎖もされていない。


「……これ?」


「これだ」


 兵士が答える。


 私は、一歩だけ近づいた。


 胸の奥が、きしっと鳴る。


(……反応してる)


 でも、いつもの感じと違う。


 引っ張られる感じが、ない。

 代わりに――


(押し返されてる?)


「……近づきすぎるな」


 フードの人が、低く言った。


 私は、その場で止まる。


「覗いてもいいですか」


「見るだけなら」


「……その“だけ”が危ないんですよね」


 ぼやきつつ、私は縁から少し距離を取って中を覗いた。


 暗い。


 でも、底は見える。


(……見える?)


 今まで見てきた井戸は、

 どれも“深さが分からない”感じだった。


 なのに、この井戸は違う。


 深いけど、有限。


 水も、ちゃんとある。


「……普通じゃないですか?」


 正直な感想。


 兵士が、首を振る。


「汲んでみろ」


 桶が差し出された。


(やりたくないけど)


 私は、慎重に桶を下ろした。


 水に触れる感覚。


(ある)


 ゆっくり、引き上げる。


 ――軽い。


「……あ」


 桶の中は、空だった。


 底が、乾いている。


「……今の、どうなってました?」


「見ての通りだ」


 兵士の声が、硬い。


 私は、もう一度桶を見る。


(確かに、水に触れた)


(でも、残らない)


 フードの人が、井戸を見下ろして言った。


「遮断されている」


「水脈との接続を、途中で切られている」


「……切れるんですか、そんなの」


「本来は、切れない」


 即答。


 つまり。


(誰かが、切った)


 背中が、冷える。


「……私の井戸は“繋げる”感じでしたよね」


「ああ」


「これは、真逆だ」


 私は、一歩下がった。


 胸の奥の違和感が、強くなる。


(ここ、嫌)


(近づいちゃダメなやつ)


「……これ、放っておくとどうなります?」


 勇気を出して聞く。


「水が、腐る」


「地盤が、歪む」


「最悪」


 一拍。


「別の場所で、噴き出す」


(ワープ噴水やめて)


 街の人たちが、遠巻きにこちらを見ている。


 期待と、不安と、諦めが混じった目。


(やばい)


(これ、私が来たから何とかなる、って思われてる)


「……私」


 小さく言う。


「ここでは、井戸出せません」


「分かっている」


 フードの人は、淡々と言った。


「君の魔法は、ここでは逆効果だ」


 つまり。


(私は、原因じゃない)


(でも、解決役でもない)


 兵士が、街の代表らしき人と話している。


 険しい顔。


 私は、井戸から目を離せなかった。


 静かな水面。


 何も起きていない。


 でも。


(溜まってる)


 第15話で言われた言葉が、頭をよぎる。


「……これ」


 私は、ぽつりと言った。


「まだ、何も起きてないだけですよね」


「そうだ」


 フードの人が答える。


「だから、危険だ」


 その瞬間。


 胸の奥が、ぞわっとした。


 井戸の水面が、

 ほんの一瞬だけ、歪んだ気がした。


(……今の)


 誰も、声を上げない。


 でも、私は確信していた。


 この井戸は、

 壊れているんじゃない。作られている。


 そして。


(これ、時間の問題だ)


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