第14話 似たような話をされたんだけど、全然似てないんですが
その話は、夕方に突然始まった。
私は宿の部屋で、ベッドに座って靴紐を結び直していた。
特に意味はない。
ただ、外に出るのが少し怖かっただけだ。
「……出ないのか」
部屋の入口近くで、フードの人が言う。
「出ますよ?」
「迷ってる顔だ」
(鋭いな)
「ちょっと、休憩です」
私はベッドに倒れ込んだ。
「監視されてると、地味に疲れるんですよ」
「そうだな」
否定しない。
しばらく沈黙。
窓の外では、街の音がする。
人の声。
鍋を叩く音。
普通の夕方。
「……昔な」
不意に、フードの人が口を開いた。
私は、体を起こす。
「似たようなことがあった」
来た。
(来ましたよ、重い話)
「井戸絡みですか」
「ああ」
即答。
私は、変に軽くならないように、黙って聞くことにした。
「能力を持った人間がいた」
「無自覚だった」
(……私じゃん)
「周りは、便利な魔法だと思った」
「最初は、誰も疑わなかった」
声は淡々としている。
感情を混ぜない話し方。
逆に、それが怖い。
「でも、水は繋がっている」
「一箇所を動かせば、別の場所が歪む」
「井戸は、特にそうだ」
(嫌な予感しかしない)
「結果、どうなったんですか」
私は、覚悟を決めて聞いた。
少し、間があった。
「街が、一つ使えなくなった」
「……え」
言葉が、軽すぎて追いつかない。
「使えなく、なった?」
「水脈が壊れた」
「土地が沈んだ」
「人は……」
そこで、言葉が切れた。
(あ、これ、言わないやつだ)
私は、無理に続きを促さなかった。
「止められなかったんですか」
代わりに、聞いた。
「……止められたかもしれない」
曖昧な答え。
でも。
(後悔してる)
それだけは、はっきり分かった。
「その人は、どうなったんですか」
「封じられた」
短く。
「能力ごと」
胸が、きゅっとなる。
(私、封印ルートあるなこれ)
笑えない。
「……その話、なんで私にしたんですか」
私は、少しだけ強気に聞いた。
フードの人は、窓の外を見たまま言った。
「選択肢を、知っておいてほしい」
「便利さの先に、何があるか」
「責任を、取らされる前に」
(重い)
(重すぎる)
でも。
「それ、私が同じことする前提ですよね」
「前提じゃない」
即答。
「可能性の話だ」
「起きないなら、それでいい」
その言葉に、少しだけ救われた。
「……じゃあ」
私は、ベッドの上で胡坐をかく。
「私は、どうすればいいんですか」
「まだ、何も決めなくていい」
それも、即答。
「今は、生き延びろ」
「街で、人を見ろ」
「自分が、何を守りたいか決めろ」
(ざっくり)
「決まらなかったら?」
「その時は」
一瞬、こちらを見る。
「一緒に考える」
その言葉は、ずるい。
(そんなこと言われたら、逃げにくくなるじゃん)
私は、鼻で笑った。
「……似た話って言いましたけど」
「全然、似てないですよ」
「私は、まだ何も壊してない」
「これから壊す予定もないです」
「せいぜい、街の人の胃を痛くするくらいです」
フードの人が、小さく息を吐いた。
たぶん、笑った。
「それで済めば、上出来だ」
夕方の光が、部屋に差し込む。
私は、窓の外を見る。
街は、まだちゃんと立っている。
(守りたいかどうかは、分からない)
(でも)
壊したくは、ない。
その気持ちだけは、本物だった。
「……とりあえず」
私は立ち上がる。
「晩ごはん、行きません?」
「話重かったんで」
「お腹空きました」
「現実的だな」
「現実逃避です」
フードの人は、何も言わずにドアを開けた。
その背中を見て、私は思う。
(この人、やっぱり何か背負ってる)
(でも)
今は、全部知らなくていい。
私には、私の一日がある。
選択は、まだ先だ。
たぶん。
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