第13話 監視されてるだけで、こんなに落ち着かないもの?
結論から言うと。
監視されながらの日常は、
全然、日常じゃなかった。
「……ついてきてますよね」
私は小声で言った。
「ついてきてるな」
即答。
振り返らなくても分かる。
通りの角。
市場の端。
視界の端に、だいたいいる。
(見張り、下手じゃないけど上手でもない)
気づかせる前提の距離感。
私はパン屋の前で立ち止まった。
「これください」
普通に買い物。
後ろに視線。
緊張。
(万引きとかしないから!)
店主は私と、背後を交互に見て、少し困った顔をした。
「……大変だね」
「はい」
否定できない。
パンを受け取って歩き出す。
そのまま、何となく井戸から遠い通りを選ぶ。
「無意識で避けてるな」
横から声。
「うわっ」
驚いて飛びそうになった。
いつの間にか、フードの人が隣を歩いていた。
「……心臓に悪いので、出るなら前からお願いします」
「善処する」
たぶん、しない。
「監視、慣れないだろ」
「慣れる人、います?」
即答。
通りを歩きながら、私はぼやく。
「トイレ行くのも、視線あるんですよ」
「……それは配慮が足りないな」
「ですよね!?言ってください!」
「後でな」
(後で、が信用できない)
少し歩いて、露店の並ぶ広場に出た。
子どもが走っている。
笑い声。
昨日までと、同じ景色。
なのに。
(私だけ、浮いてる)
「……あの」
私は、ちらっと横を見る。
「どうして、ここまで分かるんですか」
フードの人は、少し考えてから言った。
「昔」
短い前置き。
「似たような場所を、調べていた」
それだけ。
でも、胸が引っかかった。
「……仕事で?」
「ああ」
それ以上は、言わない。
(元・調査側、確定)
でも、辞めた理由は聞けなかった。
私も、聞かなかった。
沈黙が、少しだけ気まずい。
私は、話題を変える。
「監視って、いつまで続くんですか」
「街が安心するまで」
「ふわっとしてません?」
「ふわっとだ」
(はっきりして)
広場の端で、私は立ち止まった。
「……私、悪いことしてないのに」
ぽろっと出た。
子どもが笑っている声が、遠くに聞こえる。
「知ってる」
即答。
「それでも、怖いものは怖い」
フードの人は、少しだけ視線を落とした。
「街は、結果しか見ない」
「原因や事情は、後回しだ」
それが、現実。
「……慣れてますね」
「……まあな」
一瞬、言葉が詰まった。
(今の、重い)
私は、無理やり明るく言う。
「じゃあ、慣れてない私のために」
「今日の目標、決めましょう」
「目標?」
「はい」
パンを掲げる。
「井戸に近づかず、何も沈ませず、普通に一日終える!」
「低いな」
「今の私には高難度です!」
フードの人が、ほんの少しだけ口元を緩めた。
(今、笑った?)
たぶん、気のせい。
でも。
監視されていても。
問題山積みでも。
(こういう日が、続けばいい)
私は、そう思ってしまった。
井戸は、今日も静かだ。
でもそれは、
私が気を抜いていい理由にはならない。
分かってる。
分かってるけど――
「……普通の一日、難易度高すぎでは?」
私は、ため息混じりに呟いた。
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