第12話 試しにやってみたら、想像よりだいぶダメでした
結論から言う。
実験は、失敗した。
しかも、わりと派手に。
「……じゃあ」
私は、井戸の縁に立っていた。
周囲には、兵士と大人たち。
そして、少し離れた位置にフードの人。
全員、緊張した顔。
(この状況で緊張しない方が無理)
「やる内容、もう一回確認するぞ」
兵士が言う。
「井戸は出さない」
「水脈に触れない」
「反応するかどうかだけを見る」
「異常が出たら、すぐ離れる」
私は、何度も頷いた。
「はい」
(理論上は簡単)
(問題は、私)
井戸の中を覗き込む。
相変わらず、底が分からない。
(……触らない、触らない)
深呼吸。
集中。
「……今、どうだ」
フードの人の声。
「……なんも起きてないです」
正直な感想。
空気は静か。
地面も揺れない。
(あれ?もしかして)
(いける?)
その瞬間だった。
――ぐにっ。
「……え?」
足元の感触が、変わった。
「ちょ、地面――」
言い切る前に、
――ぐらっ。
「下がれ!!」
怒号。
地面が、ゆっくり沈む。
(ゆっくりなのが逆に怖い!!)
「出してない!」
「出してないのに!」
私は叫びながら、必死に後ずさった。
井戸の中から、
ごぽ……ごぽ……と嫌な音。
(触ってないのに反応してる!?)
「……だから言った」
フードの人が、低く呟く。
「見るだけでも、繋がる」
(理不尽!!)
兵士たちが、規制線を広げる。
「止まれ!」
「それ以上近づくな!」
「近づいてないです!!」
私は泣きそうだった。
地面は、数秒揺れて――
ぴたりと、止まった。
静寂。
「……止まった?」
誰かが言う。
私は、その場にへたり込んだ。
「……出してない」
今日、二回目。
フードの人が、井戸を見下ろす。
「完全に受動反応だな」
「呼び水、どころじゃない」
兵士が頭を抱える。
「見るだけでアウトか……」
(使い道なさすぎでは)
「……一応、成果はある」
フードの人が言った。
全員が、そちらを見る。
「出さなくても、反応する」
「だが、出さなければ拡大はしない」
私は、ゆっくり顔を上げた。
「……最悪だけど、最悪の中ではマシ?」
「そうだ」
即答。
(褒めてる?これ)
兵士が、腕を組む。
「つまり」
「彼女が不用意に近づかなければ、被害は限定的」
「近づく時は、監視必須」
「実験は――」
一瞬、私を見る。
「……当分禁止だな」
「賛成です!!」
声が被った。
全会一致。
私は、井戸から距離を取った。
正直。
(井戸、怖い)
でも。
(完全に何もできない、わけじゃない)
それも分かった。
フードの人が、私に向き直る。
「無茶はするな」
「今日は、よく耐えた」
「……珍しく、褒めてません?」
「事実だ」
短く言われて、少しだけ照れた。
(なんだこれ)
周囲が解散し始める。
私は、井戸を一度だけ振り返った。
静かな水面。
何も起きていない、今は。
「……使えないけど」
小さく呟く。
「知れば、守れることもあるよね」
返事はない。
でも。
異世界に落ちてから初めて、
私は“前に進んだ気”がしていた。




