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井戸から又子がきっと来ると思ったら、そのまま落ちて異世界転移でした  作者: 優未緋


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第10話 揺れの中心へ行くって、誰が決めたんですか

揺れたのは、朝だった。


 目覚ましもない世界で、

 地面に起こされるとは思わなかった。


「……っ!」


 藁が跳ねる。

 倉庫の壁が、きしっと鳴った。


(来た)


 嫌な予感は、当たる。


 外が一気に騒がしくなった。


「まただ!」

「今度は大きいぞ!」

「北側だ!」


 私は毛布を掴んで外に飛び出した。


 通りの先、

 人の流れが一方向に集まっている。


(……中心、だ)


 逃げる選択肢は、頭をよぎった。


 でも、足は逆に動いていた。


「……私のせい、かもしれないし」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


 兵士たちが、すでに規制線を張っていた。


「入るな!」

「下がれ!」


 地面の一部が、大きく沈んでいる。


 建物の壁に亀裂。

 井戸の縁が、歪んでいる。


(……近い)


 その瞬間、背中に視線を感じた。


 振り向くと、

 フードの人物が、兵士と短く言葉を交わしている。


 目が合った。


 ほんの一瞬。


 その視線だけで、意味は分かった。


(来るな、じゃない)

(来たなら、覚悟しろ、だ)


 私は、規制線の前で止まった。


 兵士の一人が、私に気づく。


「……君か」


 声に、昨日より迷いがある。


「近づくな」


「……少し、見たいだけです」


 自分でも驚くほど、落ち着いた声が出た。


「何か分かるかもしれません」


 兵士は、すぐには返事をしなかった。


 代わりに、フードの人物が口を開く。


「責任を取る気があるなら」


 低い声。


「中心を見るべきだ」


 兵士が、舌打ちする。


「危険すぎる」


「もう、危険だ」


 短いやり取り。


 そして、兵士は一歩、道を空けた。


「……勝手なことはするな」


「はい」


 私は、沈下地帯に足を踏み入れた。


 地面は、ひどく不安定だった。


 足元から、じんわりと湿気。


(……水)


 井戸の縁に近づくと、

 胸がざわつく。


 魔法が、勝手に反応している。


(出すな)

(出すな出すな出すな)


 必死に、抑える。


「……分かるか?」


 後ろから、声。


「……分かりたくないけど」


 私は正直に言った。


「ここ、底がない感じします」


「……やっぱりか」


 井戸を覗き込む。


 暗い。

 深さが、測れない。


 その瞬間。


 ――ぐらっ。


 地面が、大きく揺れた。


「きゃっ!」


 体が傾く。


 誰かに、腕を掴まれた。


「離れるな!」


 必死に踏ん張る。


 井戸の中から、

 ごぽっ、と嫌な音がした。


(やめて!!)


 私は、両手で井戸の縁を押さえた。


 魔法が、暴れそうになる。


「……今、出したら」


 声が震える。


「ここ、全部沈みます」


 フードの人物が、即座に判断した。


「引け!」


 兵士たちが、一斉に動く。


 私は引っ張られて、地帯の外へ転がった。


 次の瞬間。


 ――ごぼ、ごぼ、と。


 井戸の水位が、一気に上がった。


 でも、溢れない。


 地面が、ぎりぎりで止まる。


 静寂。


 しばらくして、誰かが言った。


「……止まった?」


 私は、仰向けに倒れたまま、息を吐いた。


「……出してない」


 それだけで、今日は合格だと思った。


 フードの人物が、私を見下ろす。


「制御は、できていない」


「でも」


 一拍置いて。


「逃げなかったのは、正解だ」


 胸の奥が、少しだけ軽くなる。


「……全然、褒められてる気しません」


「褒めてない」


 即答。


 私は、苦笑した。


 周囲では、被害の確認が始まっている。


 完全には、止められていない。


 でも。


(最悪は、避けた)


 それだけは、確かだった。


 私は、井戸を見た。


 静かな水面。


 でも、その奥は――まだ分からない。


「……ここが、中心」


 小さく呟く。


 もう、目を逸らせなかった。

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