第1話 井戸を覗いただけなのに、異世界でした
はじめまして。
お読みいただきありがとうございます。
この作品は
異世界転移ものですが、
強くなって無双するタイプではなく、
少しドタバタしつつ考えながら進んでいくお話です。
気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
私、又子。十七歳。高校生。
放課後、なぜか井戸を覗いている。
「……絶対、何か来ると思うんだよね」
根拠はない。
でも井戸って、そういう場所じゃない?
昔話でもホラーでも、だいたい事件が起きる。
私は民家の裏にある、使われなくなった古井戸に身を乗り出した。
中は暗くて、底が見えない。
「ちょっと見るだけだし……」
その瞬間。
つるっ。
「え?」
足元が滑り、視界が反転した。
「ちょ、待――!」
井戸の縁が消え、私は真っ逆さまに落ちていく。
暗闇。風。重力。
「覗いただけなんだけど!?」
叫びが反響したところで、意識が途切れた。
⸻
次に目を覚ました時、最初に見えたのは空だった。
「……生きてる?」
体を起こすと、そこは草原だった。
見渡す限り緑。森。知らない植物。
「……は?」
井戸はない。建物もない。
「いや、待って。私さっきまで日本で――」
状況が噛み合わない。
でも、嫌な単語だけが頭に浮かぶ。
「……異世界?」
否定したかったが、景色が肯定していた。
「説明役とか来ないの? チュートリアルは?」
返事はない。
世界は無言だ。
その時。
がさっ。
「……?」
草むらから現れたのは、白くて小さな――うさぎ。
「……なーんだ」
安心した、その瞬間。
うさぎが跳んだ。
速い。
異常な速さで距離を詰めてくる。
「え、ちょっ!?」
避けきれず転倒。
次の瞬間、私の横の地面がえぐれた。
「……今、地面削った?」
うさぎがこちらを睨む。
完全に捕食者の目。
「それ、うさぎの動きじゃない!!」
私は立ち上がって走った。
走って、転んで、また走る。
「私ただの高校生なんだけど!!」
背後から迫る気配。
心臓がうるさい。
――これ、普通に死ぬやつだ。
足元の石につまずき、転倒した拍子にそれを掴む。
「……お願い!」
振り向きざま、全力で投げた。
命中。
うさぎが体勢を崩した一瞬の隙に、私は倒木の影へ転がり込む。
しばらくして、気配は消えた。
「……はぁ……」
震える息を吐く。
「……最弱っぽい見た目で、これ?」
草原を見渡し、乾いた笑いが漏れた。
「この世界……初心者殺しすぎでしょ……」
井戸を覗いただけで、命の危機。
説明なし。装備なし。助けもなし。
「……でも」
私は立ち上がる。
「生きてるなら……やるしかないよね」
こうして、
何気なく井戸を覗いた高校生の、
無茶すぎる異世界生活が始まってしまった。
――とりあえず、生き延びるしかない。




