推しへの奉仕と、明かされる孤独
リリアが秘書となってから数週間が経過した。
カタリナ様は相変わらずリリアを「気味の悪い女」と呼んでいたが、
彼女の仕事の正確性と情熱を無視できなくなっていた。
特に、リリアが献身的に持ってくる高級スイーツ店の地味な焼き菓子(カタリナ様が最も好むもの)を前にした時だけ、彼女の表情はほんの少し緩む。リリアはそれを「推しの素顔」と呼んで、脳内でスチルを保存した。
ある雨の日の放課後。リリアはカタリナ様から命じられた「公爵家の財務状況の整理」という、極めて個人的で重要な雑用をこなしていた。
(原作では、カタリナ様は「悪役令嬢」として贅沢三味していることになっていたけど.....)
書類を整理していくうちに、リリアは驚愕の事実にたどり着いた。
「カタリナ様....公爵家の資金は、毎年どこかへ異常に流出しています。しかも、カタリナ様の私的な支出を装って......」
カタリナ様は、その書類をリリアから奪い取ることもなく、ただ静かに窓の外の雨を見ていた。
「気づいたか。貴様はやはり、ただの浮かれた娘ではないな」
カタリナ様は重い口を開いた。
「エスペランサ公爵家は、表向きは王国一の名家だが、父は先代から続く政治的な弱みを握られており、その弱みを盾に、王国内の別の派閥に資金を流している。それが、私個人の贅沢として処理されているのだ」
「まさか.......」
「そして、その派閥こそ、私が『不正経理と横領』の罪で断罪される最大の根拠になる。私が贅沢していたのではなく、私が全ての罪を被るように仕組まれているのだ」リリアは息を飲んだ。これこそが、ゲームのシナリオには書かれていなかった「断罪の真の根源」。カタリナ様は、家族を守るために、自ら「悪役」を演じていたのだ。
「そんな.....!カタリナ様は、家族のために.....」
カタリナ様は冷たく言い放った。
「私が家族を守るのではない。これは、エスペランサ公爵家を存続させるための、私の『義務」だ。私は、悪役として断罪され、家のために全ての罪を被り、国外へ追放される運命を受け入れている」
リリアの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。推しが、誰にも知られず、こんな重い運命を背負っていたなんて。
「そんな運命、受け入れさせません!私を道具として使ってください!私はヒロイン!
ヒロインの特権を全て使って、貴女の運命をねじ曲げます!」
カタリナ様は驚きに目を見開いた。彼女の青い瞳に映るリリアの姿は、献身的な秘書ではなく、まるで命を懸けて自分を救おうとする騎士のようだった。




