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第3章 崩壊した物語は、偶発的に再生する(2)

 それから六時間ほどが立ち、日も暮れきった頃にイズミは目を覚ました。

 イズミが目を覚ましたことにより、イズミの病室には再びダーシェンカ・来栖・クレアの三人が集まっていた。

 目覚めたイズミにはダーシェンカからおおまかな現状が語られ、自分達がしなければならないことと、できることについての意見が求められていた。

 その様子をクレアは壁に寄りかかりながら眺めている。

「……そうだね。正直に言って現状は芳しくないね。僕はまともに戦える状態じゃないし、来栖先輩の能力も今の状況に適しているとは言い難い」

 イズミは口元に手をあてながら思考する。

 作戦の立案などはイズミの得意とするところではないのだが、それも含めて試練となっている以上、立てないわけにはいかなかった。

 そして、すんなりと、それでいて苦渋の末に一つの戦術を思い浮かべた。

「……ダーシェンカを前面に押し立てた作戦で行こう」

 イズミは思案に耽っていた顔を上げ、ダーシェンカを見据えながら言った。

 その言葉に部屋の隅で傍観を決め込んでいたクレアが「ほう」と小さな感嘆の声を上げ、来栖は信じられないようなことを聞かされた表情を浮かべていた。

 もっとも、とうのダーシェンカは驚くこともなく、それどころか口元に満足そうな微笑さえ浮かべてイズミを見ていた。

「本当は僕が第一の囮になるのがベストなんだけど……この体じゃ囮として満足に機能出来ないと思うんだ。ダーシェンカ、囮役を引き受けてくれるかな?」

「勿論だ。私はイズミの考えに従う」

 ダーシェンカは深く頷き、今だに呆然としている来栖に視線を向けた。

「どうだ。言ったとおりだろ? イズミは“二番目”の案として私を囮にする案をあげた」

 ダーシェンカは肩をすくめ、来栖に微笑を向けた。

「な、なんでそんな態度でいられるんですか? あなたは私に言ったじゃないですか! この囮は死にに行くようなものだと! 如月くんはあなたに死んでこいと、」

「言ったはずだ。私は普通の人間じゃない。並大抵のことでは死なない」

「そして何より、死んでしまったとしても僕が生き返らせる。絶対に」

 ダーシェンカが告げた言葉に、イズミは力強く付け足した。

「まぁ、囮役が死ぬなんて決まってる訳じゃないですよ。要は敵を特定しさえすればいいんです」

 イズミは肩をすくめながら苦笑する。

「特定しさえすればいいの?」

「えぇ、そうです。僕たちにとっていま何が問題かと言えば、敵の姿が分からないということです。そりゃあ相手の能力やら何やらが分からないのも大問題ですが、まずは敵がどのような者であるかを知ることが最優先です。欲張りすぎるのは正しくないと思うんです。少なくとも僕たちの実力を考えれば」

 首を傾げながら問うた来栖に、イズミは淡々と告げた。

 イズミの中での最優先目標は、誰もが無事にこの試練を乗り切ることである。そのためにはハイリスクハイリターンで一発逆転を狙うよりも、ローリスクローリターンを積み重ねて堅実に勝ちを取りに行く必要があった。

 それは、イズミ、ダーシェンカ、来栖のうちの誰か一人の能力に頼り切る作戦は立てられないということであり、同時に各人が最大限に能力を発揮しなければならないということでもあった。

 イズミは組み立てた作戦内容を頭の中で何度も反芻し、深く、ゆっくりと、息を吸った。

「僕の立てた作戦を説明します」

 イズミはダーシェンカと来栖の顔を交互に見つめ、部屋の片隅にいるクレアのことも意識しながら口を開いた。

 イズミが述べた戦術は非常に大雑把なものであった。事実、作戦と呼ぶにはあまりにお粗末で、聞くに堪えないものだった。

 だが現状ではそれがもっとも正しい選択でもあった。何せ、敵が何だか分からない状況で、理路整然とした作戦を立てられるハズもないのだ。

 だから、イズミがダーシェンカと来栖に告げた言葉は徹底的にシンプルなものだった。

『二人で協力して、魔術師のしっぽを掴んで下さい』

 イズミの言葉を要約するならば、この一言に尽きた。

 敵の魔術師は来栖家の異能を刈り取るために来るのだ。となれば当然最初に狙われるのは久弥である。

 現状全く身動きの取れない久弥が狙われるような状況が訪れることは、なんとしても避けたい。そのための囮が、ダーシェンカと来栖なのである。

 だが二人が漫然と生活しているだけでは囮としての役割は果たせないだろう。それでは敵の魔術師はおそらく、あっという間に久弥の元にたどり着いてしまう。

 だから二人には積極的に動いて貰う必要があった。あたかも敵の魔術師に攻勢をかけるように見せながら、実際はジリジリと撤退するような姿勢で。

 そこに敵が食いついてくる保証など無かったが、放っておくわけにもいかないだろう。

 こちらが敵のことを何も知らないように、敵も久弥の封印を解いた存在に関しては何も知らない。

 だからこそ、得体の知れないものを放っておくとは考えられなかった。

 そこを突いて敵には尻尾を出してもらう。しかし、こちらが尻尾を掴めば相手も掴み返してくる可能性が高い。

 尻尾を掴まれなければ掴まれないに越したことはないのだが、もしも掴まれてしまった場合は、来栖の異能の出番だ。魔術師が攻勢に出てきたら、ダーシェンカが応戦する。そしてそれを来栖が観察し、情報を集めるというわけだ。

 無論ダーシェンカに無理をさせるわけもなく、そこで行う戦闘は、ジャブを軽く刺し合うレベルに抑える。

 そして情報を集めたら、あとはひたすら撤退し続け時間を稼ぐ。時間を稼ぎながら来栖の異能で策を立て、勝利を盤石のモノとしたら一気に攻めに転じる。

「以上が、僕の立てた作戦です」

 イズミは途中に身振り手振りを混ぜながら説明し、一息に語った。

 自分で語っておいて言うのもアレだが、なんともお粗末な作戦。各人の能力を最大限に発揮しなければならないとは分かりつつも、何度シュミレートしても来栖に頼るところが多くなってしまう。

(僕がもっと動ければ、他にも選択肢が……)

 イズミは浮かびかけた淡い期待を打ち消し、小さく頭を振った。

 そんなことは想像しても仕方がない。現状で最善を導き出さなければならないのだから。

「来栖先輩は……どうお考えですか?」

 先ほどまでの淡々とした口調からは打って変わり、イズミは不安げな声音で来栖に訊いた。

 訊かれた来栖は俯いて押し黙り、口元に手をあてながら何やら考え込んでいる。

 ――異能を使っている?

 イズミがそんな予想を立てると同時に、来栖が顔をあげた。  

「私の眼が導いた過程も、如月くんと同じです。ただ、一つ訊いてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「如月君の役目は、なんなんでしょう?」

 至極真剣な眼差しで問う来栖。

 一方問われたイズミの口から洩れたのは「……あ」という間の抜けた言葉だった。

「すっ、すみません! そこが抜けてましたね! えっと、僕の役目は病院で待機していることです。表に出てもこの体じゃ、足手まといにしかなりませんから」

 イズミは頬を掻きながら、ちらと傷口を見た。

 そして続ける。

「で、でも、ただ休んでるだけじゃありませんよ? 久弥さんを守ることが僕の役目です。まぁ……ことがうまく運べば、僕が一番楽な役回り、ってことになるんですがね」

 イズミは苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

「そう、ですか……分かりました。私が気になったのはそこだけです」

 来栖はイズミの言葉にそれだけ返すと、再び黙り込んだ。

 別にイズミの役割に憤慨したわけではない。そのどこかヘラヘラとした態度に怒りを覚えたわけでもない。

 来栖の瞳には映ってしまっていたのだから。

 イズミが淡々と語った「久弥を守る」という言葉に込められた「自分の命に代えても」という真摯にして堅牢な覚悟を。一番楽な役目と言いながらその実、自分が相手に止めを刺す確率がもっとも高いと予想し、また相手の命を奪う覚悟をしていることを。

 態度と心理のあまりのチグハグさに、来栖は一瞬目まいを覚えそうになった。

 それでも、何となく納得できた。

 これが如月イズミという少年のカタチなのだと。

 来栖はイズミのそんな在り方に、ダーシェンカがイズミに惚れこんだ理由を垣間見た気がした。

「あの……本当にいいですか?」

 黙りこんでしまった来栖の顔を、イズミが不安げに覗き込んだ。

 不意に、来栖とイズミの目が合った。

「え、えぇ、大丈夫です」

 来栖は若干慌てながらも、なんとか平静を保った。少しでも気を抜けば声が裏返ってしまいそうだったが。

 それほどまでに、イズミに対する新しい認識は衝撃だった。

 これ以上衝撃を受けないために、来栖は小さな嘆息を漏らしながら、密かに異能を解いた。

「じゃあ、おおまかな案は決まったということでいいのか?」

「そうだね。大体はこれでいいんじゃないかな」

 しばらく黙考したのち、イズミはダーシェンカの言葉に頷いた。

「では今後私たちはこの病院に近づかない方がいいですね」

「はい、事が終わるまではその方がいいですね。連絡が必要なときは携帯で連絡を取るということで」

「分かりました。それではそろそろ私は家に戻ります」

「あ、来栖先輩!」

 頭を下げて踵を返した来栖をイズミが呼びとめる。

 来栖はゆっくりと振り返り、首を傾げながらイズミを見た。

「あの……事が終わるまでダーシェンカの面倒見てもらってもいいですか? 一人にしとくのは心配で」

 微かに赤らんだ頬を掻きながら、イズミは言った。

「な! 私は一人でも大丈、」

「いや、ほら、家事とかさ、いろいろ心配で……。それにどうせ協力するなら共同生活してた方が都合いいでしょ? どうでしょうか、来栖先輩」

 イズミは慌てふためいているダーシェンカから来栖に視線を移した。

「私は、構わないけど……ダーシェンカさんはいいの? 私と一緒で」

 来栖はどこか怯えるような瞳をダーシェンカに向けた。

 イズミは来栖がしたことを気にする素振りをまったく見せていなかったが、ダーシェンカは違った。

 幾分か心を許してはいたが、来栖に対する不信感や軽い嫌悪感のようなものは消えきっていなかった。もっとも来栖にとっては、ダーシェンカまで自分を許してしまったら罰する者がいなくなってしまうから、それはありがたい敵意だったのだが。

 ――大丈夫、ですか?

 来栖は視線にそのような言葉を込め、ダーシェンカの様子をうかがった。

 異能を発動させてしまえばそのような不安を抱く必要もなかったのだが、それを行うことは余りに不実に感じられた。だから来栖は微かな怯えを抱きながら、ダーシェンカの返事を待った。

 ダーシェンカはしばらく難しい顔で考え込んだのち。

「……分かった。イズミが言うなら仕方ない。従おう」

 呆れたような溜息を洩らしながら肩をすくめた。

 その返事にイズミはホッと胸を撫で下ろし、来栖に微笑を向けた。

「ということなので、ダーシェンカをよろしくお願いします、先輩」

「あ、はい。責任を持ってお預かりします」

 来栖はイズミの微笑に思わず状況を忘れ、大切な娘を預かる保母さんのようなセリフを返していた。

 来栖は気がつくと、目の前の少年にだいぶ心を軽くしてもらっていた。

 どこかそんなことに皮肉さを感じ取り、来栖はさびしげな笑みを口元に浮かべる。

「じゃあ、行きましょうか。ダーシェンカさん」

 来栖はどこか憮然とした表情を浮かべているダーシェンカに言い、そっと部屋を出ていった。

「じゃあ、イズミも気を付けてな」

 ダーシェンカは不安げな表情を浮かべながら言い、来栖に続いて部屋を出ていった。


 取り残されたのはイズミとクレア。


 二人きりになった瞬間、それまで置物よろしく壁に寄り掛かっていたクレアが、壁から背を放した。

 そして、感情のこもらない瞳をイズミに向ける。

「まぁまぁの選択だった、とまずは言っておこう」

 クレアはそのように口を開き、イズミのベッドに歩み寄った。

「まぁ、お前の立てた作戦がうまくいこうがいくまいが正直な話どうでもいいんだがな」

 クレアは口元に皮肉るような笑みを浮かべながらイズミに言った。

 イズミはそんなクレアをどこか呆けた表情で見つめる。

 ダーシェンカの口からクレアの立場を聞かされていたものの、こうも自分の知っていた態度と違うと、面白さすら感じてしまいそうだった。

「どうかしたか?」

 そんなイズミの態度に気付いたのか、クレアは眉根を寄せながらイズミを見つめた。

「あ、いや、学校のクレアさんとはまったく違うから面白いなぁ、と思って。いや、思いまして、の方が正しいのかな? 立場を考えれば」

 イズミは考え込むように宙を見つめた。

 今度はクレアがそんなイズミに呆然とした表情を向ける。

「お前は……いや、なんでもない。それよりもお前は本当はどうするつもりなんだ? お前の立てた作戦に私が満足するとは、思ってないんだろ? いや、お前自身が満足しない、と言い換えるべきかな」

 クレアは言いかけた言葉を飲み込み、表情を審判者としてのものに変じさせた。

 微かにクレアの瞳に映った感情の揺らぎは掻き消え、冷え冷えとした視線がイズミに向けられる。

 それでもイズミは口元に浮かべた微笑を消すことなく返す。

「そうですね。この作戦は確かに来栖先輩方を守るモノとしては最善ですが、僕たちの、いいえ、僕の力を示すための作戦としては最低です。たとえダーシェンカを僕の能力の一部と捉えたとしても」

「なら、お前はどうする。あらかじめ来栖とダーシェンカが危機に陥る状況を用意しておくか?  そんな面白い舞台なら私が作ってやってもいいぞ。そのかわり、お前が失敗したら来栖もダーシェンカも、勿論お前もあの世行きになるような、ハードな舞台だがな」

 クレアは意地の悪い笑みでイズミを見つめた。

「せっかくの申し出ですがお断りします」

 イズミはなおも微笑を崩さなかった。来栖のように怯えることもなければ、ダーシェンカのように体を固くすることもなく、自然体でクレアの言葉を受け流す。

 そのことに、少なからずクレアは驚いてた。

 普通ならば、何らかの感情が浮かぶはずなのだ。多くは恐怖であったり警戒であり、また一方では不快や、クレアの提案になびく香りなどが漂うはずだ。

 だというのに、如月イズミにはそれがなかった。まるで世間話でもするような体でクレアと言葉を交わしている。

 そのことが、クレアにはどうしようもなく信じがたいことだった。

 しかしそんなことを表情に漏らすほどクレアもヤワではなく、鉄面皮はそのままに言葉を紡いだ。

「……ほう、断るのか。ではもしお前の活躍の場なくこの騒動が終わった場合、私はお前たちに再び難癖をつけてもいいんだな? 例えば、来栖の能力に頼り過ぎだ、とか」

 クレアの瞳は鋭利さを増し、イズミに向けられる。

 それは、来栖がクレアに怯える原因になった視線であり、ダーシェンカが短い悲鳴を漏らした視線でもあった。

 それでもなお。

「ふふ。クレアさんは優しいですね」

 イズミは言った。口元に手を当て、遊びまわる子供を眺めているような、そんな朗らかな微笑さえ浮かべながら。

「なっ! お前は何を、」

 一方クレアの鉄面皮には小さな亀裂が走った。

「だって、クレアさんは難癖をつけるって言ったんですよ? 処分する、ではなくて。それはつまりさらにチャンスをくれるってことじゃないですか」

「そ、それは言葉のアヤというヤツで実際は」

「実際は処分でもいいですよ。口だけでもチャンスを与えると言ってくれる。それだけでも充分優しいですよ」

 イズミは軽く肩をすくめ、続けた。

「それに客観的に見て、僕はもう処分されてもおかしくない失敗を犯してますからね。それでも生かしてくれているんだから、やっぱりクレアさんは優しいです」

「それはお前が雪の子供だからだ! 私は雪にだけは嫌われたくな……」

 クレアはそこでハタと、自分が何を口走っているかに気が付き、小さく舌打ちをした。

「ほら。そういう可愛い所がある時点で優しいですよ」

 イズミはそんなクレアを楽しげに眺めていた。

「……ともかく、僕は頑張るだけです。来栖先輩達を守って、僕たちの日常を守るために。あ、クレアさんが母さんに嫌われないためにも頑張らなければいけませんね」

 イズミはほのかに殺気染みたものをさえ向けているクレアに微笑を向けた。

「……ろすからな」

「え?」

「お前が失敗したらみんな殺すからな! お前も、ダーシェンカも、来栖兄妹も、幸也も!」

 クレアは先ほどまでの鉄面皮が嘘のように、感情をむき出しで叫んでいた。そう大きい叫び声ではなかったが、言葉に込められている殺意が本気のものなので、聞く者が聞けばすくみあがっただろう。

「母さんは、殺さないんですね」

 それでもイズミはどこかはにかんでいるようにも見える、困ったような微笑を浮かべるだけだった。

「いいですよ。僕が失敗したら殺してしまっても。もっとも、失敗した頃には来栖先輩とダーシェンカと僕はすでに死んでいるでしょうがね。心残りなのは久弥さんだけですが、まぁ、あの世で来栖先輩と会えることを考えれば構わないでしょう」

 イズミはサラリと酷いこと言ってのけた。

「……幸也はいいのか?」

「父さんは百回殺してもまだ足りないくらいです」

 イズミは聖職者の笑みで即答する。

 奇しくも、百回という数字はクレアが過去に幸也を“殺害”したのとほぼ同じ回数だった。

 もっともクレアがそんな“どうでもいいこと”の回数を数えているはずもなく。

「……そうか。まぁ、いい。つまりお前は確信しているんだな。自分が魔術師と対峙することになると」

「えぇ。こちらの手札で有効と思われる攻撃手段はダーシェンカと僕だけです。ですが、ダーシェンカを全面に出すと、必ず無茶をします。だから、そこは僕が踏ん張ります」

「それを聞いたらダーシェンカが憤慨しそうだがな」

「分かってます」

 イズミは困ったように頬を掻いた。

「でもそれが一番確実です。まぁ……来栖先輩が別の方向で作戦を組み上げてしまったら非常に困ったことになるんですが、確実性という点から考えれば大丈夫だと思います」

「まぁ、その点には私も同意しておこう」

「それから一つクレアさんに訊いておきたいことがあるんです」

 イズミは口許に浮かんだ苦笑を消し、至極真剣な瞳をクレアに向けた。

 それを受けクレアの瞳も冷やかなものに切り替えられる。先ほどまでの狼狽は演技であったとさえ思えるような、完璧な切り替えだった。

 イズミはそのことに目の前の少女が只者でないことを再確認し、ゆっくりと息を吸い込んだ。自分を落ち着けるために。自分の吐く言葉の意味を心に沁み込ませるために。

「僕は相手の魔術師を殺しても構わないんですか?」

 イズミは息を言葉に変えた。

 その言葉に、クレアの口角が吊りあがる。口許に淫靡さと愉悦が入り混じった笑みが形作られる。

「着眼点は、実に素晴らしい。来栖でさえ深くは考慮しなかった点だな、ソレは」

「相手が禁忌を裁く者なら、殺してしまっては相手に追討の機会を与えるようなものです。それはあまり望ましいことじゃない。その点について僕は訊きたいんです」

 イズミは腹の前で手を組み合わせ、思案顔で呟いた。

 イズミがクレアに尋ねていることは当たり前の質問ではあるのだが、返答如何によっては救いがなくなる。

 要するにイズミは、犯罪者が自分の身を守るために警察を殺してもいいのか、という類の質問をしているのだ。あるいは、裏切り者が追手を殺してもいいのか、と言った方がニュアンスとしてはより正確かもしれない。

 勿論、この二つの問いに関しては断じて否であろう。許されるわけがない行為だ。

 だが魔術の世界ならば? 悪行を犯していないものを処分することが正当でないという倫理観が通用するかどうかは別として、魔術世界には魔術世界なりの倫理観があるはずだ。そのことをイズミは問うているのだ。

 クレアは幾許かの間の後に、その問いに答えた。

「別に殺しても構わない。魔術世界では基本的に強者が正しい。倫理観など力の前では無に等しい。まぁそれでも? 最近はだいぶ一般社会に歩み寄った風潮ではある」

「つまり……殺してしまえば追討もあると?」

「あり得る。だがまぁ、圧倒的実力差を見せたのちに情けをかければ追討の可能性は下がるだろう。もっとも、それはお前には無理な相談だろうがな」

 クレアはワザとらしく溜息を吐きだし、皮肉るような視線をイズミに向ける。

 その視線に、イズミは苦笑を返さざるをえなかった。

 イズミの持つ攻撃手段は、永久機関を利用した一撃必殺の技のみ。それでは情けも何もあったものではない。手心を加えようにも、加えるだけの技量はイズミにはない。もし加えられたとしても、それは間違いなく相手の寿命を大幅に削ってしまう。

「だがまぁ……なるようにしかならんだろ。相手がどのような輩かは未だ知れず。となれば手加減やその他諸々について考慮するなどバカバカしい以外の何物でもない。お前たちは出来ることだけすればいいんだ」

「それで追手が来ようと知ったことではない、と?」

 イズミは苦笑しながら言う。

「まぁ、そういうことだな。まぁ、お前達の戦い方次第によっては追討はなくなる。そして何より、相手が異端審問機関の者とは限らない。逆に禁忌を犯している者という可能性だってある。そうなればお前は容赦なく戦えるだろ? ヴェルナールのときと同じように」

 クレアは無表情に答える。

 その無表情が言外に伝えていた。

 異常の中に身を置くのならば、命のやり取りなど当然のこと。お前はそのことを知っているではないか、と。

 イズミはその無表情に若干気押され、固い唾を飲み下す。緊張のあまりか、食道を通る唾の流れが手に取るように感覚出来た。

「分かりました。僕たちは僕たちの出来る範囲で全力を尽くすだけです。というかそれ以外に選択肢はありませんからね。だから願わくば、その選択肢の中に最善のものがあらんことを、です」

 イズミは胸の内に生まれた緊張を小さな溜息として吐き出し、弱々しく微笑んだ。

 そんなイズミにクレアは小さく頷き、微笑した。これまで浮かべてきた威圧的な微笑みとは打って変わった、ごくごく普通な微笑。

「……あ」

 イズミはクレアの微笑に思わず言葉を漏らした。

「どうした? まだ聞きたいことがあるのか?」

「い、いえ、なんか少しだけ引っかかるものがあって……でもソレがなんだか、思いだせないというか、思い浮かべられないというか」

 イズミは考え込む様な仕草を取りながら呟いた。

 そんなイズミにクレアは怪訝な表情を浮かべたのち、スッと踵を返した。

「あ、帰るんですか? もう暗いですから気を付けて……ってのはダーシェンカ以上に要らない心配ですね」

 イズミは自分の発した言葉の可笑しさに思わず苦笑う。

 心配した相手はナリこそ可憐な少女であれ、中身は父以上に強大な力を持つ、魔術師という名の化け物。心配などというものは野暮を通り越して不敬にさえなってしまうだろう。

 案の定。

「フン、全く要らぬ心配だな。この私を襲う馬鹿など世界に三人いるかいないかだ。まぁ、そのうちの一人はお前の父親だがな。それに……」

「それに……?」

「私はここに住んでいる。夜道は歩かん」

 クレアは何食わぬ顔で言うと、ドアノブに手を掛けた。

「可愛い後輩が一つ屋根の下にいるからって夜這いに来ないで下さいよ? 如月先輩。それじゃ、良い夢を」

 クレアは退室際に学園での無邪気な表情をイズミに向け、部屋を出ていった。

「あ、うん。良い、夢を?」

 イズミは閉ざされたドアに呆然と呟き、しばらく扉を見つめ続けた。

 まるで多重人格者のようなクレアの変わり様。まぁ、察するにクレアはそれを意図的にやってのけているのだろうが、それでもあの変わり様の鮮やかさは見るものを突き放す。

 その変わり様に意図があるのかないのかということさえ考慮の外側に置かせるほどに。

 だがイズミは思い至った。先ほどクレアが微かに見せた屈託ない微笑は、彼女が日常で垣間見せるものと同種であったということを。

 それが意図的なモノではなく、クレアの本心から出てきたモノではないか、と。それは僅かな懐疑でしかなく、持った所で何の意味もない問いだった。

 それでも、イズミは何となくそのことを思案しながら、クレアが出ていった扉をしばらく眺めていた。


** *


「ど、どうぞ。狭いところではありますが……」

 来栖は緊張を顔の端に浮かべながらダーシェンカを家の中に招き入れた。

 病院から帰る途中でダーシェンカの荷物を一通り拾い、二人は来栖の家にやってきた。イズミの家に来栖が泊まるという選択肢もないではなかったが、相手の魔術師に位置を特定されている可能性が高い来栖の家に泊まった方がメリットは多かった。

 幸い、久弥が病院にいるから部屋も一つ余っている。結果、ダーシェンカが来栖の家に宿泊することになった。

「……お邪魔、します」

 ダーシェンカは律儀に頭を軽く下げ、部屋の中に入った。

 チラと見ただけでも分かる、来栖とこの部屋との不釣り合い。学校でのどこかお嬢様然とした来栖からは想像もつかない、こぢんまりとした内装の部屋。

 どうしてもいなめない、チグハグな印象。

「意外でしたか?」

 異能など使わなくともダーシェンカが受けた印象を察したのか、来栖は力ない笑みを浮かべながら言った。

「い、いや、まぁ……少々」

「人を家に上げたことはありませんが、それが普通な反応だと思いますよ。あ、座布団に座って待っててください。今お茶入れますから」

 来栖は大して気分を害した様子もなく言うと、ちゃぶ台の傍らにおかれた座布団を指さした。

 ダーシェンカはその指示に大人しく従い、座布団に腰をおろす。そのままボンヤリと、やかんをガスコンロにかける来栖の背中を眺めた。

 その姿を見ていると、やはり来栖は普通の少女にしか見えない。いや、ダーシェンカにも同じことが言えるといえば言える。だがダーシェンカの“普通の少女”という姿は、見るものが見ればすぐに仮初めのモノと看破されてしまう。

 だが来栖はどうだろう。おそらく観察力に長けたものでも見逃してしまうだろう。来栖に潜む異能を。魔術の片鱗を。

 一から十まで普通の少女だ。異能を発現させ、それを人に披露することで初めて、来栖の“普通の少女”という在り方は裏返る。内に秘めた、その身に似合わぬ“異常”という在り方に。

(兄さえあんなことにならなければ……来栖は普通の人生を送れたのだろうか)

 ダーシェンカは来栖の背中に思わず思案する。

 それは、自分にも返ってくる問い掛けだった。

 家族さえあんなことにならなければ、自分は普通の人生を生き、そして死ねていたのではないか、と。

 分かっている。ifを考えることには、なんの意味も、価値もない。大切なことは今という分岐点で何を選んでいくかということだ。あるいは、どのような状況が次に訪れるか、ということだ。

 ダーシェンカに訪れた状況は、控え目に言っても最高のものだ。形のまま言い表そうとするならば、筆舌し難い幸運。

 イズミとの出会いは、ダーシェンカにとってそこまで大きなモノだった。

 ならば来栖がこれから選ぶ選択は。これから訪れる状況は。彼女の未来をどのようなものにするのだろうか。

 そんなことはダーシェンカが考えるまでもない。来栖が一度異能を発動させれば、彼女が辿る幾万もの未来の道筋が、ほかならぬ彼女自身の目に映されるのだから。

 それでも思わずにはいられない。来栖が辿る未来がどのようなものになるのかを。何せその岐路に共に立ってしまっているのだ、ダーシェンカは。

 イズミを襲った敵ではあるが、なんとなく来栖の身に不幸が訪れるのは嬉しくない。

 おそらくダーシェンカは気付いてしまったのだ。過去の自分と今の来栖の状況が、極めて近しいということに。

 そのときふと、ダーシェンカの目にあるものが映った。それは、居間の角にちょこんと供えられた、小さな仏壇。最初はあまりの小ささに戸棚か何かかと思ったが、やはり仏壇に違いない。

「……ご両親の、仏壇か?」

「えぇ。私が小学校に上がってしばらくして、交通事故で。笑っちゃうでしょ? 来栖家の出じゃない母はともかく、未来を予知できる父が交通事故で死ぬなんてね。まぁ、能力を常時発動させていないから当然と言えば当然なんですが」

 来栖は火に掛けたやかんから目を離し、仏壇の前に腰を下ろし、遺影に手を合わせた。

「両親が亡くなってからは兄が私を育ててくれました。両親の保険金は全て私の養育費に充て、自分は高校も中退して退魔師として生計を立てて。私が働けるようになったら兄に楽させてあげようと思っていたのに、その兄も私が中学のときに魔術師の手に掛って……」

「……そうか」

 来栖の語ったものに、ダーシェンカは思わず目を伏せる。

 聞けば聞くほど自分とこの少女は似ている。家族をすべて失い、自分一人取り残される。

 違う点と言えば、ダーシェンカにはキリコという後見人がついて、来栖には兄を救えるだけの希望が示されたこと。

 事実、来栖は手にしたのだ。わずかな可能性しかなかった兄を救うという光を。

 その点についてダーシェンカは、僅かばかりの嫉妬を覚えもした。もっとも、のうのうと嫉妬をしていられる状況でないということも自覚していたが。

「……でも、兄は帰ってきました。クレア様のおかげで。そして私には兄と過ごせる時間の可能性が示されました。如月君のおかげで」

 来栖は振り返り、まっすぐにダーシェンカを見つめていた。その瞳に強い光を宿して。

 来栖は続けた。

「感謝しています。如月君にも、そしてダーシェンカさんにも」

「私にも……? それはどうして」

 ダーシェンカが眉根を寄せながら問うと、来栖は少しだけ悪戯な微笑を浮かべた。

「いえ、クレア様に『もし如月イズミを傷つけているところをダーシェンカに見られたら即殺されるぞ』と忠告されていたので……本当は如月くんを助けたときにダーシェンカさんに殺される覚悟をしていたんです」

 ダーシェンカはその言葉に、病院での来栖の態度を思い返していた。あのときはクレアに怯えているのだとばかり思ったが、どうも自分のことも恐れていたらしい、と。

「それは……確かに、殺していた、かもしれない」

「だから、殺さないでくれて感謝ということです」

 バツ悪そうに言ったダーシェンカに、来栖は花のように笑う。

「まぁ私としては、その辺もイズミに感謝すべきだと思うがな。イズミが甘いやつじゃなければ私はお前を殺していた……いや、甘いイズミだからこそ私もここにいるのかもしれないが」

「そうだとしても私はあなたに感謝します、ダーシェンカさん。だからその恩は必ず返します。この眼に宿る異能で」

 来栖は力強い語り口で言った。

 その言葉にダーシェンカは黙って頷く。

 クレアから課された試練は生易しいモノではない。何せ相手は禁忌を裁く者である可能性が高く、魔術師としての実力も封印術式を為している時点で超一流。

 そんな相手にダーシェンカ一人で勝つのは、かなり厳しいものがある。いや、魔術無効化を使用すれば十分に勝機はあるのだが、それはイズミの厳命で、よほどのピンチが訪れない限り使用不可なのだからどうしようもない。

 あとはイズミのネクロマンサーとしての力を利用したゴリ押し、という手段もあるのだが、イズミが満身創痍とあってはこれも使えない。イズミの出番があるとすればここぞというときのみだろう。

 となればやはり、来栖の異能がどうしても必要になってくる。情報を的確に捌き、少ない手段から最善の結果を導くためのその異能が。

「イズミを守る者としては非常に情けないが、今回はお前の能力が頼りだ。だからと言って無茶はしないでくれ。そんなことはイズミが望まないし……私も望まない」

 ダーシェンカは視線を落としながら言った。最後の言葉は口ごもるように呟いただけだったが。

 そんなダーシェンカに来栖ははにかむ様な微笑を浮かべ、深く頷いた。


** *


 暗闇には二種類ある。

 視界の闇と、思考の闇だ。

 愚鈍な者はまず視界の闇に恐怖する。目の前にあったものが闇に喰われ、五感のバランスが崩れることで自分自身を見失う。

 だがそれは人間としてまっとうな反応だし、事実、いまよりも遥かに夜の支配が強かった時代は、それが通常の反応だった。大人子供、愚鈍利発、関係なしに。

 だが時代など関係なしな闇への恐怖が、思考の闇への恐怖だ。

 真に愚鈍な者は思考の闇へ恐怖することなど無い。思考の闇がどのようなものかすら、理解できないのだから。

 しかし賢しい、いいや、小賢しい者は理解する。

 真に恐怖すべきは思考の闇であると。

 思考の闇は何も見えないことだけではない。見えすぎることもときとして暗闇を生み出す。それは視界の闇のように外から訪れるものではなく、往々にして自分の中から沸き出でる。

 思考が停止する闇。思考し過ぎて処理できなくなる闇。どちらも恐るべき存在だ。何せそんなモノが訪れようものなら、人は生きていられない。

 こと、命のやり取りをしている瞬間においては。

 だから、本当に良かった。

「今この瞬間の相手が塵芥にも劣る存在であることに感謝します、アーメン」

 オレは胸の前で、形式を知りもしない十字を切り、天を仰いだ。

 空が、狭い。別に都会の空だからという訳ではない。何せ夜空には溢れ落ちんばかりの星々が輝いている。

 空が狭いのは高層建築の類のせいではない。

 ただ単に片目の機能が停止した。それだけのこと。視野の狭まり方からして見えなくなったのは右目のほうだろう。

 いや、視野の問題云々ではない。“未来が視えなくなっている”時点で右目を失ったと容易に判断できる。

「チッ! どこぞのクソヤローが“次元置換”の術式を解きやがったのか……厄介なことをしてくれる」

 オレは舌打ちを一つ打ち、地面を軽く踏みつけた。

 ここは何もない草原の只中だというのに、地面からはグチュリと嫌な音が上がった。

「あーあ。ここんところ未来予測の能力で遊びすぎてたからなぁ……失くなるとかなりキチーなぁ……なぁ、あんたもそう思うだろ?」

 オレは先ほどの嫌な音を立てたモノに声をかけた。

 それは、月明かりを受け、赤黒く輝いていた。その輝きはまるで、かつては生を謳歌していたのだ、と主張するかのようでもあった。

 事実、生きていたのだ。数分前までは。

 流れるような金髪に、透き通るような蒼い切れ長の瞳をもった、なかなかに男前な奴だったと思う。多分。

 もっとも、禁忌を犯したという割には魔術師としてあまりに脆弱で、戦い甲斐のない屑野郎だったが。

「ま、もっとも、てめぇが屑野郎だったから戦闘中に呪詛返しが来てもどうってことなかったんだがな。その点は感謝するよ、雑魚」

 オレは嗜虐的な笑みを、草原に転がる肉片に向けた。

 本来なら肉片の処理も仕事のうちなのだが、これだけ人気のない場所なら放置しても問題ないだろう。もし仮に誰かがコレを見つけたとしても、よもや人の死骸だとは思うまい。

「祈ろう。キミの冥福を。心をこめ、」

 心のこもらない言葉を並べている最中に、コートに突っ込んでいた携帯のバイブが鳴った。

「はいもしもし、こちらリィガ・ハインリヒ。え? あぁ、はい。禁忌の処分なら先ほど終了しましたよ。いつも通り、つつがなく。で、この後は? あ、そうですか。特に仕事はない。それは丁度よかった。いえ、こちらの話です。お構いなく。えぇ、それでは失礼します」

 オレは携帯をポケットに突っ込みなおし、口許を歪めた。

 このあと、どうやらオレはしばらく暇があるらしい。丁度よかった。オレの“次元置換”の術式を解いた者の顔を拝んでみたい。

 いや、それよりもまずはあの弱っちいジャパニーズが持っていた異能を“取り戻す”のが先かもしれない。

 あれは恐ろしいほどに面白い能力だからな。失うのは正直惜しすぎる。

 オレは口許を歪めたまま、踵を返した。

 そういえば、何かが途中だったような気がするが……まぁ、いいか。忘れるようなことは、どうでもいいことだ。

 オレは思い出そうとすることすらやめ、さわやかな風が吹きすさぶ草原を歩き始めた。

 ツンと、死臭が鼻をついた。


** *


 ダーシェンカと来栖の奇妙な共同生活が始まってから三日が経過しようとしていた。

 初めは互いに戸惑いながら、どこかぎこちない生活を送っていたが、三日目に入って二人のやり取りもだいぶ柔らかくなっていた。

 それでも、学園きっての美少女二人が並んで登下校をするさまは、三日という時間が経過しても周囲の話題としては熱いものであった。

 そんな中を。

「どうだ、何か異変はあるか……?」

「だめです。何もありません、昨日までと同じです」

 街中を散策するような足取りで歩きながら、ダーシェンかと来栖の瞳は切実だった。

 学校が終わり、二人は街中を遊び歩くかのように装い、その実魔術師の痕跡を探し求めていた。

 今日も、周囲の人々から集まる視線を意に介さず、切々と魔術師につながる糸を手繰り寄せようとしていた。

 が、そんな二人の、来栖の瞳に映る情報は、平素と変わることのないモノのみだった。

 それはある意味でいいことなのかもしれない。今の状態がずっと続けば、今までどおりの日常が帰ってくるということなのだから。だがそんなことが愚かしい願望であることは、ダーシェンかも来栖も痛いほど理解している。

 敵は来る。必ず来る。そう予期していたほうが明らかに次の一歩を踏み出しやすいのだから。

「たとえ相手が魔術を使わなくても、魔術師なら必ず痕跡が残るはずなんですが……」

 しばらく歩いたのちに、来栖が申し訳なさそうに口を開いた。

 ダーシェンカは微苦笑を浮かべる。

「仕方ないさ。魔術師はまだこの街に到達していない、そう考えていいということだろ? お前が気に病んでも仕方ない。私たちは今やってることを続けるだけだ」

「そう、ですよね……」

 来栖は力ない笑みを浮かべながら返した。

「それより大丈夫なのか? もう一時間近く能力を発動させてるだろ? そろそろ限界じゃないのか……?」

「あ、いやでもまだ頭痛は来てませんし、まだ大丈夫です」

「いや、もう全部見て回ったから大丈夫だ。能力を解除しろ。本当なら余力を残しておくぐらいがベストなんだから」

 ダーシェンカは来栖の相変わらずの態度に頭を振った。

 生来がまじめな性格なのだろう、来栖は。

 探査を始めた初日など、限界を超えて異能を発動し続け、街中で気を失ってしまった。二日目も、前日からの疲労を引きずりながら、顔が白くなるまで探査を続けていた。

 来栖が止めても聞かない人間であるということは二日目でよく理解した。それでもさすがに今日は止めなければならない。ダーシェンカはそう心に決めていた。

「でも、まだいけま」

「だめだ。それで敵が襲ってきたときに使い物にならないのでは話にならないんだ。今日はもう諦めて帰るぞ。もしもう一度倒れようものなら今度はおんぶではなく、お前の足を掴んで引きずって帰るからな」

 ダーシェンカは有無を言わさぬ口調で告げ、踵を返した。

 そんなダーシェンかの後ろに、来栖がどこかシュンとした様子で追従する。

 学校では来栖のほうが先輩だ。が、ことこのような異常に関してはダーシェンかのほうが圧倒的に秀でているのだから、このような光景は当然と言えば当然だ。

 それでも、学校での凛とした来栖を知っているダーシェンカは、やはりどこか違和感を覚えてしまう。

 シュンとした格好で自分のあとを歩く来栖をちらと見やりながらダーシェンカは考える。

 イズミもこのように自分のことを心配していたのだろうか、と。

 イズミにかけるのとは異なった来栖への心配を思いやり、ダーシェンカはそのようなことを考えずにはいられなかった。

「しかし……」

 ダーシェンカはよどみなく歩きながら、ぽつりと呟く。

 その横顔を、隣に並んだ来栖が窺うように見つめた。

「お前はどうしてそんなに無茶をするんだ? お前の異能の特性からいえば、どこら辺まで能力を駆使すればいいかも分るはずだろ? 私に対する負い目から無茶をしているというわけでもないようだし……」

 ダーシェンカは思案顔で来栖に問う。問うてはいるのだが、そのさまは自分で答えを探り当てようとしているようにも見受けられた。

 しばしの間ののち、来栖が口を開く。

「確かに、自分の限界はわかります。でもその一方で、能力を発動させ続けたほうがより多くの情報を集められるという結果も予測できるんです。だから、つい欲張っちゃうんです……」

 心底申し訳なさそうに弁明する来栖に、ダーシェンカは小さな嘆息を漏らし苦笑する。

「……つまりは自分が倒れても私が担ぐという未来も予測できていたワケか?」

「そ、それは……はい、そうですね。予測できていました。未来の一つとしては」

 からかうような笑みを向けるダーシェンカに、来栖は語尾を弱くしながら答える。

 そんな来栖にダーシェンカは再び嘆息。

 別に来栖を打算的な人間だと蔑む気はない。むしろ来栖は打算的な選択肢を忌避しようとする性格だ。

 打算的な未来を抜きにしても、愚直と言っていいほどの来栖ならば、自分の体のことは無視して同じ結果を招いていただろう。

 ダーシェンカが漏らした嘆息は、そんな来栖を愛おしんでのものだった。

 異能を発動させていない来栖はそんなことが理解できるはずもなく、ただ不安げにダーシェンカの顔色を窺っている。

(少しは仲良くなれたと思ったんだがな……)

 ダーシェンカは来栖を横目で見やりながら微苦笑。

 実際、来栖とダーシェンカの距離は縮まってはいる。一瞬のような敵対関係を経たものの、今は間違いなく友好関係寄りだ。

 もっとも“寄り”というだけあって、決して友人とは呼べそうもないのが二人の距離感なのだが。

 そこに思い至り、ダーシェンカは一つ頷く。

「なぁ、来栖。いや、来栖だと都合が悪いか? なぁ、千澄」

「は、ハイ、なんでしょうか、ダーシェンカさん?」

 ダーシェンカの口から洩れた自分の名前に、来栖は戸惑いを見せた。

 ダーシェンカが来栖のことを名前で呼ぶことは、これまでなかった。大抵は「なぁ」だとか「おい」だとか、良くて「お前」だった。

 普通なら不満に思うような待遇かもしれないが、来栖がダーシェンカ達にしたことをかんがみれば、妥当な扱いだった。

 だからこそ、これといって改めてもらうつもりも、ましてや不満に思うこともなかった。

人前では怪しまれないように「来栖先輩」とだけ呼んでくれる。それだけで十分だった。

「なぁ、千澄。別に“さん”付けはいらないし、敬語も必要ない。私よりお前のほうが歳上だろ? もっとも、私は学校以外で敬語を使う気は毛頭ないがな」

「……は、はぁ。でもダーシェンカさん、いえ、ダ、ダーシェンカ? どうして急にそんなことを?」

「なんとなく、だ。いちいちビクつかれるのは気分のいいものじゃないし、有事の際はお前が私に指示を出さなければいけないんだ。万が一そのときに遠慮などで戸惑われたのでは私の身が危ない。そういう意味でもある」

 ダーシェンカはそっぽを向き、どこか唇をとがらせながら言った。

 そんなダーシェンカの横顔に、来栖は思わず誘惑に駆られる。

 この愛くるしい少女の本心を異能を使って確かめてみたい、と。

 だがそんなことはおそらく徒労だろう。異能を使わずとも、ダーシェンカの考えは読み取れる。

 ようはこの少女は気遣ってくれているのだ、来栖のことを。

 来栖はそのことが妙に嬉しく、そしておかしかったので、小さく笑った。

「ありがとう、ダーシェンカ」

 その言葉に、遠慮はもう含まれていなかった。先ほどまでは少しあった、怯えも。

「……? 別に礼を言われる筋合いはないが」

「それでもありがとう、なの。お礼に今日はダーシェンカの食べたい物を作ってあげるわ」

 来栖は母親のような微笑みをダーシェンカに向けた。事実、言葉の中身自体も母親のようなものであった。

「そ、そうか? なら私はハンバーグが食べたい」

 ダーシェンカは軽く頬を掻きながら告げる。

 来栖は笑顔でうなずき、進路を近所のスーパーに変えた。

 その後ろにダーシェンカが続く。夕暮れの中に二人の影が伸びている。

 今はまだ、平和な時間。でも次の瞬間はわからない。そんな二人だというのに不思議と、実に穏やかな空気を纏っていた。


** *


 日も暮れきった頃。イズミは病室で携帯のディスプレイをボンヤリと眺めていた。

 何かあった際、ダーシェンカたちとの連絡は、直接ではなく携帯を通して行う予定。何もなかった場合も、互いの無事を確認するために連絡を取るということが決められていた。

 定時に、というワケではないにせよ、連絡を待つほうとしては気が気でないというのも事実。

 ――気にしたところで仕方ない。

 イズミは結局いつもの結論にたどり着き、小さくため息をつく。

「心配かい? 彼女のことが」

 不意に、落ち着いた声がドアの隅間から発せられた。

「……久弥さん。いい加減ノックぐらいしてくださいよ」

 イズミは声のしたほうに遠慮のないジト目を向けた。

 視線の先には、ゆったりとしたスウェットに身を包んだ来栖久弥が、少しだけ開いた扉から顔を覗かせていた。

 久弥は口許に笑みを浮かべながら、病室にスルリと入り込む。

「ノックはしたさ。キミが気付かなかっただけで」

「その嘘はもう通じませんよ?」

 悪びれる様子もなく肩をすくめる久弥に、イズミは呆れるように溜息を漏らした。

 イズミにとっての久弥の印象は、来栖の話から想像していたものとはまるで違っていた。

 マジメな人なのだろうという想像は、小さな悪戯で何度もイズミをからかうという行動で覆された。また、退魔師という職業から想像していた外見ともまるで違う。

 病的なまでの白い肌、それでいて不思議と病弱さは感じさせない凛とした佇まい。男だというのに、妹の千澄にきわめて近い女性的な顔立ち。

 神秘的という言葉がよく似合う。それがイズミにとっての、来栖久弥に対する印象だった。

「通じない、か。そりゃさすがに日に何回もやってれば通じないか」

 久弥はポリポリと頬を掻き、イズミのベッドの傍らに置かれた椅子に腰を下ろした。

「そりゃ通じませんよ。まぁ、気づかれずに入り続けてくるのは流石というほかありませんがね」

 イズミは苦笑を浮かべて肩をすくめた。

 そうなのだ。久弥という男は、イズミに気づかれることなくいつの間にか扉を開けている。ばかりかベッドの傍らに近付いていることすら多々あった。

 イズミがエーテルを張り巡らせているときでさえ、だ。

 いぶかしんでいたイズミであったが、蓋を開けてみれば答えは簡単。

 来栖家の異能を使ってイズミの隙をついた。ただそれだけのこと、らしい。

 久弥曰く。どんなに周りの情報を把握としようと、結局はそれを捌ける量には限界がある。目視しているからといってそのすべてを的確に把握できているわけではないというのと同じように。

 もっともその能力を悪戯ごときに使っているという点で、大層な講釈の威厳は半減してしまうのだが、本人が言うところによるとリハビリのための悪戯、ということらしい。

「もういい加減リハビリはいいんじゃないですか? というか、五年間眠り続けてたって自覚ないんでしょ? だったらブランクないも同じじゃないですか」

「まぁ、ね。確かに目覚めたときには多少違和感があったけど、今じゃすっかり元通り」

「なら無駄に能力使うのはやめてくださいよ」

「いいじゃないか、別に。あっちじゃ千澄がダーシェンカさんのサポートをしてるんだし、こっちも僕がキミのサポートってことで」

 そう言って久弥は微笑み、肩をすくめる。

「まぁ、それを言われると何も言い返せないといえば言い返せないのですが……」

 イズミはうつむき、携帯のディスプレイに視線を移した。

 相変わらず連絡はなし。けれどもダーシェンカ達は無事だろう。なんとなくではあるが、イズミには分るのだ。ダーシェンカの安否が。

 それは、二人が存在の奥底でつながっているからなのか。そんなことはイズミに分るはずもなく。

 確固たる証拠がなければ不安になってしまう。それが現状だった。

 試しに一つ聞いてみることにした。

「久弥さんは不安じゃないんですか? 来栖先輩のこと」

 イズミの言葉に久弥はうつむけていた顔をヒョイとあげる。

「そりゃあ心配さ、とても。目覚めてから千澄ときちんと直接話せてないというのも辛いしね」

 久弥は力なく笑い、頬を掻いた。

 その言葉に、イズミは再び顔を俯ける。

 久弥が目覚めたのは来栖たちと今後の行動予定を決めた次の日の昼だった。当然そのことは来栖に知らせたし、久弥と来栖は電話越しだが毎日会話も交わしている。

 だが、直接は会えない。それが当初の行動予定だったし、直接会えば久弥に危険が及ぶ可能性も上がってしまう。結局、来栖兄妹は顔を突き合わせて会話することができないのだ。

 少なくとも、ことが片付くまでは。

「やっぱり……つらい、ですよね」

 イズミは久弥の心情を思い、握りしめた自分の手をぼんやりと眺め、つぶやいた。

 だが意外なことにイズミを見つめる久弥は、ニンマリとほくそ笑んでいた。

「フフフフ……その“つらい”っていうのはキミ自身のことかな?」

「なっ! 違いますよ! そりゃ僕も辛いですけど久弥さんは五年も来栖先輩と離れ離れに」

「……違うよ」

 イズミの言葉を遮り、久弥が呟いた。水を打ったような静けさが病室を支配する。一瞬のうちに。

「え?」

「五年も離れ離れだったのは僕じゃない。千澄のほうだ。僕の認識では千澄と離れてから一週間経っていないんだ。本当につらいのは千澄。僕はその辛さを想像して辛いと思っているだけだ。ま、妹がいきなり五年分成長していたのにはさすがに驚いたけどね」

 久弥は力ない笑みを浮かべながら頬を掻く。

「そういえば、そうでしたね。でも、辛いのに変わりはないじゃないですか。大切な人の辛さは、自分にものしかかるものだと、僕は思ってます」

 イズミは言葉を選びながらゆっくりと、丁寧に語った。

 それでもそれが久弥に対してふさわしい言葉なのかは分からず、伏し目がちに、どこか自信なさげな表情を浮かべてしまっていた。

 久弥はそんなイズミを見ながら小さく息を吐き、肩をすくめながら小さく笑った。

「キミは優しいな、まったく。僕が女だったら惚れていたよ」

「優しくは、ないですよ。優しかったら来栖先輩にあんな役目を頼みはしませんから……」

「でも千澄はキミを殺そうとしたんだろ? それを許しているんだからすごいよ。ま、今は何を心配しても仕方ないんだ。敵が来たらそのときこそ色々と考えなきゃね。僕もそれなりに協力できると思うからさ」

 久弥は微笑し、イズミの頭を軽く撫でた。

 その手から伝わる久弥の優しさは、とても温かく、柔らかなものであった。それはきっと、若いながらに妹を支えてきた久弥だからこそ持てる、特別なモノなのだろう。

 イズミは少しだけ、その優しさに救われた気がした。

 不意に、イズミの手の中のケータイが振動した。

 イズミは若干あわてながらディスプレイに表示されたダーシェンカという名前を確認し、通話ボタンを押す。

 それが、日常から非日常へのスイッチだということになど、気づけるはずもなく。


** *


 穏やかな時間が流れていた。和やかに夕食を作り、食し、片づける。ささやかな、それでいてそのありがたみが分かる二人にとっては、何事にも代えがたい時間。

 しかしそれは、唐突に破られた。よりにもよって、日常の真正面から、騒がしい音を立てることもなく。


 ダーシェンカと来栖は、食後のお茶を楽しんでいた。

 優雅な見目の二人には釣り合わない、安物の番茶ではあったが、それはそれでのどかな時間を演出してくれていた。

「そろそろ如月くんに電話したら? 向こうも電話を待ってるだろうし」

 来栖は番茶を一口すすり、からかうような笑みをダーシェンカに向けた。

 平素ダーシェンカには隙というものがない。常に凛としていて、その在り方はどこか、言外に私とお前は違う存在だと告げているように感じてしまうのだ。それはもちろん、リビングデッドという在り方から滲み出てしまうものなのだろうが、来栖にはそれが悲しく感じられた。

 だから、イズミと電話越しに接するダーシェンカがどうしようもなく愛おしかった。年相応の恥じらいや照れを見せる彼女を見ることが嬉しかった。

 もっとも同時に、その機微を感じ取れない鈍感な如月イズミにやきもきもしていたのだが。

「あ、いや、まぁ……そうだな。千澄も久弥さんと話したいだろうしな」

 ダーシェンカはどこかしどろもどろとしながらポケットからケータイを取り出す。

 久弥の名前を言い訳として出すあたりが、どうしようもなくいじらしい。

 千澄はそんなダーシェンカを目を細めながら眺め、彼女が電話をかけるのを待った。自分としても久弥と話したくてたまらないのは事実だ。

 もっとも、電話越しに伝えきれるほど来栖の中に堆積したものは軽くなかったが、兄と会話することはこの状況下では数少ない楽しみの一つだった。

 ダーシェンカがいよいよ通話ボタンを押そうとしたとき、扉がノックされた。コツコツと、控えめな音量で。

 その音にダーシェンカと来栖は眉根を寄せ、互いに顔を見合わせる。

 来栖はすぐには返事をせず、念のために異能を発動させた。元がセールス以外に来客のない家なのだ。ましてやこんな時間に訪ねてくる者があやしくないはずがない。

 たとえソレが堂々とノックしていたとしても。

 異能を発動させた来栖の瞳に、周囲のありとあらゆる情報がエーテルによって表示される。情報は次々と浮かび上がり、そして消えていく。それらの情報がもたらした結果はやはり、というよりほかないモノだった。

 来栖は我知らず表情を険しくし、頭のスイッチを日常から非日常に切り替えた。一瞬でそんな切り替えができたことは自分でも驚きだったが、ここ数日間の異能のオンオフで身に付いた、いわば副産物だった。

 次いで、ポケットからケータイを取り出し、何かを打ち始める。

(外にいるのは魔術師です。窓から逃げるので、準備を)

 来栖はメール送信画面に打ち込んだ文章をダーシェンカに見せた。

 ダーシェンカは黙って頷き、足音を立てないように玄関に向かい、自分の靴を履いた。来栖もそれに続き靴を履く。二人はそのまま窓に向かい、そっと窓を開ける。

 大した高さではないとはいえここは二階。来栖が飛び降りるのには少しばかりキツかった。

 来栖は迷うことなくダーシェンカの背中におぶさる。それもあらかじめ様々な状況を想定して決めてあったことだった。

 ダーシェンカの背に乗った来栖は、敵がいるであろう扉を睨みつけ、瞳が見出したこの場での最良の一言を言い放つ。

「はーーい。少し待ってて下さいね、今お風呂入ってたんで」

 険しい表情には似つかわしくない伸びやかな声で言い、静かにダーシェンカの肩を叩いた。

「行きましょう」

 来栖はダーシェンカの耳元で囁く。

 ダーシェンカは返事の代わりに窓枠に足をかけ、音もなく跳躍した。

 ダーシェンカはゆっくりと飛び上がり、住宅街の家々の屋根を足場に次々と跳躍していく。

 昼間ならば目立つことこの上ない移動法だが、夜はこちらのほうが高速で移動するには都合がいい。大抵の人間は上など見ていないし、見ていたとしてもそれはほとんどの場合、夜空だ。高く跳びあがらなければ屋根伝いに進んでいってもまず目にとめられることはない。

「この程度距離を取れば大丈夫か?」

 ダーシェンカは跳躍を続けながら背中の来栖に向かって訊ねた。

「えぇ、大丈夫だと思うわ。時間稼ぎの一言も多少は効いてると思うから。とりあず街中に出ましょう。そのほうが敵も手を出しづらい」

「そうだな」

 ダーシェンカは無表情に呟き、付近に人がいないのを確かめてから路上に降りた。

「……しかし、まさか真正面から来るとは意外だったわ」

 来栖はダーシェンカの背中から降りながらひとりごちる。

「確かにそうだな。こっちの探索の苦労を返してもらいたいくらいだ……とまぁ冗談はさておき、あの接敵だけだとどれくらい情報を掴めた?」

「残念だけど、さしたる情報は何も掴めなかったわ。敵は魔術師であるということと、それから……」

「それから?」

「相手に殺意のようなものは感じられなかったの。禁忌を捌くのを生業としている者なら殺意ではなく使命感や義務感というのも意識の在り方としてはあり得るんでしょうけど……アレにあったのは物欲に近い、ううん、ほとんどソレだったわ」

 来栖はあごに手を当てながら思案顔で言った。

「直視しなくてもそこまで分るのか……いや、ところでそれは戦闘に役立つのか?」

「一応。相手の攻撃が命を狙わない攻撃である“可能性”が考慮できる」

 来栖は至極真剣な顔で述べる。

 ダーシェンカは来栖の“可能性”という言葉に歯噛みした。それは、来栖家の異能の強みでもあり、また弱点でもある部分だった。

 来栖家の異能は厳密には未来視ではない。より確率の高い未来を予測するものにすぎない。

 そしてその確率を上げるには。

「相手の土俵で戦ってみるしかない、か……」

 ダーシェンカは苦々しい表情で呟いた。

 相手との戦闘によりより多くの情報を集めるという方針は、当初から決まっていた。それに異論を唱えるつもりはないし、自分が戦うことに恐怖などあるわけがない。

 恐怖などというものは人として死んだときに捨ててきた。

 いや、恐怖に近いものはある。それは、来栖が未来を予測するのではなく、変ええぬ未来、つまりは確率でいうところの百パーセントの未来を視てしまうことにある。

 それが百パーセントの勝利ならばいい。

 だがもし百パーセントの敗北だったなら……?

 来栖のすさまじい能力を目の当たりにしているだけに、ダーシェンカは背筋が凍りつきそうになる。

 ダーシェンカはその思いから逃れようとするかのように、太もものバンドに挟んであるアーミーナイフに自然と手を伸ばしていた。

 先の戦いではあまり役に立たなかった、いや、魔術師との戦いではほとんど役にたちえない得物でも、触れていれば心が落ち着いた。

 それに、ナイフはリビングデッドの特性の“隠れ蓑”としては役に立つ。

 ダーシェンカは薄暗い思考を必死にかき消しながら、心を落ちつけ続けた。

「とりあえず兄さんと如月くんに連絡しておきましょう。今を逃すと落ち着いて連絡できなくなるかも知れないから」

「ん、そうだな、連絡するか……伝えるべきことは?」

「とりあえずは接敵したことと、これから戦闘に向けた下準備をするということだけで大丈夫かと。あとはきちんとした予定を組めそうにないから」

 来栖はあごに手を当てて考え込みながら告げる。

 ダーシェンカは黙って頷き、ケータイの通話ボタンを押した。

 ワンコールののちに電話が繋がる。

(もしもし、ダーシェンカ? 今日は何かあった?)

 電話口から聞こえてくるイズミの声はまだのどかなもので、ダーシェンカはこれから告げなければならないモノを思い、心が重くなった。だが同時に、イズミならばしっかりと受け止めてくれるという安心感も心のうちにあった。

 だからこそ無駄な前置きをするようなことはしなかった。

「あのな、イズミ。実はさっき敵が来栖の家にやってきた。姿を見る前にこちらが逃げてしまったから容姿などは分らないが、私たちはこれから戦闘の準備に入る」

(そっか……分った。こっちがするべきことはあるかな? 久弥さんも動けるって言ってくれてるけど)

 電話口から返ってきたイズミの声音にはさしたる動揺もなく、まるであらかじめ内容を知らされていたかのような落ち着きぶりだった。

 それはきっと、いつこの状況が訪れてもいい覚悟がイズミの中にはあったということなのだろう。

 ダーシェンカはそのことを頼もしく思いながら、横で話を聞いていた来栖に視線をやった。

 何か指示はあるか? と。

 来栖は静かに首を横に振り「一時間後にまた連絡するとだけ伝えて」とだけ言った。

 ダーシェンカはその指示をイズミに伝え、再び来栖に向きなおる。

「千澄は久弥さんと話さなくていいのか?」

 若干の遠慮が入り混じった視線が来栖にそそがれる。

「私は……いいわ。これをとっとと片づけてから、ゆっくり話すことにするから」

 来栖は苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。

 軽い動作ではあったが、来栖の瞳には強い意志が見て取れた。

 ダーシェンカは強い意志を宿した瞳に少しだけ見惚れながら「そうか」とだけ呟き、イズミに「またな」とだけ告げて電話を切った。

 日常を生きていた少女が覚悟を決めているのだ。自分が確率云々に臆している場合ではない。

 ダーシェンカは心を決め、来栖とともに繁華街へ向かって歩き始めた。


** *


 小さな歯車がカチリカチリと小さな音を立てて噛み合い始めたころ、松崎あかねは如月イズミのカルテを眺めながら眉根を寄せていた。

 時刻は午後十時を回ったばかり。松崎の周りには誰もいない。何せそこは幸也の所有する非合法なプライベートホスピタルの一室なのだから。

 オフィスとしての機能のみを追求した殺風景な部屋の片隅で、松崎は小さな唸り声をあげていた。

「これは……やっぱりおかしいわよね」

 松崎の視線はイズミのカルテに注がれていたが、もはや中身など見てはいなかった。ばかりか、カルテに記されていること自体は当たり障りのないことなのである。

 問題があるとするなら、松崎が治療の過程で目にしたものの数々。松崎はそれらの現象を頭の中で反芻しながら、部屋の中をくるくると歩き回った。落ち着きなく、自分の尻尾を追い回す子犬のように。

「何がおかしいのですか?」

 突如、部屋の中からしとやかな少女の声が上がる。

 同性の松崎でさえ感じ入ってしまうような艶っぽい声だった。

「……クレアさん。入ってくるときはノックしてくださいよ、毎回毎回びっくりさせられるこっちの身にもなってください」

 松崎はいつの間にか現れていた少女の姿を視界に収め、肩をすくめた。

 見かけは自分よりも一回り幼い少女だが、その中身が幸也や雪の上司であるということはあらかじめ雪から聞いていた。

 だからといってここまで中身と外見が違う存在の相手をすることは、日常をもっぱらの立ち位置とする松崎には重労働だった。

「今回はそれほどびっくりしていないように見受けられましたけど?」

 相も変わらず慇懃なクレアに、松崎は苦笑をかえす。

「外には出なかっただけで心臓は跳ね上がりましたよ。新米のころの当直でさえそんなことはなかったのに」

「それはそれは。悪いことをしてしまいましたね」

 クレアは悪びれる様子もなくクスクスと笑い、続けた。

「それで、松崎さんは何がおかしいと思ってらっしゃったんですか?」

「いつからこの部屋にいたかを考えると恐ろしいわね……まぁ、いいわ。おかしいって言うのはイズミくんの体のことよ」

「あぁ、そんなことでしたか」

 松崎の言葉にクレアは退屈そうに肩を落とした。

「そんなことって……いや、あなた達からしたらそんなことで済むのかもね」

「ようはアレでしょ? 如月イズミの傷の回復速度が異常というハナシでしょ?」

 眉間をおさえながら頭を振った松崎に、クレアはこともなげに言い放つ。

「な、どうしてそれを……! まさかあなたが魔術で?」

「フフ、私はそんなに甘い人間じゃないですよ。まぁ、そうですね。強いて言うなら傷の治りの速さは彼の“家系”の特性、といったところですね」

 クレアは楽しそうに笑いながら言った。

 松崎はその言葉に首をかしげる。

 幸也の家が代々魔術師の家系という話なら以前に聞いたことがあるが、傷の治り云々の話は初耳だった。

 クレアは戸惑う松崎を楽しそうに眺めながら言う。

「まぁ、あなたが気にすることじゃないわよ。いいえ、気にしないほうがいい、と言うべきかしら。まぁ、ともかく、その体質があるから雪はあなたにイズミの治療を任せたのよ。あの回復速度がバレたら割と騒がしいでしょ?」

 クレアはまるでバレた方が楽しいとでも言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 松崎はクレアの表情にそら寒いものを感じながらも「えぇ、まぁ」と覇気のない返事を返した。

 実際、松崎が一般の患者として如月イズミと相対していたならば、自分の見たものを疑ってかかり、検証を重ねたうえで見たものを信じ、その上でイズミをしかるべき研究機関に送りつけていたかもしれない。

 それほどまでにイズミの治癒力は異常だった。

「それで、あの傷はどれくらいで塞がりそうなんですか?」

「……経過を見るに、二三日で塞がるでしょう。内部組織が完治するまでにさらに三四日というところでしょうか。もし傷が再び開いてなければもう完治していた可能性すらありますから」

「そうですか。まぁ、今はそんなモノでしょうね」

 クレアは思案顔で口許に手をあてる。

 今は、ということはさらに速くなることもあるのだろうか。そんなことが松崎の頭に浮かんだが、考え始めると頭が痛くなりそうなので無理矢理に思考をかき消した。

「ありがとうございます、松崎さん。それでは私はこれで」

 クレアは淑女のようにスカートの裾を軽く持ち上げて頭を下げると、その場から消えた。

 松崎の見間違いでも何でもなく、本当に、幽霊のように、消失してしまった。

 松崎はその光景に呆然としながらも、取り乱すようなことはなかった。何があっても不思議ではない。自分たちがいる場所とは真逆の、魔術という彼岸では。

 少なくとも、松崎は痛いほどに知っているのだから。それらの世界を。

「さて、と。こっちでの仕事を終わらせたら戻らなきゃ。あっちに」

 松崎は軽い溜息を吐き、カルテ諸々の資料整理に取り掛かった。


** *


 ところ変わって非合法ホスピタル屋上。少しだけ風が肌寒いその場所に、彼女はいた。

黒のパンツスーツに身を包んだ、夜の闇によく映える白い肌の婦人。如月イズミの母、雪。その人だった。

「松崎さんはなんと言ってましたか? 総帥」

 雪はどこか憂いを帯びた瞳で眼下に広がる街の明かりを見つめていた。

 彼女の周りに人の影はない。だというのに彼女は続けた。

「黙ってないで何か言ったらどうです? そこにいるのは分ってますよ?」

 その言葉を合図に、雪のとなりに少女の姿が現れた。

 少女は困ったような笑みを浮かべながら肩をすくめる。

「まったく。雪には敵わないな。気配を消した私に気付けるのはお前たち夫婦ぐらいだよ」

「フフ、ホントは気付いてほしくて少し手を抜いていたでしょ?」

「まぁ……ほんの少し」

 クレアは照れ臭そうに笑った。その笑みはクレアが見せる数少ない、というよりは雪の前でしか見せないであろう“普通の”笑みだった。

「まったく、困ったものです。それで、イズミの体はどうなってましたか?」

 雪の言葉に、クレアの顔は真剣なものへと変じる。

「……すでにエーテルの浸食が始まってる。松崎の見立てから判断すると、真人間でいられるのはあと一年強。そのあとは……どうだろうな。才能からいえば幸也と同等かそれ以上だから“生きられる”可能性も高いが、エーテルに“喰われる”可能性も低くはないな。他の如月一族と同じように」

「……そう、ですか。まぁ、私たちにできることはありませんから、見守るしかないですかね」

「まぁ、それしかないだろうな。それで、だ。雪はやっぱり心配で見に来たのか?」

 クレアは努めて明るい表情に戻し、雪を見つめた。

 その視線を受けた雪の表情も至って柔らかなモノで、先ほどまで交わしていた会話などなかったかのようだった。

「それならまだよかったんですけど、仕事です。それも幸也のじゃなくて私の」

 雪は肩をすくめて言うと、困ったような微笑を浮かべた。

「仕事、ってまさか……アクロマ機関のほうの?」

「えぇ、そっちです」

「もしかしなくてもひょっとして……来栖兄妹を狙ってるヤツが雪のターゲットだったりするわけか?」

 クレアは“恐る恐る”雪を見つめた。

 すると雪は満面の笑みで答える。

「えぇ、そのまさかです。イズミ達の敵は私の標的でした。そうと知っていればここまで“泳がせる”ようなことはせずに殺しておいたのに。生まれてきたことを後悔するような方法で」

「ハ、ハハハハハ。そ、そうか。でも大丈夫だろ、何せこっちの戦力だって低くはない」

 クレアは乾いた笑い声をあげながら、自分の口から出た言葉を呪った。

 確かに嘘は言っていない。イズミたちの戦力は低くはない。ばかりか、並の魔術師なら手も足も出ない精鋭――というよりはイレギュラーな存在といったほうが正しいか――揃いだ。

 だが問題は相手。アクロマ機関の、それも雪の標的に指定されるような魔術師はケタが違う。正直言って一流の魔術師でも手が出ないのがほとんどだろう。

 確かに久弥にかけられていた術式からも只者ではないと分ってはいたが、それほどまでとは思わなかった。

 そしてよもや、禁忌を裁く者ではなく、禁忌を犯した者だったとは。

 いや、クレアの予想はあながち間違っていない。

 クレアは雪が追っていた者のデータを記憶の片隅から引っ張り起こした。

 確か雪のターゲットは異端審問機関に属しながら、その陰で禁忌の研究に身を染めた者。

 名前は……どうでもいい情報すぎて思い出せなかった。が、それを“歳”の所為だなどとは、クレアは死んでも認めたくなかった。

「で、雪から見た勝率は?」

 クレアは思考を整え、雪を見つめた。

 雪が敵に手を出していないのは、今ここで自分が手を出したら当初の『手を出さない』という約束を破ることになるからだ。

 自分の任務だった、と言って片づけてしまわない辺りが不器用なまでの律義さとも取れそうだが、そうかというとそうでもない。

 雪は分っているのだ。如月家に生まれたものは修羅場を踏まなければ生きてはいけないことを。安穏と生きていたのでは、自分のうちに棲む怪物に喰われてしまうということを。

 かつての幸也がそうであったように。

 だから、それこそ断腸の思いで標的を殺そうとする自分を押し殺している。全ては愛してやまない息子のために。

 たとえ、その息子が殺されるようなことになろうとも。

「勝率、ですか。低く見積もって三割、高く見積もって五割です」

 雪はあごに手を当てて熟考しながら答える。

 雪の返答にクレアは目を見開いた。

「意外に高めだな」

 それがクレアの率直な印象だった。

 大方の予想では勝率一割が関の山だと踏んでいたのだが、そうでもないらしい。かといって雪の標的がそう生易しいものとも思えないのだが。

 雪はクレアの考えを察したのか、苦笑を浮かべて付け足した。

「私の当初の見立てなら勝率は五分から一割でした。でもあの久弥という青年を見て変わりました」

「久弥を……?」

「えぇ。あの子、イズミの病室に居た私に気付いたんですよ? 完全に気配を消していたというのに。それもそのあと慌てることもなく、全てを察したようにイズミと何気ない会話を始めて」

「な……久弥“も”そこまでの能力だったのか? 私は能力を落として接していたからどの程度かは計れなかったが、よもやそこまでとは」

「も、ってことは……まさか彼の妹さんも凄いんですか? 私は妹さんの能力は知らないんで計算に入れてないんですが」

「と、いうことはそれで三割から五割なのか?」

 クレアの問いに雪は真顔で首肯。

 不意にクレアの口から笑いが漏れた。

「フ、フフ、フハハハハハ! そうかそうか! これは面白いことになったぞ!」

 急に狂ったように笑い始めるクレアに、雪は怪訝な視線を向ける。

 クレアはそのことに気付き、バツが悪そうに咳を一つ吐き、言った。

「なぁ、雪。お前が感心した久弥の妹はな、一目“視”ただけで私の“本質”を見切ったんだよ。まぁ、そのショックで気を失ってしまったがな。だからそのあたりの記憶は私が適当に書き換えさせてもらった。本質を見抜かれるのはいい気がしないんでな」

 クレアは自嘲的な笑みを浮かべて肩をすくめる。

 雪は呆然とした表情でその言葉を聞いた。いや、聞いたというには余りに朧気だった。なにせ言葉は頭の中で何度も反芻するのだが、イマイチ中身が理解できない。

 クレアの“本質”を一目で見抜くなど、並の魔術師にはできない。出来たところでその存在を直視すれば、廃人になること請け合いだ。

 雪にしたって理解できないからクレアを見ることができる。

 クレアを理解できる存在。詰まるところ、理解するという能力に秀でた魔眼の持ち主たちにとっては、クレアという存在はそれ自体が凶器以外の何物でもない。

 では来栖兄妹にとっては?

 雪の頭の中で、来栖家の異能は少しだけ優れた霊視という位置付けだった。魔眼と呼ぶにはあまりに脆弱だったから。

 ならばクレアの言ったことはどうなるのか。それはまさしく来栖千澄の能力が魔眼に値するということだ。

 だがただの魔眼ならば、クレアの性質を理解した時点で廃人と化しているはずだ。その情報量、存在の異質さに押し潰されて。

 では来栖家の異能とは一体……?

 雪の頭の中に駆け巡る疑問に気付いたのか、クレアが口許を悪戯に歪めながら言った。

「あれは魔眼の類ではない。むしろほぼ魔術の類ですらない。アレはな……」


 ――共感覚だよ。


 雪の見間違いでなければクレアの口はそう動いていたし、聞き違いでなければ確かにそう言っていた。

 クレアの言ったことがにわかに信じられなかった。長く“異常”に身を置いてきた雪でさえ。

 それでも、歯車は噛み合い、状況は始まった。無機質に輝く街の明かりのもとで、着実に状況は動き始めている。そしてそう時間を掛けずに終わるだろう。

 雪とクレアは、どこか諦観を含んだ眼差しで街の明かりを眺めていた。

 街の明かりを眺めながら、クレアがさらにとんでもないことを雪に告げたが、雪はそれを聞かなかったことにした。


 優れすぎた来栖千澄の能力にリミッターを掛けたなど、今の雪にとっては聞きたくない言葉以外の何物でもなかったから。


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