いつか…
星がひとつ、消えた。
あの夜、空に轟いた“命の光線”によって。
アヴィオス――アウリアン達の故郷は、もうない。
灰になって、帰る場所もなくなった彼等は、地球に残るしかなかった。
地球政府の庇護のもとに、旗のもとに。それは庇護などではなく、服従だと知っていても。
ヴァルカリアンたちはオケアニアスへ帰り、クリケトスたちはスクリトスへと自分たちの母星へと戻っていった。
戦火の果てに残されたものは、勝利でも和平でもない。
ただ、力による均衡という虚ろな静寂。
星間連合は崩れた。
連合軍は地球での拠点を大幅に縮小。
代わりに新たに創設された軍――「ソラリス」。
それは、かつて反体制だったソラリスの名前を冠してはいるが、今では完全に政府の下にある準軍組織に過ぎない。
旧・民間警察機構のメンバーも、“軍人”として認められ、ソラリス軍へ編入された。
連合とは異なる、新たな秩序。
だが、その秩序の裏側に、何人の命が犠牲になったのか。
私は今日も、あの場所を訪れる。
あの日、燃え続けた聖堂。
灰となった天井。ねじ曲がった鐘楼。
剥き出しになった礎石の上に、花が一本、誰の手でもない風に倒れていた。
焼け跡の中から、ひとつの焼死体が発見された。
だが、身元の特定はできなかったという。
炭と灰になったその骸は、もう人の形すら残していない。
「死にすぎた。政府が自らの地位を確固とするために…殺しすぎた…」
誰に言うでもなく、私はそうつぶやいた。
あの日、最後に祈るべきだった。
ほんの一言でも、あの人の無事を願えばよかったのに。
あの日祈ることが、私の欠かせてはいけない役目だったようにも思ってしまう。
……でも、何もできなかった。
今も、あの人がどこで何を見て、何をしているのか、私は知らない。
「会いに来てよ… ネプト。いつか…もう一度、あなたと唇を重ねさせてよ」
言葉は風に消えた。そしてその風は海に吹く。
――その頃。誰にも気づかれることなく、一体の巨影が海を低空で滑空していた。
それはかすれた灰色の機体。“オブリヴィオン”だった。人知れず、静かに海へと身を沈めてゆく。まるで、その存在ごと、歴史の深淵に葬ろうとするかのように。
それがネプトの意志だったのか。
それとも、あの機体が自ら選んだ逃避だったのか。
それは誰にも、分かるはずがなかった。
ただ、静かに。
あの夜の戦火と嘘と、愛と絶望を抱えたまま――
オブリヴィオンは、深海の眠りへの航路をひたすらに進み、姿を消した。
深海に潜るオブリヴィオン…その目的地とは…
「帰ってきたというわけですか… やはりあなたはお父君とよく似ている…」
疲れた声が海にゆっくりと響いた。
いつか…ネプトの思いは彼女に伝わるのだろうか…
いつか…平和な世界は訪れるのだろうか…
いつか…
第一部、完。




