第二部 その伍 閑話休題 友情は翼のないキューピットである。 第六代バイロン男爵ジョージ・ゴードン・バイロン ③
「あたしね、前から一度、坂本三曹とゆっくりお話したかったんです」
「……え?」
「だって坂本三曹の整備の腕前、傍から見ていて凄いんだもん。あたしなんていつも慌てふためいてばかりなのに、坂本三曹はいつも沈着冷静で、手際も良くて、門真一尉の指摘なんかすぐ理解してさっさと直しちゃうし」
驚いた。彼女からはそんなふうに見えていたのか。沈着冷静なんてとんでもない、ただ人見知りで話すのが苦手なだけだ。作業に没頭していれば無理に人と話す必要も無い。
それにさっさと直せるのもトシさんの説明が的確で原因を特定しやすいからだ。もっとも、飛行機を弄るのは大好きで、放って置かれたらいつまでも弄り続ける自信はあるが。
「……そんなことないよ。これでもいつもテンパっているんだ。俺の機はあのトシさんの乗機だからさ。自分のせいであの人がキルされることだけは無いようにって、いつも還ってくるまで不安だし、肝が冷えてるよ」
それは偽らざる本心。
「それに谷口だってあの勝野隊長に引っ張られてここに来たんだろ? そっちの方が凄いと思うし、神月三尉だっていつも谷口の整備を褒めているじゃないか」
「てへへ……。坂本三曹に言われると何か恥かしいデス」
俯き、嬉しそうにジョッキを弄ぶ美鈴。
ああ、やっぱり可愛いな。
職場では業務連絡以外、あまり話したことがなかった。気持ち悪がられたくないので、意識してあまり目を合わさないようにしていた。
もっとも彼女の周りはいつも賑やかで、部隊内外問わず、男たちが何かと理由をつけてやってくるので、自分などつけ入る隙すらないのだが。
そんな彼らを羨ましく思うも、自分には絶対に無理だと思っていた。だが、当の美鈴は桑野を袖にしたばかりか、こんな自分と楽しそうに話してくれている。
勘違いは出来ないが、勝手に壁を作りすぎていたのかもしれない。
せっかくトシさんが与えてくれたこの幸せな状況、ダメ元で今だけでも楽しむか。そう思うと少し気が楽になり、お酒の勢いも手伝って色々と話せるようになった。
「えーっ、坂本三曹もアイアンイーグル観たんですか?」
「あ、うん。航空アクション映画はあらかた観たよ。トップガンは当然として、アパッチとかイントルーダーとか、ステルス、ファイヤーフォックス、あ、邦画ならベストガイも」
「わ~、ヤバイ、みんな分かる~」
「本当に? じゃあナイト・オブ・ザ・スカイは?」
「観ました! ストーリーはハテナだけど空撮は最高!」
興奮気味に食い付いてくる彼女に思わずテンションが上がってくる。
「確かに。でも意外だな、谷口がそんな映画ばっかり観てるなんて」
「恋愛映画しか興味ないような女に見えます? あたし、飛行機好きが高じてこの職業に就いたんですよ? 意外でも何でも無いと思うけどな~」
「ごめん。俺、谷口を偶像化し過ぎていた。俺とは違う星に住むお姫様だと思ってた」
その言葉に彼女はアハハと爆笑すると、自分に向かってビシッと敬礼してきた。心なしか顔が近い。
「へへ~。あたしオタク女子っすよ、筋金入りの。オタクで何が悪いんですか〜~~」
楽しそうにぐいぐいとにじり寄ってくる彼女。せっかく空けたパーソナルスペースはいつの間にか彼女によって埋められていたが、もう、その距離を自ら離そうとは思わなかった。
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