第二部 その肆 結婚を成功させるには、いつまでも同じ人と、何度も恋に落ちることである。 アメリカ女性作家 ミニョン・マクラフリン ②
ベッドから出て、下着を身に付け、服を着ると、手短に洗面と化粧を済ませる。
せっかくの一流ホテルの朝食バイキングだったが、二人とも気ばかり急いてしまい、さっさと食事を終えて再び部屋に戻ると、早速、チェックアウトの時間まで段取り開始だ。
お互いの話し声が妨げにならないよう、敏生は浴室で電話している。夕陽は窓際で電話を掛けると、少しして母親の真理子が電話に出た。
「あ、おはよう、夕陽です」
〝あら、どうしたの?こんな朝から〟
「あのね、実はそっちに行って話をしたいことがあって。敏生と一緒に」
〝え……? もしかして婚約解消とか?〟
「ええ!? なんでそうなるのよ?」
〝だって、この間、婚約の報告に来たばかりじゃない〟
「え? あれはお付き合いの報告で、今回が婚約の挨拶なんだけど……」
〝そうだったの? 敏生クン、一生大切にします、って言ってたから、いつ式を挙げるのかお父さんとずっと気にしてたのよ?〟」
どうやら、自分の早とちり癖は親の遺伝らしい。ということは、結婚自体の根回しは完了済みか。
「あ、ご、ごめんなさい。正式な彼からのプロポーズは昨夜だったから……」
言い訳しながら、正式って何だ? と自ら突っ込む。
〝何でも良いけど、帰って来なくていいから、先方のご両親とのご挨拶の日取りを、早めに調整して頂戴。実はお父さんとあたし、海外の日本人学校に転任の話があってね〟
「ええっ!?」
〝まだ先の話だけど、早くお願いね〟
「あ、うん……。分かったわ。あ、でね、入籍だけはさっさとしちゃおうと思ってて、実は十日後がすごく日取りが良くって。そのお伺いもあったんだけど……」
〝そうなの? あたしはいいけど、ちょっと待ってね、一応お父さんにも聞いてみるわ〟
「あ、ありがとう」
電話の向こうで、和博との話し声が聞こえ、しばらくして、再び真理子が電話に出た。
〝入籍は好きにしなさい、って。ただ、後付けでもいいから、両家の引き合わせや結婚式はちゃんとしなさい。まあ、敏生君のことだから問題無いとは思うけど、って〟
あのたったの二日間で、ここまで両親の信頼を得ているとは。改めて敏生の人たらしの能力に驚嘆する。
その後、互いの近況などを軽く交わして、電話を切った。敏生の方はまだ電話しているようだ。
あれだけ厳しかった両親が、敏生との結婚をこんなにもあっさりと、しかも十日後の入籍をいとも簡単に認めてくれるなんて、あの和解があったとはいえ、拍子抜けだった。
少なくとも自分の方は、全て問題はクリア。あとは彼の両親が何て言うか。祈る様な気持ちで浴室のドアを見つめていると、ガチャっと開いて敏生が出てきた。
「どうだった? お義父様」
「いや〜、怒られた怒られた。すごく」
「ええっ!? ダメだったの?」
「いや、結婚自体は大歓迎だけど、夕陽さんはご両親にとって大切な一人娘だろう。ご両親へのご挨拶もせずに、入籍なんか認められるか。その日に入籍したいんだったら、母さんも連れてその前に山口にご挨拶に伺うから、今すぐ先方のご都合を確認しなさい、って。あと、勝野隊長にもすぐ電話しろ、その後、自分からもドタバタですみませんとお詫びしておくから、って」
さすがは人望の厚い統幕長。ただ。
「えっと、もちろん予定は確認するけど、お忙しい統幕長と艦隊司令の予定なんて、今日明日で調整出来ないでしょ!?」
「いや。聞いたらお袋は航海予定しばらく入ってなくて、親父も首相や大臣へのレクチャーや、米軍との重要な会合は入って無いから、今なら調整可能だって」
「奇跡だね……。分かったわ。もう一度電話するね!」
「うん。俺も隊長に電話するわ。あ、あと、お家にお邪魔するのは迷惑だろうから、引き合わせの場所はご両親のお家の近場で、親父の方で見繕っておくって、お伝えしておいて」
「そんな……、お義父様、気を遣い過ぎよ」
「まあ、親父はそういう人だからさ。好きでやってるし、気にしなくていいよ」
そう言って、敏生が再び、電話をするために浴室に入っていった。
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