第二部 その参 愛とはお互いを見つめ合うことではなく、共に同じ方向を見つめることである。 フランス人作家・パイロット アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ ③
やって来たのは人気の海鮮居酒屋。今日の今日で予約が取れたのは、平日の週中というのもあるだろう。向こうはまだ来ておらず、夕陽は化粧直しでお手洗いに入った。
「やっぱり……、緊張するよね」
お互いの両親には既に挨拶を終えているとはいえ、親友はまた別ポジション。粗相の無いように、と気合いを入れるも、彼は作った自分を親友に見せたい訳じゃない、と思い直す。
個室の前まで戻ると、中から笑い声が聞こえて来た。どうやら、入れ違いで到着したようだ。夕陽はすうっと深呼吸をすると、個室の扉を開けた。
敏生以外に中に居たのは、意外にも親友と思しき男性と、その連れの女性の二人だった。
「え? 敏生先輩の連れって、まさかの女の子!?」
「おいおい、マジかよ。お前、一生遊ぶって言ってたじゃん」
敏生の連れが女性であることが予想外だったようで、ポカンとしている二人。夕陽はピッと姿勢を正すと、反射的に敬礼しそうになり、慌てて思い止まった。
「あ、あたし、敏生さんとお付き合いさせていただいてます、神月夕陽と申します! 以後、お見知り置きを!」
そう言ってがばっと頭を下げ、結局、最敬礼してしまった。
「この二人にはそんなに畏まらなくても大丈夫だって」
敏生が笑いながら、夕陽の手を取り、隣に座るよう促す。
「紹介するよ。俺の大切な恋人で、仕事でもコンビを組んでいる神月夕陽三等海尉。女性戦闘機パイロットだ」
彼に肩を抱き寄せられる。人前なので、少し照れくさい。
「信じられない、敏生先輩に特定の彼女が……」
「滅茶苦茶可愛くていい子じゃん……。敏生には勿体なさすぎる」
遠慮のない二人に敏生がむくれる。
「お前ら、俺を何だと思ってるんだ?」
「カーマスートラの化身」
「女の敵。見境無しのスタリオン」
意味はよく分からなくも、息のあった二人の冷ややかな返答に思わず吹き出す。
「あの、今日はあたしの知らない敏生のこと、いっぱい教えて下さい」
と、再びぺこりと頭を下げると、女性の方が、「ほんとかわいい~!」と両手を頬に当てながら首を振る。敏生はまるで彼女から守るかのように、夕陽を抱きかかえた。
「夕陽、こいつらの言うことは話半分な。お前ら、自己紹介!」
「なんだよ、お前が紹介してくれるんじゃないのか」
男性の方が、笑いながらため息をつくと、改めて夕陽の方に顔を向けた。
「よろしくね、神月三尉。俺は第二護衛隊群第二護衛隊、あしがら船務長、一等海尉、槙村和馬だ。で、こいつが同じフネの航海科幹部、二等海尉、深山若葉な」
「ちょっと、それだけー?」
「物事には順序ってもんがあるんだよ」
槙村の簡単な紹介に若葉が不満の声を上げる。
「そうそう。俺は、あれだけ犬猿の仲だったお前らが何故、ここに一緒に居るのかを知りたい」
「犬猿の仲?」
どう見ても仲の良さそうな二人に、夕陽は首を傾げた。
「ああ。この二人、顔を合わせるたびに何かと言い合いばかりで、何度も問題を起こしては学生隊長だった俺が呼び出されて、始末書を書かされたんだよ」
不貞腐れたようにテーブルに頬杖をつく敏生。
「そんなこともあったねー」
「ああ、懐かしいな」
「お前ら~」
「まあ、積もる話を始める前に、飲み物と料理を頼んじまおうぜ」
槙村が一旦話を切ると、それもそうか、と敏生が手元のメニュー表を手に取る。他愛ない会話を繰り広げながら料理と飲み物を注文し、とりあえず運ばれてきた生ビールで四人は乾杯した。
「で、話を戻そうか? 槙村君」
「気持ち悪い呼び方するなよ」
槙村は苦笑すると、若葉に目配せした。
「まあ、話せば長くなるが……、実は俺たち、一年半前から付き合ってる」
「……はあ!? マジで!?」
あんぐりと口を開ける敏生。
「ほらね、先輩びっくりした」
イシシと、してやったりの表情を浮かべる若葉。
「で、ここからが本題だが、俺たちは婚約した。佐世保に戻ったら取り急ぎ籍を入れる」
更なるサプライズ報告に、敏生は膝を叩くと、首を振った。
「やられた、マジか。いやー、開いた口が塞がらないけど、とりあえずおめでとうだな」
敏生と槙村はジョッキをカチンと合わせると、息もぴったりに、お互い一気に飲み干した。今まで夕陽が目にしたことの無い、敏生の豪快な飲み方。
「ありがとう。今日は、敏生の奢りな」
「あざーす、敏生先輩」
「おいっ、学生時代、散々俺に迷惑掛けたんだから、婚約を機に俺にご馳走様するのが筋だろう!」
「その節は大変お世話になりました」
「うんうん、苦しゅうないぞ」
いつもは先輩たちに甘え上手な敏生が、親友と後輩には散々いじられている。
「あ、あの、ご婚約おめでとうございます! 今日はあたしも敏生と一緒にご祝儀出しますので!」
夕陽の言葉に二人が一瞬、きょとんとすると、若葉が堪らず吹き出した。
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