第二部 その壱 愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 英国人女優 オードリーヘップバ―ン ①
お待たせしました。第二部、スタートです。二日に一度くらいのペースでの更新となりますこと、ご容赦くださいませ。
数年ぶりの電撃的な里帰りから戻って、早くも一週間が過ぎようとしていた。
今日は、久しぶりに「ながと」飛行隊にお鉢が回ってきたアラート任務。艦載飛行隊であるため、通常時はアラート任務からは外れているが、「ながと」がメンテナンスで入渠中の時は、空自との調整で任務が割り当てられることになっている。
この日は菅沼、滑川組と共に、6時間毎に5分待機(指令が出てから5分以内に発進する)と1時間待機を交互に回すことになっていた。
任務とは言っても、スクランブル指令が出るまで、ひたすらに待機するのみ。国境線を目の前にした北海道や沖縄の部隊と比べたら、冷戦時代とは異なり、首都圏の部隊は滅多にスクランブルは掛からない。
また、さすがに24時間、ずっと緊張状態を保てるわけなど無いので、5分待機組は耐Gスーツにハーネスなどの装備を付けたまま、1時間待機組は装備を外した状態で、皆、待機室で音楽を聴いたり読書したり、思い思いの時間を過ごしている。
菅沼と滑川は向かいのソファで、装備を付けたまま、将棋指しに興じている。
夕陽は、といえば、いつものように、任務前にPXで購入した愛読のファッション誌を眺めていた。
ちらっと横目で、隣に座る敏生の様子を窺う。
彼もまた、いつものように、英語の勉強がてら、洋書のペーパーバックを読み耽っている。出会った当初はチャラチャラとしたイメージしかなかったので、読書中の寡黙な姿にかなりのギャップを感じたものだったが、彼の人となりを知った今では当たり前の光景。
かっこいいな。
つい彼の真剣な横顔に見惚れてしまい、いけない、と雑誌に視線を戻す。あの里帰り以来、更に好きが強くなった気がするが、今はアラート任務中。惚けてる訳にはいかない。
気を取り直し、パラパラとページをめくっていると、女子旅特集に目が止まった。
あ、下関だ。ええー? ここ、翌日に敏生と行ったところだー。
数日前の記憶をなぞる。
〝関門海峡、初めてきたけど、壇ノ浦も巌流島もここだったんだね。感動〟
感慨深げに手摺に身を乗り出す敏生。
〝祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす〟
説明するまでもない有名な一節を諳んじる彼。
夕陽はクスリと笑うと、彼に倣い、手摺に身を乗り出した。
〝おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ〟
〝お、覚えてるねー〟
〝うん。受験勉強もあったけど、こういう土地柄だから、平家物語は好きだったわ〟
彼にそっと抱き寄せられ、肩に頭を預ける。
〝この波の下に都はあったのかな?〟
水面を見つめながら、彼が呟く。
〝きっと、ね……。そう思いたいわ〟
キュッと彼の手を握る。まさか二度と帰らないと誓っていた故郷で、小さい頃から慣れ親しんだこの景色を、彼と一緒に眺めることができるなんて。いつも以上に気持ちがはしゃいでしまう。
〝あ。でね、あそこに小さく見える島が巌流じ……〟
言い掛けて、突然、彼に唇を塞がれた。舌を絡めとられ、激しく貪られる。奇襲攻撃に驚いたが、夕陽も彼の背中に腕を回すと、迎撃した。
お互いを求め合う情熱的なキス。昨日、実家で何も出来なかった反動だろうか。やがて、どちらからともなく離れると、こつんと額を合わせた。
〝もう……。ここ、お外だよ?〟
〝夕陽の故郷で、無性にマーキングしたくなった。下関のみんな、俺が夕陽の恋人なんだぞー、って〟
〝もー。しょうがないな〟
ため息をついて見せるも、彼の気持ちが嬉しくて仕方がない。目を瞑り、そっと唇を差し出しておねだりすると、再び彼の唇が乗ってくる。
〝……好きだ、夕陽。たまらなく好きだ〟
〝あたしも大好き、敏生。ずっと、ずっと一緒だよ?〟
〝当たり前だ。一生離さないからな〟
〝うん。約束〟
小指を絡めながら何度も何度もキスを繰り返す。その後もお互い、ラブモード全開で、とても満ち足りた1日になったのだった。
えへへ。あの日は敏生といっぱいキスしちゃったな。
思わず顔がにやけてしまい、慌てて取り繕って周りを窺う。良かった、誰にも見られていなかった。
〝一生離さないからな〟
脳裏にこだまする彼の甘い囁き。
そういえば。
〝絶対に誓います! 必ず娘さんを幸せにします! 夕陽さんと一緒に頑張ります!〟
彼が父親の和博に向かって放った言葉。あれは一体、どういう意味だったんだろう。
あの時は敏生への感動と、両親と和解できた安堵感でただただ、胸がいっぱいだったのだが、改めて思い返してみると、父親の「どうか娘を幸せにしてやって欲しい」との言葉も相まって、まるで結婚の申し込みのシチュエーションだった。
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