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第二部 その玖 良い結婚ほど素敵で、友好的で、魅力的な関係、結びつきや仲間は存在しません。  ドイツ人神学者 マルティン・ルター ⑥

「仲間のために涙を流せる敏生が大好き。ありがとう、半分は紀美のために泣いてくれて」


 彼の髪に頬ずりすると、子供のように甘えてくる。


「あたし、敏生と出会ってよかった」

「うん」

「あたし、敏生が初恋の人でよかった」

「うん」

「あたし、敏生と結婚してよかった」

「でへへ」


 彼が嬉しそうに、胸に顔を埋めてくる。


「あたし、敏生と出会って、初恋にすごく戸惑って。恋愛って、どうすれば良いかも全く分からなかった。でも、色んなカップルさん達に出会って、それぞれ、色んな形があることが分かって。あたし達にはきっと、あたし達だけの色があるんだよね」


 愛おしい彼の髪の毛を弄りながら語りかけると、敏生が見上げてくる。とても優しい目。


「俺たちの色はアホウドリの空色、かな。隊長の祝辞、良かったな」

「うん。あたし、アホウドリが大好きになっちゃった」


 結婚式が異様な盛り上がりを見せる中、場を見事に締めてくれた勝野の祝辞。


 人間への警戒心が無く、簡単に捕まえられることから、不名誉な名前を付けられたアホウドリだが、実は飛行能力が鳥類の中でも抜群に優れていて、ダイナミックソアリングと呼ばれる飛び方で上手く海風を捉え、一度で一万マイル(一六、〇〇〇キロ)を飛行し、その生涯の殆どを空で過ごすこと。

 ゴルフでホールインワンよりも難しいと言われる「アルバトロス」は、アホウドリの英語名で、この飛翔能力の高さから名づけられたこと。そして何より、アホウドリは一度、つがいになると、生涯、パートナーを愛し続けること。冒頭にこれらを説明した上で、二人の祝辞へと繋げていった勝野。


〝二人にコンビを組ませたのは何を隠そう、この私です。新人の頃から天才パイロットと称された敏生君と、二年目にして千歳のトップを獲った秀才パイロットの夕陽さん。この二人は、私が教導群に居た時から見てみたい、と思っていた組み合わせでした。なので、海自にながと飛行隊が編成され、初代隊長を拝命した私が、空自から優秀な若手を選んで一緒に連れて行け、と言われた時、私は迷うことなく、二人を私の下に呼びました。もっとも、最初の頃は、朗らかで鷹揚な敏生君と、潔癖で生真面目、かつ心配性な夕陽さんが事あるごとにぶつかり、ハラハラとしたものでしたが〟


 当時を知る者たちから、ドッと笑いが起こる。


〝でも、私が見立てた通り、二人は直ぐに、良い意味で化学反応を起こしてくれました。お互いの強みでお互いの弱みを補い合い、様々な困難を乗り越えることで、二人が次第に強い絆で結ばれていくのが分かりました。二人の、極限まで磨き上げられていく操縦能力と、その、とても仲睦まじい様子から、いつしか、まるでアホウドリのような二人だな、と思えるようになりました。そんな二人が、プライベートでも恋人同士になり、そして今日、この日を迎えられたことは、私にとっても無上の喜びでございます〟


 そう。勝野は二人を引き合わせてくれた、そして、自分たちをこれまで、温かく見守ってきてくれた最大の恩人。感謝してもしきれない。


〝そんな愛すべきアホウドリたちが日々、努力を重ねてこの日本の空を守っています。国民の皆様方の、そして何より、愛する家族や友、恋人、そして自分たちの幸せを守るため、日夜、腕に磨きをかけ、隙の無い備えでその実力を見せつけることで、戦わずして守る自衛隊の矜持を実践しています。本日は最高指揮官である久峨総理大臣もご臨席されておられますので、私は幸せな二人の生命を預かる指揮官として、これだけは言っておきたい。平和を一番望んでいるのは、私たち、服務の宣誓をして、国防の最前線に身を投じている自衛官です。願わくは、二人の、そして私たちのこの日々の努力が全て無駄となり、アホウドリの空が未来に渡り平和たることを祈念して、私の祝辞に代えさせていただきます。敏生君、夕陽さん、今日は本当におめでとう〟


 万雷の拍手。首相の久峨も勝野の祝辞に応えるように、深く頷きながら拍手をしていたのが印象的だった。手前味噌ではあるが、とても良い結婚式だったと、心の底から思える。


 だから。


「アッシュと葵さん、隊長と瑠美さん、佐那ちゃんと彼氏さん、美鈴ちゃんと坂本君、槙村さんと若葉さん、かどやの大将と女将さん、敏生のご両親とあたしの両親。そして紀美と川越さん。みんな、アプローチは違うけど、それぞれの幸せに向かって頑張ってる。だからあたしも、もっともっと頑張って、もっともっと敏生と幸せになりたい」


 絡め合う指。敏生はそっと起き上がると、夕陽の頬に手を添えた。


「この先、多分、俺たちを取り巻く環境は目まぐるしく変わっていくと思うけど、俺たちの未来はずっと、ずっと一緒だからね」

「うん。ずっと。アホウドリのように、ね」


 微笑み合うと、二人は抱き合い、お互いの温もりに身を委ねながら、眠りについた。二人なら、もう何も怖いものなど無かった。

第二部その玖、終わりです。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。

ぜひ、ご感想やブクマなどをいただけるとありがたいです。

引き続き、よろしくお願いいたします!

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