第一話 指揮官はまず楽観的であることが重要である アメリカ合衆国第三十四代大統領 ドワイト・D・アイゼンハワー ①
ご無沙汰しております、京です。久々に筆を執りました。以前にpixiv含めて投稿した「Blip」で、当時はまだ何も話が無かったヘリ搭載護衛艦「いずも」にF35Bを搭載し、自衛隊初の航空母艦として小説の舞台に設定したのですが、現実が追いついてしまいましたので、「いずも」を「ながと」に改め、きな臭い世の中だからこそ、今度は悲劇ではなく、ハッピーエンドの恋愛劇にしてみました。どうぞお付き合いください。
こいつか。
一目でピンときた。噂に聞こえた男。周りの女の子たちがはしゃぐのも確かに頷ける、端正な顔立ち。だが、幼少の頃よりアイドルの類にうつつを抜かした記憶も無く、恋愛に対してこれっぽっちの興味も無い身としては、いかな超絶イケメンとて眼中に無い。
そう、夢に向かって突き進んでいる身としては。
「君が〝北空の魔女〟、神月夕陽三等海尉だね。TACネームはイデア。実戦部隊配属二年目にして、千歳のベストガイの座を掴んだ俊英。噂には聞いていたけど、まさかこんな華奢な女の子だったなんてね」
抱いていたイメージとは異なり、彼の言葉に嫌味は無く、むしろ感嘆すら感じられ自尊心をくすぐられる。悪い気はしない。だが油断は出来なかった。何故なら。
「貴方の噂も聞いています。門真敏生二等海尉。TACネームはガイア。実戦部隊一年目にして飛行教導群に大抜擢された、航空自衛隊史上最高の天才パイロット。そして……」
一旦言葉を切ると、ボブの黒髪を掻き上げる。
「自衛隊史上最低最悪の女ったらし」
傲岸不遜な態度で吐き捨てると、キッと彼を睨みつけた。彼は女の敵。そして同じパイロットとしても打倒すべき存在。空自でも選りすぐりの若手最精鋭パイロットで編成された海上自衛隊初の艦載戦闘機部隊、「ながと戦闘飛行隊」でトップを獲り、名実ともに自衛隊最高の戦闘機パイロットとなるためには。
「そっか。俺のことを知ってくれているなら話は早い」
彼は微笑むと、すっとにじり寄ってきた。
「俺、君に一目惚れしました。付き合ってください」
「……はあ!?」
耳を疑い、目の前で頭を下げる男を見返す。開いた口が塞がらないとはこのことか。
「俺、初めてなんだよ。一目惚れって。今まで自分から告ったこともないし、どうしていいか分からなくってさ」
額に手を当て、悩まし気な表情を見せる彼。
「意味が分からないですから! だってあたしたち初めて会ってからまだ五分!」
「時間なんて関係ないよ。運命の前では」
徐々に間合いを詰められる。
厳しかった両親の教えもあり、異性に対しては普段から表情を作らず、徹底的にガードしてきた。それでも言い寄られたことは両手でも足りないが、ひと睨みすると大抵の男は引き下がっていった。
だが、彼はまったく動じる様子すら見せない。自身の容姿や実力に絶対の自信を持っているからだろうか?
いつもと勝手が違い、狼狽するも、やがて無性に腹立たしくなってきた。何でたった今、出会ったばかりの男に壁際まで追い込まれなくてはならないのだ? しかも職場の装備用ロッカーで。
だいたい、超絶なイケメンだか史上最強の天才だか知らないが、それが何だというのだ? こっちだって千歳のトップパイロットの称号であるベストガイの看板を背負ってここに来たのだ。なめられてたまるか。
「ばっかじゃないの?」
一階級上の、仮にも上官に対して使ってよい言葉ではなかったが、口をついて出てしまったものはしょうがない。だが、彼はそんなことは微塵も気にする素振りを見せず、グイグイと迫ってくる。
コイツ!
「あたし、あんたみたいな男、大嫌いよ」
〝北空(北部航空方面隊)の魔女〟の由来ともなった、数多の男たちを消沈させてきた冷ややかな視線を彼に浴びせる。だが彼は怯むどころか、フッと笑うと壁に手をつき、夕陽の逃げ道を塞いだ。
「ありがとう。その言葉、最高に嬉しい。好きの反対語は無関心っていうからね」
「なっ」
「少なくとも俺のことが君の視界に入ったわけだ」
彼の端正な顔が近づく。周りには誰もいない。絶体絶命のシチュエーション。叫べばよいのかもしれないが、そんな普通の女の子のような真似は夕陽のプライドが許さなかった。
いやっ、何でこんなやつなんかに……。
悔しさでギュッと目を瞑る。だが、唇は来なかった。恐る恐る目を開けると、彼は柔らかな笑みを浮かべながら、耳元に口を寄せてきた。
「君の初めては全て俺がもらう。正々堂々とね」
その言葉にカッと赤くなる。
何で、何で分かったの? あたしがキスもまだだって……。
「あ、あんたなんか好きになるわけないじゃない! 絶対にあり得ないんだから!」
アハハと楽しそうに笑う彼が腹立たしく、ドンッと胸を突き飛ばすと、ロッカールームを出て行こうとしたのだが。
「ちょっ!?」
咄嗟に手首をつかまれてしまった。そして後ろから片腕で両肩をホールドされる。
「離して!」
「ほら、前向いて」
「はぁ!?」
パシャッ
前を向いた瞬間に鳴った機械音。
「ほい、夕陽との初ツーショットげっと。いる?」
な、なんなのよこいつ……。しかもいきなり呼び捨て―!?
「いるかそんなもん!!!」
それが夕陽の、門真敏生との出会いだった。
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