【3分で読めるショート】好感度メガネ
それはすごい発明だった。
そのメガネを掛けるだけで、対象の好感度が数値化されて見えてしまう、という画期的なものであった。
友人に言わせれば、グー〇ルグラスに、自作アプリを組込んだだけのものらしいが、とにかくすごかった(語彙力)。
◇
先日、開発者の友人が、私に「とりあえず、このメガネをかけて、俺の顔を見てみてくれ」と言ってきた。
私は、彼に「なんだ、お前のおでこに浮かんでる90って数字は?」と応えると、「90とは意外に高得点だな。テレるじゃないか」と、彼は少し顔をほころばせ、そのメガネの性能を教えてくれた。
あたりを見渡すと、通行人たちの額にも、やはり各々の数字が、薄い光の文字で浮かびあがっていた。
「まじか、スゲーな、これ!ちょっと間、借りてもいいか?」
「ああ、かまわんよ。モニターなら大歓迎だ。
その代わり、誰が何点だったとか、ちゃんと後からレポートしてくれよ」
友人はニヤニヤとしながら、そのメガネを私に貸してくれた。
◇
私は、構内を歩き回った。
道行く人々が、私に対して抱く好感度。
そんなものが分かってしまえば、様々な人間関係も、もっと巧くいくに違いない。
ナンパだって、自由自在だ。
私は、サークル棟へと向かい、お目当てを探す。
途中、容姿はかなり良いが「性格がアレなビッチ」と噂の女とも出くわした。
意外にも、彼女のおでこに浮かび上がっていた数字が「87」もあったことに、ニンマリもした(今度、ためしに誘ってみるべきか、これ?と)。
小1時間ほど、探し回り、ようやく見つけたお目当ての彼女。
彼女は、いわゆる「サークルの姫」などではなかったが、知性と教養を感じさせ、よく見ると、けっこう容姿も整った品のある女性。
私のようなバカな男には、いわゆる高嶺の花とも言える存在であった。
さあ、彼女の点数はいったい何点なんだ!
点数次第では、告白もしようではないか!
◇
「おうおう、どうだった、そのメガネの性能?」
開発者の友人が、ニヤニヤとした顔で近づいてきた。
「いやあ、抜群だったよ。おかげで彼女に告白もできた」
「おう、聞いたよ、その話。
イケメンのくせに奥手なお前にしては、よくやったな」
「そりゃなんせ、彼女からの好感度が97もあったら、さすがに俺でも男を見せなきゃだろ」
「ふははははっ」笑いが堪え切れない様子で、天を仰ぐ友人。
「……な、何なんだよ、その笑い?」
「それ、誰も、相手からの好感度とは言ってないぜ」
「……はぁ、いまさら何言ってんだ!?
97点もあったから俺は告白したし、実際、彼女もOKしてくれたじゃないか?」
「だからその数字、お前から見た相手への好感度の数値化なわけよ」
「えっ……」私は絶句した。
「まあ、自分の気持ちをよく知るって意味では良かっただろ?
おかげで告白も出来たわけだし。
で、他の連中の数字はどうだったんだ、教えろよ」
私の視線は、中宙を泳いだ。
私のなけなしの勇気を奮い立たせた、あの97という数字は、カノジョから私に寄せられたものではなく、私から見た……?
だとすれば、私は今後どのようにしてカノジョと……。
「お、何、何、その変な踊り?」
私は恥ずかしさのあまり、頭を抱え、肩を小刻みに揺らしながら、その場で何度も足踏みをしていた。
そして、告白した瞬間の彼女の笑顔を思い出し、また別の意味での足踏みを始めた。
カノジョが、意外に強気で男らしい告白をしてくれたカレに対し、幻滅しない日が来ることを祈りたい(笑)。