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占い師、世良涼介【旧家の悪しき血の編】

作者: 佐賀かおり

PRの為に短編として投稿いたします。もし面白かったら本篇の『占い師、世良涼介』をご覧ください。全て短編の連作短編集となっております、よろしくお願いいたします。

 滝田進は診療内科のクリニックで悲愴(ひそう)な面持ちで訴えた。


「大丈夫でしょうか? 僕は不安で夜も眠れなくて、本当に心を()んでしまいそうで」

 医師は笑いながら言った。

「大丈夫ですよ、何も心配する事はありません。眠れないのなら睡眠薬を処方しましょう。服用してしっかり眠れば不安は無くなりますよ」


 進は薬をもらい病院を後にした。

 行きは不安だらけだったのがウソの様に心が軽くなり足取りも軽くなっていた。

「ああ、病院に行って良かった」


 安堵して帰宅するとダイニングテーブルの上に白黒の古い写真が二枚あった。


「この写真の人、誰?」


 母に訊くと進の曾祖父(そうそふ)高祖父(こうそふ)だという。


「ああ、同じだ、僕と同じだ」


 進の手からクリニックから貰って来た薬の紙袋がこぼれ落ちた。




 手相や人相をみる世良の占いの店のソファーに座る滝田進は両手を膝の上で固く握ったままである。

 彼はテーブルにある世良が丁寧に()れたコーヒーに手を出そうとしない。

 不安に押し(つぶ)されそうな彼にはコーヒーなどどうでもよいのだ。


 コーヒーをこよなく愛する世良にとって美味しく淹れたコーヒーを飲んでもらえない事は悲しい事であった。

 世良は進がコーヒーを飲む気が無いのを見定めると話を始めた。


「電話で大まかな事情は(うかが)いましたが再度、詳しく聴かせてください」

 二十七歳の進は固い表情で頷くと説明しだした。


「問題になっているのは僕の母方の血筋なのです。母の実家、安西家は代々続く農家で昔は豪農だったようです。ですが家系からは心を()む者が出ているそうで……しかも何故か全て男性らしいのです」

頻繁(ひんぱん)(わずら)う人が出るのですか?」

「昔の事は詳しい情報が無いのです。確実に分かっているのは僕の曽祖父(そうそふ)の事です。曽祖父は農業だけでなく行商も手広く行い財を成したそうですが、二十九歳の時に気が()れて自殺したそうです。二人目の子供が生まれたばかりだったそうです」


 世良は頷きながら耳を傾けていた。


「その曽祖父の父親、僕からみて高祖父(こうそふ)は安西家の(いしずえ)を築いた人物と言えるでしょう。カリスマ性があったらしく次々と周りの農家を吸収し田畑を増やしたそうです。ですが二十九歳の時に突然、気が触れて使用人の頭を石で殴りつけたらしく彼はその後、死ぬまで座敷牢で過ごしたそうです」

「座敷牢ですか」

「はい、度々そういう者が出る為か、当時の安西家には座敷牢があったそうです」

「偶然なのか分かりませんが、二人とも二十九歳で発症していますね」

「そうなんです。僕は今、二十七歳です、あと二年しかありません。それで不安に駆られ心療内科を訪ねたのですが今のところ心配する事はない、と言われました」

「では何故、僕の所に?」

曽祖母(そうそぼ)が二人は似ていた、と言っていたのを母が思い出したのです。それで人相が関係しているのかと思いまして」

「そうですか、二人の写真はありますか?」


 進は写真をカバンから取り出して涼介に手渡し言った。


「見て下さい、似ているでしょう」

「……ええ、確かに。ちょっと手相も見てみましょう」


 進は右手を差し出した。


「運命線に横線が入っていますね、トラブルがあるかもしれません」

「やはり、そうだったんだ。僕も同じ人相だから、二十九歳になったら気が触れてしまうのだ」

「どうしたのです?」

「二人を見て下さい、同じです。そして僕も同じ鷲鼻(わしばな)です」

「鷲鼻?」

「はい、二人の似ているところは鼻だけです。鷲鼻が原因なのでしょう」

「滝田さん、鷲鼻の人は精力的に働き財を成すと言われています。思い出して下さい、二人が当主の時に安西家は栄えましたよね」

「……はい、じゃあ鷲鼻が原因じゃないのなら何がいけないのです? 鼻のほかに似ている所はありません」

「目ですよ」

「目? 二人の目は似ていません、曾祖父の目は大きいですし高祖父の目は細く切れ長です」

「目の形はそうですが、よく見て下さい」

「……あっ」

「気付きましたね」

「黒目が小さい」

四白眼(よんぱくがん)と言います。黒目の周り左右上下の白目が(あら)わになっている状態です。白目の中にポツンと黒目がある様に見える為、黒目が小さく見えます。四白眼は残忍性を持つことがあり悪い人相だと言われています」

「四白眼……僕は? 僕は四白眼じゃないですよね?」

「ええ、違います」

「二十九歳になっても気が触れたりしないですよね?」

「ええ、大丈夫です」

「ああ、良かった、本当に良かった。実は交際している女性がいて結婚を考えていて……これで安心してプロポーズが出来る」

「……」


 占い師、世良涼介は無言だった。


「あの……世良さん? 何か問題でも?」

「貴方にこれを言うのは心苦しいですが僕の仕事だから言わなければなりません。運命線を(さえぎ)る様に横線が入っていましたね」

「ええ……」

「結婚し子宝に恵まれ、生まれた子が男の子だったら……その子が四白眼である可能性はあるという事です」



最期までお読みいただきありがとうございました。

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