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依頼

「ということでベルナール本人を連れてきちゃいました」

「…………」

「初めましてお美しいサメのお嬢さん。本日付けで貴方様のパーティーへ加入させていただくことになりましたベルナール・コンセンサスと申します。好きなものは魂の美しい人、嫌いなものは魂の美しくない人です。以後、お見知りおきを」

「オイ。決めるのは今日夜帰ってからだって言ったよなヒイロ」

「…………すんません。でもなんかこの人何言ってもついてきちゃって」


 太陽も沈み切った頃、俺は今、メリヌの宿の部屋の中で縮こまるように正座をしながら座っている最中だ。

 あの後、何を言っても引かなかったベルナールを引きはがすことが出来ず、結局面倒くさくなってここまで連れてきてしまった。とりあえず三人目は探していたし、今日の夜決めるといっても結果はほぼ決まっていたようなものだし、そこまで怒られないかなと思っていたんだが……。


 ちなみに、何故こんな夜中になるまで帰ってくるのが遅くなったかというと、ゴミで汚れた鎧を綺麗に拭くのにかなり時間が掛かったからだ。


「まぁまぁ、サメのお嬢さん。そんなに眉間にしわを寄せないでください。ヒイロさんも怖がってしまっていますよ」

「誰のせいだと思ってんだ! ったく、一人で勝手に決めやがってハァ!」

「ホントすんません」

「謝らないでくださいヒイロさん。貴方は心優しい、穢れなき魂の持ち主だったということ」

「今アンタが俺を庇うと火に油を注ぐだけだということは理解してほしいな!?」

「…………チッ。ま、正直断る理由はないがな。だけどよヒイロ、コイツ本当に信用できんのか?」


 メリヌが気にしているのは俺の事情についてだろう。

 バルコニーとはまた違う異世界からの出身者。そして特異な吟遊詩人のスキル。現状はメリヌぐらいしか知らないが、パーティーを組むとなるとベルナールにも伝えなければならない日も出てくるだろう。


「そこら辺は正直分からないけどさ、ほら、まずは仮だし。まだ心配することじゃないかなって」

「そうか、安心したぜ。てっきり私はもうコイツをパーティーに入れることに決めたのかと思ってたぜ」

「な、なんと! ワタシはまだ正式加入ではないのですか!?」

「悪いけどそこはちょっと我慢してほしい」


 ここは譲歩できないところだ。俺は別に正直な話誰が来てもそんなに変わらないなとは思っているんだが、メリヌは違うと思う。

 メリヌがしっかり信用出来て、ちゃんと仲間にしたいと思える人じゃないと遅かれ早かれ不和が生まれるはず。


「……ふむ、分かりました。もちろん、このワタシに何か意見を述べる資格はございません。すべて従いましょう。しかしッ!」


 ベルナールはふぁさり、と自分の絹のように細くきめ細やか金の髪を巻き上げ、決め台詞のようにこう続けた。


「ワタシは貴方様たちのこと一方的に! 本物の仲間であると思いますのでそちらの方お忘れなきよう。神に誓い! 貴方様方から万難を排し、必ずやその命を守ると宣言いたします!」

「…………正式採用ポイントマイナス二点」

「なぜッ!? お嬢さん!?」

「声が無駄にデケェーんだよ」

「くふぅ! そ、それは失礼いたしました――ぐ、おわぁ!?」


 綺麗にお辞儀をしようとしたベルナール。どこをどうすればそうなるのか、自分の足に躓いて体勢が傾き、凄まじい音とともに近くにあった椅子と一緒に床へ倒れる。あぁ、この音は椅子がもうバキボロに折れている音だ。

 そんなベルナールを、冷ややかな目でただ見下ろしていたメリヌ。


「い、今のはマイナス何点でしょうか?」

「五百点」

 これは取り返すのが難しいぞ。頑張れベルナール。


◇◇◇◇◇◇


「はい。こちらで仮申請は完了となります。ギルドカードの期限内であればテニトス冒険者ギルド仲介の依頼は勿論、テニトスが管理するダンジョンへの参加も可能になります。しかし仮申請で発行されたギルドカードは三日間しか持ちませんので気を付けてくださいね」


 冒険者ギルドでとりあえず俺たちはパーティーの仮申請を無事終わらせた。

 これで三日間だけはギルドが仲介する高額な依頼も受けられることが出来るようになる。その分危険は伴うが、俺とメリヌなら多分大丈夫だ。


 ギルドの依頼には二つのランク分けがあり、一つは『上の階層に行くほど依頼のランクが高い』というシステムだ。そのため現状最高報酬のものはギルドの三階に掲示されている。

 そしてもう一つは全ての依頼に設定されているポイントだ。これは数が大きいほど危険という意味だ。ただ、ポイントが高いから報酬が多いという単純なものではないこともあるらしい。


 また、このポイントは実績ポイントと呼ばれていて、これを一定数貯めてから不定期に発注される層登依頼と呼ばれる依頼をクリアすることで上の階層の依頼を請けられるようになるという。ちなみに、あのミステマは三階級冒険者だったらしく、シジ支部では最速昇格者としてのレコードがあると受付に聞かされた。


 ミステマを割と一方的にボコボコにした俺たちなんだが、それを言っても信じてもらえるわけもなく。今日のところ俺たちは一階掲示板の依頼しか受けることしかできない。


「いやぁ、それでも商会の方とは報酬金が全然違うな」

「そりゃ死ぬ危険性があるからな。高くもなるだろ」

「ええ、しかし誰も死ぬことはありません。どんな依頼を選ぼうとも! お二人は! 絶対にワタシが守り切ってみせます!」


 一人興奮しているベルナールはおいておいて。

 とりあえず俺とメリヌはじっくり依頼を吟味することにした。

 正直、稼ぎたい気持ちは大きい。ここでポイントの大きい依頼たちを優先でこなして、一気にお金を稼げるならそれがベスト。


 一階の中で報酬金が高そうな中でついたのはこんなところだ。


『トルテ川の化粧鰐の複数討伐/契約金銅貨五枚。報酬金銀貨六枚。ポイント六百』

『南ゴールの山リンゴの採集/契約金銅貨十枚。報酬金銀貨二枚。ポイント百五十』

『ビシガ村の三角外竜の討伐/契約金銅貨一枚。報酬金銀貨十二枚。ポイント六千』


 一番依頼料が高いのは三角外竜の討伐だけど、安易にこれを選ぶと流石に危なそうだ。というかこの世界って普通に竜とかいるんだな。まぁ魔物がいるんだし何でもありか。


「どうするメリヌ?」

「ま、私はとりあえずどれでもいいぜ。だけど三角外竜の依頼は流石にポイントと依頼料が釣り合ってなさすぎるとは思うな」

「ワタシもどの依頼でも問題ありませんよ!」

「それほど危険ってことだね。山リンゴは多分これ危険はないけどすっごく疲れる系か」

「再度の深刻になりますが! どの依頼でも問題ありません!」

「となると化粧鰐の討伐になりそうだな」

「ちょっと待って。でもポイント的にこっちの……」

「もちろん! どの依頼でも大賛成ですよ!!」

「反対ナシなんだったら静かにしてろボケ!!」

「……ぼ、ボケ?」


 今のはメリヌにボケられてもしょうがない。

 というか、本当にどうしよう。正直、俺も化粧鰐の討伐が安定だと思う。

 採取系の依頼の中では高額だとはいえ、山リンゴの依頼はちょっと報酬金が物足りない。


 三角外竜というのがどれぐらい危険か分からないけど、依頼の内容的にちょっと危ないところはありそうだ。だけど、だからこそこの依頼がちょっと気になる。


「少年。どうやら仮パーティーが組めたそうじゃないか」

「あ、クレアさん!」


 いつもの煙の匂いがすると思ったら、やっぱりクレアさんだった。

 ほぅ、と俺たちが見ていた依頼書を見てクレアさんは考えるように何度か頷く。


「化粧鰐は魔物の中でも害獣レベルだからそこまで危険はないけど、少し相場より低いわね」

「……ふーん、そうなのかよ」


 メリヌはいつも通りクレアさんに何故か人見知りを発揮して俺の後ろに回り込んでしまう。だけど今回は流石に意見が聞きたかったのか、俺の腕の影からひょっこりと顔を出す。


「この三つの中なら、山リンゴをオススメするね。発注かけているところがいつものジニーおじさんなら帰りに山リンゴを少し分けてくれるから、見た目よりも報酬金は高いはずよ」

「山リンゴはとても酸味が強いですが健康効果が高く、一日一つ食べるだけであらゆる病気の予防になると聞きます! 気になりますね!」


 ふんふん、と興奮するベルナール。健康オタクだったりするのかな。


「で、肝心の三角外竜だけど、これは辞めた方が良いわね。明らかに依頼金が釣り合ってない。そもそも報酬金が一階の上限近くあるのにこの時間まで残ってるってことは、他の冒険者も相手にしていないってこと」

「そんなに危険なんですか?」


「危険というか、そうかどうかも分からないが正解かな。三角外竜は魔物だけれど、空気に漂う魔力を吸って空に漂っているだけで、基本的に人間には手出しをしてこないんの。ビシガ村といえばその三角外竜と唯一交流が持てる村として、少し前に観光ブームになった記憶があるんだけれど。何か怒らせて人間を襲うようになってしまったのかもしれないね」


「……つうか、これだけポイント高いってことはやっぱ危険なんだろ? じゃあ二階に張り出すべきじゃねぇの?」

「うん。多分、本来はそうだろうね。でもテニトス冒険者ギルドも商売でやってるから、二階への掲示っていうのには条件があるの。主に金銭的なね」

「なるほど。つまりこの依頼主はそのお金が払えなかったと」


「ええ。でもある程度の危険度が高い依頼は時間がたつと上階に回される仕組みになっているから、いずれは誰か請けることになると思うわ」

「それは具体的にどれぐらいの時間ですか?」

「ギルドの規則は知らないけれど、私が見ていた中での最速は四日ね」

「…………遅いな」


 竜に襲われてる村が四日も持ちこたえられるんだろうか? 多分無理だと思う。


「じゃ、お姉さんは商会の方に用事があるから失礼するわね。頑張ってね少年」

「あ、はい。ありがとうございました!」


 ニコ、とクレアさんはこちらに笑顔を向けた後、メリヌとベルナールに軽く頭を下げた後、商会の受付側のカウンター方面へと消えていった。

 クレアさんの教えてくれた情報をもとに、どれを請けるか。


「これにしない?」


 ――俺が手に取ったのは、三角外竜の依頼書だった。


「……ま、なんとなくそれになりそうな気はしてたな。お前、また余計なこと考えてそれにしたんだろ」

「バレてた?」

「四日の内に村が滅んだら可哀想とか思ったのか、アホ」

「やはり! 貴方は高貴な魂の持ち主ですッ!! 見ず知らずの村のために危険に飛び込めるとは!」

「でもさ、これが明日も明後日も残ってたら結局俺、これ選んじゃうと思うんだよね」


 だってそうだろ? 今日山リンゴの採取に行くとして、みんなでくたくたになるまで採取して、帰りには山リンゴを少し貰って帰って、心地よい疲労感の中で寝る。そして次の朝、ギルドに行ったときまたこの依頼書を見てしまったら絶対に後悔する。


 あと少し、一日早く動いていたら。そうなってしまっては遅い気がするんだ。


「じゃ、さっさと準備しろ。行くぞ」

「え? いいの?」

「最初から私はなんでもいいって言ってたろ。一階にある依頼なんかに負ける気なんて一切しねぇしな」


 メリヌはぶっきらぼうで粗雑な物言いが多いけど、色々頭の中では考えていることが多い子だったりするから、多分これも俺が気にしないように言ってくれてるのかもしれない。


「ベルナールも大丈夫か? 結局これに決まりそうだけど」

「ええ! むしろワタシにお任せください。お二人のことはワタシが確実にお守りすると誓います!」


 ああそうか。ベルナールは俺のスキルとかメリヌの強さもよく分かってないのか。

 いや、もしかしたらあのコンセンサス家にいたんだから俺らより強くても全然おかしくない。噂ではベルナールは戦えないなんて噂もあって、そのせいでパーティーメンバーを見つけるの苦労したらしいし、事前情報だけで勝手に判断するのは辞めておこう。


 今日宿を出る前にメリヌと決めた取り決めは、とりあえずベルナールにはバフを使わない、だ。俺のスキルがバレて他の人に言いふらされるのを、メリヌは少し警戒しているらしい。


 まぁ、ベルナールがいなくても多分メリヌと俺だけでなんとかはなりそうだよな。あのミステマが三階級だったらしいし。


「ブハッ! 見ろよ。あの寄せ集めパーティーが命知らずな冒険を始めるらしいぜ」

「吟遊詩人に亜人。その次は腰砕けのビビりな坊ちゃん。オイお前! よくこんなスゲーパーティー組めたよな!」

「それにあのリーダーぶってる吟遊詩人、楽器を持っていないらしいぞ」

「オイ! ただでさえ使えねぇ吟遊詩人なクセに丸腰とかお笑いすぎるだろ! 何がしてぇんだ!」

「さっさと死んでこいよガキ! 地獄に行ったらミステマに挨拶よろしくな!」


 当然というか、俺が依頼書を取った瞬間、待ってましたと言わんばかりのテンションでヤジが飛び始めた。

 そりゃそうなるよね。俺が逆の立場だったら殴って止めるまであるかも。だって吟遊詩人なのに楽器持ってないって意味不明すぎるから。


 だからメリヌ。野次馬をそんな怖い目で睨みつけないであげてほしい。


「大丈夫です。ワタシは貴方たちを絶対に死なせませんから」


 そんなヤジの中、ベルナールはゆっくりと首を振り、考え直すように息を吐く。


「貴方たちはワタシが想像をしていたより、高貴な魂の持ち主だ。目がくらむほど美しい二つの魂は、もはやこの世界の宝と言えるでしょう。ですから、この尊い二つの輝きはワタシが命に代えてもお守りします」


 安心してください。とベルナールは拳を胸の前で握る。


「何故ならワタシはシールドタンク。何かを守ることには人一倍長けているのですから」


 そう言って一足先にギルドを出ていくベルナールの背中は、とても頼もしく見えた。

 頼もしく見えたんだが……。


「あらら。これはしばらく動けませんね」

「ず、ずみばぜん。足を引っ張ってじまい……」


 送迎馬車でビシカ村へ向かう道中。行く手を阻んだ澱み蜂という大型犬ほどの大きさを持った蜂の魔物が現れた。見た目は怖いが、戦闘力はゴブリンの半分ぐらいしかないらしい。


 そんな魔物を見て我先に「ワタシがお守りします!」と飛び出していったベルナールは――普通に負けた。


 振り回した楯は一撃も当たらず、後ろに回り込まれ首筋をブスリ。

「コイツ今からでも送り返した方がよくねぇか?」

「……ど、どうしよっか」


 ぴくぴく、と狭い馬車の中、潰れたカエルのような姿で痙攣するベルナールを見て一番心配そうに溜息を吐いていたのは、馬車を運転してくれる冒険者ギルド所属のお姉さんだった。 

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