仲間募集中
「ということで、お金が貯まったらちょっとオルバーの中央都市にでも行ってみない?」
「どういうわけでだよ?」
メリヌは酒場の看板メニューの一つである肉と野菜のカエリェーン(多分ポトフ的な意味?)の温スープを飲みながら、首を傾げる。
あれから二日。俺たちは色々な商会経由の依頼をこなしながら着実のお金を貯めていた。
そこで俺が提案したのはちょっとした遠征だ。
メリヌ的にはもう少し都会に出て人が多いところで人探しをした方が効率がいいだろうし、俺も王立図書館とやら行って調べてみたいことが貯まってる。
演奏スキル。この法則をもう少し解き明かしていけばもっと自由にバフを組み立てられる気がするんだよな。そして演奏次第でこんなに自由に幅が出せるはずの吟遊詩人が『不人気ジョブ』になっているのは、ダンジョンに潜るのが不適格だったりする以上にもっと理由があるはずだ。
それにまだ俺は何となくでしか演奏のスキルを使えていない。メリヌのように自分の中の魔力を理解してスキルを発動しているわけじゃなくて、何となくできそうだからという感覚でしかやってない。
このまま演奏スキルが何となくで使い続けられるならいいけど、いつか感覚を見失ったときにスキルが使えなくなるのは困る。そのためにも色々知っておく必要はある。
というか、スキルをコントロールできるようにならないと普通に人を殺す可能性が高い。それはまずい。
「遠出するにしても今のままの稼ぎ方だとかなり時間かかるぞ? 分かってんのか?」
「だよねぇ。でもそうなってくると……」
やっぱり、冒険者ギルドで高額な依頼を請けたい。
「なんだよ。私の顔に何かついてんのか?」
「メリヌ……新しい人増えてもホントに大丈夫?」
「ハ、ハァ!?」
これは重要な問題だ。パーティーを組むならどうしてもあと一人メンバーが必要だ。
俺は別にそこまで気にしないが、どう考えてもメリヌは人に慣れてない。未だにギルド酒場で近くに人が座ると席を変えて俺の隣に座ってくるし、街の外でも俺以外と喋ってるのは宿屋の従業員とミートス屋のおじちゃんしかいない。
「だ、ダダダダ大丈夫に決まってんだろ。おこちゃま扱いすんなよな!?」
「おーい手が震えすぎてスープこぼれそうだぞー」
「大丈夫だ。大丈夫だっての!」
とてもそうは見えないんだが……ハァ。でもこのまま二人でいるわけにもいかないし、ここは思い切って前に進んでみよう。
「ほら、とりあえず募集掲示板を見ようよ。今日なら俺たちでも組んでくれそうな人がいるかもしれないし」
ギルド一階には大きく分けて三つの掲示板がある。
入口付近に設けられた大きなスペースにある『テニトス冒険者ギルド仲介依頼』の掲示板。
階段付近にひっそりと張られた『テニトス商会ギルト仲介依頼』の掲示板。
そして最後。受付をぐるっと取り囲むカウンターの周りに立てかけられた沢山のコルクボード。ここは他ギルドやパーティメンバー募集を募る掲示板になっている。しかもここは掲載料無料で、申請が通ればだれでも掲示できるらしい。
なんと冒険者の九割がここを見て声を掛け、パーティー結成に至るんだという。クレアさん情報だ。
「お、新規冒険者でジョブは弓術師……歳は十七歳。一人旅の経験アリ。将来はダンジョン攻略志望だって。この人とかいいんじゃない?」
「………………十七……女……経験豊富……こいつはダメだな」
「ええ!? この人でもダメなのか!?」
良さげな人を見つけても、メリヌは聞こえないほど小さい独り言をぶつぶつ言って考えた後、大抵の場合は『ダメだ』と一言。
……多分だけど、ミステマの一件がメリヌの心に深いトラウマを残しているんじゃないかと思う。
メリヌは確実にここを使ってミステマたちと知り合い、パーティーを組んだはずだ。その結果、盛大に騙されたわけだから色々警戒してしまうのは分かる。
でも俺たちは選り好みできるほどの経験も評判もないんだよなぁ。俺はミステマに喧嘩を売ったことは割とここら辺の冒険者には評価されてるっぽいけど、事の顛末は伝わってないから結局勝てなかった勢いだけの子供だと思われてるし、メリヌは亜人ということで避けられる節がある。
その上メリヌがこんな感じじゃ一生かかってもパーティー結成なんてできないと思うんだが。
「えっとじゃあこの人はどう? 十九歳で……男の人。ジョブはシールドタンク! 元……大貴族? あれこの人大丈夫な人? ――体力には自信アリ。このワタシに全てお任せください……」
「…………ちょっと待て。こいつぁ」
メリヌが小さく書いてあった備考『分け前は通常の半額まで譲歩可能! そこの穢れなき高貴な魂をお持ちのあなた! いつでも誰でもお声がけを』――の下に書いてあったさらに小さな文字を指差す。
『ベルナール・コンセンサス』
コンセンサス……どこかで聞いたことあるような……無いような……。
「驚きだよな。あのコンセンサス家の長男がこっちまで来るなんて。ってことは噂は本当だったってことだな」
「……ヒイロ。誰だこいつ?」
「俺の名前はスコットだ。冒険者歴は三年目。とりあえず怪しいもんじゃねぇから亜人の嬢ちゃんは人の影に隠れて睨みつけてくるのをやめてくれ」
スコットはあまり実用的ではなさそうなオシャレを重視した皮装備を身に着けていて、口調や風貌からは少し軽めの印象を受ける男だ。確かギルドの酒場で何回か顔を見たことあるな。
「俺は他のヤツみてぇに亜人だからってなんとも思わねぇーよ? 俺を動かすのはカネ、カネだけだ」
「ってことはこのベルナールって人から貴方はお金の匂いがするってことですか?」
「ほう、お前さん鋭いな。ミステマに喧嘩を売る度胸だけじゃなくて頭もキレるのか」
なんだか上機嫌なスコットは、目に少しかかった前髪をいじりながらこのベルナールという男について語り始めた。
「このベルナールってやつは間違いなくあの四大勢力コンセンサス家の長男本人だ。噂じゃ弟との跡目争いに負けて家を追い出されたんだと。今じゃ一族に伝わるあの"黒鎧"は弟が使ってるらしい」
「黒鎧……あぁ、もしかしてアレが」
出会いの森で開きかけた門。あれを壊したときに見た黒鎧の男の人がもしかすると弟さんだったのかもしれない。
「んでよ、ここからが本題だ。もうオルバー全体にはベルナールが追放されたことは広まってる。それに噂じゃ剣も怖くて握れねぇから剣士じゃなくてシールドタンクをやってるらしいぞ、なんて不名誉な情報もセットでな。ってことはつまり、この街に来た今、コイツはお前たちと似た者同士ってことだ」
「どういうことですか?」
「分かるだろ。噂のせいで誰もパーティーを組んでくれなかったんだよ。そのせいで家の領地からは遠いこの街まで流れ着くことになったってことだ」
つまり、この人が『いつでも誰でもお声がけを』と書いていたことに嘘偽りはないということか。
「もしかしたら、アンタらみたいなお騒がせコンビでも快くパーティー申請を受けてくれるかもしれねぇぜ」
「だってよメリヌ。どうする? とりあえずさ、一回仮で組んでみてっていうのもいいんじゃない?」
「………………ま、仮……なら別にいいけどよぉ」
「おうおう、良いじゃねぇか。それなら早く声を掛けた方が良いな。アイツは昔の誰かさんみたいに片っ端から冒険者に声かけてるみてぇだからな。物好きに見つかっちまったら先を越されるかもしれねぇぞ」
「おい。その誰かさんって、どこの誰のこと言ってんだよ」
さぁな、とスコットは笑いながら肩をすくめる。
「ところでスコットさん。お金の匂いがするって言ってましたけど、結局どういうことですか? このままだとお金を稼げるのは俺たちだけだと思うですけど」
「ああ、それなら心配ない。俺はもう稼いだ後だ」
ニカッ、と笑みを浮かべたスコットは指の間に挟んだ数枚の銅貨をちらつかせる。
「ギルドも邪魔なんだとよ。いくら無料だからといっても、貴族の坊ちゃんをからかうために毎日パーティーが組まれてはその人の夜に解消されて。手続きも掲示物の張り替えも魔法の羽ペンが行うわけじゃねぇだろ? 時間と空間ってのは有効に使わねぇと」
なるほど。スコットの笑みはその奥にいたギルド職員に向けられていたのか。
パーティー募集掲載の枠にずっと居座る迷惑冒険者とはぐれ者の二人をくっつけてお払い箱にしてしまおうと。そういう魂胆? まぁそこまで悪意があるかは分からないけど。
でもまぁ、こっちは三人目が決まるならこっちだって万々歳だ。
詳細は夜に決めようと、そろそろ店の手伝いの時間が近くなったメリヌとギルドから手間賃を貰い俺たちにコンセンサス家の長男を押し付け……ごほん。情報を教えてくれたスコットとはここで別れることにした。
本当はメリヌみたいにお手伝いやらバイトをした方がお金はたまるんだが、俺の場合はそうもいかない。
「よし、ここら辺の路地なら人は少なそうだし」
ごほん。まずは基本のバスドラムから。フリースタイルで刻んでいこう。
俺が開いている時間にやっているのは基本的に練習だ。ボイパは殆ど口の筋肉とマッスルメモリーの発達で成り立つから、普段からやってないとすぐに下手になる。
実は何度か試しているうちに気づいたんだが、できなくなってる技が幾つもある。パッシュレーザー、ラリックホイッスル……転生して口の形が変わったから一から覚え直しなものも多い。
調子がいいときはビートを組んで新しいバフが出せないかとかも試してるんだけど、今のところ成果ゼロだ。
「笛系はもう口笛しかまともにできないのが辛いなぁ。元々音楽知識なんてほぼないからメロディアスな構築なんてできなかったけど――」
「おお間違いない! 貴方は穢れなき乙女のような純白な心を持っておいでだ! ぜひ、ワタシもその慈悲に与らせていただきたい!」
「にゃぁ~」
「そんなことを言わずに一度! 一度で良いのです!」
……見間違いか?
俺の目が確かなら今、背中に純白の大楯を掛け、それと同じ色の鎧を着た金髪の碧眼男がゴミ廃棄用の陶器の上で寝ていた猫へ髪が地面に付くほど深く跪いているように見えたんだが。
「にゃ~!」
「そんな……どうかお恵みを。その食べ残しの魚を――っと、しまったっ!? 申し訳ございません!」
ごじゃん。逃げた猫を追いかけようとした騎士が陶器をひっくり返して、生ごみの上にダイビング。持ち主が慌てて家から出てきたのを見て、半泣きになりながら土下座。
人のことを言える立場じゃないけど、とんでもないどんくささだなぁ。
「……そこのお方。ええ、ワタシを見ている貴方です。その綺麗な瞳、よほど高貴な魂を持っているとお見受けしました」
「え、俺?」
「はい! 貴方以外におりませんとも――あ、すみません。この弁償は必ず……」
貴方以外にいない。と言いながら、横で激怒しているおばさんにペコペコと頭を下げる騎士。あ、また土下座した。
「こほん。ええ、貴方とワタシ、ここで出会ったのも何かの運命でしょう!」
「とりあえず土下座が終わってから話をつづけた方が良いと思うけど……」
「いえ、その必要はありません。何故なら! このワタシ『ベルナール・コンセンサス』は今、貴方の魂へ一生の忠誠を誓ったのですから!」
……今、なんて言った?
「もしかして、貴方が噂の長男さん?」
「その節は大変申し訳ありません。世間を騒がせてしまい、深く反省しております」
ニコ、と男が笑みを浮かべると同時、頭についていた果物の皮が地面へと落ちる。
もしかして、俺たちはとんでもない人をパーティーに引き入れようとしていたのかもしれない。
「その高貴な魂を一番近くでお守りさせていただきたい! 是非とも貴方様のパーティーへワタシを加入させてはいただけないでしょうか!」
気づいたところでもう遅い。
あの目はもうとっくに俺のことをロックオンしている。




