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死骸掃除

「思ったよりも落ちてるね。魔物の死骸」

「そうだな……うし、これで四十。一回下ろしに帰るか?」

「いや、もう少し余裕あるしこれでこのまま行こう。重くなりすぎても肉体強化のバフを掛けて帰ればいいだけだし」


 俺たちは今、クレアさんに教えてもらった魔物の死骸回収の依頼の真っ最中だ。

 今オルバー地方は乾季と呼ばれる時期らしく、かなり過ごしやすい気候なはずなんだが今では俺もメリヌも汗びっちょりだ。


 荷車に魔物の死骸を放って、いっぱいになったら北門付近の回収人の人たちへ渡すだけという仕事がこんなに辛いとは思わなかった。普通に舐めてた。


「つーかよ、私らってこんなにゴブリン倒したか?」

「確かに。ミステマたちとかも戦ってたし、あの時にはほら、実は他の冒険者たちも来てたじゃん? その人たちが頑張ったんじゃない?」

「あー、あの騎士一族と魔女軍団も来てたんだったか」


 ギルド、というのは現在はテニトス冒険者ギルドがデカすぎてギルドという言葉が出るときはだいたいここを指すが、実はここ以外にもギルドは乱立している。ゲームの用語でよく聞くギルドとほぼ同じ感覚で、冒険者が集まった一団をそう呼ぶらしく、四大勢力と呼ばれるのもテニトス冒険者ギルド以外に影響力を持つ四つのギルドという意味らしい。


「四大勢力のコンセンサス家、パンプキン・ハット。あいつらが出張ってくるってことは、やっぱりあの門の事件は相当な危険度だったんだろうな」

「普通、四大勢力の人がここら辺に来るってことはないの?」

「シジなんて田舎も田舎だからな。ミステマがビビられてたの四大勢力の幹部ってだからだし、珍しいんじゃねぇか?」


 ということはここら辺に住んでたら再開しにくいのか。一応、あの時助けてもらったのは四大勢力の人たちらしいし、お礼を言っておきたかったんだけどな。

 もしかしたらクレアさんの言っていた中央都市に行けば会えるのだろうか。それに今後、メリヌの家族を探すとしたらここを動くことも考えておく必要があるし、図書館も気になる。中央都市か……。そこに行くにもお金は必要そうだな。


「ねぇメリヌ。俺が大道芸人として成功する確率はどれぐらいあると思う?」

「どうせあの『ぼいぱ』とかいうやつをやるつもりなんだろうが辞めておいたほいがいいぞ」

「え? まだお金とるレベルじゃないかな?」

「逆だよ。凄すぎて普通に引かれる。んで、呪術師か何かだと思われて連行される、まで見えてんだ。それにお前、吟遊詩人のスキルもコントロールできてねぇだろ。間違って演奏中に観客にバフ掛けたら大騒ぎになるぞ」

「えぇ~でも――アレ?」

「どした? なんかあったか」

 俺がとあるゴブリンの死骸の前で固まったのを見て、遠くで作業していたメリヌも手を止めて、駆け寄ってきた。

「……なんじゃこりゃ」


 メリヌも俺と同じ感想を抱いたようだ。

 なぜこのゴブリンの死骸に前で俺たちは揃って首を傾げているのか。それはこのゴブリンの死骸があまりにも綺麗すぎるからだ。


 さっきまでは切り傷があったり、殴打の跡があったり、血がダイナミックに噴出した後があった。けど、このゴブリンにはそういった派手な"マーク"はない。ただ首の跡に、まるで人間に絞められたような跡が残っているだけだ。


「ゴブリンにも痴情のもつれとかあるの?」

「お前な、魔物を何だと思ってんだ。そんなことあるか」

「じゃあ人間がやったとして……首絞めジョブ?」

「んなものない。けど、人間がゴブリン仕留めるときにしちゃ随分遠回りのやり方だな」


 そして、もっと不可解なのはこの首が絞められたゴブリンは一体ではないということだ。

 このゴブリンの死体を境界線として、なぜか一気にこういう特徴を持ったゴブリンの死体が現れ始めた。


 ……何かおかしくないか?


 おかしいといえば、もっとおかしいことがある。俺たちが倒したあの巨大なゴブリン。メリヌとあった日のものも合わせればかなりの数がいたはず。その死骸がまだ一匹も見当たらないのは――


「ヒイロッッ!!」

「うぉあ!?」


 突然、目の前に突き刺さった五本のナイフ。気づいたメリヌが引っ張ってくれなかったら今頃俺は串刺しになっていただろう。


「やるなお嬢ちゃん。流石は運動能力に優れた亜人と言ったところか」


 声は上から聞こえた。

 木の上に誰かいる。黒……いや、暗い緑色? 顔をターバンのようなもので覆い、全身をすっぽりと外套で覆っている、夜の闇に溶け込むことを前提とした身なりをし、隠しきれない男性的な筋肉はここからでも分かる。


「お前、何してるか分かってんだろうな。今の攻撃は冗談じゃ済まされねぇぞ」


 メリヌは俺の楯になるように前でて、男の方を睨む。


「ああ分かっているさ。俺は今、本気でソイツを殺そうとした。そして分かるな? 俺にはそれだけの技術と力がある。お前らのような商会の仕事しかできないガキよりも数段上の……な」

「つまり、何が言いてぇんだよ」

「全てを置いてここから去れ」

「ケッ。大層なこと言っときながら横取りがしてぇだけかよ。あー確かこの依頼は撤去数に応じて追加給金あったもんな」

「……何か勘違いしているな。俺は亜人のお嬢ちゃんに言ってるんじゃない。後ろのお前に言っているんだ。亜人(ソレ)と魔物の死骸を置いて、ここから消えろ」

 男はいつの間にか取り出したナイフを手に取って、威圧するように手の中でそれを回す。

「俺のジョブはスカウター。アサシンの心眼系統のスキルを極めたことで会得できる、他人の能力を見極めることが出来るは派生職だ。お前らのことは手に取るように分かる」


 派生職? 言い方的にジョブの方向性をさらに定めて進化させた専門職という見方でいいんだろうか。


「亜人の方はストライカー。まだ成人したててスキルをあまり取れていない。サメの亜人の特徴とストライカーのジョブには強い結びつきあって、経験が浅いといえど馬鹿にはできないが……俺の敵じゃない」


 そして、と男は俺の方を見てわずかに口角を上げる。


「もう一人は吟遊詩人……。フ、効果量と汎用性の少ないバフデバフは複数人いなければ脅威じゃない。そして楽器を持つ以上、本人に戦闘能力はないし、若い吟遊詩人なぞ、せいぜい一曲の演奏スキルしか覚えてないはずだ。しかも今のお前は楽器を持っていない。つまり。分かるな? お前は飛び方を知らない鳥どころか、鳥についばまれた虫の卵だということだ」


 なんとなく言いたいことは分かるけど、この人凄い回りくどいな。話が長い。


 メリヌも尾ひれを地面に何度もパタパタ叩きつけるし、かなりイライラしてそうだ。


「吟遊詩人の人間。あの一撃を見破った亜人に免じて命は助けてやる。だからさっさとここから消えろ。さもなくば、命はない」

「だってよ! どーするよヒイロ!! はやく決めろ!!」

「え!?」


 ちょっと待ってくれよ。俺はこの人より断然、言い回しが長ったらしくて面倒くさいことにイライラしてそうなメリヌの方が怖い。


「見逃してくれるってよ! アリガてぇなァ!!」

「でも、そうすると依頼は未達成。またタダ働きになっちゃうね。それは嫌かな」


 四十匹も集めたし追加給金もある程度出るはず。それに……俺が一番気になるのはこの男、聞き違いじゃなければ"メリヌもここに置いていけ"と言っていた。

 ……自分よりずいぶん年下趣味なのか、それとも何か別の目的があるのか分からないが、それは絶対に見過ごせない。


「せっかく拾った命を捨てるか、若いな。しかし私が若い頃でもそこまで自分の命の重さについて稀薄ではなかった。そこが俺とお前の唯一決定的な差でもあり、ここでお前がしても遅い後悔という名の人生の轍を振り返ることの原因でもある。つまり」

「つまり! お前はここで歯が二、三本抜ける!! だよなヒイロ」


 いやいや、ニ、三本で済むような手の骨の鳴らし方じゃないだろ。

 でも、ちょっとムカついたのは同じだ。亜人ソレだなんて言い方、見過ごせない。


「自分が何をしているのか分かっているのか? 力の差も理解できないほど幼くもないだろう」

「あぁ、悪い。回りくどくて伝わらなかったのならハッキリ言ってやるよ――ぶん殴るから覚悟しろ。人のパーティメンバーに手ェだしてすみませんで済むと思うなよ」

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