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二人の救い方

湊は何も思わなかったのだろうか、思い出の詰まった私たちの故郷を見て。成人式に出るため久しぶりに地元に帰ってきた。私は廃れていく故郷を見ている湊に「随分と静かな町になってしまったね」と声をかけた。「そうだね」となぜか微笑みながら湊は他にはなにも言わなかった。薄情な奴だと思った。私は思い出がなくなってしまうようでとてもつらい思いをしていたのに、、、ともう一度湊を見たらその目は何を見ているかわからなくて、でもただただ遠くを見つめていて悲しそうで懐かしむような何を見ているかはわからないけどその表情を見て私はなんだかとても愛おしく思ってしてしまった。さっきまで少し憎たらしかった湊のことを、何故だかわからないけれど。私と湊の故郷のこの町はいつしかシャッターだらけの街になってしまった。

中学生の時よく湊に会うためにこの町に来ていた。私の家は少し高い丘のようなところに住んでいたからよく自転車で町まで下りて行った。太陽が降りしきる林道を木漏れ日を浴びながら自転車を飛ばしすぎないように降りて行った。こんなに素敵な毎日を送っていたのに考えているのはいつも湊のことばかりだった。

途端に思い出した青春時代の煌めきが私にベールのように覆いかぶさったような気分になった。

初恋と呼ぶには生々しく、かといって大人の恋と呼ぶには少し若すぎたしあまりにも純粋すぎた。あの頃の悩みと痛みと葛藤とそれから湊のことを思い出した。みんな愛しくて切なくて淡かった、あの時私は自分のことを中学生でも子供でも大人でもないと思っていた、君を愛すために生まれてきた女だと思ってた、君もそうだったらいいなと思った。


すすり泣く声と卒業ソングがさも永遠の別れのように思えてくる。当事者でもないのにさめざめと泣いている同級生に少しだけ嫌気する。でも泣けない私が異常なのかと少し後ろめたくもある。今日は三月十五日第一南中学校の卒業式だ2年生の私は来年には私が卒業かと思うと感心する。また2年後には高校生で4年後にはもう大学生だそうすると自分がえらく大人になった気分になる。感慨深い気持ちになった私は会場を見渡した、三年生が泣いている私も来年には卒業かとまた思う、永遠に子供がいいなと思い始めるさっきまであんなに大人になった気分だと思っていたがどうやらそれは思い違いであったみたいだ、我ながら気分屋だと思う。でも確かに近い未来多くの人生の分岐点があるにもかかわらずこれまでの人生とこれからの人生どうも関連がつけられない、14年生きてきたがどうにもわからない、不安が募った一瞬であった。そう思った瞬間生徒会長の送辞が始まった。定型文だなと思ったその答辞となるとやはり定型文であった。眠たかった、答辞が終わりいよいよ退場の時間になった。不思議なことに今までつまらなかった式が退場の時間になると卒業生にお疲れ様でした!とかありがとうございました!とか言ってあげたくなった、不思議だ。そこからは帰りの会が始まり、三時間授業ということで早く終わりまっすぐ家に帰った。来年度あるクラス替えに思いをはせていた、友達と一緒がいいなと思ったそれ以外はだれでもよかった。そうしている間に春休みに入った二年生から三年生になる間の春休みはなぜか少し切なかった、たぶん来年には卒業だからだろう、「勉強頑張りたいな」なんて柄にもないことをつぶやいて寝た。


春休みが終わっていよいよクラス発表だ、友達とともに一緒がいいねなんてつぶやいていると私は二年生で仲良くなった人とことごとく離れた、苦手な人ばかりで戸惑いが大きく一日目はそれとなくクラスの人と話していたが馬が合わない人ばかりで絶望した、クラスにはイケメンも美女もいなければ凡人と性悪な奴ばかりいてコミュ障のような奴も2~3人いたのでもう最悪と親友に愚痴を漏らせば漏らすほど絶望は大きくなっていった。家に帰ってお風呂に入るとどうでもよくなったので普通に一人で生きてやろうと思った、そう簡単にはいかなかった2か月がたち私はすっかり病んでしまった、前のクラスでは当たり前のように仲の良い友人が4~5人いたのがふつうだったのが今はそうはいかないのだ。友達の定義には諸説ある中で私は、自分の好きな物は認め一緒にいると楽しかったり笑いあったりできるものが友達だと思う。だけどこのクラスにそんな人いないしで、まあ端的に言えばかまってほしいかった、誰でもいいから、愛してほしいと思った。自分の気持ちに素直になって友達を作り始めるというのはなぜかできなかった。プライドというのは実に邪魔くさいと思った。そんなこんなで毎日を過ごしていると逆に一人って自由で楽しいかもと思うようになっていたが、そうはいかずやはり私の心は毎日味気なかった。


そして6月の中旬ごろ転校生が来た、三年生のしかも夏休みに入る直前に転校とは変な家庭もあるものだと思って転校生の顔を見ると。彼はとてもきれいな顔をしていた。きれいだなーなんて見とれていたら自己紹介を始めた「大川湊ですよろしくおねがいします」きれいな声と顔でなんだか転校生というのもあってか彼はとても儚く見えた、席は私の隣だった「よろしくね」と声をかけられた「よろしく」とだけ答えたそしたら彼は微笑んできた本当に美しかった。「どこから来たの」と私は問いかけた「東京のほうから」

「ふーん」とあじけない返事と「なんできたの?」といった「なんで来たのっていうのはその気にくわないとかじゃなくて」と訂正した「わかっているよ、」とまたかれは微笑した「親が離婚したんだ」といったなんでもこたえるためこいつは何か聞いたら全部答えるんじゃないかと思った。「君の名前は?」

と聞かれた、「平瀬時美」と答えたそうかそうか君はそんなやつなんだなといった風の顔で数回うなずきながら「なるほどねー」といった「なにがなるほどなの?」と笑いながらきいたら「つまり君はそんなやつなのか」といったこれは面白いと思った。「時美はうまれてからずっとここに住んでいるの?」「そうだよ」「湊は今までずっと東京にいたの」「うん、そうだよ」「じゃあ時美、誕生日はいつ?」こいった会話を授業中小声でずっと話していた。とてつもなく楽しかった、なんて楽しい人なんだと思った。以外と湊はコミュ力があってそれでいて色気がある人だった、仲良くなりたいななんて思っていたけれど、そんなのは考えていたほうが無駄で、席が近いのもあってかいつの間にやらという感じで仲良くなっていた。湊は人たらしで普通にモテると気付いた、確か転校初日の一時間目が終わるや否や湊の席の周りには女子が群がり、少し嫉妬した。それでいて頭の回転が速く面白いことをいう人だったそんな彼と喋っていると心のひもがどんどんと緩んでいってそれは彼も同じで何でもかんでも話す仲になった、どんな人がタイプだとか気にくわない人はどんなだとか聞いているときに私はすっかりこの男にほだされてしまったと気づいた。湊のこと好きになっていた。初恋だった。話しているとわかる天性の人たらしとその憂い気な表情はどんな人でもとりこになってしまいそうだった。でもこの私の思いはしまっておくことにした賢明な判断とまではいかないが少々湊に嫌われる勇気というものが私にはなかった。それになんとなく出会ってすぐ告白するのは無理だし、自分から告白はできる限り避けたいので普通にやめた。


湊と出会って一か月。7月の中旬のとある日の2時間目理科の授業じっと湊のことを見つめてみた、きれいな顔立ちだなと思っていると湊がこちらに気づいた。「何見てんだ、もしや見とれていたのか」「そうだよ、君があまりにもきれいな眠たそうな顔してたから、先生にチクろうと思っていたのに、、残念で仕方ないわ」「くそ女」「だまれ腹黒」湊とは引き出しをたくさん持っている男だった。たまに私に対しても男子と話すように話しかけてくるものだから、それに乗って私も男のような喋り口調にしたりと小劇のようなやり取りをしたりするのが私たちの日常になった。楽しいな、こんなにも楽しい日常になるとは思いもよらなかった。湊はだんだんとこの町にもなじんでいったいつの間にか友達もたくさんできて、そして彼女もできて、、、、、どうしてなのかな湊、転校してきて一番そばにいてあげたのは私でしょ?どうしてどうしてどうして私を選ばなかったの?ありえない全く私だってアプローチするのをやめたわけじゃない。上目遣いで話してみたり流し目をやってみたりポニーテールをしてみたりスキンケア頑張ったりヘアケアを頑張ったり、コンタクトにしてみたりなるべくやさしそうにふるまってみたつもりなのにどうもうまくいかなかった。湊は2年生の後輩の女の子と付き合ったらしい、二年生の子愛紗というらしくて私よりも先に愛紗と湊は手をつないで私よりも先に愛紗と湊は一緒に帰ったらしい憎らしくてたまらなかった。私が間違ったのかな最悪、もう一度湊をみつめる「はぁ。」「だからどうしたの?時美おかしくない?」「いや、、なんでもなーい」「、、、、」この二人はいったいどこまで進んでいるんだろう、愛紗と湊が手をつないで帰ったという噂は先週のものだ。さらなる展開がもう行われているかもしれない、私の予想では湊はあまりこういう恋愛沙汰には分別がつかないタイプだと思うから下手したら絶対嫌だけどキスまでいっているかもしれない。、、、、、自分で考えて勝手に落ち込んだ、だってやすやすと予想がついたからだ。湊は転校してきた初日のころいきなり私の名前をきいて下の名前で呼び捨てにしたからだ、無駄に距離も近いし彼は私に惚れているのではと一時期錯覚した時もあったくらいだ、でもそんな奴ほど結構意外と恋愛経験が薄かったり寸止めのところで、できなかったりするのだ。きっとそうだ湊なんて所詮意気地なしだきっとそうだと願おう。でもわからないな湊は何を考えているのか、、、もしかしたらもうあとちょっとしたら愛紗に骨抜きにされて3年後くらいには学生結婚とかやりかねないかもと思ってもう一度湊の顔を見ておくことにしようと思いついた「、、、、、」やはりきれいな顔をしていた私はイケメンが大好きなんだなと思った。この人が結婚したらどんな感じになるんだろう、以外と家事とかできそうだな、育児との両立もできそう、そもそも私湊の結婚式があったとしても参列できんのかな、招待されなかったらどうしよう、たぶん東京の友達とかもいるからいけれなそうだよね、でもさすがに披露宴くらいは呼んでほしい、てかこの人結婚できんのかな、、愛紗とだって案外あっさり付き合ったりしていたしね、、女たらしとはまさにこのことか、なんだかイライラしてきて思わず心の中で女の敵め!とかってに頭の中で妄想を巡らせて湊を男軍総大将大川湊ととして仕立て上げ、私を女軍総大将平瀬時美の図を頭の中で描いた、総大将の私が叫ぶ「かかあ天下のこの世の中じゃあなたたち男軍なんて女軍の風上にも置けぬ!おとなしく降参しろ!」そこですかさず男軍総大将大川湊が反論する「なんだと!そのような侮辱まさにそのままお返ししてあげようではないか!」「知っているぞ!我ら男がいないと貴様らはそう可愛くなれないと!女子高の本当の姿を我らは知っている!所詮貴様らはそんなやつらだぁ!」「そうだそうだ!」と男軍が一斉に叫ぶ「っく!だがわれらも負けてはいない!貴様ら、、私たち女がいないとなにもできないではないか!男同士でする会話といえばエッチなことかラーメンの話ばかりではないか!そんなやつらに負けるわれらではないのだ!」「よく言ったぁーー!」と女軍の歓喜の声がこだまする、まさに源平合戦顔負けの図だった、我ながらあっぱれあっぱれといったところか、妄想の世界にふけりながらぼーっとしていると湊がしゃべりかけてきた「何ぼーっとしてんだ、もう授業終わったぞ」妄想の世界に入っていた私はおもわず「女の敵め!!」といってそのままトイレに直行して髪の毛を直して、ほんのりと色づくリップをつけてトイレから出た。すると湊が来た「おい時美なんか怒ってる?」「?なんで」「本当に恐ろしいなお前」「なんで!?」つくづく湊の考えが読めない不思議な奴だ全く、、やれやれといった風に教室に戻った。湊と話しているときは不思議と楽しくてまるで10年間連れ添った幼馴染のような気持ちになれた。でも多分この気持ちは一方的なもので、湊と話してみるとわかるが彼は自分の素性を知られたくないような感じで話をするのだ、まるでスパイのように、例えば私が「湊の好きな人は誰?」とか「湊の嫌いな人は誰?」という風な結構個人的な質問をするといつも湊は決まって「秘密」とだけ言って、それ以上答えようとはしないのだ。ミステリアスなことだなーなんて下に見ていると誰に対してもそうであったため、私は一種の湊の癖だと思うことにした。一方的な好意はとてもじゃないが居心地が悪いし罪悪感すら感じてくる、だからもしそれが癖だとしても、そうじゃないとしても目をつむることにした、だってもし私をがっかりさせないために湊が私に付き合っていたりしたらいやだったからだ。それに純粋に初めての感情だったからだ。誰かと喋っていてこんなにも私と喋っていて楽しそうな人をみていると心が満たされているような気分になった。じんわりとその優しさと喜びが薬のように私を依存させていくような感じで。他人の愛にしがみついているようで少し嫌だった。だからそのことに気づいた最初のころは湊と距離を置いてみようとした、そしたら湊は他の人と仲良くなってしまうと思った、だって湊は私がいなくても大丈夫だからだ。その瞬間体全体から拒否反応を示されているみたいな変な汗と焦燥感が襲い掛かった、だめだ湊を失ってしまったら私は誰と一緒に喜びと楽しさを分かち合えばいいの?だれが私のために喋りかけたりしてくれるの?湊はもう彼女もいるしこの学校では一人じゃない、私以外の友達だっているし、そしたらまた私は独りぼっち、湊を眺めてみることしかできない、だめ絶対に嫌だと思った。距離をとることはできなかった。そうして後日私の悩みやらなんやらを当然に知らない湊は普通の顔して「おはよ」って言ってきた。このことがどれ程嬉しかったか、どれほど私の心を満たしたのか、君には想像もつかないだろうな。

ご覧いただいた方、初めましてみかんの子供です。今回初めての執筆になりますので暖かい目で見ていただけると嬉しいです。結構私が読んだことのある小説、漫画などとかに影響されちゃっている部分あると思うのでご容赦ください。今回の話がいいなと思ってくださった人がおりましたら、どうか次のお話も楽しみにしていただいたら幸いです。

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