ポンコツ円縁眼鏡の幼馴染が爆乳美少女で〇〇上手の理想のヨメであることを、俺だけが知っている
こちらでは初投稿です。読んでいただけると幸いです。
ヤンデレな幼馴染が好きな方にどうぞ。
ジャンル別日間2位! 感謝です!
俺には幼馴染がいる。彼女の名前は『円 瑠璃』。
その名前が表す通り、彼女は常に瑠璃色のカラーレンズが入った大きな円縁眼鏡をしているような女の子だった。
曰く、彼女の見た目が悪い。「ブス」「醜女」「ガリ勉」とよくある悪口蔭口はだいたい言われていた。ちなみに、色付き眼鏡の理由は幼い頃から羞明で、要は陽の光に弱く保護するためという立派な理由があるが、周囲からすれば知ったことではなく侮辱される大きな要因となっていた。
曰く、人としての能力が備わっていない。
まず、見た目通り彼女は運動が出来ない。体育は絶望的。体育祭で彼女が登場すると皆がその競技の負けを覚悟した。
そして、見た目に反して勉強も出来ない。努力は認めるが、あれだけ勉強して平均点以下の成績はコスパ悪すぎだ。
更に、ポンコツと言われる由縁だが、ひたすら社会適合性がなかった。人見知り、緊張しい、すぐにコケる、迷子になる、エトセトラ・エトセトラ……。行動がワンテンポ遅れるので団体行動も苦手だ。
人は彼女のことを『ポンコツ』と呼んだ。
そして、俺はその『ポンコツ』の世話役を幼稚園の時から高校2年生になった今まで凡そ12年務めている、人読んで『ポンコツ悠馬』だ。これだけ聞くと俺がポンコツのように聞こえるが、これは「ポンコツ円を相手に出来る猛者は『流鏑馬 悠馬』しかいない」という長ったらしい称号を短くしたものだ。ただただ失礼な称号だった。
俺は幼馴染の瑠璃の世話をし続ける奇特な人間ポジで重宝されていた。それは教師の中でも同じで彼女の介添はだいたい俺にお鉢が回ってきた。健気に瑠璃のフォローをする俺に対する通知簿のコメントは、毎回『周回遅れの子のフォローもよくしてくれていて非常に助かります』だった。
人は俺に感謝する。人は俺を称える。人は俺に同情する。
しかし、俺は彼らに「いや、そんな大層なモノじゃないっすよ」とあっけらかんに返答していた。
というのも――
「瑠璃、テーブル拭き終わったけど次に何をしたらいい?」
「ありがとうございます♡ 悠くん、椅子に座って待っててもらっていいですか♡ 盛り付けが完成したらお料理をそちらに持っていきますね♡♡」
瑠璃はハキハキと目を輝かせて俺の質問に応えてくれた。
今、彼女は長く艷やかな濡羽色の髪を靡かせてテキパキと夕食の準備をしてくれていた。
一方、椅子に座って待つ間、俺の視線は瑠璃に釘付けだ。
彼女の偉大なる双乳はエプロンの薄布なんかでは隠しきれず妄想を豊かにする見事な曲線を描いていた。そして、彼女が動くたびに「ばるんばるん♡」と楽しげに踊って俺を誘う。
下半身だって負けていない。丈の長い学校指定のスカートでは隠された桃尻は丈が短いプリーツスカートと共にフリフリ動いてひっきりなしに思春期の俺を煽ってきた。
俺が彼女に目を奪われているうちに、煮込みハンバーグにコールスローサラダ、きのこたっぷりのコンソメスープ――見るだけで涎が落ちそうになる料理が俺の目の前に並んだ。
ちなみに、瑠璃の料理は見た目だけでなく実際に美味しい。長年食してきた俺の胃袋は完全に瑠璃に掴まれていた。
俺とダイニングテーブルを挟んで向かい合わせに瑠璃が座る。
そして、俺ががっつく様を嬉しそうに「そうですか~♡ 美味しいですか~♡ いつか私も美味しく食べられるちゃうんですかね~♡ くふふ♡♡」と奇妙な笑い声をあげて見てきた。
バカでかい色付き丸縁眼鏡は顔形のイメージすらも崩す。眼鏡を外した瑠璃は庇護欲を唆る美少女だった。瑠璃から満面の笑顔を向けられて、俺は顔を赤らめた。
照れ隠しに今日の学校での出来事を話すと、彼女は聞き上手にも嬉しそうに応えてくれた。俺は彼女の澄んだ声に魅了され彼女との会話で癒された。
そう――瑠璃は『ヨメ』として理想的な女性だった。
俺達の両親は共働きで不在が多かった。
そんな環境のせいもあり、幼少の頃より自身の家庭だけでなくお隣の我が家の食事や家事まで一手に引き受けてくれていた。家の中では俺が瑠璃に世話されていたのだ。
瑠璃の魅力を知る俺は当然のように彼女に好意を持った。
しかし、この好意を口に出すことはなかった。
彼女には好きな人がいる。そして、その相手は俺ではない。
彼女曰く、「身長が高い」「大人の余裕がある」「お洒落」と、俺とはかけ離れた人物像が出来上がった。
彼女の後をつけたところ、近所のドラッグストアにやってくるバイザーが候補としてあがった。
負け戦と分かりきった告白をして今の関係を壊したくなかった。
それに、幼馴染の瑠璃には幸せになってもらいたい。
彼女のことが好きだからこそ彼女の「好き」を成就させてやりたかった。
ということで、俺は彼女への未練を断ち切って新たな恋を求めようと考えていた。
※
「相変わらず美味しそうな弁当だな」
昼休みに瑠璃特製の弁当を開けたところ、友人の和敏から声をかけられた。
「弁当の方が小遣いが溜まるしな」
「ケチだねぇ」
「将来を考えた倹約家と言ってほしいね」
そうです。未だ見ぬカノジョとの交際費に使うのだ。ちなみに、アルバイトもしており軍資金はそれなりの額になっていた。
ちらりと同じクラスにいる瑠璃を見やると、窓際最前列の席で孤独に弁当を摘まんでいた。
「そういえば、この前、ポンコツちゃんのお弁当を見たんだけどさ」
「あぁ……」
瑠璃は小動物の様に食べるので、いつも小さな弁当を空にするのにかなりの時間を要していた。
あの食事量でどうやってあの爆乳を維持しているのかという疑問はさておき、和敏が瑠璃の弁当を目にしたことは何ら不思議ではないのだが……。
「悠馬と全く同じ中身なんだよな?」
「――っ! そ、そうなのか?」
「何回か確認したから間違いないね。いやぁ、驚いたね」
「そんな検証をするなど暇すぎるだろう……」
「暇人でごめんねぇww」
俺の嫌味も和敏には通じない。
「それにしても慄いたね。悠馬の世話焼き好きもここまで来たか、と」
「うん?」
「だって、悠馬が作ってるんだろう、お弁当。ポンコツちゃんにあんな家庭的なお弁当を作れるはずがないし。お隣さんだからと言ってそこまで世話を焼くとは、なんでも出来る器用貧乏も考えモノだね。いや、お婿にしたい男ナンバーワンかww」
「いや、そういうことではないんだが……」
どうやら和敏は俺が弁当を作っていると勘違いしているらしい。しかし、俺はこれを積極的に否定をしなかった。
というのも、積極的に彼女の魅力を喧伝することには抵抗感があったからだ。瑠璃の魅力は俺だけが知っていればいい。
ふと瑠璃を流し見ると、彼女が立ち上がる素振りを見せた。
あ、コケる――
「わりぃ」と和敏に一言かけて席を立った。
俺に気付かず、瑠璃は教室の入口へと迎い――案の定、教壇で躓いた。
このままでは彼女は地べたに滑り込むところ、俺は彼女を抱き寄せ間一髪でこれを阻止した。
瑠璃さん、白昼堂々と「んふぅっ♡」とか色っぽい声を出すんじゃありません。
「あっ、あっ、ありがとうございます! 悠くん、ありがとうございます!」
「いや、いいよ。相変わらず奇跡的なドンくささだな……痛いところはないか?」
「はい、はい! ありがとうございます! 悠くん、ありがとうございます!」
「わかったから、少し落ち着け……」
よほど焦ったのだろう。同じ言葉を繰り返す彼女が落ち着きを取り戻すまで、俺は彼女を抱きしめ役得とばかりにフローラルな香りと細い腰回りの気持ちよさを堪能した。
ちなみに、瑠璃の立派なお胸様は学校では矯正ブラをしていて成りを潜めている。俺が推奨したことで、瑠璃は遵守していた。
ただでさえ転びやすいのに、胸が邪魔で危ないというのが理由だ。しかし、瑠璃の爆乳は刺激が強すぎて良からぬ輩を寄せ付けてしまうことを恐れたのが本当の理由だった。
「よくコケると分かったな。流石は『ポンコツ悠馬』」
「言ってろ」
こうして俺はクラスからの賞賛を受けるのだが、俺は瑠璃と触れ合えたことに密かに喜びを感じていた。
※
その日の放課後、俺は緊張しながら校舎裏に赴いた。
午後の移動教室後、俺の机の中に一通のラブレターが入っていた。そして、俺はそのラブレターに従いこの校舎裏に一人来ていたのだった。
相手の目星はついている。隣のクラスの逸美 涼音さんだ。
黒髪の綺麗な美人さんで、楚々とした雰囲気とは反対に結構なお胸様をお持ちの女性だった。彼女はその美貌もあって学内で有名人だ。実は後ろ暗い噂もあるのだが、彼女へのやっかみが大半だと俺は思っていた。
隣のクラスと合同授業で行われる移動教室に彼女が一人遅れてやってきたことから、俺はラブレターの主が逸見さんだと当たりをつけていた。
約束の時間になると、予想通り逸見さんがやってきた。
彼女は出会い早々「来てくれてありがとう」と頭を下げた。
彼女の綺麗な髪が靡き、それだけで俺は彼女に魅了された。
「単刀直入に言うね。私、悠馬君のことが好きみたいなの。貴方のことをもっと知りたい……でも、貴方も私のことを知らないし、お互いを知るために『お試し恋人』から始めさせてもらえると嬉しいんだけど」
今まで瑠璃以外の女性との交流が乏しく、俺の女性知識は皆無だった。知っていることは瑠璃を基準にするべきではないということくらいだ。
なので、お互い知り合う所からの交際は俺としてもありがたかった。
「ありがとう。それじゃあ『お試し恋人』からよろしくお願いします」
「うん、ありがとう。よろしくね」
俺が手を差し出して頭を下げると、彼女はその手を握ってくれた。
柔らかで滑やかな手で近くに寄ってきた彼女はとてもいい香りがした。
その日からの俺の生活は華やかだった。
昼は涼音さんと学食を食べる様になり、瑠璃に今後の弁当作りは不要と伝えた。学食はしょっぱいく好きでなかったが、涼音さんと食べられると考えるとそれも美味しく感じられた。
また、涼音さんとの放課後デートもするようになった。意外とスキンシップが多めで瑠璃程ではないがその柔らかな感触が俺に得も言われぬ程の喜びを齎してくれた。
3日に一回位は彼女と外で食べるようになり、夕食も瑠璃のご飯を食べる機会が減った。彼女の料理を食べられないのは残念だが、それ以上に瑠璃が悲し気に見てくるのが俺の胸をざわつかせた。
しかし、これら全ては俺の恋路のためだ。我慢してくれ。
そして、瑠璃も自分の恋路に進むんだ。
俺は心の中で瑠璃を応援した。
※
その日、怪文書が俺の机の中に入っていた。
いわゆるラブレターなのだろうが……。
「うわっ、何だこれ?」
横から見た和敏も驚く……いや、慄くのも無理もない。
俺の素晴らしさが気持ち悪いほど認められており、末尾が赤黒いハートマークで締められていた。よく見ると指紋があり……
このハートは血判で構成されているのか?
普通に怖いんですけどっ!?
朝の瑠璃との会話を思い出す。
瑠璃が親指に絆創膏をしており心配して声をかけたところ、
「ちょっと切っちゃって……くふふ♡ 心配かけてごめんなさい♡」
彼女は何をやっているのだろうか。
「悠くん、最近忙しそうですね」
ある日の夕食時、瑠璃にこんなことを言われた。
「1人分だと作っても味気ないですし……」
これはお弁当のことも言われているのだろうか。
瑠璃は悲し気に見るだけでなく、ついに寂しさを口にした。
そして、無言で俺の腕に縋りついた。
「悠くん、お願いが……」
「なんだ?」
「ブラが……」
彼女はそう言うと、俺の右手に両手を添えて自身の胸にあてがった。
「ブラとおっぱいの位置が……自分じゃ上手く合わないので、悠くんお願いします……」
「瑠璃ぃ……」
厚いブラジャーの布越しでも伝わる温もりと柔らかさ。心地よさは控え目にいっても極上だった。
瑠璃の胸を赴くままに揉みしだきたい。彼女を押し倒して自分のモノにしたい。
しかし、俺は涼音さんとの関係を進めようとしているので、これを拒絶しなければならない。
瑠璃だって俺とそういう関係になろうとは思っていないはずだ。
俺はブラジャーのズレを手早く直してやると一言説教した。
「瑠璃、特に好きでもない男性に抱き付いてはダメだぞ。俺も、まだお試しだけどカノジョがいるんだ。誤解されたくない」
俺に説教されてションボリする様はわんこを想起させ可愛いことこの上ない。
いや、俺には涼音さんがいるのだ。
瑠璃を可哀そうと思う気持ちは彼女への未練だと頭を振って霧散させた。
※
その日、涼音さんとのデート中に思い切って聞いた。
「何で俺のことを好きになってくれたの?」
「えっ? そうね……優しいところ、世話好きな所かな? ほら、私って一人っ子だから甘えん坊の所があってね」
「世話好きというか……。でも、涼音さんが甘えん坊って意外だよ。しっかりしているし」
「そう? でも、悠馬くんといると落ち着く」
この時、俺は涼音さんのことが好きになっていた。そして、人生初めての勝負に出るべくポケットから小さな細長い箱を取り出した。
「これは? 開けても?」
「うん、開けて――涼音さんに貰ってほしい」
箱の中にはハート型のモチーフが設えられたネックレスだった。涼音さんとウィンドーショッピングをする中で彼女が流し目で何度も見ていたネックレスだった。
結構な額はする。それでも涼音さんのことを想い奮発して買ってしまった。
ネックレスを見た涼音さんは今までに見たことないほど嬉しそうな顔をした。
「これを選んでくれたのって……」
「うん。涼音さんが気にしていたなと思って。確かに可愛いよね」
「そんな、物欲しげに見てただなんて恥ずかしい……でも、すごく嬉しい! 大事にするね!」
こんなにも喜んでくれるだなんて俺も嬉しくなった。そして、そのまま今の気持ちを伝えることにした。
「涼音さん、君のことが好きなんだ。出来ればお試しではなく正式に付き合ってほしい」
喫茶店の中は静かで俺の緊張感を増幅させた。
本当は数瞬だったのだろうがひどく長く感じた。物語で似たような描写があるがあれは本当なんだな。
彼女の答えは満面の笑顔だった。
「喜んで」
この日の涼音さんとの別れ際、頬にキスをされた。
涼音さんと正式に付き合い始めて俺の生活は更に激変した。
まず、瑠璃に夕食を作ってもらうことはなくなった。デート以外のほぼ毎日を遅い時間までアルバイトに当てるようにしたからだ。
デートには思った以上にお金がかかる。涼音さんは高級な店を選ぶし、デートの度に高額なプレゼントをしたりもしていた。「デート代は男性持ち」とかカッコつけたことを今は後悔している。
それでも、彼女に甘えられる時間が幸せで、自分の努力が報われた気がしていた。
あと、怪文書の頻度が増えた。そして、嫉妬も露わに内容の不穏さが増した。
『騙されている』『涼音さんは複数の男性と付き合っている』『女性を胸の大きさだけで判断するんじゃない』『巨乳王手』といった――最後のは俺への悪口かどうかすら分からないが、それ以外だって酷い内容だ。そして、その場に居合わせたと思われるほど状況証拠がやたら事細かに書かれていた。
そんな在り来りなビッチがそうそう居るわけがなかろうに……。
但し、直近の怪文書の中で気になる末文があった。
『騙されて始まった恋もいいきっかけだったと言える日が来ることを』
要は、騙されて落ち込んだとしてもいい勉強になったと思えということだろうか。余計なお世話だといいたい。
しかし、意味深なその言葉が引っ掛かり俺の寝不足な頭を悩ませるのだった。
※
結局あの意味深な手紙は誰からだったのだろうか。
瑠璃かと思ったが想い人がいる彼女が嫉妬することは無く、こんな手の込んだ悪戯をする能力もないと被疑者から除外した。
そうすると涼音さんがやった?
彼女には彼氏の俺にも直接には話せない何か大きな悩みを抱えていて、こんな回りくどい怪文書を送ったのだろうか。
しかし、足りない情報の中では判断しようがないな。
俺はぼんやりとした頭の中、昼休憩のチャイムを聞いた。
視界の端には瑠璃がわたわたと教科書を片付ける光景が見えた。
あぁ、あれはまたズッコケるなぁ。
その予測通り、瑠璃は机の上の教科書類で盛大に雪崩を起こし、慌てて拾おうとして自席の椅子で足を引っ掛けた。
しかし、今日も瑠璃が床にダイブすることはない。事前に近寄った俺は倒れる直前に瑠璃を抱きかかえた。
「はぅんっ♡」
「だから、エッチな声を出さない」
「す、すいません。それに、あ、ありがとうございます。悠くん、ありがとうございます」
彼女はいつものように重ねてお礼を言った。
「やっぱり悠くんは優しいですね」
はにかむ様に笑う瑠璃は色付き眼鏡越しであってもやっぱり可愛かった。
いや、そ、それよりも……。
瑠璃はもう一度会釈をすると話はここまでだと打ち切った。
カノジョがいる相手にあまり親しげにするのも良くない。スクールカースト下位にいる彼女なりの処世術だった。
周囲から瑠璃に対する陰口がまた聞こえてくる。
「円さん、なんかガタイが良くなったよね」
「それ、太っただけじゃないの?」
「脱いだら凄い?」
「キモイの間違いだろう」
お前ら馬鹿だろう。彼女のお胸様は本当に凄いんだぞ。私服の瑠璃は駆ける度に「ばるんばるん♡」だ。
当然、彼女は脱いでも……いや、中学生になってからは俺も見たことないけれども。しかし、彼女は『理想のヨメ』だ。そんな彼女が脱いで凄くないわけがない。
俺は声を出して言いたかった。
本当の瑠璃は凄く可愛いんだ! と……。
そして気付いた。
瑠璃がいつもと違うことに。
彼女がその爆乳を隠すためにいつもしているサラシのような矯正用ブラをしていないことに。
「ごめん。わざとじゃないと言ってもよくなかったと思う」
「ううん。そんなことくらいで気にするほど私は狭量ではないわ」
俺は次に涼音さんと会ったとき、瑠璃との先程の一幕を自らの不純として詫びた。
しかし、涼音さんは大して気にした様子もなかった。
そして、逆に不安になった俺は「気にならない?」と彼女を追及してしまった。
「うぅん……気にならないかな。やっぱり女の子には優しくしなくちゃね。それは悠馬くんのいいところだから」
「そっか……」
がっかりする俺は独占欲が強すぎるのだろうか。
しかし、このことが俺の中で彼女へのしこりとなった。
※
3連休の初日、涼音さんとのデートの予定がキャンセルになってしまい、俺は暇を持て余してしまっていた。
夕方までリビングでボンヤリしていたところ、ひょっこり瑠璃が現れる。
今日の瑠璃のファッションはラベンダー色の丈の短いフレアスカートにフリルが設えられた白のブラウスと彼女の可愛らしさを際立たせる装いだった。シャツの裾をスカートの中に入れてハイウエストで合わせるなど、大きな胸を敢えて強調する男受けを狙った着こなしをしていた。
瑠璃は出かけていたのだろうか?
そして、誰と?
もやもやする自分を他所に、瑠璃はこちらの心配をしてきた。
「悠くん、ゆっくりしているようでよかったです! 最近忙しそうでお疲れのご様子だったから私も心配で……」
「カノジョにドタキャンされただけだけどな~」
「はっ! それは、大変申し訳ありませんでした!!」
瑠璃の発言に嫌味はない。瑠璃と久しぶりに気楽な言葉を交わして、俺はほっこりした。
そういえば彼女の恋も進展しているのだろうか?
いつもと変わらない様子だから進展していないのかもしれない。
「今日は夕ご飯を食べますよね?」
「そうだな。瑠璃の料理が恋しいよ」
「じゃあ、腕に縒りを掛けたいと思います!」
瑠璃は「ふんむ!」と拳を握りしめて見せる。
「あ、でもお米を切らしてて……すみませんが大通り向こうのお米屋さんまで買いに行ってもらえますか?」
「遠い所まで買いに行ってるんだな? 瑠璃じゃなくても大変だろう。今度から俺に言うんだぞ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
俺は瑠璃を蔑ろにしていた後ろめたさを誤魔化すように瑠璃の頭を撫でた。
彼女の髪は相変わらず絹の様に滑らかで手触りは最高だった。
瑠璃も目を細めて「くふふ♡ ありがとうございます♡ お礼は楽しみにしててください♡♡」と言うのだった。
俺は大通りの人混みの中を一人歩いていた。瑠璃は家で夕食の準備だ。
大通りは店のバリエーションが豊富だが、俺は大通りが好きではなかった。
瑠璃の世話をする中でトラップが多く、苦い経験を積んだ俺は自然と大通りを避けるようにしていた。
そして――
あぁ、やっぱり大通りは鬼門なんだな。
最初に思いついたことは自らの不運。次は疑問。最後に怒りと哀しみだった。
俺の向かう先にいわゆる致す場所――ラブホテルの前で我慢できずに盛っているカップルを見かけた。
そして、カップルの女性の方は、いつもの清楚なロング丈のワンピースとは違って、綺麗な太腿をバッチリと晒すフェイクレザーのタイトスカートに彼女の豊かな谷間を見せつけるオフショルダーのブラウス、明らかに男を誘うようなファッションに身を包んだ――涼音さんがいた。
こんなテンプレ要らねぇんだよっ!
その怨嗟を露わにし、俺は涼音さんたちカップルの前に立ち塞がった。
「何だぁ、お前はぁ」
男は俺を見るなり威圧してきた。そのチープさに思わず笑いそうになる。
男はいかにも金持ちのボンボンで見るからに軽薄な男だった。正直、それほどイケメンでもない。
見た目で負けたというより金払いで負けたのかな、俺。
「あぁ、流鏑馬くんどうしたのかな? 良い子は帰る時間よ。あはは♫」
涼音さんは謝ることなく悪びれずに、寧ろこちらを煽ってきた。
それだけで彼女にとって俺はカレシとして扱われてなかったこと、もう俺は切り捨てられた存在であることを理解した。
「逸見さん、俺も清楚な格好よりもスカートが短い今のファッションの方が唆るので、今後のお相手はそれでお願いします」
俺は涼音さんに一礼し彼女の次の言葉を待たずその場を立ち去った。
何も言わせなかったのが俺のちっぽけな矜持だった。
※
俺はいつの間にか自宅近くの公園のベンチに佇んでいた。
涼音さんのことを初めから好きではなかったのだとマインドセットを試みるも上手くいかず、逆に、涼音さんのことが好きだったと改めて気付かされ、俺はまた傷付いた。
俺は「童貞ハンター、スゲーなぁ」と涼音さんの誑しテクに感心し涙した。
「早かったですね。さすがは悠くんです。いいお米は買えましたか?」
不意に瑠璃が声をかけてきた。
日が暮れて、瑠璃はいつもの瑠璃色眼鏡を外し可愛さ全開だった。
いつもだったら迎えに来ないだろうに何で来たんだ?
そもそもいいお米ってなんだ?
それにしても夏なのに今日は凄く冷えるな……。
「悠くん、震えてる……。すいません、嫌かもしれないですけれど……」
ふわりと温かな心地、柔らかな感覚、そして甘い香り――俺は瑠璃に抱きしめられていた。
「嫌かもしれないですけれど、私達の家にいきましょう」
だから嫌じゃない。
俺はぼろぼろと泣きながら瑠璃に引っ張られていった。
「そうですか……」
俺は案内されるままに彼女の部屋に入り、今は彼女のベッドに横並びで座っていた。
そして、俺は涼音さんの裏切りを吐き出すように瑠璃に伝えた。彼女への愛情とともに。
瑠璃は肯定も否定もなく聞くのみだった。彼女は俺を抱きしめて癒やすことだけを考えてくれていた。
俺は二番目に愛した女性すら儘ならない自分を恥じた。
人はいつだって妥協して生きている。恋路だって妥協するつもりだったんだ。
「二番目……ですか……」
どうか一番は聞かないでほしい。
その想いが通じてか「一番に好きな人は私からは聞きません」と瑠璃は宣言してくれた。
「その代わり、悠くんをたくさんたくさん癒させてください。日頃の恩を返させてください!」
「むんず」と拳を握り力む瑠璃が可愛らしい。
涙で目を赤らめた俺も思わず笑ってしまった。
「その前にいくつか質問です。全問正解すれば、なんと! 瑠璃秘伝、一発で気分晴れやかになる慰め方法をご教示致しますよ。今貴方の一番傍にいるのは誰ですか?」
「瑠璃だ」
瑠璃は早速に質問を開始してしまい、俺もまた苦笑いを浮かべながらも素直に答えた。
「正解です。では、今貴方を一番心配しているのは?」
俺の失恋を知るのは瑠璃と涼音さんだけだ。
そして、心配してくれるのは瑠璃しかいない。
「瑠璃だ」
「正解です。では……」
瑠璃に質問をされ俺が答えるラリーが続いた。
「いつも一緒にいたのは?」「悠くんのが知る中で一番おっぱいが大きい女性は?」「今までで一番笑顔を見た女性は?」「一番放っておけない女性は?」等々――どうでもいい質問から俺の想いをうっかり暴いてしまうような確信の質問まで、全ての答えが『瑠璃』だった。
そう、全部瑠璃なのだ。
「では、次の質問いきますね」
「あぁ……」
「一番……今一番、あなたにキスしたそうにしているのは?」
「――っ!」
瑠璃の表情を見ると、とろりと溶けそうな蠱惑的な笑顔を見せていた。
こんな妖艶な彼女を見たことがなかった。
「瑠璃?」
「……正解です♡」
「――っ!?
次の瞬間、俺は瑠璃に抱きしめられご褒美とばかりに口づけをされていた。
「んっ♡」
キスの瞬間、瑠璃は感極まった様に甘い声を漏らした。
長くも短くもない優しい愛おしいキス――
彼女の愛情を証明するかのような甘い甘い吐息が俺の咥内に流れ込んだ。
ちなみに、俺も瑠璃もこれがファーストキスではない。小学卒業時にお礼と称して瑠璃にキスされたことがある。
この時既に、俺は瑠璃に恋していたのだろう。
そして、瑠璃への積年の想いが邪魔をして本当の意味で涼音さんを見ていなかったのかもしれない。結果、俺は涼音さんの裏切りのサインを見逃したのだ。
瑠璃は首抱きする腕に力を込めて俺の顔を自身の豊満な胸に埋めた。
瑠璃のことしか考えさせなくする様な甘美な薫りが鼻腔を満たした。
「では、最後の質問をしますね♡」
瑠璃はじっとじっと、俺を見る。俺に少しの疑問も挟ませないような澄んだ瞳を見せつけた。
――世界で一番貴方を愛しているのは誰でしょう♡♡
「瑠璃だ」
「よく言えました♡♡」
瑠璃は熱に浮かされたかの様に瞳をとろんとさせ顔を真っ赤にしていた。彼女の大きな双乳は呼吸に合わせて上下し、短いスカートから覗く瑠璃の白い太腿が実に艶めかしかった。
「悠くん、すごいです♡ 改めて思うのですが、悠くんのってこんなに大きいんですね♡♡」
そして、俺の猛りは瑠璃にあっさり見破られてしまった。
「普段から大きいわけじゃなくて瑠璃がエロ可愛いから……というか、変なことを言わせるんじゃありません。あと、そんなに凝視して見ない」
俺の下半身を瑠璃に食い入る様に見られ赤面しながら窘めた。
彼女は「は~い、ごめんなさい♡」と生返事で、視線を離す代わりに手を重ねてきた。
「しかし、気持ち悪いだろう? 先程まで女性に騙されたと女々しく泣いていた奴が今度は優しくしてくれた女性に猿のようにその女性に媚びるなんて」
「私は可愛いと思いますよ。悠くんが異性として私を見てくれることに嬉しさしかありません」
瑠璃は俺の全てを肯定してくれた。
瑠璃は優しい。瑠璃は可愛い。
だから、瑠璃へのしこりがあった。
「瑠璃は好きな人がいないのか?」
そうだ。俺は瑠璃の中で二番目なはずなのだ。
「(小首を傾げて)うん? 好きな人ですか? 気になりますか?」
「気になる。好きな人に俺との密事を疑われたら嫌だろう?」
「密事ですか? くふふ♡ 大丈夫です♡ 今日は悠くんを癒やす日ですから♡ 遠慮なく癒やされてください♡♡」
「いや、瑠璃のことが好きだから、前から好きだったから、瑠璃の好きも応援したくて……」
だから、俺は自分の初恋を諦めた。
しかし、口に出す言葉とは裏腹に、今は瑠璃に「いい」と言ってほしかった。「好きな人が変わった」と言ってほしかった。諦めて瑠璃が二番目の俺を優先してほしかった。
しかし、瑠璃は「くふふ♡」と気持ち悪い笑い声をあげニヤニヤと俺の顔を見上げてくるばかりだった。
「悠くん、私のことが好きだったんですか?」
「好きだった。今はもっと好きになった」
「それは愛情ですか? 言質を頂いたと考えても?」
「なんとでも言え!」
今、自ら一番好きな人が瑠璃だと暴露してしまった。
自暴自棄に瑠璃に八つ当たりしたが、瑠璃は相変わらず「くふふ♡」と奇妙な笑い声をあげていた。
そして、更に挑戦的な態度を取るようにベッドの上で膝立ちになって俺よりも目線を上げると、豊かな胸を感じ取れる様に俺に抱き着いてきた。
「そうですか~♡ 私のことをそんなにも好いてくれてるんですね♡ でも、言葉だけでは証明できませんよ? 仮想私の一番好きな人には勝てませんよ? 証明する事実が何もありませんから♡」
「……事実は、作ればいいんだろう?」
「既成事実……ですか? それは恋人同士が愛し合う時にすることをしたいということですか?」
瑠璃は「くふふ♡」と嗤って煽ってくる。
俺が瑠璃を襲う根性がないと思っているのか?
馬鹿にしやがってっ!
「そうだ! 瑠璃が一番好きなんだ! 俺は瑠璃とエッチがしたいんだ! いつだって瑠璃とエッチをしたいと思ってたんだ! こんなにも可愛くて色っぽくて! ずっと我慢してたんだ!」
「胸が小さい女の子の方が好きなのでは? だから私に矯正ブラをするよう勧めてくれたのでは?」
「大きい方が大好きだ! 瑠璃の大きなおっぱいが大好きだ! 瑠璃の大きくて可愛いおっぱいを独占したかったんだ!」
「お尻への視線もいつも感じますね♡ くふふ♡」
「そうだ! 瑠璃のぷりぷりお尻だって大好きだ! 瑠璃が料理してくれてる時、いつも視線は瑠璃のおっぱいとお尻ばかり見てたんだ!」
「そうですか♡」
「そうだ! どうだ! 猿だろう!」
「お猿さんですねぇ♡」
「そうだ! 男は好きな女の子の前では猿になるんだ! そして、血の涙を流しながら「ヨシ」と言われるまで我慢してるんだ!! 知ってるか!?」
「いや、それはちょっと……」
ドン引きするんじゃない!
素直な気持ちを言ったんだから引かないでくれ。
「瑠璃が止めなければ最後までするぞっ!」
「くふふ♡ そうですか♡ そうですかぁ♡♡」
瑠璃は喜色満面で俺に強く抱き着き、そのまま俺ごと後ろ手に倒れこんだ。
彼女の長く艶やかな濡羽色の髪が流麗に広がった。
驚いて瑠璃の顔を見ると、タイミングを見計らったように彼女に啄む様なキスされた。
「でもその前に、全問正解のご褒美……一発で気分晴れやかになる慰め方法、知りたくないですか♡」
知ってしまうと後戻りできない。
それでも、俺は「教えてくれ」と言った。
瑠璃は「くふふ♡」と笑った。
♡ ♡ ♡ ♡
一発で気分晴れやかになる慰め方法♡
そ♡ れ♡ は♡
幼馴染である私と♡
悠くんのことを好きで好きで堪らない目の前の女の子と♡
ふふふ♡♡
だから、貴方の気持ちを最後まで、私に押し付けてくれなきゃ嫌ですよ♡♡
さっき、悠くんってば、私の一番が変わることを期待して、一途にも愛の告白をしてくれましたよね♡
でも残念ながら、悠くんの熱烈な告白を受けても私の中の好きな人ナンバーワンは変わりありませんよ♡
だって、悠くんがぶっちぎりナンバーワンに大好きな男性だから♡
悠くんが一番なんだから、悠くんから告白をいただいても順位は変わりありませんよね♡
でも、ラブ値が一秒ごと最高記録更新しちゃって大変なんです♡♡
ちなみに二番目はいませんよ♡
瑠璃の目は悠くんしか映らない仕様になっていますから♡♡♡
え? 前に聞いた好みの男性像と自分が違う?
もう一度、いいますね♡
瑠璃の目は悠くんしか映らない仕様になっています♡♡
でも、不安がってる悠くんはものすごく可愛かったです♡ ものすごく愛おしかったです♡
でも、私の愛が伝わっていなかったことが悲しかったです……。
だから、瑠璃のラブを全力で悠くんに見せつけちゃいますね♡♡ 覚悟してください♡♡
さぁ♡ 瑠璃はもう悠くんの手の内です♡
全肯定で誘い受けです♡
完全無抵抗であなたの愛を受け止める気マンマンです♡♡
瑠璃は貴方を甘やかしますよ♡
瑠璃は貴方に従順ですよ♡
瑠璃は貴方に媚び諂いますよ♡♡
どんなことだって♡
貴方のためであるならば♡
なんだってしますよ♡♡♡
最後までしていただけるんですよね♡
では最後まで♡♡
私のハジメテを貰ってください♡♡♡
そして、これからも悠くんしか愛せない様に♡
さぁ♡
思う存分♡♡
既成事実をいっぱい作ってください♡♡♡♡
♡ ♡ ♡ ♡
瑠璃の俺に対する愛の告白は超重量級の重さを誇っていた。ここに至って、俺は瑠璃が拗らせヤンデレであることを理解した。
しかし、俺だって瑠璃に対して独占欲丸出しの行動をしてたんだ。お互い様だ。
瑠璃が可愛らしくて堪らず、俺は気付くと瑠璃の服を剥いで抱きしめ、瑠璃の額にキスを落としていた。
しかし、瞬時にやりすぎたと反省し抱く力を抜いた。
「ご、ごめん……って、る、瑠璃?」
気付くと瑠璃はゆでダコのように顔を真っ赤にし目に涙を湛えて蕩けていた。
「ひ……額にキスぅ……優しいきすぅ……♡ 悠くんは私をどうするつもりですかぁ♡♡」
愛おしくて瑠璃にキスしてしまったわけだが、それだけで瑠璃は「あふぅ……♡」と言葉に表せないほど蕩けた表情をしてみせた。
卑猥な言葉よりも清純なキスに弱いってどういうことだ?
ホントに可愛いなぁ……もう、言っていいんだよな?
瑠璃は俺を癒すために愛を注ごうとしてくれているのだが、俺は彼女の献身に応える決定的な言葉を言おうとしていた。
「瑠璃……服を剥いてしまった今のタイミングで言うのはおかしいかもしれないが聞いてくれるか?」
「はいぃ♡」
瑠璃は先ほどの額キスの衝動で未だ放心状態だった。
ちゃんと俺の話を聞いてくれるのだろうか。
「俺は瑠璃が好きだ。瑠璃のことが好きだからこそ瑠璃に幸せになってほしくて、一度は諦めたけど……でも、やっぱり諦められない。俺と付き合ってほしい。他の野郎じゃない。俺が瑠璃を幸せにする」
「くふふ♡ それは私を恋人にしたいという訳ですね♡」
「ふりがなに違和感を覚えるがそうだ」
瑠璃は淫靡に笑う。
いつもぽやぽやとしている瑠璃にこんな一面があるだなんて今まで知らなかった。
「それで返事は?」
瑠璃は「くふふ♡」と笑った。彼女は返事の代わりに首抱きした腕に力をいれて抱き寄せ愛おしくキスを迫った。
「私の返事は不要では? 悠くんが私とお付き合いしたいのであれば、そして私と結婚したいのであればそう命令してください♡ そして、既成事実を作ってください♡ そうすれば服従心マックスの私は悠くんの言う通りの存在になりますよ♡♡ あぁ、子作りは今日は無理そうなので、お望みであれば排卵の時にお伝えしますね♡」
「瑠璃……」
「くふふ♡」
子作りまで覚悟されてるんだ。恋人くらい訳ないのだろう。
であれば、俺が求めるのは――
「今から俺たちの関係は幼馴染でバカップル丸出しの恋人だ。全力で瑠璃を愛するから、瑠璃も素直な気持ちで俺を愛してくれ! 言っておくが俺は性欲強いぞ」
「くふふ♡ 存じ上げてます♡ スマホの中の私でいっぱい抜いてくださってますもんね♡♡」
う……俺が瑠璃の盗撮写真で抜いてることがバレてる。
「これからは実物の私で抜いてくださいね♡ 私も性欲強いですので遠慮なく♡♡」
瑠璃はこんなにもエロいんだ。幼馴染のままでは知ることができなかった彼女の一面を知れて、俺は歓心で満たされた。
もう一度、優しいキスを瑠璃の唇に落とした。
彼女は相変わらずロマンチックなキスに弱く、「はふぅ♡」と吐息を吐いた。
「悠くん、これだけは分かってほしいんですけど♡」
「なんだ?」
「悠くんは逸見さんを寝取られたことを気にしていると思います」
「……」
「でも、違うんです。悠くんが逸見さんを寝取られたんではなく、逸見さんが悠くんを寝取られたんですよ♡♡」
俺には瑠璃の言っている意味がこの時、理解ができなかった。しかし、俺が一番好きな瑠璃が俺のことを一番好きでいてくれる。
もう逸見さんのことはどうでもよかった。
「それじゃあ、カノジョとして悠くんをいっぱいいっぱい甘やかして癒しちゃいますね♡」
※
「瑠璃、ありがとう」
「(小首を傾げて)何の御礼ですか?」
今は俺たちは裸で抱き合いながら一緒のベッドに横になっていた。
行為のあと、瑠璃から「まだこのままでいたい」と強請られ今に至るのだった。カノジョの甘えが可愛いことこの上ない。
「いや、俺と付き合ってくれて」
「あぁ、そのありがとうなんですね。では、私もありがとうございます♡(ペコリ)」
「(赤面して)と、ところで、なんでこのタイミングで俺のことが好きだと教えてくれたんだ? やっぱり俺が振られたからか?」
「それもあります。傷心の悠くんへの告白であれば成功率も高いですしね~。でも、他にも理由があって、実は明日手術なんですよ。ちょっと怖くって、私も悠くんから勇気をいただきたいな、と」
「えっ!? そんな大事な日の前に、こんな無茶をしてよかったのかよ!? というか、今聞かされるまで知らなかった。何で事前に教えてくれなかったんだ?」
「それを教えたら、さすがの悠くんでもエッチしてくれなかったでしょう? その前はお忙しそうで話す機会もなかったですし」
「そうか~。ホントにごめんな。後悔が半端ない!」
「いえいえ。でも、お陰で付き合うこともできましたし。それに大丈夫ですよ。手術とエッチしたかどうかは関係ないので……私の言い方が誤解を与えたのですね? 実は……」
瑠璃のその話を聞いて、俺はもう一度驚いた。
「瑠璃はなんでここまでしてくれるんだ?」
詳しくは伏せるが、瑠璃は普段の生活同様にどこまでも俺に尽くしてくれた。
「絶対に裏切らないことを証明したかったのです♡」
そういうと、蕩け顔の瑠璃は俺の脳天を「ちゅ♡」と音を立てて口付けをした。
「でも瑠璃だってハジメテだろう?」
「そうですね♡ でも、覚悟はしてましたから♡」
額にキスをして俺の口にもキスをしてくれる。
瑠璃は俺との大人のキスを殊の外気に入ったらしい。長く長く唾液と吐息の熱を交換しあった。
唇を離すときも、彼女はとても名残惜しそうだった。
「悠くんは今、女性に対して不信を持っていませんか?」
「……否定はできない」
「私は悠くんに信用されたいのです♡ 私だけは絶対に悠くんに従順であると♡♡」
「その想いはよく伝わってくるよ。お陰で全ての女性に不信にならずに……失恋を引きずらずに済んだよ。ありがとう」
「悠くんからの御礼の言葉いただきました♡ あと、どうせなら信用できる女性をヨメにしたいですよね♡♡」
瑠璃は綺麗な笑顔だがこう言いたいのだろう。
自分をヨメにしろ――と。
先ほどは俺の命令通りの関係になると言っていたが、瑠璃の希望は結婚前提のお付き合いだということがよくわかった。付き合い初めて1時間も経たないのに結婚を求めるなどクレイジーなことこの上ないが、俺自身も瑠璃と幸せな家庭を築く未来が有り有りと見えた。
こんなにも従順で可愛らしく全力で俺を愛してくれる子がいるんだ。それ以外を望む必要はないだろう。
瑠璃、覚悟しろよ――
※
瑠璃は手術後、一週間学校を休んだ。
翌週、俺は瑠璃を伴って登校した。瑠璃は嬉しそうに俺の腕に身体を寄せ、矯正ブラから解放されたその爆乳を終始俺に押し付けてきた。
その柔らかさは至高たるや。
「お昼休憩にお抜きしましょうか?」
俺の下心を抜け目なく察知した瑠璃はこんな提案をしてきた。
学校でエッチなことはしちゃいけません。
そのプレイが即座に出てくる瑠璃ちゃんはエロアニメを見過ぎです。
俺は心の中で瑠璃を説教した。
俺達が校舎に入って教室に辿り着くまでにざわつく周囲の声を聞いた。それは当然のことだったので、俺はこの喧騒を無視した。
今の瑠璃はスカートの丈を短くして制服の着こなしも垢抜けさせていた。
俺の腕が彼女の爆乳にめり込む様子は読者様の想像にお任せしたい。
そして、今瑠璃はいつもの色付き円縁眼鏡をしていおらず、絶世の美少女の蕩け顔が露わにしていた。
瑠璃は一週間前に目の手術をしていたのだ。術後の経過は順調で、今日から日の当たる場所でも眼鏡無しで生活できるようになったのだ。
教室に入り、瑠璃がスカートをひらめかし俺に手を振って自らの席につく。
その仕草だけでクラスの男どもの心を射貫いてしまった。
そうだ。うちのカノジョは本気で可愛いんだ。
放課後、逸見さんが俺の教室まで殴り込みに来た。
「どうして浮気したの!? というか、別れるって何故!?」
正直、彼女が何を言いたかったのかわからなかった。自分が浮気をしたんだろう。
術後の瑠璃につきっきりで別れを告げていなかったことを昨日思い出し、俺は逸見さんに別れの連絡を入れ彼女からの連絡をブロックした。
「逸見さんはこう言いたいのではないでしょうか?」
瑠璃が通訳を始めた。
涼音はお金で男を選ぶ癖があった。そして、彼女は横取り癖があった。
悠馬は謎の巨乳美少女のカノジョがいると裏では有名人だった。
そして、謎の美少女から悠馬を横取りできたのはいいが、ここで彼女の中にも変化があった。優しい悠馬に好意を抱いてしまったのだ。
しかし、間男が突然現れ結局はそちらに靡いてしまった。そして、その現場を悠馬にバレてしまった。
どちらを取るか究極の選択を迫られた時、涼音は誤ってどちらも残す選択を選んでしまった。
自分が変わる最後のチャンスだったかもしれないのに、優しい悠馬なら許してくれると思ってしまった。悪女ぶったのも間男の自尊心を擽るためであり、こんな態度を取っても優しい悠馬なら許してくれると思ってしまった。
まさか自分が悠馬を寝取られるとはつゆほども考えていなかった。そして、実は間男がヒモ男で本当はお金なんか無いことを知らなかった。
そして、事実を知った時、彼女は何者かに騙されたことに気付いたのだった。
逸見さんは瑠璃をキッと睨むが、瑠璃は余裕の表情で「くふふ♡ 続きも必要ですか?」と煽った。
「どうやら今の彼女は今まで誑かした男達からの醜聞を広められたらしいですね」
「うぅぅぅぅ……」
ビッチな元カノジョはこの事実を校内及びSNSで明るみにされたらしい。
最近見かけないと思ったら彼女は醜聞を否定して回り更に傷を深めたらしい。本当は連休明けに俺に謝罪しようとしていたところ、俺が避けていたのもあるが彼女自身もそれどころではなかったらしい。
今や陰口を叩かれ無視されるカーストの最底辺になってしまったのだとか。そこで優しい俺に助けを求めてきたのだ。
「しかし、瑠璃はなぜ通訳できるんだ?」
瑠璃はいつもの拍子で「くふふ♡」と笑った。
俺が彼女の顔を見ると、幼馴染の瞳は闇に濡れていた……。
もう逸見さんにチャンスは無いのだと瑠璃は暗に伝えた。
そして、逸見さんは顔を真っ赤に涙をぼろぼろと零して逃げ去った。
「しかし、なぜそんなに詳しく知ってたんだ?」
「ヨメとしてご近所さんの情報収集は必須ですからね♡ くふふ♡」
いや、普通の収集方法じゃないだろう。
していることが諜報員の類か何かだろう。
俺は知ることとなった。
瑠璃が裏SNSにおいて『女王』という名を欲しいままにしていることを。
そして、彼女達のやり取りを見ていた者達は今まで瑠璃を馬鹿にしていた者も含めて、瑠璃だけは怒らせてはいけないというのが共通認識となった。
俺は先日の怪文書がやはり瑠璃からだと理解した。
そして、瑠璃の本性を知る。振り回され騙された気分だった。
しかし清々しい気分だった。
『騙されて始まった恋もいいきっかけだったと言える日が来ることを』
あのメッセージ通りだった。
流石は理想のヨメだ。
彼女は色々なモノがお上手だった。
俺は瑠璃をギュッと抱き締めた。
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