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特別編:神となった男 ③人として生きる神

「……私が、産褥熱で……死んだ?」


 フローラは血の気の引いたような顔のまま、エドリックの言葉を反芻する。エドリックはフローラを抱きしめながら頷いた。


「私は君の死を看取れなかった。君は私が迎えに来ると、そう信じたまま死んだ……」

「……」


 絶句。今のフローラを如実に表す言葉があるとすれば、この言葉以外にはないだろう。


「それで……私が死んで、その後は……」

「君の死後三か月経って、ようやく私はその事を知った。エディオン叔父上が氷の魔法で君の遺体を氷漬けにして保管してくれていたから、私は綺麗なままの君の遺体と対面することは叶ったが……」

「……」

「その後十四年間、色々あったけれど……。サタンを宿したゼグウスの王子からエリーゼに求婚があって、私はその断りを口実に彼を暗殺するためゼグウスへ向かった。そして、情けないことに返り討ちに合ってしまって」

「え……? エドリック様が、敵わなかったのですか?」

「あぁ、私はそこで死んだ。だが、ゼウスに天の国へ招かれた。そこで私を待っていた君と再会もできたのだけれど、君はその記憶を持っていないようだね」

「……はい」

「私は天の国でゼウスから、十五年前に時を戻すからサタンを討ってくれないかと頼まれた。私は……ガリレードから君がレフィーンではなく我が家で出産すれば死ななかったと聞いて、君と共に歩む人生をやり直せるならと承諾した。そうして時を戻して、今に至っている」

「……そう、だったのですね。俄かには、信じられませんが……」


 それはそうだろう。だが、フローラはエドリックが嘘を吐かない事はわかっているはずだ。俄かには信じられなくても、エドリックが話したことに嘘はないと……それはわかってくれている。

 彼女の中で一番の衝撃はやはり、自分がエリーゼを出産後に亡くなってしまったことのようだ。次いで、エドリックが敗れたこと。これに関してはエドリック自身も今でも納得できていないが……

『彼』と対峙する直前に、未来へと進んだ。そのせいで魔力を大量に消費し、回復しきっていなかった事が要因だろうと……そう分析している。魔力が最大量であれば、きっと彼に魔力を抑えられることはなかったはず。

 毒など使わず、あの場で魔法を使っていればこの結果にはならなかったと……そう、思っている。


「……君は私の中では、一度死んでいるんだ。十五年の時を戻して我が家でエリーゼを出産したから、勿論今君は生きているが……。だが、確かに君は一度死んだ。君が死んでから十四年もの間、私はずっと君を……君だけを想っていた」

「エドリック様……」

「だから君がこうして隣にいて、優しく微笑んでくれているのがとても嬉しい。君が生きているのが、それだけで嬉しいんだ」


 さらに強く、抱きしめる。フローラはあの日、エドリックがゼグウスへと発った日……『もう絶対に離さない』と、目覚めた直後にそう言った事を思い出したようだ。

 あの時のあの言葉は、この背景があったから出た言葉だったのだと……そう納得して、そしてエドリックの背に手を添え抱きしめ返してくれる。

 そして、あの事を……エドリックが神となって戻ってきた日のあの拒絶の事を思い出したのだろう。フローラの声も、涙声だった。


「そうとは知らずに私、私は……神になってまで私と歩く道を選んだあなたを、拒んでしまいました。ただ自分の気持ちだけで……神の妻など、そんな重い立場は務まらないなんて……。あなたは私のために、私だけのために人生をやり直して神にまでなったと言うのに……。私は、私は……」

「フローラ、私が神となった事に君が責任を感じる必要はない。今はなるべくしてなったのだと、そう思っている」

「ですが……私さえ死んでいなければ、あなたは人生をやり直さなかったでしょう?」

「いや、そんな事はない。君が生きていたとしても、サタンはエリーゼに求婚してきただろう。彼を殺そうとして逆に殺されてしまった以上、やり直しただろう。……私は首を落とされ、その首は我が家へと送られたんだ。そんな形で死ぬなんて不本意でもあるし、君と子供たちを悲しませてしまうから」


 彼女を抱きしめている手を緩め、顔を見ながらそう言えば『あなたは何よりも、私たちの事が優先なのですね』と、言葉にせずとも瞳に溜まった涙がそう訴える。

 その美しい雫が頬へと流れる前にそっと手を伸ばして、親指で優しく拭った。


「人生をやり直して、サタンは生まれる前に葬った。だから私は神に任命された。追放される前のサタンが座っていた、空白だった人間の神……。ただ人とは少し違う能力をもって生まれたかもしれないが、王でもなく伯爵家の子である私が神なんて……本当に良いのかと思ったけれど」

「エドリック様には、その器があったのでしょう。人間嫌いを称しながら、それでも国民たちのために尽力されていた方ですもの。私、あなたと結婚したばかりの頃は不思議だったのですよ。どうして嫌いな人間のために、こんなにも尽くしていらっしゃるのかと。責任感のある方だと、誇りに思っておりました」

「ありがとう、フローラ。その評価も、今君がこうして生きている事も、私の隣にいてくれることも……全て、嬉しいよ」

「……エドリック様」

「だが、今話した通り……私は、十五年の時を歩んでそして戻ってきたんだ。だから身体は君とは一歳差だけれど、精神的には……十六歳の差があって」

「……!」

「私の中身は四十半ばの『おじさん』なんだ。今まで黙っていてすまなかった。それでも……受け入れてくれるかい?」


 フローラは驚いた顔をした後で、笑った。


「そんな事、気にいたしません。エドリック様は、エドリック様です」

「……ありがとう、フローラ」


 エドリックはそっと瞳を薄め顔を傾ける。フローラはその意図を汲み取り、瞳を伏せた。影が、重なる。そのまま寝台へ倒れこんで……愛してるとそう囁けば、フローラは微笑んでくれた。

 手を、握る。指を絡めるようにつなぎ直せば、フローラもエドリックの手を強く握り返した。精神的には十六年ぶりに交わる身体は、初夜以上の昂ぶりを覚える。『年甲斐もなくすまない』と苦笑いすれば、フローラは控えめに笑った。



 それからまた一年ほどが経ったある時、エドリックは『レフィーンへ行きたい』と思い立つ。

 そろそろ、フローラに真実を教えてあげたい。彼女の乳母が、彼女の生母だと。まだ馬車での長距離移動は大変ではあるがエリーゼも一歳になったし、エドリックのための神殿も建設中だ。今でさえ長く国を空けるのは大変かもしれないが。神殿が出来ればもっと融通が利かなくなる。


「フローラ、エリーゼも一歳になったし家族でレフィーンへ行かないかい?」

「レフィーンへ、ですか? でも、あなたの神のお仕事が……」

「もちろん、半月ほど不在にすると枢機卿たちには許可を取るよ。私もエディオン叔父上に会いたいし、君も義兄上にはもう十年くらい会っていないだろう?」

「はい。お手紙のやりとりは結婚後間もないうちから続けてはおりますが……久々に、お兄様にもお会いしたいです」

「では決まりだ」


 その話をしてから出発まで『神』が空白になる期間の予定を作るのにふた月ほどかかってしまったが……春になって街道の雪が解けて無くなる頃にレフィーンへと出発できた。

 エリーゼはもう一人で歩けるし、少しだけ言葉も出てくるようになって可愛らしい時期だ。子供達も皆遠出は初めてで、行先が海の綺麗な常夏の国と聞いて嬉しそうにしている。

 道中は子供たちが馬車に飽きてしまったりもしたが、無事レフィーンへ。エドリック自身もルドルフに会うのは数年ぶり……やり直してからの人生だけで考えるのであれば、レフィーンの首都プラティスの北に金鉱床が発見された時に飛んできて以来だっただろう。


「ルドルフ兄様、ご無沙汰しております」

「あぁ、フローラ。久しいな。すっかり母親が板についているな。顔つきも、もう立派な母親だ」

「えぇ、一番上のエルヴィスがもう十歳なのですよ。私もいつまでも娘のままではおりませんわ」


 朗らかな、兄妹の会話。子供達の事をルドルフに紹介すれば、ルドルフは嬉しそうに目を細めてくれた。

 子供達が海に行きたいとはしゃぐから、皆で海へ。上の三人が浜辺で水をかけあって遊んでいるのは、見ているだけで幸せな光景だった。

 そして夜は見た事のない料理にまたはしゃぐ。子供の体力は凄まじいと感心したのだが、糸がぷつりと切れるとぐっすりと眠ってしまった。

 その夜、エドリックはフローラを誘い離れのテラスへ。夜でも暖かい風を二人で浴びて、少し遠くに聞こえる波の音が心地よかった。


「子供達が皆楽しそうで良かったです」

「あぁ、そうだね。君も、懐かしいだろう?」

「えぇ、とても。……レフィーンには嫌な思い出もたくさんありますが……ですが、ここが故郷には変わりありませんから」

「……フローラ、君に会わせたい人がいるんだ」

「会わせたい人、ですか?」

「あぁ、きっと君も会いたかった人だと思うよ」


 そう言って、エドリックはフローラの手を引く。フローラは頭に疑問符を浮かべながら、エドリックに着いてきてくれて……とある部屋の前で止まって、エドリックは扉をたたいた。

『はい、どうぞ』とその声に……中にいるのが誰なのか、フローラも気づいたようだ。


「お帰りなさいませ、フローラお嬢様」

「リンダ……」


 フローラの乳母である、リンダ。フローラは瞳を潤ませ、一度エドリックの方を向いた。エドリックが頷けば、フローラはリンダに駆け寄って抱き着く。

 ……彼女は生母が誰かを知らず、乳母であるリンダに育てられた。エドリックは前世で、このリンダが何者なのか知っている。フローラの氷漬けの遺体を引き取りに来た時にも、彼女に会って話をしていた。


『リンダがお母様だったら良かったのに。私に優しくしてくれるのは、リンダだけだもの』


 幼い頃のフローラは何度もそう言って、その度に自分が本当の母親だと……そう言いたかったのをグッと堪えていたそうだ。リンダは夫に先立たれ息子を女手一つで育てていたが、その美しさゆえにフローラの父に手を付けられた。

 当初はフローラの父に支援をしてもらいながら、生まれたフローラを一人で育てるつもりだったのだが……生後一月ほどだって突然『娘は公女にする』とそう言われたらしい。

 そのため、表向きはフローラの乳母としてフローラを育てる事になったと……そう、聞いている。

 エドリックはレフィーン行きを決めてからのこのふた月の間、実は密かにリンダと手紙のやりとりをしていた。初めは自分が生母だと明かす事にリンダは難色を示したが、前レフィーン大公が亡くなって時間も経っている事、フローラが嫁いで十年以上経っている事を理由に正体を明かしてくれることに同意してくれたのだ。


「まぁまぁ、お嬢様。そんなに泣かれなくても」

「だって、だってリンダ……。私、ずっとあなたに会いたかったの。私は素敵な旦那様と結婚して、可愛い子供を授かって幸せだって……あなたにそう言いたかったの」

「お顔を見ればわかりますよ。……ダミア子爵様、このような機会を与えて下さり、感謝いたします」

「いいえ、とんでもない。フローラ、君に聞かせたい話がある。君が知らなかった彼女の秘密……君の人生を、根底から覆す話だ」

「え? ……エドリック様、リンダの何を知っているのですか?」


 少し不安げな顔をしたフローラが振り返る。この話をすれば、涙で濡れた瞳がきっともっと潤むだろう。

 一歩、二歩……エドリックは前に進んで、フローラの肩に手を置く。そしてゆっくり、口を開いた。


「彼女は、君の乳母なんだよね」

「えぇ、そうです」

「そして君は、前大公の庶子で……生母の事は何一つ知らずに育った」

「……はい」

「幼い頃は『リンダがお母様だったら良かったのに』と、よくそう言っていたと聞いた」

「はい。確かに、よく言っておりました。『お母様』と呼んでいた人は、庶子である私の事を娘と認めてくれる事はなく、いつも冷たい視線を向けられておりましたので……。でも、誰からそんな話を聞いたのです?」

「君の母上から、ね」

「お母様から、ですか……? ですが、エドリック様はお母様と面識は……」

「まだわからないのかい? 目の前にいる君の乳母である女性こそ、君の生母だよ」

「え……?」


 フローラは、そう言って琥珀色の大きな瞳を更に見開く。そしてエドリックとリンダの顔を交互に見て……二人そろって優しく微笑んでいるのを見て、それが事実なのだと悟ったのだろう。

 思っていた通り、その瞳に更なる涙が滲んでゆく。『リンダが、お母様なの……?』と、そう小さく呟きながら。


「義母上」

「……フローラ、今まで黙っていてごめんなさい。あなたが私の事を本当の母なら良かったのにと言う度、何度『本当は私があなたの母親なのよ』とそう言いたかったか……」

「本当に、本当にリンダがお母様なの?」

「えぇ、私の可愛いフローラ」

「リンダ、リンダ……。おかあさま……」


 フローラの瞳から溢れた涙が零れるのと同時に、フローラは再びリンダに抱き着く。その姿を見て、エドリックはそっと部屋を出ようとする。あとは二人で話したいことが山ほどあるだろうと、そう思っての事。

 だがそんなエドリックを見て、フローラが震える声で言う。


「エドリック様……なぜ、この事をご存じだったのですか?」

「後で話すよ。今は二人で積もる話をすると良い。私は先に、部屋へ戻っているから」

「……はい。ありがとうございます」


 エドリックは部屋を後にする。それからしばらく経って部屋に戻ってきたフローラへ、前世でレフィーンに来た時に知ったと言う事を教えてあげた。

 フローラは冗談めいて『それでは、私は死んだ甲斐がありましたのね』なんて、そんな風に笑った。冗談でも笑えないと、エドリックはそう思いながら……確かに、前世でのフローラの死がなければ明らかにはならなかった真実である。

 彼女が死んで良かったことが、たった一つだけあったと……そう、思うようにしようと思いながら二人で寝台へ入った。


 数日レフィーンへ滞在した後、レクトへ戻る。戻った後は魔術師団の団長としての仕事も、神としての仕事も山積みで忙しい日々を過ごしていただろう。

 数年たってやっと神殿も完成して、建立記念の式典まで開かれた。フローラを神の妻、子供たちを神の子にするつもりはなかったので今まで家族をエドリックのいる教会へ近づけた事はなかったのだが、その日だけは一緒に神殿に来てもらった。

 フローラと子供たちは特別席に座らせ、彼らの見守る中で式は進む。枢機卿による開会に伴う祈祷から始まり、国王の祝辞、少年少女の聖歌隊による聖歌合唱……そしてエドリックの『神の言葉』による宣言。

 真新しく広い壇上に立って、エドリックは言った。


「皆、今日は集まってくれてありがとう。この神殿は、私の神としての栄光の証ではない。これは私が神となるまでに歩んできた、悔いと願いの証だ。

 私は、神である前に一人の男であり、夫であり父である。それを忘れぬために、今日はこの場に私の家族を招いている。本来ならば、彼らをここへ連れてくるべきではないと、何度も迷った。

 だが、私はこの神殿の完成という日を、家族と共に迎えたかった。なぜなら、この神の道を歩む決意をした日から、今日に至るまで……私は、家族の愛に支えられていたからだ」


 家族の方をちらりと見れば、フローラの瞳には涙が浮かんでいる。エルヴィスが、エリーゼを兄らしく抱きかかえてくれている。エルミーナとエドガーも、大人しくしてじっと父の姿を見ている。


「……私は神ではない。少なくとも、君たちが思うような全知全能ではない。少しばかり非凡な才を持って生まれたのは確かだが、それ以外は皆と変わりない……妻と子を愛し、家族と共にありたいと願うただの一人の男だった。

 ……だがそれでも、皆が望むのなら、私は神であろう。人の神として、共に歩こう。祈りを、悩みを、涙を、どうか私に委ねてほしい。私は、皆の祈りを受けよう。

 だが、私の祈りは……妻と子が笑っていてくれることだ。私の心が神となった日から変わらぬ唯一の願いは妻が、子供たちが、どうか平穏な日々を送れますように……それだけだ」


 エドリックは纏った法衣に手をかける。胸元には、今日のためにフローラが作ってくれた白い造花。その造花を手に取って、目の前の祭壇にそっと置く。


「私の神殿に、栄光はいらない。私はただ、妻と子供達への愛を祈りに変えよう。私が祈るのは何より、妻と子のため……私を信仰するのであれば、そう知った上で信仰して欲しい」


 そう言ってエドリックは壇上を降り、家族のいる特別席の方へ向かう。皆が静まり返りながら、その行方をただじっと追っていた。

 フローラの前まで行けば、くるりと身体の方向を変え群衆たちの方を向いた。


「以前にも話したが妻を『神の妻』と、この子供達を『神の子』と……そう呼ぶのは今後もやめて欲しい。私はこの法衣を脱げばただの人間だ。彼女の夫で、子供達の父で……家族を『神の家族』とはみなさないで欲しい。だが、私には誰よりも家族が特別だ。だからここで、妻に加護を与える事を許してほしい」


 群衆たちが、少しだけざわつく。『神の妻』とはしないのに、彼女にだけ特別扱いをして加護を与えるとはどういう事だと……皆そう言いたいのだろう。

 この反応は想定している。だが、フローラには加護を与えねばいけない。誰にも文句は言わせない。


「皆の言いたいことはわかる。だが私の我儘を、今回だけは許してくれ。……妻の腹に、新しい命が宿った。ゼウスは私が神だとは言っても『人間同士』なのだから問題ないとは言っていたが、神の子を宿した人間など他にはいない。もしも神の力が妻の身体や子に異変をきたしてしまったら……?

 前例がない以上、備えが欲しい。何かがあってからでは遅い。彼女は私にとっては『特別』なんだ。だからこの加護という『特別な処置』を許してほしい。そしてこの新しい命を、どうか皆に祝福して欲しい」


 そのエドリックの言葉に、どこからともなく拍手が沸いた。フローラは少しばかり照れた顔をしていたが、そんなフローラをエドリックは愛しそうに見つめる。

 次の瞬間、エドリックはフローラの前に跪いた。神が一人の女性に跪く……それは普通に考えればあり得ない事だったが、今のエドリックの話を聞いてその行動に疑問を呈する者は誰一人としていなかっただろう。

 フローラの手を取ってそっと口づけると……神殿内のあちこちに飾られていた、白い百合の花が一斉に黄金に光った。皆がざわめく。

 エドリックは立ち上がって、フローラの席の隣にあった百合の花を一輪取り出してフローラに手渡す。そうすれば百合は更に強い輝きを見せ、その光はフローラを包むようにしてから消えた。

 神殿内の他の百合の花も、元の色へ戻る。百合の花を持つフローラの姿は、まるで聖母かの如き美しさだった。


 ……その後、フローラとお腹の子の経過は全く持って順調だった。加護は必要だったのかどうか、本当のところはわからない。だが加護を与えた意味がなかったのであれば、それはそれでいい。

 母子ともに健康であることは、何よりで……そうして、式典の日から季節がふたつほど巡った、ある日だった。


「フローラ、よく頑張ったね」

「ありがとうございます、エドリック様」


 エドリックは生まれたばかりの五人目の子となる子を抱きながら、寝台に腰かけフローラに微笑む。かつてのガリレードの予言では災いを持って生まれる、生まれたらすぐに殺せと言われた五人目の子。だがその予言は覆しているから、心配はいらない。

 まだ目が明かない可愛らしい赤子を、二人で覗き込む。そのエドリックの姿はただ一人の夫で、ただ一人の父親で……ただ一人の人間だった。


本編では神の力を与えられ、サタンを討ってすぐにエピローグ(エルミーナの結婚式)へ、でしたがその間の『神となったエドリック』の事を書いてみました。

五人目の子も、実はエピローグにこっそりいたのです笑 明示していなかっただけで。

性別は敢えて明示しませんので、ご想像にお任せいたします。


3部作となってしまいましたが、①は神となってレクトへ戻るまで。②はフローラからの拒絶と再び愛を得て夫として、父として、再び家族の中に帰属していく姿を。そしてこの③では過去の真実と向き合い、再び家族の未来を「人として」歩み始める。と、言う感じになっております。


①では「もう少し綺麗な部屋にしてほしかった」と言ったり「(ゼグウスの)王が失神してしまいそうだから、許さないとからかうのをやめた」と思ってみたり。神なのに、関所を通るために通行許可証を出したり。

②では「信仰してくれなんて頼んでいない。不満があるなら信仰しなければ良い」と言い放ってみたり「(エルミーナが)何より可愛らしい」と親バカっぷりを発揮してみたり、フローラに「私も可愛いってこと?」と言われたり、ゼウスにも「特別の何が悪いと言うのだ」とか言われたり。

③では「中身は四十半ばの「おじさん」なんだ」とカミングアウトしたり、フローラが「死んだ甲斐があったのね」なんて冗談めいてみたり。

要所要所に、少しクスっとできる部分を入れてみたりしました。全体的に話が重いので、少し和ませたいなと……


フローラが人魚の神・シルヴィアの末裔と言うのも実はもともとあった設定です。そしてここまでは書けていませんが、フローラの父が彼女を引き取ることにしたのも夢で「あの子を引き取って公女にしろ」と言う神のお告げを聞いたから。なんて裏設定まであったりします。


あとがきも長くなってしまいましたので、このあたりで。

そのうちエルミーナと婚約者くんを親として見守るエドフロ夫妻の話とかも書きたいですね。


それでは、またお会いできる日まで。

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