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怪異社会

 およそ「怪異」や「都市伝説」というものは、「人の噂」から生まれるとされる。


 昔から数多の怪異が生まれては消えてきた。彼らは語られることでその存在を維持する。つまり、忘れ去られたものは消えてしまうのだ。


 昭和の時代の代表的な怪異である、口裂け女、メリーさん、トイレの花子さんなども、存在が消える寸前まで追い詰められた。


 だが90年代後半から、その空気は一変した。インターネットの普及である。人々はその場に居ながらにして、日本全国や全世界の人々と噂話を楽しめるようになったのだ。パソコン通信ももちろんあったが、インターネットはユーザ数が桁違いであった。


 そのおかげで、口裂け女やメリーさんといった、一時期消えかけた怪異がまた復活し、さらにネット発祥の怪異である八尺様やアクロバティックサラサラ、くねくねなどが新たに生まれた。


 「科学や技術の発展により、この世の中の不思議な出来事は一掃された」と訳知り顔で語る者がいるが、実際は逆である。「科学技術、とりわけITメディア関連が発達したおかげで、怪異や都市伝説はかつてない勢力を得た」のだ。


 そして、その経緯を経て、怪異たちはあるひとつの事実を知った。それは「噂が途切れなければ我々は消滅しない」ということだ。


 新旧含めた怪異たちは会合を開き、今後自らがどのように生き残るべきかを話し合った。噂が途切れなければ良いのだし、ネットのおかげで復活した経緯もあるので、メディアを活用しようという案が出てきた。


 それには金がいる。金を稼ぐには、働かなくてはならない。怪異たちは思案し、ひとつの結論に達した。「我々はエンターテインメントだ」と。そして、彼らは会社を設立した。


 口裂け女が今日も街に出没する。

「わたし、キレイ?」

「うわぁ! キレイです、キレイです…」

 哀れな一般人がその毒牙にかかる。

「そう…、わたしはキレイなのね…。そんな私のキレイ肌を維持しているのは、このA社の誇る化粧水と乳液のおかげ! メンズバージョンもあるからオススメよ! ポマードもあるでよ」


 ある小学校では、生徒が遊びでトイレの花子さんを呼び出す。

「はーなこさん、あーそびーましょ」

「はーぁーい」

 花子さんが現れ、自らを呼び出した生徒たちに言う。

「このトイレ、すごくキレイでしょ。B社のこの洗剤を使うと、しつこい汚れもピッカピカに落ちるんだよ!」


 自宅でくつろいでいる男に、突然電話がかかってくる。

「もしもし?」

「もしもし、私メリーさん。今貴方の家の前にいるの…」

「ひっ」

「声はちゃんと聞こえているかしら?」

「きっ、聞こえています。ちゃんと聞こえています」

「そう…。それはこの私の契約しているC社の電波が良いからよ。日本全国、山奥でも通話が出来るわ。プランもお得なものが揃っているの。今、パンフレットを持って貴方の後ろにいるわ」


 祖父母宅のある田舎を訪れた少年が、畑で白いくねくね踊る何かを見てしまった。

「なんだあれ…。ん? なんか紙を持ってるな。『貴方もダンスで健康的な汗を流しませんか』…?」


 同じく、祖父母宅のある田舎を訪れた少年が、巨大な女の怪異を目撃してしまった。

「ぽぽ、ぽぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽ」

「こ、ここ二階なのに、なんで窓から覗き込まれているんだ…。ん? なんか紙を持ってるな。『D社の○○牛乳を飲めば、私のような長身間違いなし!』…?」


 そう、怪異たちは広告代理店を設立したのである。自らの知名度も上げられて、広告料も入ってくる。「エンターテインメント」には欠かせない要素だ。


 彼らはこの他にも、お化け屋敷への出張や、ホラー映画出演などのオファーも受け付けているらしい。


 貴方もご入用の際は、是非ご検討のほどを。

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― 新着の感想 ―
[一言]  論文みたいなしっかりした文章で描かれているとんでもない世界のギャップが面白いです。  でも、怪異たちの存在は忘れられないですけど、怖がられなくなりそうですねwww  「忘れられたら終わり…
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