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彼女はその問いに驚いたように瞬きをする。
その問いの意味がわかっていないようだったが、数分たつと理解したのか考え込んでいた。
ちなみにその数分間はとても気まずかった。
「ごめんね。イグニス。それはできない。」
「なんで?」
それは純粋な疑問。
あんなにエヴァの母親は彼女に虐待まがいなことをしているのに、なぜ逃げださいのだろうか。
それはすぐに分かった。
「だってお母さまは、私を愛しているから」
愛している?
ほんとにあれは愛していると言えるのだろうか?
エヴァの母親は、エヴァを見てるとき、愛なんかなく、憎悪しかその目には宿っていなかったのに。
「それは愛じゃない。」
「ちがう!!これは愛なの!」
エヴァは俺に怒りのこもった声で答えた。
きっとそれは愛じゃないんだよ。
そんな悲しい愛はあってはいけない。
「じゃあどうして君はこんなボロい部屋に閉じ込められてるんだ?君がもし悪いことをしたのならこんなボロい部屋じゃなくてもっと綺麗な部屋に閉じ込めるべきだろう。」
エヴァはとても上等な服を着ているのに、この部屋はどれも汚い。
金持ちの家なら閉じ込めるとしても自室かもっと綺麗な場所に閉じ込めるべきだろう。
「それは私がとても悪いことをしたから」
「どんな悪いことをしたんだ?」
「アヴィンみたいに頭も良くなくて、アヴィンみたいに男の子じゃなくて、アヴィンの代わりになれなかった私が悪いの」
一体何が悪いのだろうか。
アヴィンの代わり?
エヴァとアヴィンは別人なのだ。そんなの代わりになんかなれるわけがない。
そんなことぐらい良識人なら誰だってわかる。
たとえ双子であろうと別人なのだから。
「エヴァはアヴィンと別人なんだ!アヴィンの代わりになんかなれるわけがない。」
「なれるよ。なってみせるよ。そしたら私お母さまに愛してもらえるから。私がアヴィンみたいになれたら、きっとお母さまは喜んでくれる。私を前みたいに愛してくれるから」
「それは愛じゃないよ。そんな愛あっちゃいけない。」
「ちがう。違う。イグニスが間違ってる。お母さまはの愛は間違ってなんかない。」
そう言い残して、エヴァは俺の視界から外れた。
きっと俺が見えない隅にいるのだろう。
彼女はとっくにわかっているはずだ。
母親がエヴァを愛していないと。
でもそれを認めることはできないのだろう。
エヴァは娘だから。
エヴァはずっと期待しているのだ。
自分が愛されるであろう未来に。
母親が愛してくれる未来に。
エヴァはそれから俺に話しかけてはこなかった。
どれほど立ったか分からないが、おそらく彼女のお腹の音が5回ほど聞こえて少し立った頃、誰かが扉を開けた。
「お嬢さま、奥様がお呼びです」
「お母さまが?」
「はい」
「わかったすぐ行くわ」
聞こえてきたのはしゃがれた老人の男の声とエヴァの声が聞こえた。
そのあとすぐにエヴァの足と同時に足音が聞こえた。
また、どれほどたっただろうか。
扉が開く音とエヴァらしき足が見えて、俺の前に来ると、しゃがみ込んだ。
それはやっぱりエヴァで顔はぐしゃぐしゃな鳴った泣き顔をしながら俺に言った。
「イグニス、ごめんね。やっぱりお母さまは私を愛してはいなかった。やっぱり返事を、返事を変えてもいい?お願い、イグニス。私を逃してくれませんか?」




