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二人からのプレゼント

 謹慎中にもう一つ思いついたのは、セラフィナに俺が昔使っていた手袋でもあげようということだ。

 この北部はセラフィナのいた中央に比べ圧倒的に気温が低い。あんな弱そうな少女では、散歩中に外気に触れて凍死しかねない。


 とっておいたかも記憶になかったが、奇跡的にひと組の毛糸の手袋が衣装部屋の奥に眠っていた。しかしかなりぼろい。今よりさらに子供の頃の俺は、手袋をボール代わりにして使用人の子供と遊んでいるような阿呆だったから、毛糸は千切れる寸前だった。


 まあないよりマシだろうと引っ張り出して、セラフィナを探す。場所は想像できた。最近の彼女のお気に入りはサンルームで、植物に囲まれながら本を読むのが好きだった。

 やはり彼女はそこにいて、手袋を手に嵌めて太陽の光に当てていた。


「おい手袋持ってるんじゃねえか」


 セラフィナが俺に気がついたのと、俺がぼろい手袋を背後に隠したのはほぼ同時だった。誤魔化しながら俺は言う。


「その手袋どうしたんだよ」


 セラフィナは喜びを抑えられないのかはしゃぎながら言った。


「朝起きたら手紙と一緒に部屋に置いてあったの! 手袋とマフラーとコート! ショウがくれたみたい。アーヴェル、何持っているの?」


 当然ショウが与えるだろうということくらい、予測できそうなものだ。しかも俺のぼろの手袋よりも遙かに上等で、女児が好みそうなかわいらしいデザインのものだ。あれを堅物の兄貴が真面目な顔をして購入したかと思うと笑えるが、あんなものをもらった後で、どうして俺のお古があげられるっていうんだ。


「さっき何隠したの?」


 不思議そうな顔をしながら近づいてくるセラフィナとは対照的に、俺は後方へと下がる。


「なにも隠してない」


「隠してる! 後ろに! 見せて!」


 もう我が家に初めて来たときのような遠慮深い大人しく慎ましかった少女の姿は跡形もなく、いるのは哀れな獲物を追い詰める猛獣のように目を輝かせたセラフィナだった。

 哀れな獲物とは、俺である。


「なあにこれ? 手袋?」

 

 飛びつくようにして俺から手袋を奪うとセラフィナはショウからもらったものと見比べているようだった。

 なんたる屈辱。なんたる失態。


「寒いからあげようと思ったんだよ。でももういらないよな、そんなにいいもんがあるならさ」


 と言ってセラフィナから俺のぼろ手袋をひったくろうとしたが、ひしと握りしめたまま放さない。俺もムキになって引っ張った。ぼろぼろの毛糸は、さらに無残な姿になる。


「放せよ、なんなんだよ、いらねえだろ。ショウのを使えよ、その方がいいだろ」

 

「い、いや!」


 ついにセラフィナは俺から手袋を奪い返すとサンルームの奥に走って行った。


「両方使うもん!」


 勘弁してくれよ、俺を羞恥で殺す気なのか?


 どう考えても見劣りするそれを、まともな神経してる奴が欲しがるとは思えなかった。だがセラフィナは、手袋を抱きかかえるようにして守っていた。


「だってアーヴェルがフィナにくれたんだもん。これはもう、フィナのものだもん!」


 時に彼女は悪女らしく強情だった。

 そして時に悪女らしく甘えて見せていた。


「……だめ?」


「……別に、だめじゃないけどさ」


 そうしてセラフィナは片手にショウがあげた新品を、もう片手に俺があげたお古を、ご機嫌で着け始めた。


 その夜のことだ。

 俺はセラフィナのことを考えていた。


 自分で言うのも何だが、セラフィナの育成は上手く行っているような気がする。時に頑固さを見せることはあるものの、概ねセラフィナは善良な人間の枠に入っていた。相変わらず魔法を使えるようになった気配もない。

 このまま気を抜かず、セラフィナを善人の路線から外さないようにして、ショウと結婚させよう。

 

 ショウと言えば、奴はなぜ戦場になど行くことになったのだろう。理由が分かれば止められる。そうすれば、奴は死なない。そうすれば、誰もが幸せな人生を送ることができる。


 そんなことを考え、珍しく眠れず、そのまま朝を迎えてしまった。

 朝食の前に散歩に行こうとセラフィナが部屋を襲撃してきても、まるで行く気にはなれなかった。

 

「今日はいい、寝不足で眠いんだ。散歩はメイドにでも頼んでくれ」


 ベッドの上にいる俺に近づき、覗き込むようにしながらセラフィナは言った。


「じゃあ行かない! フィナもここにいる」


 ここにいてもらっても困るのだ。俺は寝たいから。


「ショウにもらった手袋着けてさ、マフラーとコートも着て、行ってこいよ。楽しいんじゃねえかきっと」


 なんとか追い出そうとするも、セラフィナは首を横に振る。


「楽しくない!」


「散歩好きだろ。なんで行かないんだよ」


「好きじゃない」


 流石に体を起こしてセラフィナを見た。大きな瞳がいつも以上に近い距離で俺を見つめている。


「散歩は、べつに、好きじゃないの」


 おいじゃあなんで俺は毎回付き合わされてるんだよ、と文句を言う前に、セラフィナは言った。


「アーヴェルと一緒にいたいだけなんだもん」


 不意打ちに、勝手にびくついた心を必死に諫めた。

 まったく、なんてことなんだ。

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