俺たちは詰んでいる
第三章開始です!
視点は再びアーヴェルに戻ります。
お楽しみいただけると幸いです!
最低の気分。まさしくそんな感じだった。
目の前に、幼いセラフィナがいる。
死んだショウもいて、突然立ち上がった俺に、軽蔑したような視線を送っていた。
また俺は、ここへと戻ってきた。
先ほどまでの場面が蘇る。処刑される間際、セラフィナは、体に銃弾を浴びながらも俺を過去へと戻したのだ。
「う、おえええええ!」
吐き気を催し、目の前の皿に多分俺がさっきまで食べていたであろう豪華な料理を吐き出した。ゲロは飛び散り、セラフィナの料理までも汚す。
隣に座るセラフィナが、ひ、と小さく悲鳴を漏らし、兄貴が俺を見て、固まっていた。
「アーヴェル、一体……」
親族がざわついている。この次男坊はやはり頭がおかしいのかもしれないと、彼らの顔には書いてあった。だが大した問題ではない。阿呆たれどもなど放っておけ。
立ち上がり、俺はセラフィナを抱きしめた。
「セラフィナ、ごめん、ごめんな!」
腕の中でセラフィナが震えている。
ぱっと彼女から身を離すと、そのままの勢いで俺は兄貴を抱きしめた。
「ショウ! 二度とあんたを殺させない、俺が守ってやるから!」
兄貴は額に青筋を立てながらも、拳を握りしめる。
俺は泣きながら二人を抱きしめた。
「ごめんな、ごめんな二人とも! 俺は本当にひどいことをした! 今度こそ――」
俺は兄貴に本気で殴られた。
◇◆◇
食事会の場から強制退去されられた俺は、部屋に押し込まれていた。
料理はお預けとなったが、それどころではない。
危うくさっきは死にかけた。セラフィナが戻してくれなければ、今頃俺の死体は兄弟仲良くショウの隣で城門に並んだことだろう。
シリウスめ、ぶっ殺してやる。
という怒りは当然あった。だが短気が身を滅ぼすことは、嫌と言うほど身に染みている。
一歩引いて、俺たちの敵を正確に見極めようとしていたさっきまでの世界でだって、俺はセラフィナにキスしたし、シリウスにも喧嘩を売った。どうも俺一人では限界がある。冷静に情勢を見れる奴がもう一人くらいは必要だ。
本当は、セラフィナをショウにやるのだって頭が狂いそうなほど嫌だった。俺だけ見てろと言いたかった。だけどだめだ。それじゃあ、俺たちはきっと幸せにはなれない。
やるなら徹底的に、完璧に、計画をもって完膚なきまでにやってやらなくては、俺たちは確実に負ける。
考えなくてはならないのは、俺たちを不幸の底へと突き落とす元凶を、徹底的に叩き潰すことだ。シリウス単体ではない。
整理すべきは俺たちを取り巻く敵達だ。
時が戻る、一番初めの世界でショウを殺したのはセント・シャドウストーン一家、実行犯はジェイドだろう。
二度目の世界でショウを殺したのは、シリウスに命令された男だ。
そうして、ついさっきの世界でショウを殺したのは、シャドウストーン家とシリウスだ。
俺たちの敵が、この両者であるのは間違いない。
シリウスはセラフィナを手に入れ、邪魔な親戚を排除したいという私欲だろう。俺たちの親父と確執があったらしい皇帝ドロゴとの思惑とも、合致しているのかもしれない。
シャドウストーン家はもっと厄介だ。皇帝の影で権力を握り続けることが、奴らのただ一つの目的だ。その目的の上で、北部を手に入れたがったのだとしたら、俺たちへの憎しみではないのは救いだが、北部にいる限り、対立は避けられない。
つまり俺たちが幸せになる唯一の道は、現皇帝一家を叩き潰し、セント・シャドウストーンを叩き潰し、北壁フェニクスがただ一人の勝者となる道だ。
どうやってそれをやる?
セラフィナに井戸を空けさせれば、彼女は呪いを受けてしまう。
セラフィナに魔法を禁じるなら、魔法使いは俺一人。俺一人で、絶対的な権力を握る皇帝一家と、魔法使いの名門のシャドウストーン家と対峙しなくてはならない。
あの強敵どもをどうやって倒す?
どうやって。
どうやって?
どうやってだって?
いや……どうやっても無理だろ。
どう考えても勝てるはずない。
――あれ。
俺は思った。
「……これ、詰んでね?」




