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ひみつの恋心

 わたしは十六歳になった。


 学園もあと少しで課程を全て履修する。

 リリィはもう卒業していたけれど、アーヴェルの婚約者だから、顔を合わせることはたまにあって、親交は続いている。


 アーヴェルは北部統括府に魔法使いとして配属され、月の半分以上をそちらで過ごすようになっていた。寂しくないわけじゃなかったけど、代わりにショウといる時間が多くなった。


 そんな頃のことだ。


 シリウス様の誕生日にパーティが催されることになった。戦争の勝利が重なって、その祝福も、兼ねているらしい。わたしにも、招待状が届いていたし、行くつもりであった。それにシリウス様がショウを殺すなら、わたしが側で守らなくてはならない。


 なのに、夕食も終えた夜、部屋で一人でいたとき、アーヴェルがふらりと部屋を訪れて、言った。


「お前は来るなよ。風邪を引いてることにしろ」


 彼はわたしが何かを言う前に、机の上に置いてあった招待状を破り捨てる。わたしは遅れて文句を口にした。


「なんで? どうして? シリウス様がショウを殺すなら、わたしが側で守ってあげなくちゃいけないわ」


 しかしアーヴェルは、わたしの方さえ見ずに、掌の上に火を出現させ、破いた招待状をさらに燃やした。


「シリウスがショウを殺すのはもっと先だから、お前が今、守る必要はない。

 パーティなんて悪い人間しかいないし……シリウスはお前に惚れるんだよ。だから会わせたくない」


「でも今更よ? 一度会ってしまったわ」


「数年前のあれは事故だし、二人とも子供だった。そこまでの恋心には発展していないだろうが、今は別だ。お前は本当に綺麗になったからな」


 綺麗になったと、アーヴェルがわたしを褒めてくれ、思いがけず跳ねた心臓を必死に諫める。


 アーヴェルに会うと心臓が高鳴る。

 アーヴェルが笑うと心臓が高鳴る。

 アーヴェルの声を聞くと心臓が高鳴る。

 アーヴェルに触れると心臓が高鳴る。


 また小さい時みたいに、頭をくしゃくしゃになでて欲しい。でも彼は、もうそれをしなくなった。わたしたちの間には、幼い頃よりも距離がある。


 わたしはショウの婚約者。

 わたしはショウが好きで好きでたまらなくなって、彼を心底愛さなくてはならない。わたしがショウと幸せになるために、アーヴェルは未来から戻ってきた。もしわたしが彼に恋なんてしたら、戻った意味がなくなってしまう。だからこの胸の高鳴りは、わたしだけの秘密だった。




 言いつけのとおり、出発の前日から、わたしは仮病を使って、体調が悪いと、パーティへの出席を断った。ショウはすんなり信じたし、アーヴェルも当然、反対なんてしなかった。 

 二人は五日ほど屋敷を留守にして、わたしは一人きりで過ごさなくてはならなかった。厳密にいえば、使用人がいるのだから一人ではないのだけれど、やっぱり孤独は孤独で、二人がいないのはつまらなかった。 

 小さい頃は一人きりなんて全然平気だったのに、いつの間にか、こんなに寂しいと思うようになってしまたのだ。


 だから二人が帰ってきたときは心の底から嬉しくて、飛び上がるような勢いで迎えに行ったし、実際ショウには飛びついた。ショウはその腕でわたしを抱き留めると、微笑み返す。


「無事に終わったよ。体調は大丈夫かい」


 そういえば仮病を使っていたのだった。

 大丈夫、と答えるとよかった、とショウは言う。こんなに優しい彼を騙しているというのに、その後ろにいるアーヴェルは、まるで自分には関係がないことのように素知らぬ顔をしていた。


「滞りなく進んだの?」


「いや、実はそうとも言いがたい」


 わたしの問いかけに、ショウは続ける。


「会場で若い男達が四人ほど行方不明になってな。後で気絶した状態で庭に放置されていたことが分かった。皆殴られたように顔が腫れ上がっていたが、誰に襲われたか覚えていないという。そんなことができるのは、魔法が使える人間くらいなものだろうが、一番やりそうな魔法使いはシラを切る」


「怖いこともあるもんだな。兄貴も気をつけろよ」

 

 ショウがチラリと自分の弟の方を見たけれど、アーヴェルはそう言って笑っただけだった。



 ◇◆◇



 思いがけない来客が来たのは、その日からすぐのことだった。


 ふらりと、屋敷の玄関口に現れたのは、かつてわたしを助けてくれた、バレリー・ライオネルだったのだ。 

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