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うそつき

 数日の間、わたしは北壁フェニクス家に泊まることになっていた。

 翌日の朝食の席に、ショウはいなかった。昨日やってきた親族たちを、見送りにいっているらしい。

 本当のことを言うと、ショウがいないことに、すごく安心した。大人の男の人は怖いし、もし本当に、ジェイドお兄様が言うように変態だったら、わたしのことをどうにかしてしまうかもしれない。


 向かいに座るアーヴェルは、大あくびをしながら言った。


「昨日の夜、考えてたんだが」


 突然話しかけられて、わたしは緊張した。


「やっぱりさ、これから、身支度手伝ってやるよ。俺か、まあ、使用人の古い奴が。お前それ、流石にさ……。もうちょっとなんとかなると思うんだ」


「……どう、して?」


「みてくれがいい方がショウが好意的になるだろ」別に、ショウに好意的になってもらわなくてもよかったけど、黙っていると、アーヴェルの言葉が付け足される。「それに、俺とお前は友達になるからさ」


 驚いて礼儀も忘れて椅子から立ち上がって、アーヴェルに問いかける。


「ほんと? ほんとうに、フィナとお友達になってくれるの?」


 アーヴェルは笑いながら頷いた。心がくすぐったい。ずっとお友達が欲しかった。ほっぺたが熱くなる。

 心臓がどきどきした。


「お友達ができたのって、はじめて」


 

 ◇◆◇



 朝ご飯を食べた後、アーヴェルが庭を案内してくれると言うから、一緒に歩いた。アーヴェルの手が目の前にあって、ふいにそこに触れたくなった。大きくて、温かそうだった。

 手を繋ぐと、微かに握り返してくれて、それがすごく嬉しかった。


「昨日の話、覚えているか?」


 庭を歩いていると、アーヴェルがそう言った。もちろん覚えていたけど、本当は嘘か夢か冗談だったらいいなと思っていた。

 はじめてできたお友達が、変なことを言うのは嫌だった。だけどアーヴェルは、言葉を待ってはくれなかった。


「改めて言うけど、俺は未来から来たんだ。不幸になるお前を幸せにするために」


「本当に……? だって、体は子供に見えるもん」


「精神だけ来てるんだ。お前が戻したんだぜ。未来のセラフィナを幸せにしろって暗に命令されてるんだ。お前はちょっとそういう……わがままなところがあるから」


 あんまり信じられなかった。


「未来のわたしが不幸なら、どうして自分で過去に戻らないの? 自分じゃなかったとしても、どうして大好きになるショウ……さんじゃなくて、アーヴェル……お兄ちゃんを戻すの?」


 昨日初めて会ったショウのことを、大好きになるってことも、全然ぴんと来ない。


「その魔法は自分には効果がないんだとさ。それに昨日言ったろ、ショウはクソサイコ野郎に殺される。だからお前は絶望して、過去に戻りたいと思うんだ。

 で、たまたま側にいたのが俺だったってわけ。他に選択肢がなかったんだ。まあそれなりに、信頼されたのかもな、義理の弟になるわけだし」


「うそつき」


 早口になるアーヴェルを遮るようにわたしが言うと、彼は驚いたように目を丸くした。


「……本当だ。嘘じゃないぜ」


「だってフィナは……魔法、使えないもん」


 ああ、とアーヴェルは答えた。心なしか、ほっとしたように見える。

 

「使えるようになるんだ。未来では」


「ほんとう?」


 びっくりするわたしに向かって、アーヴェルは確かに頷いた。


 それは、一つの光のように思えた。

 いつか。いつか、いつかわたしは、無魔法・無価値・無能のセラフィナじゃなくなる日が来るのかもしれない。兄弟たちも、お父様も、わたしを家族として認めてくれるようになるのかもしれない。一緒にテーブルを囲って、普通に笑い合って、そういう家族に、なれるのかもしれない。だとするとなんて素敵なことなんだろう。


「家族とも、仲良くできる? みんな、フィナのこと好きになってくれるの?」

 

 アーヴェルは微かに頷いた。


「未来では、そうなる。不幸になってもいいなら、話は別だがな」


 意を決して、わたしは言った。


「フィナは、不幸になりたくない。幸せになりたい。どうしたらいいの?」


 場所を居間に移したあとで、アーヴェルは、二度、違う人生を歩んだセラフィナ・セント・シャドウストーンの話をしてくれた。一度目は史上最悪の悪女として、二度目は不幸な花嫁として、わたしはどちらも、幸せではなかったという。

 最後に、アーヴェルは言った。


「俺の言うことをよく聞いて、いい人間になって、ショウを好きになるんだ。俺もお前を守ってやる。今度こそ、上手くいくさ」


 わたしは彼に頷き返した。

 これは二人の約束だった。彼はわたしを導いて、わたしは彼に従う。そうして、二人して、誰もが幸せになる道を歩むのだ。

 話の真偽は、まだ確かではなかったけれど、わたしはアーヴェルを信じることにした。アーヴェルといると、心がぽかぽかしたから。


「フィナね、誰かと一日中一緒にいたの、はじめてなの」


 秘密を打ち明けるようにそういうと、アーヴェルはまたしても、わたしの頭をくしゃくしゃになでてくれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはもう全力で懐きそうで、微笑ましいです♪
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