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5.5

 織田晋成。中一の春、一番最初の席が前後だったので俺が声を掛けた男。その銀色の髪に長身痩躯という人目を引く容姿は周りを遠巻きにさせていて、それが何だかとても哀しく思えてしまったのだ。俺も人目を引く容姿ではあるが、晋成に話し掛けづらすぎて相対的に俺の周りには最初から人が集まってきたから。後ろの席を向いて、織田くん?と言ってみると、配られたクラス名簿を見ながら「……いのうえ、せい?」と呟いたのが何だか凄く面白くて(フリガナもちゃんとフルネームの横に書かれているのに!)、確かに最初は同情から声を掛けたがこの時点で俺はかなり晋成のことを気に入っていた。自己紹介の際にしていた剣道部に入るという話を仲良くなる切欠にさせて貰ったが、話していくうちに彼も幼少期から剣道道場に通っていて、家が近所ということを知った。小学校の校区は違ったが。そして、その容姿とは裏腹にかなり話しやすくてよく笑う奴だということも分かった。授業中はいつ見ても寝ているか窓の外を見ていて、宿題だって一度もやって来なくて、何なら朝練のない日の一限には高確率で来なくて(一年の後半からは俺が毎朝引っ張って行った)、そのせいで成績はとてつもなく悪かったが、それでも垣間見える頭の回転の早さを俺はとても好ましく思っていた。

 初めての部活の際、いつもはだらりと下ろしている長い前髪をタオルで上げた姿を見て驚いたのは今でも覚えている。感情の読めない、銀色の長いまつ毛に縁取られた藤色で切れ長の瞳に見つめられると、蛇に睨まれた蛙のような気持ちになってしまう。美人の無表情は怖い、とはよく言ったものだ。ただ、俺と話しているとよく笑うので自然と部活中は隣にいることが多くなった。そのおかげで、晋成も段々打ち解けていくことが出来た……と思う。俺がいなければ、コイツは一体どうしていたのだろうか。なお、晋成が前髪を切って登校してきた日、クラスどころか学年が騒然とした。目がコンプレックスなのかと思っていたが、別にそういう訳ではないらしい。前髪を伸ばしていたのも突然切ったのも曰く「気分」だそうで。その頃にはもうなんか晋成のことを『そういう奴』として認識していたし、だから二年の春で突然ピアスを開けたことも、じわじわ穴が増えていったことにも特に驚きはしなかった。俺のことをよくイケメンと呼ぶわりには自分の容姿に全く自覚がなく、美人と呼ぶと鼻で笑う。気まぐれでテキトーで剣道以外に興味がない奴。織田晋成はそういう人間だった。

 

 ……のだが。ある冬の日、突然に。親友は変わった。

 今までの行いを反省し、生活態度を改め、成績が意味わからないくらい伸びた。晋成の弟であるこっそり光訓くんに話を聞いてみたが、光訓くんも詳しいことはわからないらしい。俺たちの結論は『このまま放っておこう』であった。いくら反省しても晋成は晋成のままで、変わったのは生活態度と成績のみ、今まで通りの気まぐれでテキトーな奴のままだったから。

 正直、俺は中学で剣道を辞めるつもりだった。しかし、最近の晋成を見て思い直してしまった。

 

(晋成となら、もっと剣道続けたいかもしれない)

 

 親には剣道を辞めろと言われている。幼少期から通わせたのはそっちのエゴの癖に、高校からは『そんなものに現を抜かしてないで勉強して家の病院を継げ』というスタンスになるらしい。猫のように気ままに生きる晋成が羨ましくなってしまったのかもしれない。自然と、国公立の医学部に入るため高校も県内有数の進学校に行くと思っていたが、受験シーズンが近付くにつれてなんだか嫌になった。多分、このまま進学してしまったら、この先の人生も親に決められてしまう。そんな気がした。

 最近の晋成は、成績がかなり伸びている。これなら、ギリギリ俺が親から許しを得られる程度の偏差値の公立高校――蔓来高校に、入れるかもしれない。蔓来は、剣道の強豪だ。きっと晋成は、推薦を受けた適当な私立高校に入ろうとしているのだろう。でも蔓来なら、きっと俺たちはまだ一緒に剣道が出来る。

 この縁を、手放したくはなかった。

一章終わり。

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