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 結論から言えば、俺は剣道がめちゃくちゃ強かったことを思い出した。それだけである。名前も忘れた中学との試合は、我が剣道部の勝利であった。

 当時から同年代では最強、セイシンコンビがいれば負けることはないとまで言われてたのに今の俺は大学で培った戦法を使えるのである。身体が出来上がっていないためパワーは足りないが、その分スピードで補える。


 剣道を始めた時期は覚えていない。気付いたら竹刀を握っていた。何故なら、我が織田家は剣道道場を運営しているからである。よく分からないけど由緒正しいらしく、何だかんだで代々続いている、らしい。何なら両親は幼馴染で、うちの剣道道場で切磋琢磨した仲らしい。だから父親のことは父さんよりも師範と呼ぶことの方が多いような気がする。俺は剣道が楽しくて、それこそ他のことを疎かにするくらいずっと剣道に打ち込んでいた。その結果、溜まりに溜まった他のことをやりたくなさすぎて余計剣道に逃げ、益々剣道が強くなり……というループに陥っていた。俺には剣道しかない、と思い込んでいたのかもしれない。多分そんなことはないのに。まあそれは()()の話であり、()()はそんな事にならないよう勉学にもそれなりに励もうと思ってはいる。

 

 光訓は剣道をしていない。正確には、いつの間にか辞めていた。同年代では負けなしだった俺が、数少ない本気で打ち合える相手だったことを思い出した。俺があまりにも剣道に夢中になっているから、跡継ぎは俺にすればいいと両親は止めなかったんだろうな。まあ前回の俺は実家を出て普通に就職してしまったんだけれど。確か道場は門下生の誰かが継いでいた筈だ。光訓は何で剣道を辞めてしまったのだろうと思ったが、何を考えても想像の域を出ないので辞めた。元々そんなに仲の良い兄弟ではなかったんだ、俺たちは。家族としての会話はあったが、好き好んで一緒にいる訳ではなかった。俺は光訓のことを何も知らない。でも今度は光訓と向き合おう。剣道を辞めた理由も、いつか聞こう。

 ちなみに和総も剣道をしていない。今はまだ。前回の、十六歳の和総は見た目こそギャルだが剣道に真摯に打ち込んでいた。全国大会にも出ていたと思う。あ、俺も出てました。

 

「織田、集中」

「はいすみません」

 

 考え事をしていたら師範……父親に軽く叱られてしまった。道場と中学が近いので、剣道部の指導もしに来てくれている。朝いなかったのは早めに来て色々と準備をしていたらしい。指導中の父親は俺のことを織田と呼ぶ。

 

(集中……勘を取り戻さないと、多分忘れてる)

 

 前回人生の八割方を捧げたものを早々忘れるとは思えないが、それでも五年のブランクは大きい、とも思う。身体は勝手に動くが、だからといって脳死でやる訳にはいかない。思い出せ、当時の俺は、何を考えて相手と対峙していた?

 

 

「晋成今日めっちゃ真剣だったじゃん」

 

 試合と、その後の合同練習が終わった帰り道。セイが肩を組みながら話し掛けてくる。

 

「何?何かあったん?」

(光訓が死んで、後悔してたらタイムリープしたんだよ)

 

 信じてもらえるわけがないので、適当にそれっぽい理由を述べておく。

 

「今までの俺があまりにもあんまりだったから、生活態度を改めようと思っただけ」

 

 適当だが、事実ではある。

 

「晋成くんが真面目になってくれるなら俺部長降りたいな~?」

「いや、剣道部をまとめられるのはお前だけだよセイ」

「大将がまとめてよ……」

 

 残念ながら真面目になったところで、人を束ねる器ではないのだ。セイには引き続き副将兼部長として頑張ってもらおう。

 

 家の前でセイと別れ(セイの家は俺の家からもう2つ奥の通りにある。小学校の校区は別だった)、防具袋から鍵を取り出し家に入る。

 

「ただいま」

「あ、おかえり~父さんは?」

「まだ学校いる」

 

 リビングに入ると光訓がいた。逆行してから初めて見る光訓の顔は、記憶より随分明るく見えた。

 

(違う、あの時から俺に怯えるようになったから……俺のせいじゃん、光訓が暗くなったのって)

 

 ちゃんと会話ができているか不安になる。俺はちゃんと光訓の顔を見れているのだろうか。不自然ではないだろうか。――光訓は、俺を恨んではいないのだろうか。

 遺書には、俺に対する言及は一言もなかった。あったのはたった一行の、人生への恨み言。でも、その恨みの原因を作ったのは、きっと俺だ。俺が、肉親である俺が、光訓の心を最初に折ってしまった。自分の好きなことを大々的に好きと言えないと思い込ませてしまったのは、俺だ。

 

(そんな俺が、俺の大好きな剣道に打ち込んでて恨まない訳がないんだよな)

 

 今回はきっと間違えない。光訓と仲良くなって、光訓がどんな奴だろうと受け入れて、光訓を死なせない。

 

 俺はもう、後悔したくないから。

 

「兄さん?」

「あー……光訓、俺、勉強したいんだけど」

「え?あ、部屋行くってこと?」

「いや、今まで全然やって来なかったからそもそもやり方がわからなくて……勉強方法、教えてほしい。お前成績良いだろ」

 

 まずは少しずつ、一歩ずつ。今の俺には説得力がないから、まずは近付こう。



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