バイラテラル・オペレーション
「彼は管理者としての任を終え、既にここを去りました」
星の光に似た髪色の少女リピカは、淡々と告げた。
「去った? 去ったって……」
唐突な事実の通告に、驚きを隠せない聖。彼女が口にする言葉を頭で理解しつつも、意味が頭に染み込んでこない。任を終えて去った。ということは、アドはもうここにいないということ。ここ、というのがどこを指すのか、具体的に言い表しにくいことに気付いたが、今はそんなことどうでもいいと、かぶりを振って空転しかけた思考を正す。
「待ってよ、君らは虚空の記憶の使いの者じゃないのか? 僕はてっきり、君らはその、なんていうか、人間とは違う存在で、虚空の記憶に携わる神様とか、精霊みたいなものだって思ってたんだけど、そうじゃないのか?」
ようやく出てきた疑問も、冷静に考えれば今はあまり関係のないことだが、とにかく疑問をぶつけずにはいられない。知らずリピカへ詰めるように身を乗り出し、回答を求める聖。
「違います。私も、彼も、神の使いや精霊ではありません。貴方と同じ人間です」
「同じ、人間……? だって、君らは」
二の句が継げず、聖はただ言葉を失うのみ。しかし、これまでアドやリピカと少なくない時間を過ごした中で、聖は彼らの振舞いに人間らしさを感じていた。リピカは滅多に口を開かないので何とも言えないが、少なくともアドに対しては「コイツ、本当に神様の使いか?」と思うことが多々あった。そういう存在、として受け入れてしまってからは特に何も考えなかったが、他人には知覚できない超常的な存在である点を除けば、彼らはどこまでも人間臭かった。だからこそ、聖は彼らに気を許せたのだろう。ただそうはいっても、聖はあくまで「人間みたいなやつだ」と思っていただけで、「もしかして人間なのでは」とまでは考えなかった。
「貴方との違いがあるとすれば、肉体の有無だけです」
無感動に事実を述べるリピカの言葉に、聖は思わず息をのむ。
「肉体の有無、って。それじゃ君らは、魂だけの存在なの?」
「魂の定義を私は存じません。イメージとしては近いかもしれませんね」
「なら、アドは成仏したってこと?」
言葉にするとなんとなく不謹慎かと思ったが、聞かずにいられなかった。するとリピカは、特に何の表情もみせはしなかったが、少しだけ考えるように間を取り、それから普段通り淡々と続けた。
「それは分かりません。そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれない」
彼女にしては曖昧な返答だった。普段のリピカなら、そういう言い回しはせず「お答えできません」というような、答えないにしてもハッキリした言葉を選ぶだろう。動揺している自分を慮ったのかと、聖がリピカの意図に思いを巡らせていると「失礼ですが、本題に入らせて頂きます」とリピカの方から話を先に進めてきた。
「彼、管理者から、伝言を預かっています」
「!」
聖が驚いて顔をあげる。
「お聞きになりますか?」
「もちろん」
食い気味にいう聖を見て、リピカが頷く。
「少し長いですが」
そう断りを入れてリピカは目を閉じ、暗唱するように口を開いた。
「これを聞いてるってことは、オレはもうこの世にいねェってことだ」
内容にドキリとするが、リピカがアドの口調を真似しているのでどうにも緊張感が保たれない。困惑と妙なおかしみが聖のなかでごちゃまぜになり、反応に困る。ひとまず伝言が終わるまでは黙っていようと、聖は大人しく続きを待った。
「……って言っても、オメェのことだからツッコミもしねェンだろうな。相変わらず笑いってモンが分かってねェわ。オレ様が死ぬワケねェだろボケ。勝手に成仏さすなタコ。別に死ンじゃいねェよ。つっても、ホントのとこはオレも知らねェから、あながち間違いってワケでもねェけどな。オレ自身、とっくの昔にくたばってるのか、今もまだ人間として生きてるのか、その辺りはよく分からねェ。それどころか、オレが普通に五体満足で生きてた頃、どこの誰で何者だったのか、そこからして分からねェンだ。オレの予想じゃ、さる王族の第一子で、ゆくゆくは世界の未来を担うロイヤルでセレブな超一流の人生を歩ンでたと思うが、まァそれはいい。問題はどうやら、アカレコ様にお願いされて仕方なくテメェの面倒を見るハメになって、ひとまずその役は区切りがついたってこった。あとはリピカがやる。口の利き方に気ィつけろよ? ソイツ意外と……ここは割愛します」
文句を言える立場にはないので、聖は頷くほかない。
「ンなワケで、オメェの子守りは晴れてお役御免だ。まったく、もうちょっと面白味のあるやつなら楽しめたンだが、オメェときたら年の割に妙に落ち着いてて、そのうえ生真面目なイイコちゃんでやがる。もうちょい悪い遊び覚えて、若いうちにできるバカやらかして人生楽しめっつーンだよ、ったく」
余計なお世話だ、と内心で毒づいてしまう。これじゃあ伝言というよりも、ただの聖に対するダメ出しだ。しかし聞いていて嫌な気分にならないのは、恐らくきっと、これがアドなりの激励や、あるいは照れ隠しなのだということが分かるからだ。つくづく天邪鬼なやつだと、聖は逆にアドにダメ出しをする。
「ンで、だ。こっからが本題な。オメェの役割についてだ」
少し緩んだ気持ちを引き締め、聖は言葉の続きを待つ。
「ぶっちゃけ、オレも正解は知らねェ。だが恐らく、オメェが考えている通り、オメェはアカレコ様から借りたチカラで、テニスに関わる今の現状をあれこれ引っ掻き回すのが役目ってので間違いないハズだ。ドーピングやら八百長やら不正に手ェ染める連中と自分を比較して、本当は自分がいるべきじゃない、とかなんとかクソ真面目に考えてるンだろうが、それについちゃ分けて考えろ。オメェに課されてンのは、恐らくもっと大きな別の何かだ。根拠はねェが断言してやる。オメェが能力を使うことで、一時的に他の選手に敗北を突きつけることになろうと、それは必要なコストだ。オメェに求められてンのは、目先の勝ち負けなンてしょーもねェ些事じゃねェ。もっともっと、その先にある何かだ」
その言葉に、思わず唾を飲みこむ。
「クソ真面目のイイコちゃんだからな、オメェは。もう少し分かり易く言ってやる。つまりだ、オメェはそのチカラを全力で活用して、あの反社ヅラや、仲間使って脅しかけてきたような連中を、表舞台でぶちのめす。それがオメェのやるべきことだ。ロクでもねェタチの悪ィ手段でテニスの世界を穢すやつらを、アカレコ様のチカラでやっつけろ。それをすることで、恐らくは何らかの役に立つンだろうよ」
金俣やカリル、そのほか自分を襲おうとした者の顔が浮かぶ。彼らのような選手を、また相手にしなければならないのか。そう思うと、重責とはまた別の、不安や恐れが心の中で顔を出す。しかし、彼らのような存在を放ってはおけない。
「心配すンな。何も全部オメェ一人でやれってワケじゃねェ。そのチカラで仲間を増やすンだよ。意味はイチイチ説明しねェぞ。そこまでバカじゃねェだろ。とにかくオメェは、自分が能力を使うことに罪悪感なんて覚えず、全力で駆使して表舞台にいろ。本来ならそこへ到達できるはずのなかった、資格を持たないド汚ェゴミクソ連中を追い返すために。なんでそれをオメェがって? ンなこた知らねェよ。そこは問題じゃねェ。やりたくねェってンならやめりゃいい。テキトーなとこで切り上げて、憧れのお嬢と仲良くミックスでもやりゃあいい。オメェにアイツ等をスルーできるンなら、な」
本心を指摘され、ひときわ強く心臓が跳ねる。
「ワリィが、オメェが続けるかどうかはオメェが勝手に決めろ。オレはオレでやることができたンでな。オメェと違って泥臭い裏仕事になるだろうが、元からそれを自分で希望したからな。仮にそっちが滞っても、こっちがどうにかすりゃ話は済む、ハズだ。たぶんな。くれぐれも言っとくが、オメェの仕事は表舞台だ。何があろうと、何を知ろうと、舞台裏にゃクビを突っ込むな。ソイツはオレの仕事だかンな。あれだよホラ、我々の間にチームプレーなンて都合の良いモンはねェってやつ。テニスでいうなら、これはダブルスじゃなくて、シングルスの二面展開だな。どっちかが勝てば良い。ン? そうなると決着つけるのはどーなンだ? まァいいや。ンじゃそういうワケだから、オメェもせいぜい気張れ。あばよ」
リピカが目を開き、聖と目を合わせる。
「以上です」
凛とした声色で告げる。
聖はまたも、開いた口が塞がらない。
「これが、伝言? これで全部?」
リピカが頷く。その瞳が、聖の決断を促すように向けられている。
――テニスの世界を穢すやつらを、アカレコ様のチカラでやっつけろ
言っている意味は、分かった。知ってしまえば、難しい話ではないのかもしれない。具体的な背景はきっとこれからも分からないままだろうが、どうやら聖が虚空の記憶のチカラを使ってやるべきなのは、自分とは違う意味で特殊な手段を用いる選手を追い出すため。本来なら立ち入る資格を持たない者たちが、表舞台に存在し始めている。それらを排除するために、聖が門番の役割を果たすのだと。聖がチカラを使うことで対戦相手の潜在能力を引き上げるのは、恐らく聖ではカバーし切れない部分を補う人員を増やすため。どこまで本当かは分からないが、アドの言葉を信じるならば、つまりはそういう話らしい。
「まったく……勝手なヤツだなぁ」
聖は大きくため息を吐く。アドの残した一方的な伝言に、いろいろと思うところはある。考えるだけ無駄だと言われたが、やはりどうして自分がそれを担うのかは気になるし、不正をしている連中など普通に証拠を見つけて告発すれば良いんじゃないか、なぜわざわざ表舞台で追い返すのか、そういう疑問がわいてくる。ただ聖は、心のなかでは何故か納得できていた。自分でも不思議だった。上手く言語化はできないものの、そういう当たり前えで普通の対応が及ばないからこそ、虚空の記憶がこういう形で介入してきたのだろうと考える。やや都合よく乗せられている感は否めないが、考えたところで答えは出せない。聖に与えられた役割はつまり、選手としての立ち回りなのだ。
――資格を持たないド汚ェゴミクソ連中を追い返すために
不意に、金俣の歪んだ笑みが脳裏を過ぎる。確かに連中は汚い。あんな奴らを、平然とのさばらせて良いとは思わない。だがしかし、聖はつい先日、その汚い相手に能力を使用して負けたのだ。自分の役割について深く知らなかったとはいえ、連中の突破を許してしまった。自身の敗北はもちろん腹立たしいが、それ以上に聖は悔しさで苦いものがこみあげてくる気がして、耐えるように拳を強く握りこむ。
「次は敗けない」
そう独り言ちて、静かに覚悟を固めた。
★
前髪が金髪であとは黒髪の若い女は、サマンサと名乗った。半年以上前から改修工事計画が止まっているこのスタジアムで、夜な夜な賭けのテニスを開催しているメンバーの一人だという。スポーツバブルに乗じて不動産でひと儲けしようとした経営者が失敗し、雲隠れしながらどうにか金の工面をする為に、地元の不良を使って秘密裏に運営されているという。無論、違法賭博であり、非合法だ。
「なンだ、5大マフィアとかじゃねェのか」
「そんなワケないっしょ。って、マフィアの方が良かった?」
安っぽい蛍光色のキャンディを舐めながら、サマンサが聞いてくる。運営が単なる社会からのはみ出し者の集まりだと分かると、目の前で繰り広げられている一見すると粗暴な雰囲気の草試合も、どこか牧歌的に見えてくるから不思議なものだ。もっとも、ある程度の収益を見込むつもりなのであれば、あまりにも殺伐とし過ぎては成り立たない。本物の荒くれ者どもを満足させるには、テニスはいささかインパクトに欠ける。
「てゆーか弖虎、あんた病人? その恰好はなに」
しげしげと視線をぶつけながら、サマンサが指摘する。名乗らないのも不自然だったので、一応この肉体の持ち主である弖虎・モノストーンを名乗ったが、アドは自分の顔を見てそう呼ばれることに激しい違和感を覚えてしまう。とはいえ、そもそも自分の本当の名前が思い出せない以上、これには慣れるしかなかった。アドはひとまず、自分は弖虎・モノストーンであるという暫定的な設定を受け入れた。
「色々あってな。で、アンタはオレに何の用? ナンパか?」
「違うっての。一人欠員出てさ。アンタ、テニスできたりしない?」
尋ねるサマンサは、どうやらダメ元で聞いたのだろう。その聞き方は断られること前提としているような雰囲気が出ている。理由は恐らく、今まさに目の前で行われている試合のレベルにありそうだ。ちょっとやそっとテニスの経験があるぐらいでは、とても太刀打ちできそうにないプレーを見せている。急遽とはいえ欠員が埋められないのは、賭けが成立し得るだけの実力を持つ者が、そう簡単に見つからないのだろう。
「参加しろってか? いいぜ。金も無ェし、いっちょここで稼がせてくれよ」
予想外の返答に、サマンサが大きな目をさらに広げて驚く。
「は? マジで?」
「今やってる雑魚どもよりは強ェぞ」
自信満々に、アドは不敵な笑みを浮かべる。
表情筋もやっとほぐれてきた気がした。
「マジで言ってる? 今やってんの、昼間チャレンジャーズに出てた選手だよ?」
チャレンジャーズは、大会グレードでいえば確かに下部大会だ。しかし出場するのはプロ、またはトップアマがひしめいている。それに開催地域によっては、出場する選手のレベルはATP250に匹敵することもあるほど。マイアミのあるフロリダ州は、アメリカの中でも最もテニスが盛んな場所だ。それを考えれば、マイアミのチャレンジャーズに参加する選手のレベルは、聖が参加していたバレンシアオープンに引けを取らない。
「そこで敗けた連中が、小遣い稼ぎに出てンだろ? 雑魚じゃねェか」
それを知ってなお、アドは傲岸な態度を崩さない。
「試合が一つ成立するだけで、ウチとしちゃありがたいけど……」
「オイオイ、誘ったオマエがビビってンじゃねェよ」
むぅ、と頬を膨らませるサマンサ。妙な検査着姿で初めて見る顔だったのでなんとなく声をかけただけなのだが、何やらこうも自信たっぷりに言われると、誘った手前断りにくい。少し考えると、彼女は腹を括って告げた。
「言っとくけど、アタシはアンタのペナ背負わないからね」
「関係ねェよ、あ、悪ィけど道具は貸してくれよな」
★
弖虎の身長は187㎝と、比較的高身長だ。しかしネット越しに対峙した相手選手の背丈はゆうに2mを超えており、細い身体つきの弖虎と見比べると、その迫力は段違いだった。様子を見ている観客からは、嘲るような雰囲気の口汚い野次が早速飛び交っている。コイントスをするために近寄った二人は、お互いの顔を見合う。弖虎を見下ろす形となった対戦相手は、ふと弖虎の顔を見てつぶやいた。
「あれ? オマエのツラ、どっかで?」
ことによれば、体の持ち主である弖虎が、この相手と知り合いである可能性も否定できない。しかしそれを分かったうえで、弖虎はそんな可能性を一切無視して、おどけるように言ってみせた。
「映画だろうな。なんせ、若き日のブラッド・ピットにそっくりだしよ」
相手は弖虎の言葉にはリアクションせず、どうにか思い出そうとしていた。
「ンなこたいいから、とっととやろうぜ。昼に敗けた分を取り返すンだろ?」
「あァ?」
「サーブくれてやろうか? そンぐれェのハンデはやらねェとな」
「ガキ、調子に乗るなよ」
喧嘩腰でにらみ合いながらトスを行い、結局は弖虎がリターンを選択。相手は舌打ちしていたが、内心ではそれほどでもないだろう。高身長かつ身体に厚みのあるこの選手が、サーブを得意としていないはずがない。譲ったことを後悔させてやると、その顔にありありと書かれているようだった。
コートに立ち、構える。
ネットの向こうでは、相手がボールを地面についている。
(あァ、こンなだったか)
その風景は、日本人の高校生である若槻聖の意識に間借りしていたとき、彼の意識を通して既に何度も見ていた。だがそれにも関わらず、アドにはどこか懐かしく、言いようのない感情が胸に溢れてくる。興奮と安心が入り混じった、奇妙な高揚感。楽しいという表現だけではまるで足りない、咽喉の渇きと潤いを同時に覚えるような気分に、感覚が研ぎ澄まされていく。
「オォ、ッラァ!」
相手の巨体がしなやかに、力強く伸びて跳び上がった。
轟音を響かせ、えぐるような回転と軌道でサービスボックスへ着弾する。
(良いキック打つね、やっぱサーブに自信アリか)
強烈なスピン回転をかけ、ボールが飛んでくる軌道とは逆方向へ高く跳ねるサーブ。スピードと威力、そして成功率を兼ね備え、相手のリターンを封じる。そのうえ、相手はアドの身体側を狙っていた。試合開始のファーストポイントでのボディ狙いは、いうなれば宣戦布告。返せるものなら返してみろ。そういう意図が見て取れた。
(好きだぜ、そういうの)
剥き出しの闘志を隠さない相手の態度に、好感を覚える。ふと、以前誰かに言われたことを思い出す。コートでは感情を出すな。どんな時でも感情を抑え、グッドプレイヤーでいられることが、テニス選手の品格だ、と。口うるさいので表向きではその教えに従ったが、内心ではクソ食らえだと思っていた。この記憶は、自分のものか、それとも弖虎のものか。判然としないまま、アドはボールに反応する。
「よっ」
飛んでくる軌道とは逆に跳ねるキックサーブを、アドは回り込まずに非利き手で捉えた。片手でラケットを握り、跳ね上がったボールをラケットのストリングスで撫でるように滑らせる。同時に手首と前腕の力で勢いを殺し、受け流す。ボールは進行方向を変えて弧を描き、ふわっと浮いた。アドのリターンに備えていた相手は、自分が虚を突かれたことを認識する。同時に前方へ向かって駆け出そうとするが、はたと足を止めた。ボールの軌道があまりにも短すぎるのだ。届かずにネットになる。そう確信し、その場でボールの動きを目で追う。
(甘いねェ)
しかしアドの打ったボールは、ギリギリのところでネットを超えた。そしてポン、と相手コートでバウンドしたあと、今度はさらにもう一度、ネットを超えた。まるで映像を逆再生したかのように。ネットを超えて相手コートでバウンドしてから、弖虎の自陣へと戻ってきたのだ。
自陣へ戻るこぼれ球
「久しぶりにしちゃ、上手くいったな。さすがオレ」
アドが不敵な笑みを浮かべ、自画自賛する。どうやら、身体が違おうともセンスは錆びついていないらしい。あるいは、この身体が持つ特殊性に何らかの秘密があるのかもしれない。現状では詳しいことなど分からないが、今はとにかく、自分の意志で身体を動かしてプレーすることに、アドは人知れず強い喜びを感じていた。
「天才の復活だ。愚民ども、ありがたく拝謁しやがれ!」
高まる興奮を抑えきれず、アドは挑発的にそう叫んで観客を煽った。
続き




