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093_ふざけた国王と優しい父親

今回は国王との謁見です。

093_ふざけた国王と優しい父親


列人から謁見の了解を取ったヴィルヘルムが早速国王へその旨を報告したところ、その日の夕方に返答があった。次の日の朝一番に来る様にとの事だ。

ちなみにバクラとジーニアスは既にコル村に向かっており、ここにはいない。

ミランダもジルといっしょに買い物中だ。コル村では色々女性に必要な物が不足していた為である。

つまりこの場には列人とヴィルヘルムしかいない。


「おい、ヴィルヘルム。この国王、いくら何でもフットワーク軽すぎないか?」


国王に会うのはまだ先の事だと思っていた列人は若干引き攣った表情で呟く。

それを理解してかヴィルヘルムもそれを肯定しながら応じる。


「ああ、俺もそう思うが自分や息子の命が掛かっているんだ。

それだけこの事を重く受け止めたという事だろう。・・・たぶん。」


「おい、たぶんってなんだ。

そういえばお前さっきの話し合いで国王をおっさん呼ばわりしていたよな。

お前って普段そんな事言わないよな。この国王、なんかあるんじゃないのか。」


「ああ、お前がどんな想像をしているかは知らんが色々癖の強い陛下ではあるな。

これについては今説明するより直接会って貰った方が早い。

だが少なくともお前の嫌いな権力を振りかざす人間ではない事だけは保証しよう。」


「そうだな。どうせ明日会うんだしその方が早いか。

よし、飯でも作るか。ヴィルヘルム、手伝え。」


「おい、レット。俺がここの家主だぞ。」


列人は少し気になりながらも特に深く追求はしなかった。

それよりも今夜の献立は何にするかの方が重要である。


そして次の日の朝、

列人とヴィルヘルムの2人が王城へと向かう。

今回国王に呼ばれたのは2人の為、ミランダとジルはお留守番だ。


列人達が呼ばれたのは王城の中にある王族が実際に生活している屋敷である。

この国の王城は所謂役所兼要塞であり、王族が生活する場所は別に用意されている。

実際王城なんぞ生活しようとしたら大きさや作りからして生活しにくい事この上ないからだ。

列人達がこちらの呼ばれたのはプライベートな呼び出しという事を意味している。


王の屋敷には王城の裏口から入る事ができるが、ここのセキュリティは表口より高く『0番隊員』も常に数人詰めている。

ちなみに『0番隊員』は十数名しかいない為、数人使うと言うのはよっぽどの事である。

実はミランダの護衛はかなり大事なのである。

(ミランダは列人の友人である為、なにかあったら間違いなくヴィルヘルムに火の粉が降りかかる)


列人とヴィルヘルムが王城の裏口に向かうと出迎えのメイドが数人待っており、メイドに案内されるまま王の屋敷へと足を進ませる。

王城は非常に広く表口から入る貴族などは馬車を使ったりもするのだが、裏口から屋敷はすぐの為、歩きで十分である。

屋敷は国王の住まいというだけあって立派ではあるが、決して派手ではなく質実剛健と言った印象を受ける。

生憎と列人は美術や芸術には疎いので構造上の頑丈さは分かっても外見の美しさについてはイマイチピンとこない。

きっと芸術が判る人間なら細工技術の高さや品の良い作りや飾りの秀逸さに目がいくのだろうがそれを分かれと列人に言うのは少し酷である。


王の屋敷についた二人は早速国王の書斎に案内される。

国王が内緒話をするのに好んで使う場所だ。

そこには赤色の髪で細身の50過ぎの初老の男が書類と格闘していた。


「やあ、来てくれたか。ヴィルヘルム。そちらがレット君だね。

悪いんだけど、ヴィルヘルムとレット君以外は退席してもらってもいいかな。」


初老の男は丁寧な口調で人払いをする。

その言葉を受けて使用人達は列人とヴィルヘルムを残し退出していく。

使用人の退出を確認すると男はため息を付き、先ほどとは打って変わって背もたれに体を預けだらけた格好をする。


「はぁ、使用人の前だと疲れるんだよね。レット君とヴィルも楽にして。

あ、自己紹介まだだったね。僕はアズイールだ。よろしくね、レット君。」


初老の男は自分をアズイール、つまり国王であると自己紹介する。

この変わりように列人の顔は引き攣り、ヴィルヘルムはいつもの事と言わんばかりにため息をつく。


「はぁ、陛下。流石に初対面の人間にはそれなりの態度があると思いますが、

国王としての威厳とかそう言った物があった方がいいと前々から私は申し上げております。」


「ねぇ、ヴィル。楽にしてって言ったよね。そんな喋り方されたら肩が凝るんだよ。

僕は国王なんだから言われた通りやってよ。」


「あのですね、陛下。レットは一応客人として来ているんです。身内ではなく客人として対応してください。」


「いや、だって面倒じゃん。そんな事しなくてもレット君が信頼できる事は分かっているんだからさ。」


列人はアズイールのあんまりな態度に絶句する。

しかも会って少ししか経っておらずこちらはまだ一言も話していないのに、もう信頼する気でいるようだ。

列人は困惑しながらもこのままでは埒があかない為、自分から話す事にした。


「お初にお目にかかります、国王陛下。

コル村のハンターチーム_エレメンタルズの列人です。

お会いできて恐悦至極と存じます。」


「あ、ごめんレット君。君の事、放ったらかしにして。

さっきも言ったけど堅苦しいのは無しにしよう。

僕なんて誰もやりたがらない国王なんて仕事を押し付けられている木っ端役人なんだから。」


この言葉に列人は度肝を抜かれる。

国王が自分の事を木っ端役人呼ばわりするなど前代未聞である。

その事について列人は思わずヴィルヘルムに問い詰める。


「なぁ、ヴィルヘルム。この人マジで国王陛下なのか。

俺が知る限りでは国王陛下は政治の天才で賢王だと思っていたんだが。」


「あぁ、その疑問は最もだ。この人は確かに政治の天才だ。

しかしそれ以外はかなり残念なんだ。」


「うわぁ、俺の周りってどうしてこんな濃い奴らばっかりなんだろうな。」


「おい!仮にも国王陛下だぞ。こんな奴呼ばわりはやめろ。

このおっさんじゃなかったら間違いなく不敬罪だぞ。」


「こら~、君達~。バッチリ聞こえてるぞ。

そうか。いい事思いついた。逆不敬罪を作ろう。」


「おい、おっさん。いきなり訳の分からない事と言うな。

そんな訳の分からない法律作ったら貴族共がうるさいぞ。」


「よし、いつものヴィルに戻ってきたな。

だって不敬罪って要は王様に対して、気に入らない態度をさせない為の法律だろう。

じゃあ、逆不敬罪があってもいいと思うんだよね。独裁政治万歳だね。」


「うわ、清々しいまでの職権乱用だな。」


こんなやりとりがしばらく続き、ようやく列人も場の空気に慣れてきたので本題にはいる事にした。


「じゃあ、本題に入るけど、そうだな。

本人の希望もある事だし陛下呼びは無しなんだよな。

取り敢えず呼び方ですけどアズイールさんで大丈夫ですか。」


「ああ、そうだね。一応こっちが年上だしそのくらいが呼びやすいよね。」


「おっさん、普通の国王は年下の平民に『さん付けでいいよ』とは言わん。」


「ヴィル、普通の騎士団長は国王をおっさん呼ばわりしないよ。」


「やかましい!さっき陛下って呼んだら拗ねたくせに。」


「記憶にございません。」


「ヴィルヘルム。お前も苦労してるんだな。」


「ああ、レット。このおっさんに構わず本題に入れ。」


「・・・ああ、わかった。まずアズイールさん。ぶっちゃけあんたと王子だが命狙われてるぞ。

星は魔族とジギスムント公爵だ。」


ようやく本題に入った列人の言葉にアズイールは相変わらずだらけた様子で


「そうか、やっぱりね。魔族の目的は魔王の復活と『炎の勇者』の末裔への復讐と言ったところか。

ジギスムントはこの間王様になりたいみたいな事言っていたし利用されているね。

全くなんでこんな面倒くさい仕事したいのかね。あの老いぼれ豚野郎ができるんならすぐに変わるんだけど。」


「おい、おっさん。少し発言に気をつけろよ。

今の状態であんた以外どうやって国を回せるって言うんだ。」


「そうかい。コツさえ掴めば誰でも出来ると思うけどな。

でもあの豚には無理だろうな。そもそも学習能力がないから。

・・・あと『俺』だけなら兎も角、ギルを狙っているってのは見過ごせない。」


「「・・・・・」」


今まで散々ふざけた態度を取っていたアズイールだが、息子に関する部分を口にした瞬間だけは恐ろしいまでの殺気が含まれていた。


「さて、レット君。他に僕に報告したり、やって欲しい事があったら言ってくれるかな。

君は息子の事は好きじゃないだろうけど、僕にとっては大切な息子なんだ。

なんとしても守りたいというのが親心だよ。」


この時、列人は盛大に冷汗をかいていた。

列人は自分の事を一切語っていないのにアズイールは全てを見透かした様に語ってくるからだ。

これが今、この国を動かしている国王の力なのだとまざまざと見せつけられている気分だ。


「なんでわかるのかって。簡単簡単。

今までの君の仕事ぶりを資料で見せてもらったけど、君は基本的に真面目な人柄だ。

婚約者がいるのに別の女と仲良くしている男は信用できないと言う考えに至るのは想像に難くないよ。

それとアカサカ=レットの噂かな。」


「・・・」


「だけどこれは親の欲目も含まれているかもしれないけどあの子を誤解しないで欲しいんだ。

あの子は周りから王様になれっていつも重圧を掛けられていてそれに答えようと必死だった。

おかげで才能はあるのに頭が固くなってしまうし、少し行き詰ると自信をなくしてしまう。

それでアミちゃんだったかな。近くに相談できる相手ができて嬉しかったんだろう。

別に婚約者のモニカちゃんを蔑ろにするつもりはなかったんだろうけど、どうしてもアミちゃんを気にしてしまう。

あの子はその事ですごく苦しんでいた。僕は不甲斐ない親だからその事に気づくのが遅かったんだ。

僕が気づいた時にはもうモニカちゃんの裁判が終わって修道院送りされた後だったしね。

やっぱり男親一人ってのはダメなのかな。」


アズイールの声と表情に後悔の色が濃く浮かぶ。

列人はこの時自分を恥じると同時にギルバートを羨ましく思った。

これほどまでに息子を思ってくれている父親がいる事に対してだ。

列人は父親を知らない。前世では捨てられっ子だったし、今世では覚醒時には父親は他界していた。

前世で引き取ってくれた育ての親はいるがそれはどちらかと言えば師匠の様な存在だった。

勿論、アルフレットの記憶で父親から愛されていた記憶はあるがそれはアルフレットのものだ。

だからだろうか。この父親の力になりたいと強く思ってしまった。


「わかりました。俺のできる限りでよければあなたとあなたの息子さんの力になります。

つきましてはいくつか聞いておいて欲しい事があります。ヴィルヘルムもいっしょに聞いて欲しい。」


列人は二人にしっかりと口止めをした上で自分の素性と『アナスト』について話した。

そして自分と同じ境遇に百香=モニカと亜美=アメリアがある事についても話した。


「なるほどね、レット君。君達の事情は理解したよ。

取り敢えずすぐにどうにかしないといけないのは5月の学園襲撃だね。

君はどうするのが最善だと思うかい。」


「そうですね。息子さんがもっと強くならないと話になりません。

俺が炎の剣の使い方を教えます。」


「え!炎の剣だって!」


「おい、レット。そこまで話していいのか!」


列人の発言にアズイールは目を丸くし、ヴィルヘルムは慌てて止めようとした。

だが列人の決意は変わらない。


「今からお見せします。『赤刀』」


「!!」


列人はアズイールの前で『赤刀』炎の刀を出現させる。

アズイールは王族以外が炎の剣を発現させた事とその圧倒的な熱量に驚愕した。


「どうでしょうか?俺はあなたの息子の師匠足り得るでしょうか。」


「・・・ああ。こんな凄まじい熱量の剣。おそらく歴代でもこれほどのものはないと思うよ。」


「この事は特に強く口止めさせてもらいます。

それは息子さんが俺の師事を受けると決めた時も同様に口止めさせて頂きます。

俺は『炎の勇者』になる気はありません。

俺の目的はあくまでもコル村の平和です。」


「ああ、それは理解しているよ。

それよりどうしてギルの事を息子さんと呼ぶのかい。」


「俺は彼の事をよく知らないし、まだ認めていません。

俺はこれからしばらくミランダ=コースト伯爵令嬢の護衛として学園に忍び込みます。

その時に再度息子さんの資質を図らせて頂きます。

そこで不合格ならこの話は無しです。

この事はあなたから直接息子さんに伝えておいてください。」


「わかったよ。でもどうして直接なんだい?」


「俺の見解ですが、あなたは息子の事を大切に思っていますが、息子さんにはそれが十分に伝わっていないようです。

だから平民の亜美ちゃんに少し悩み相談をしてもらっただけで好意を持ってしまう。

まあ、亜美ちゃんは面倒見がいいからそれだけじゃないかもしれませんが。

それでもあなたの言う通りなら息子さんの判断の甘さは自信のなさからくる物と俺は考えています。

父親のあなたが適切な助言と愛情を注げば息子さんの才能が今よりもいい方向に働くのではないかと思います。

人間言葉にしないと何もわかりませんから。」


列人の言葉にアズイールは息を吐きながら呟く。


「やれやれ、言葉にしないとわからないか。本当にその通りだね。

今まで誰もそんな風に僕に言ってくれる人はいなかったからね。

君と話せて本当によかったよ。レット君。」


アズイールのその顔はどこにでもいる息子を思う優しい父親の顔だった。

国王_アズイールは色々ブッ飛んでる人物ですが、その本質は息子思いのダメおやじです。

本当は国王なんてやりたくもないけど、国が傾くと自分ひいては息子がやばいので仕方なくやっています。


このアズイールが筆者に降りてきた時、筆者はシリアス過剰摂取で苦しんでいました。

コメディ成分が欲しかったけど、なんか最後はしんみりしちゃいましたね。

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