092_赤色は頼ることを知る
久しぶりにヴィルヘルム登場です。
今回は今後の行動方針についての会議です。
092_赤色は頼ることを知る
王都での二日目の朝、
列人達は朝食を済ませた後、すぐにヴィルヘルムの家へと向かった。
王都は王城を中心としており、その周りに貴族が住む貴族街、
その周辺に裕福な平民が住む高級住宅街(高層)、
さらにその外側に中~低級層の平民が住む低層住宅街(低層)となっている。
ちなみに亜美はこの低層の出身である。
亜美が金にがめつくなったのもその影響かもしれない。
ちなみにヴィルヘルムの住むのは高層の中でも低層に近い位置である。
騎士団長としてはかなり質素なのだが、本人は元々低層の出身の為、特に気にしていない。
これを理由にヴィルヘルムを見くびる貴族も一定数存在するのだが本人はどこ吹く風である。
むしろそういう貴族とはお付き合いしたくないので篩に掛けられて丁度いいと考えている。
列人達がヴィルヘルムの家に辿り着く。
「ここがヴィルヘルムの家だな。」
「えっと、意外とこじんまりしてるんだね。」
「ちょっと騎士団長閣下が住んでる家だとは思えないわね。」
家は2階建ての一般的なレンガ建築でここに住んでいるのが騎士団長と言っても誰も信じない様なこじんまりしたものだ。
まあ、男が一人暮らしをしていて、しかもほとんど城につめているのだから大きな家は不要である。
列人とバクラがここに来るのは初めてではないし、住んでいるのが田舎なのでなんとも思わないがジーニアスとミランダはいささか驚いたようだ。
早速中に入る為、列人が扉をノックする。
コンコン
「すみません、列人です。ヴィルヘルムさん、いらっしゃいますか?」
一応周辺住民への体裁を考え、列人は猫を被って家の中にいるであろうヴィルヘルムに呼びかける。
「はい、今出ますね。」
すると家の中から聞き覚えのある女性の声が返事をする。
騎士団長補佐官のジルである。
どうやらジルも今回の話し合いに呼ばれていたようだ。
僅かな時間待つと、薄い紫の混じった長い黒髪、紫の瞳の女性ジルが扉を開いた。
「お待たせしました。今、部屋まで案内いたします。」
「「「「はい、お邪魔します。」」」」
ジルに案内され居間まで行くとそこに金の短髪、緑の目の筋肉質の男、ヴィルヘルムが待っていた。
「やあ、列人にバクラ、久しぶりだな。
ジーニアス君とミランダさんは直接会うのは初めてかな。」
「お初にお目にかかります。騎士団長閣下。
私、コースト伯爵家のミランダでございます。」
「お会いできて光栄です。閣下。
ウォルト伯爵家の三男ジーニアスです。以後お見知りおきを。」
ミランダとジーニアスは貴族の礼を取りヴィルヘルムに挨拶する。
「ああ、こちらこそよろしくお願いします。
ジーニアス=ウォルト様、ミランダ=コースト様。」
ヴィルヘルムも貴族に対する礼を2人に返す。
それを見ていた列人が思わず声をあげる。
「なあ、お前ら。そういうのはいいだろう。それよりさっさと話を始めよう。」
「レット、お前な~。こういう挨拶は結構大事なんだぞ。
コル村でもキチンと挨拶するだろう。」
「いや、ヴィルヘルム。
別に挨拶が悪い訳じゃなくて貴族風のまだるっこしいのはいらないんじゃないかって話。
ここにいる人間は全員信用出来ると思っているから他人行儀は無しにしたいんだ。」
「そうか、ではジーニアス君、ミランダさん、君達もそういう事でいいかな。」
「ええ、その方が話しやすくていいです。」
「私もそうさせていただけると助かりますわ。」
「じゃあ、早速始めようか。ジル、すまないが皆に飲み物を。」
「はい、閣下。ただ今。」
「ジルさん、俺も手伝います。」
ジルの手伝いを申し出る列人に対して、ヴィルヘルムが呆れた風に呟く。
「なあ、レット。なんで俺にはタメ口でジルには敬語なんだ。」
「いや、それは礼儀正しさの差じゃないかな。」
「まあ、アルは大人の女性にはこんな感じだからな。」
「ああ、ただしゴリラと馬鹿女は除く。」
列人は大人の女性に対して礼儀を忘れない。
そして一応列人の中では百香も大人の女性扱いらしい。
あと昨日あった少女達(馬鹿女)については大人になってもきっと敬語は使えないと思っている。
列人とジルが飲み物とお茶請けの準備を終えたところで話し合いが始まった。
まず列人とバクラが現在の状況について説明する。
「そうか、つまり黒幕はジギスムント公爵家とそれを裏で操る魔族というわけだな。
これはかなり厄介だな。もっとも救いといえば王族が敵に回っていない事だな。
陛下はジギスムントを危険視していた。」
「陛下はお前にそんな事も話していたのか!」
「ああ、俺はこれでも陛下にそれなりに信用されているからな。
あのおっさんは俺をよく扱き使うからな。」
「え!」
「おっさん、ですか。」
ヴィルヘルムの発言にジーニアスとミランダが驚愕する。
普通に不敬罪ものの発言である。貴族ならまずしないしヴィルヘルムの様な国に忠誠を誓ったものも当然しない。
これが許されているのだとしたらよほど親しい間柄である事を示唆している。
ちなみにヴィルヘルムが40手前なのに対し、国王アズイールは50そこそこなのでまあおっさんと言っても差し支えない年齢差ではある。
「ああ、それでレット。陛下はお前に会いたがっている。
この間のモニカ嬢の裁判の件を陛下にお話したら、そこに辿り着いた者に会ってみたいと言っていた。
どうする?権力者嫌いのお前が会いたいとは思わないだろうが。」
ヴィルヘルムは試すような口調で列人に問いかける。
これに対して列人はわずかにムッとした表情で応じる。
「ヴィルヘルム。それ、わざと言っているだろう。
俺は権力者や権力そのものが嫌いなわけじゃなくて、『権力を振りかざす人間』が嫌いなんだ。」
「じゃあ、会うと言う事でいいんだな。」
「ち!しまった。乗せられた。」
「アル、半ばこうなるのは予想していただろう。」
「それでも会わないで済むならそれに越したことはないからな。」
列人はヴィルヘルムに乗せられた事に苦虫を噛み潰した様な顔をする。
確かにバクラの言う通り、国王に会う可能性は十分考慮していたが自分で会うとは言いたくなかった。
平民の自分が国王に会う等、厄介事の匂いしかしない。
「一つ、団長閣下にお話しておきたい事があるのですが。」
ここでジーニアスが神妙な表情でヴィルヘルムに話を持ちかける。
「実は、この後我々は村に戻ってモカ、えっとモモカさんの提案である作戦を行う予定なのですが、その際に王都でも動きがあるかもしれません。
つきましては、王都とコル村の連絡をより密にしたいと考えています。
連絡係として僕がコル村を担当し、王都をミラ、えっとミランダ嬢が担当しようと考えています。
ですので団長閣下からミランダ嬢に連絡チャンネルを開いていただければと考えております。」
「確かに必要かもしれないが、学生の君達を危険に晒すのは気が引ける・・・と言う理由は受け付けないんだろう。
君達は既に当事者で命を狙われているのだから。何人か俺直属の『0番隊員』を『学園』に忍ばせよう。
あのザル警備なら簡単に抜けられるだろう。ミランダ嬢の護衛としても使うといい。」
「ヴィルヘルム、その『0番隊員』はどの程度の実力だ。」
「そうだな、レット。トーマスなら100人居ても話にならない程度かな。
俺を倒すには10人居ても足りないだろうが。」
「そのくらいなら、まあ護衛としては及第点かな。
でもそれだとミラの方が強いかも知れないぞ。」
「へぇ、そうなのかい。ちなみにミランダ嬢はどのくらい強いんだ。」
「列人式ヒーロー育成術オリジナル版の初級編を難なくクリア出来る程度だ。」
「そうか。オリジナル版か。それはかなりやるってことだな。隊員を鍛え直すか。」
「閣下、それはおやめください。閣下も含め今ここにいるのはデタラメ人間だらけなのですから。」
「ジル、酷い言いようだな。」
「事実を言ったまでです。付き合わされる私の身にもなってください。」
「「・・・・」」
この会話にミランダとジーニアスは思わず絶句した。
騎士団長直属の『0番隊員』といえば国の精鋭中の精鋭、戦闘能力だけでいえば『0番隊員』一人と他の隊の一個大隊が戦っても『0番隊員』が勝つと言われているほどだ。
しかも聞き捨てならない事に国内最高を誇る『学園』の警備は『0番隊員』にとってはザルらしい。
そんな『0番隊員』に自分達は勝てる可能性があるとお墨付きを貰ってしまった。
如何にコル村での訓練が規格外だったかを思い知らされてしまった。
またこの会話からヴィルヘルムも列人寄りである事が2人はわかった。
実はヴィルヘルムはこの世界で唯一の列人式ヒーロー育成術オリジナル版上級編の攻略経験者である。
つまり現在のバクラと互角近い実力の持ち主と言う事になる。
それも霊力無しでと考えるとその凄まじさは想像を絶する。
列人に出会ってからの9年間でヴィルヘルムが如何に振り回されながらそれでも食らいついたのか、その努力と根性は計り知れない。
「話は大体いいかな。君達の今後の予定を聞いておきたい。
ちなみにレットが一回コル村に帰ると言うのは無しだ。
王都とコル村を一日で往復できる事はできれば周りに知られたくない。
なにより陛下との謁見の準備が必要だ。」
「まあ、当然の要望だな。
しばらくミラの護衛は俺がやろうか。『0番隊員』の準備には時間がかかるだろう。」
「そうだな、レット。そうしてくれ。」
「え!でもあなた『学園』内に入れるの?」
「ああ、ヴィルヘルムの話を聞く限り問題ない。俺も百香程じゃないが隠密行動ができないわけじゃないからな。」
「ありがたいんだけど、村のことはいいの。みんなあなたを頼りにしているけど。」
「ああ、心配ないだろう。物資はまだ全然余裕があるし、いざとなったらバクラがグレートサイクロン号を出せばいい。
防衛も百香、亜美ちゃん、バクラがいるんだ。むしろ過剰戦力だろう。それになにかあればフィオが連絡してくれる。」
「・・・・」
この言葉を聞いてバクラはわずかに笑みを浮かべる。
ようやく列人が他の者を頼るようになったから、そしてその中に自分が含まれているからだ。
「それじゃ、話し合いはここまでかな。
バクラ達は帰って百香の例の作戦に参加するんだろう。」
「ああ、そのつもりだ。立場上俺がいた方が自然だろう。」
「あんまり百香が無茶しない様に2人が見張っておいてくれ。
あいつ色々溜め込む癖があるから。」
「わかってるよ、レット。君達は本当に似たもの同士だね。」
話もまとまり、今後の予定が決まったところでこの会はお開きとなった。
次の予定へ向けて、各々動き出すのであった。
本編には書いていませんが、今回もヴィルヘルムとジルは結構振り回されています。
国王への連絡や直属の『0番隊員』の手配。
それらを通常業務の合間を見て行っている為、なかなか多忙でした。
最も普段行われているトラブル処理に比べればまだ実りがある内容なのがせめてもの救いです。
最近は百香がトラブルをある程度未然に防いでくれているので、ヴィルヘルムは以前より楽になったと喜んでいます。




