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091_貴族の矜持と過保護な赤色

今後の行動方針についての話です。


列人は心配性です。

091_貴族の矜持と過保護な赤色


「おい!お前ら遅いぞ。何をしてたんだ。」


「すみません、バクラさん。少し馬鹿に絡まれてしまって。」


「なにか問題はなかっただろうな。」


「はい。その点については大丈夫ですよ。

レットはキチンと我慢出来ていましたもの。」


「そうだね。あそこまで我慢しているレットの姿ってのはかなり珍しいよね。」


「まあ、ミラとジーニーが言うなら大丈夫なんだろうが。

まあ、食事をしながら報告してもらおうか。」


「はい、わかってますよ。バクラさん。」


バクラに呼び出されてギルドの食堂に急いだが、呼び出された時点で結構な時間が経っていた為、やはりというべきか怒られてしまった。

これは食事中説教コースだなっと列人は少し憂鬱な気分になっていた。

尚、列人は未だに猫かぶりモードを継続中である。


「では、何故遅くなったかを説明します。そこで手に入れた有益な情報もいくつかありますので。

・・・・」


「なるほど、今の『学園』はモニカを快く思わない生徒が幅を利かせているという訳だな。

そうなるとミラにはあまり好ましくない環境の様に思えるが、このまま戻っても大丈夫なのか?」


バクラがミランダに気遣わしげに質問する。


「お気遣いありがとうございます。

でも私が戻らないと殿下とトーマスに危険を伝えられませんので選択の余地はありません。

私はこれでも貴族の端くれです。国と民を守る義務があります。」


「すまない。本当は僕も一緒に『学園』も戻った方がいいんだろうけど。」


「ジーニー、どのみちコル村と王都を仲介する人間は必要になってくるでしょう。

ジーニーがそれをしなくてもきっとレット達は私達を助けてくれるでしょうけど、それでは甘えっぱなしになるでしょう。」


「そうだね、こういう話になると君に頼りっぱなしだよ。

いつも迷惑掛けてすまない。」


「あら、ジーニー。そこは『ありがとう』でしょう。」


「そうだね、ありがとう。頼りにしてるよ。」


「ふふ、任せておきなさい。」


ミランダはバクラとジーニアスの心配に対して真剣にそして笑顔で返事をする。


「それではまずは、現状把握からいきましょう。

まずはバクラさん、今後の予定をお願いします。」


「ああ、レット。まず明日ヴィルヘルムに会いに行く。

そこでの話の流れにもよるが、もしかしたら国王陛下にも会わないといけないかもしれない。

そうなるとモモカの考えた例の作戦に間に合わなくなる。」


「それでしたら2手に別れましょう。

バクラさんとジーニーは騎士団長との会談が終了しだい村に帰還、

俺はその後ミラを『学園』まで送ってそれが終わったら団長と一緒に陛下に会う。

それがベストだと思います。」


「「「!!!」」」


列人のこの発言に3人は驚愕した。

列人が自分から権力者に会うと言ったのだ。あの権力者嫌いの列人が。

その事を察したのか列人が何故その考えに至ったかを説明する。


「ああ、俺の性格を考えると確かにこの提案は疑問ですよね。

でも俺の想像が正しければ国王陛下は大丈夫です。

あの人は間違いなく賢君だと思いますので。」


「「!!!!」」


「君もそう思うのかい。レットはやっぱり凄いよ。」


列人の発言に驚いたのはバクラとミランダで、ジーニアスは列人の意見に同意し賞賛していた。

その意味が分からずミランダが思わず疑問を口にする。


「ちょっとあんた達なに言っているの。

確か今の国王アズイール=フラム=オランジェ陛下の評判は可もなく不可もなくって感じだったと思うわ。

政策は失敗はないものの大きな成果もない。良くも悪くも凡庸というのが世間の評価よ。

これは不敬かもしれないけどどうしてあんた達は陛下に対してそんなに高評価なの?」


ミランダの言う通り、今の国王アズイール=フラム=オランジェは世間では凡庸つまり普通である事で知られている。

政策は全て可もなく不可もなく、別名凡庸な名君と呼ばれている。これには普通過ぎる事に対する皮肉がこもっている。

だが列人とジーニアスの考えは違った。この場の4人以外聞こえない小さな声で列人がミランダに語りだす。


「なぁ、ミラ。今の国ってどういう状況か知っているか?

はっきり言ってやばいでは済まされない程内部が腐っているんだ。

俺は今まで腐った貴族や騎士団員を何人も見てきたがそんなのはおそらくごく一部だろう。

時々、王都で情報収集するだけなのに俺はごまんと政治の腐敗の話を耳にする。

それなのに国民は普通に生活できている。大きな争いも外国との戦争の兆しもなく平和だ。

これはおそらく国王陛下が絶妙なバランスで政治の舵を切っているからだと俺は推測している。」


「レット、僕も同意見だよ。

付け加えるなら今政治中枢にはおそらく魔族がいる。にも関わらず政治を好き勝手にさせていない。

よほどの手腕がないとこんなまねできないよ。」


「まあ、そのせいで細かいところまでは手が行き届かなくなっているがな。

モニカの裁判がいい例だ。」


「「・・・・」」


真面目に政治の話をする列人とジーニアスにバクラとミランダは驚きのあまり沈黙してしまう。

『学園』でも屈指の頭脳を持つジーニアスなら兎も角、普段脳筋、力こそパワーの列人が政治について語っているのだ。

これに違和感を感じずにいられないのは当たり前である。

だがヒーロー、というより22世紀の人間を舐めてはいけない。

以前22世紀のゲームに時間感覚を圧縮する技術がある事はお話しただろう。その技術は当然教育現場においても使用される。

つまり22世紀の人間はわずかな時間で大量の知識を学習することができるのである。

22世紀の人間がその気になれば小学校高学年の年齢で大学卒業のカリキュラムを終わらせる事だってできる。

列人はヒーローだ。必要な知識として政治学なども含まれており、その知識による分析を行ったまでだ。

ちなみに百香も亜美も同じことができる。コル村が平和なので使用しないだけだ。

このせいで亜美は『学園』での立ち回りに相当難儀していたようだが。


「さて、だいたいの方針はこんなところでいいでしょうか?

バクラさんが残るという案もあるとは思いますが、俺はあまりオススメしません。

バクラさんが村から離れるのは村にとって色々とよくない。」


「「うん、うん。」」


「・・・・・」


列人の意見にジーニアスとミランダが頷き、バクラは黙り込む。

理由は当然、バクラとメリッサが離れている期間が長くなると危険だからである。

おそらくタイムリミットは明日だろう。

まあ、それを抜きにしても村にバクラがいる事でよからぬ事を考える者に対しての抑止力となる。

元Aランクハンター『鉄壁』の名は伊達ではない。


「なにか質問はありますか?

なければこれでお開きにしたいと思いますが。」


「じゃあ、レット。質問というより相談なんだけどいいかしら?」


「どうぞ、ミラ。」


「私が『学園』に戻った時なんだけど、いっそレット達の素性を明かして殿下達に協力してもらうというのはどうかしら?

殿下は『炎の勇者の再来』って呼ばれているくらい戦闘能力は高いし、政治にも明るいからきっと力になってくれると思うの。」


このミランダの提案に列人は渋い顔をする。


「ミラ、俺はあまりその案には賛成できないかな。

まず俺から見て王子が完全に味方だとは思えない。

仮に味方になる気があるとしても無能だと思うから手元にいて欲しくない。」


「・・・その根拠は?」


列人のあまりに不敬な返答にミランダは声を低くして理由の説明を促す。

彼女からすれば忠誠を尽くすべき王族が侮辱されたのに等しいからだ。

列人はそれがわかった上であえて言葉を選ばずに自分の判断を口にする。


「まず、モニカの裁判の時だ。

あれはモニカが否認していようとしていなかろうと徹底的に調べるべきだった。

あの裁判はどう見てもモニカを陥れる為だけに行われたものだ。

俺は百香から断片的な情報しか聞いていなかったが怪しさ全開の内容だった。

これは王子の判断力が十分でない何よりの証拠だ。

大体自分の婚約者を必死で守らずに他の女に目移りする姿勢が気に食わない。

次に戦闘能力についてだが、王子は今のバクラの『アイアンウォール』を破れるくらい強いのか?

あれはアースドラゴンの攻撃を防げるくらい頑丈だぞ。」


「・・・・・」


列人の意見にミランダが押し黙る。列人も猫かぶりモードが剥がれるくらい感情的になっている。

バクラを呼び捨てにしているのがその証拠だ。


「さらに言わせてもらうなら、王子の炎の力は俺の『炎槍』より弱いらしいじゃないか。

『炎の勇者』って言うのは剣をマッチ棒替わりにできれば誰でもなれるのか。」


「おい、どうした。レット。流石にらしくないぞ。

何をそんなに苛立っているんだ。」


列人の様子があまりにおかしい為、バクラが問い詰める。

それに列人は苛立たしげに答える。


「それはミラの認識が甘すぎるからだ。今のミラは王子より遥かに強いんだ。

言ってしまえばミラは『学園』における最大戦力なんだ。

それに加えて王子は人気はあるものの戦闘力、政治力ともに俺から見れば落第だ。

そんな人間に頼ろうとすれば死ぬのはミラだ。」


「つまりレットはこう言いたいのかい?

ミラが王子に頼る事で足を引っ張られ窮地に陥る可能性があると。

だから余計な事を王子に言うべきではないと。」


「・・・概ねその通りだ。

さらに言わせてもらえば俺は王子が死のうが正直どうでもいい。

本当はミラには王子の事は考えずにコル村に来て欲しいとさえ思っている。

『学園』は今のミラにとって、危険な上に頼れる味方も皆無と言っていい。

だがそれはミラにはできないんだろう。」


「ええ、さっきも言ったけどそれはできないわ。

私はどうあがいても貴族で国民から食べさせてもらっている人間なの。

だから私には国と国民の為に働く義務があるのよ。

これだけは譲れないわ。」


「・・・・」


ミランダの安全を気にして苛立つ列人に対して、ミランダははっきりと言い切る。

数秒間黙ったままお互いに睨み合っていたが、先に列人の方が折れた。


「悪かった、ミラ。君からすれば友人を馬鹿にされた気分だったんだろう。

それに君の信念に対する配慮も足りなかった。

だが友として言わせてもらえば君には君の安全を一番に考えて欲しい。

あの腐った『学園』に戻れば間違いなく君が標的になる。

そんな事先ほどのあのクソアマ共の様子から簡単に想像できる。

もう行くのは止めないがこれだけは忘れるな。

ここにいる者、そしてコル村全員が君の味方だ。なにかあれば助けを呼べ。」


「ありがとう。でもどうやって?」


「まず、『メッセージアイリス』を肌身離さずに持ち歩く事。

それには通信以外に発信機つまり位置を知らせる機能がある。

それを持っていれば百香には君の位置がわかるからすぐに助けに行ける。

だからなにか危険な事がありそうだと思ったらすぐにそれで助けを呼べ。

俺は王都までなら最短で2時間くらいで付けるからそれだけ粘ってくれれば助けられる。」


「はあ!王都まで2時間ですって!!」


「ミラ、レットはバンの街までグレートサイクロン号を引きずった状態で20分切った事があるんだ。

荷物なしの全速力ならそのくらいで行けるだろう。」


「レット、君は本当に規格外だね。」


「俺のことはいい。他になにかあるか?」


「いえ、ないわ。」


「そうか、では解散で構いませんか?バクラさん。」


「はぁ、取ってつけたように猫を被り直すな。俺は問題ない。」


「では解散だね。」


なぜか最後はジーニアスがこの場をしめた。

皆言いたい事も言い次の行動に向け、今は休息をするのであった。

今回この国王の話とか国の状況の話を少ししましたが、今後の話にも絡んできます。

その辺も見て頂ければと思います。

あと、列人は懐に入れた人間にはかなり甘いです。

ミランダに対して過保護なのもそのせいです。

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