089_なんでいけると思えるのかが不思議でたまらないわ
とうとう列人が王都に向かいます。
今回は移動回です。
089_なんでいけると思えるのかが不思議でたまらないわ
列人達はミランダを『学園』に送る為の準備をしていた。
王都に行くメンバーは列人、バクラ、ゲオルグ、ジーニアス、ミランダの5人だ。
正確にはゲオルグは途中のチル集落までだ。コルト病の経過確認の為である。
フィオの情報(バンの街のデータベースをハッキングで確認)では特に問題ないとの事だが、自分の目で確かめたいとの希望である。
ゲオルグはチル集落に下ろしてもらった後はしばらくそちらで活動するそうだ。
その間に必要そうな薬の知識はすでに百香に伝授している。
百香と亜美とフィオはお留守番。
百香と亜美は村の防衛の為、フィオは連絡係として村に残ってもらう事にした。
この時バクラがごねるのではないかと皆思ったかもしれない。
王都に行くと言う事は即ちメリッサと1日以上離れる事になるからだ。
しかしよく考えて欲しい。今回王都行きを決めたのはバクラだ。
ヴィルヘルムと話ができるのは村では列人とバクラしかいないが、列人だけでは色々不安が有る。
今回の件でバクラの王都行きは必須と言ってもいい。
そしてバクラは少しの寂しさよりメリッサの安全を優先できるくらいには理性が働く。
いや、愛が深すぎて理性が働いていないから安全を最優先すると言うべきかもしれない。
そして移動手段は例によってグレートサイクロン号であるが、今回は操縦者はバクラである。
列人が引くとなるとモンスターに対応する時いちいち止めなくてはいけない。
(ゴブリン程度ならひき逃げできるが、それより大型だとちょっと厳しい)
バクラとミランダは遠距離攻撃手段を持っていないし、ジーニアスは攻撃手段を持っているがモンスター100体の群れに突っ込んだりした場合対処できない。
よって時間短縮の為に列人がこれを提案しバクラが受け入れたのである。
「さあ、やってまいりました。コル村~王都ラリーの季節です。
今回の操縦者はなんとあの元Aランクハンターで現在改めてハンターに復帰した『鉄壁』バクラ選手です。
あのアースドラゴン抹殺での華々しい復帰戦を見せてくれたバクラ選手。
今回はどんな走りを見せてくれるでしょうか。
実況は私、列人と解説のジーニアスでお送りします。」
「なんだい?レット。そのノリは、解説って何をすればいいのかな。」
「はぁ、あなた達。馬鹿やってないでさっさと準備済ませなさいよ。」
「おおっと、ここでツッコミのミランダさんから物言いが入った~。
別にサボっていませんからね。ちゃんと荷物はインベントリリュックに入れております。」
「オラ、お前ら。ふざけてないでさっさと乗れ。
ゲオルグ先生が待っているだろうが。」
「ふぅ、またこれに乗るんですね。バクラ殿、できればゆっくりでお願いします。」
「はい、可能な限り負担にならない様に努めます。」
こんな調子で王都への旅路が始まった。
まずチル集落までは特に問題なく辿りついた。
この時バクラは時速50キロほどでなるべく振動がグレートサイクロン号に伝わらないように走っていたので非常に快適だった。(この時バクラは自分が全く疲れていない事に驚く事なく既に受け入れていた模様)
尚、この時実況の列人さんと解説のジーニアスさんが騒ぎ、それをツッコミのミランダさんに怒られると言う走行しているバクラからしたら非常に迷惑なやり取りが行われていた。
この後、バンの街で昼食をとり、再び王都への道をバクラの引くグレートサイクロン号が走り出す。
このままバクラが時速100キロで5時間程走る続ければ王都に到着する予定だ。
ちなみにジーニアス達が王都からバンの街に辿り着くまでに5日かかった。
わずか1日でコル村から王都に行けると聞いた時は流石に2人も耳を疑ったが、現実問題としてそれが行われている事に若干顔を引き攣らせながら驚いている様子だ。
バンの街を出てから1時間程経過した時、列人からジーニアスにある提案がされた。
「少しよろしいでしょうか?解説のジーニアスさん。」
「なんだい?まだそれ続けるかい。実況のレットさん。」
「はい。これからしばらくするとモンスターの群れが多数出現するエリアに差し掛かるのですがどうでしょう?
少し競争してみませんか?」
「競争とはなんでしょうか?実況のレットさん。」
「これから出るモンスターの撃退数と命中率の勝負ですよ。解説のジーニアスさん。
撃退数×命中率で得点を計算。100体を命中率70%で倒したなら100×0.70で70点みたいな感じです。
範囲攻撃は1体入れば命中とします。どうでしょう?」
「面白そうだね。でも僕が有利じゃないかな。
僕は範囲攻撃持ちだし、種類によって得点の優劣がないから僕は弱いモンスターをたくさん倒せばいい。
あと疲れるから、喋り方戻してくれないかな。」
「そうか。ちょっと楽しくなって来ていたんだけどな。
まあ、その辺の戦略も腕の見せどころということで。」
「まあ、面白そうだしやろうか。」
「そう来なくっちゃな。判定はミラに頼むよ。
同時着弾の時はジーニーの点数でいいから。これはハンデだ。」
「ほう、言ってくれるね。返り討ちにしてあげるよ。」
「男の子ってそういうの好きね。わかったわ。では・・・・・始め。」
ミランダの合図とともに早速ゴブリンの群れが姿を現した。その数およそ100。
『ブーストリフレクス』
ミランダは早速自分に肉体強化魔法をかけ、反射神経を増幅させた。
この2人の事だからありえない速度でモンスターを駆逐するはずだ。
それを確認する為には通常の反射神経では追いつかないと判断したからである。
『ストーンシャワー』
『火球』×100
ジーニアスは石礫を大量に空から降らせる魔法を放ち、列人はいつもの火の玉を100発一気に放つ。
ジーニアスと列人の2人同時が40、列人が倒した数が60、両者ミスはなし。
「60点か、まずまずだな。」
「・・・・これはちょっと甘く見ていたかも、少しマズイな。」
この地点で列人60点に対してジーニアス40点、
確かに列人がリードしているが範囲攻撃持ちのジーニアスならすぐに巻き返せる範囲である。
ジーニアスが問題視している部分は別の所にある。
列人は『100発全て』を命中させているのだ。
今回の条件で一番のネックは命中率による減点だと思っていた。
列人は今まで範囲攻撃を使っていなかったので単発攻撃ならいくらか外して減点されると期待していたが、今の列人を見る限りどうやら見当違いだったようだ。
しかも列人は100発も術を連射したのに全く疲れていない。
霊力切れについても期待できそうにない。
勝つためには更に効果範囲の大きな魔法で先に点数を稼ぐしかないがそうするとジーニアス自身が魔力切れする恐れがある。
これはある意味ジーニアスの体力勝負と言う事になる。
やはり、面白がって列人との勝負を受けるんじゃなかった。
幸い今回は賭け事をしていないので被害はほぼないがそれでも負ければ悔しい。
ジーニアスはこれで結構負けず嫌いなのである。
王都に着くまでに魔力切れでへばっている自分が容易に想像できてしまう。
全くこんなに楽しい気分は『学園』ではなかなか味わえなかった。
ジーニアスは獰猛な笑みを浮かべる。
今度はオークの群れ、数は50。
『ロックレイン』
『火球』×50
オークはゴブリンより耐久力が高い為、『ストーンシャワー』より威力が高い『ロックレイン』を使用。
ジーニアスと列人同時が30、列人だけが20、10点巻き返した。
尚、倒したモンスターの死骸については今回は放置。
この辺はモンスターが元々多く、放っておけば勝手に処理されるし、人通りもほぼない。
人がいないところではモンスターの死体は別に放置しても問題ないのである。
以前、ゴブリンを狩った時に死体を処理したのはそれが人の生活圏内だったからである。
そしてなにより今回は時間が惜しい。
なぜならバクラがメリッサから離れている時間が長くなればなるほど何をするかわからなくなるからである。
それはコル村に残したメリッサにも言える話で、このままでは村に残した者達の負担も馬鹿にならない。
この任務は一刻も早く終わらせる必要があるのだ。
次はハイオーガ3体とオーガ30体
『ロックランス』×30
『焼殺』×3
オーガは鬼の様なモンスターで2m程の巨体で攻撃力、耐久力ともに高い。
そしてハイオーガはその上位種でオーガ以上の能力を有している。
2人は勝負中ではあるが何を優先すべきかはしっかり理解している。
ジーニアスがオーガ30を担当し、列人がハイオーガを担当。
ジーニアスは範囲攻撃では心許ないと判断し単体攻撃の中でも威力が高めの『ロックランス』を連射。
列人は普段使う牽制用の『火球』『炎槍』ではなく、唯一の遠距離攻撃用の術『焼殺』を使用。
この『焼殺』は指定した座標に鉄をも蒸発させる豪炎を発生させるのだが威力の割に消耗が激しいのであまり使用しない。
現時点での得点は両者ともにミスがなかった為、列人が83点、ジーニアスが100点。
これだけのモンスターを仕留めている2人も凄いがこれを全て数えているミランダもなかなかである。
これがバクラが引くグレートサイクロン号(時速100キロ)の上で行われているのだから、傍から見れば頭のおかしい光景である。
この勝負が続く事およそ2時間、モンスターが出現するエリアを抜けた所で勝負も終了となった。
結果は列人558点 ミスによる減点なし ジーニアス600点 ミスによる減点3%で結果582点。
やはり遠距離では列人に分が悪かったようだ。
もっとも今回は特に何も賭けていないから悔しいだけであるが、実はこれが一番堪える。
モンスターの出るエリアを抜けたので一旦休憩となった。
「チキショー!いけると思ったんだけどな。」
「いや、流石に近接専門の剣士に遠距離タイプの魔法師が負けたら立つ瀬がないよ。」
「そうね。なんでいけると思えるのかが不思議でたまらないわ。」
「それより僕はレットが一発もミスしなかった事に驚きだよ。ほんとに君剣士なの?」
「おい、お前ら。お前らが騒いだ余波を防いでいたのは俺だぞ。少しは労ったらどうだ。」
「すみません。バクラさん。男共が面倒を掛けてしまって。」
まあ、当然の話ではあるがあれだけドンパチすれば余波も凄まじい。
まして時速100キロで走行中である。その余波をバクラが全て術で防いでいたのである。
バクラとミランダの責めるような視線にバツが悪くなった列人は話を逸らすことにした。
「なあ、ジーニー。さっきの勝負だけど、なんで土魔法ばっかり使ったんだ。
お前の得意な魔法って確か風と水だろう?」
「いや、大した理由ではないんだけどね・・・」
そう断りを入れながらジーニアスは少し難しい表情で理由を語る。
「ある魔法をどうしても使いたくて、それが土系統なんだよ。
だから練習の為に普段は土魔法を使うようにしているんだよ。」
「ジーニー、もしかして『アースブレイカー』?」
「・・・ああ、そうだよ。」
ジーニアスと同じように難しい顔をしたミランダがジーニアスに問いかけ、ジーニアスはそれを肯定する。
『アースブレイカー』はモニカ=ローゼスベルクの得意魔法の一つであり、修道院送りの原因の一旦になった魔法である。
『アースブレイカー』の持つ意味はジーニアスとミランダにとってとても重いものである。
「さて、休憩はこのへんでいいだろう。そろそろ行こうか。」
「・・そうだな、アル。」
2人のただならぬ雰囲気を感じ取った列人とバクラは休憩を切り上げ先に進むことにした。
こういう時はじっとしているよりも行動したほうがいい。
そして道中数回モンスターと遭遇しながら、夕方には無事王都にたどり着いた。
この時ジーニアスは予想通り魔力切れでヘトヘトだった。
遠距離だろうと列人と張り合えるという人間はもはや人外です。
ジーニアスの魔法の腕はもはやこの世界では人外の域に片足突っ込んでいます。
じゃあ列人と近接で張り合える人間はというと、ぶっちゃけこの世界ではまずいません。
張り合えた時点でそいつはもう人間じゃないと思って下さい。




