082_列人の完全敗北
合宿開始です。
082_列人の完全敗北
「いいか、これから言うことは絶対だ。心して訊け。」
列人の声に皆が耳を傾ける。
「まず、最初の注意事項だ。これから行くバクラの家の奥さん
メリッサさんには絶対服従だ。いいな。」
「はぁ!ちょっと待って、列人。メリッサさん、かしら。
どんな人なの。もしかしてやばい人。」
百香の発言に列人とフィオが青い顔をして訂正する。
「こら!百香。滅多な事を口にするんじゃない。」
「そうですよ!メリッサさんはとっても優しい人ですよ。」
2人のその発言に嘘はないようで、それが逆に百香の疑問を深くする。
「じゃあ、なんで絶対服従なのかしら?」
その質問に列人が神妙な顔で答える。
「それはな、メリッサさんが絡むとバクラが馬鹿になるからだ。」
「「「「・・・・・え?」」」」
「追加です。メリッサさんもバクラさんが絡むと馬鹿になります。」
「「「「・・・・・は?」」」」
意外すぎる答えに4人は開いた口が塞がらないといった風情である。
そんな様子におかまい無しに列人が話を続ける。
「2人はバカップルなんだ。それもとんでもないレベルのな。」
「もしメリッサさんの不興を買えば、バクラさんがぶち切れます。
バクラさんがブチ切れるとメリッサさんが泣きます。
そして収集がつかなくなって後に残るのは地獄絵図です。
だから皆さん、あの二人が揃っている時はくれぐれも注意してください。」
「「「「・・・・・」」」」
あんまりすぎる理由に4人が黙り込む。
「次に、バクラとメリッサさんの会話には割り込むな。
ツッコミも禁止だ。ただ聞き流せ。何か問われたら肯定するか流すかしろ。」
「あの2人と同じ空間で同じ話をすると体力がガリガリ削られます。
精神的にもかなり堪えます。死にたくなければスルーです。」
「「「「・・・・」」」」
「じゃあ、行くぞ。地獄にな。」
「はい、行きましょう。アルくん。」
列人とフィオはクールに歩き出す。地獄の底(バカップルの家)に向かって。
絶句する4人を心境を置き去りにして。
それから歩く事しばらく、一同は地獄(バカップルの家)にたどり着いた。
家はこの村では一番大きく2階建てで10人くらいは人が住めそうな大きさだ。
コンコン、
列人が地獄の扉をノックすると優しい女性の声が聞こえる。
「こんにちは、列人ですが、バクラはいますか?」
「こんにちは、アル君。話は聞いているわ。鍵は開いてるから中に入って。」
「では失礼して、お邪魔します。」
列人が代表して挨拶をし、皆家の中に入っていく。
列人を先頭に居間まで辿り着くと金髪に青い瞳の見た目20代半ばから後半の美しい女性がいた。
「お久しぶりです。メリッサさん。」
「アル君、お久しぶり。フィオちゃんもお久しぶり。元気だった。」
「お久しぶりです。メリッサさん。私はいつも元気です。」
「そう、それは良かったわ。初めましての人もいるわね。
私がバクラの妻のメリッサよ。よろしくね。」
メリッサの挨拶を受け、初めましての4人、百香、亜美、ジーニアス、ミランダも笑顔で挨拶を返す。
列人に言われていた内容と比べて、すごくまともそうな人だったので4人はホっと胸を撫で下ろしていた。
そこへ家の奥から足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
「おう、お前ら来てたのか。俺の女神との挨拶はもう済ませたか。」
「「「「え!」」」」
初めましての4人は思わず声を上げそうになるが列人が無言で睨みつけそれを制止する。
「もう、私の王子様。みんなの前で恥ずかしいじゃない。」
「「「「!!」」」」
今度はしっかり声は殺したが顔に驚きがモロに出ている。
幸いにもバカップル共はそれに気づいていないようだ。
すっかり自分達の世界に入っている。
バカップル共が見つめ合う事数秒、今思い出したとばかりにバクラが話を切り出す。
「おっと、すまない。早速だが合宿の話をしようか。」
「ああ、そうだな。まずは荷物を置きたいな。部屋割りも決めないといけないし。」
「そうだな、男2人と女子が4人か。フィオ、お前、もう来れたんだな。」
「はい。ネスさんが気を使ってくれました。エレメンタルズの合宿で仲間外れは嫌だろうからって。」
「あいつはそういう所、気が利くからな。どうせお前の事だから大急ぎで仕事は片付けただろうし。」
「はい、アルくんが参加するイベントに私が参加しないなんてありえません。」
とてもじゃないが危険地帯に列人達が行くから早退させてもらったなんて言えない。
普段から気の利くネスと普段から行動があれなフィオのおかげでうまく誤魔化す事ができた。
「ダーリン、お客様をいつまでも待たせても悪いわ。お部屋に案内しましょう。
女の子は私に付いてきて。」
「すまない、ハニー。男共は俺に付いて来てくれ。」
そう言って二人は列人達を客室へと案内する。
この時列人はジーニアスに『余計な事は言うなよ』と視線だけで釘を刺す。
女子側でもフィオが同じ事をしているようだ。今回フィオがいて助かったとしみじみ思う列人である。
それぞれが案内された部屋に荷物を置いた後、取り敢えず今後の計画を立てる為、お茶会にしようということになり、そのおやつを用意する事が最初の実習となった。
今回のお菓子作りの講師はメリッサだ。
「俺の愛しい人、俺に何か手伝える事はあるか。」
「私の旦那様、今回は私に任せてくれるかしら。あなたに美味しいお菓子を作って差し上げたいの。」
「ああ、そういう事なら頼むよ。お前の作るお菓子なら間違いなく世界一うまいだろう。」
「ええ、期待していてね。ご主人様。」
「ああ、期待しているよ。俺の天使。俺はお茶の準備でもしておくよ。」
「「「「「「・・・・・」」」」」」
このやり取りの後、バクラは1人部屋の外に出た。どうやら井戸の水を汲みに行くようだ。
しかしよくもまあ、こんだけお互いの呼び方を変えられるものだ。
正直お菓子を食べる前から口の中が甘くて胸焼けしそうだ。
まあ、そんな事を本人の前では言えないので当然皆は沈黙を貫く。
バクラが出て行った後、メリッサは楽しそうに皆のお菓子作りの指導をしていく。
今回のメニューはパウンドケーキである。
レシピは比較的簡単に作れるもので、後からお好みのドライフルーツを入れる事で個性も出せるようにした。
これは料理を全くした事のない貴族2人が苦手意識を持たない様にするためと自分でものを作る楽しさを知ってもらう為の配慮である。
指導といっても貴族2人以外は基本講師は必要ない。
メリッサが自分のパウンドケーキを見本で作りながら、二人の調理を優しく指導する。
ジーニアスもメリッサも道具な名前から使い方、作業の方法も何もかも分からず、度々質問をするがそれに笑顔でメリッサは答える。
その風景は一枚の絵画のようで、見ているものの心を和ませる。
メリッサの別名は『コル村の大天使』である。
これは決してバクラがつけた名前ではない。バクラが付けたら大天使程度ではすまない。
基本的にバクラが絡まなければメリッサは天使の様に優しい人物なのである。
ちなみにバクラが女性に話し掛けられる所を目撃した時のメリッサの別名は『嫉妬の魔女』である。
どこかで聞いた事があるような名前だがきっと偶然の一致だろう。
それからしばしの時間が経ち、それぞれのパウンドケーキが焼きあがり、今後の計画を立てる為のお茶会となった。
それぞれ焼き上げたパウンドケーキに好みでドライフルーツを入れたのだが、二つ同じ種類のものがある。
片方は列人で片方はメリッサが焼いたものだ。
中にはバクラの好物のプルーンのドライフルーツが入っている。
実は列人はバクラのメリッサへの愛情の異常さをみんなに教える為、ある仕掛けをしていた。
列人はメリッサの動きを見ながら完璧に作り方をコピーしたのである。
結果、同じパウンドケーキが二つできた。おそらく誰が食べてもほとんど違いがわからないであろう。
列人は作成者の名を明かさずにどれが一番美味しいかアンケートを取ろうと提案した。
アンケートに自分への投票は無しである。
開票結果を見たところ、割とバラバラだった。
生地のレシピがみな同じ物を使っていたため、単純にドライフルーツの好みで別れたものと思われる。
しかし肝心なのはバクラが全く迷う事なくメリッサの作った物を選んだ事だ。
列人の完コピレシピが完全敗北した瞬間である。
この時全員、一種の狂気を感じ取った。なんで分かるのかが理解できないからである。
お茶をしながら決めた今後の合宿の予定は以下の通りである。
日程は2日間、その間に掃除、洗濯、料理、食器洗い、風呂焚きなどの基本的なものに加え、
薪割り、井戸の水汲み等の力仕事、火起こし等のこれらを行うのに必要な技術、
買い物の仕方や物の相場の知識取得が主な内容である。
可能であればサバイバル術も覚えたいがこれは時間が許せばである。
予定も決まり、本格的な合宿(地獄)がこれから始まるのであった。
バクラが何故メリッサの作ったケーキがわかったのか?
それは筆者にも分かりません。
おそらく匂いとかオーラとかスピリチュアル的なものとか、通常の感覚では分からない何かで感じたのでしょう。
はっきり言って怖いです。
ちなみにメリッサ側からも同じ事ができます。




