081_貴族への生活指導と合宿
久しぶりの日常回?です。
081_貴族への生活指導と合宿
訓練を終えた6人はハンターギルドの食堂で昼食を取ることにした。
「ジーニーとミラは今日予定あるか?」
「いや、特にないけど(わね)。」
「・・・・」
列人の質問に対するジーニアス達の返事に列人は渋い顔をする。
「お前ら、しばらくここで暮らすんだろ。
身の回りの準備とかしているのか。」
「あ、すっかり忘れていた。」
「そうだったわ、うっかりしていたわ。」
「はぁ、そんな事だろうと思っていた。」
二人の返事に列人が呆れたように返事をする。
「でも、具体的には何を準備すればいいんだよ。」
「そうね、私達さっぱりわからないわ。」
「「「「・・・・・」」」」
この二人のセリフに列人のみならず、他の3人も絶句する。
「ねぇ、ジーニー、ミラ、何の準備のないって正気?」
「モカ、それはちょっとあんまりな言い方じゃないか。」
「あんまりじゃないよ。田舎暮らしを舐めていると死ぬよ。」
「アミ、目が怖いんだけど。」
「・・・お前ら、食事とか洗濯とかどうする気だ?」
「えっと、やってくれる人とか雇えないの?」
「「「「・・・・・」」」」
今後の生活手段について何の準備もしておらず、家事すらできない。
簡単に言ってしまえば生活能力皆無の貴族2人に4人は頭を抱える。
わずかな沈黙の後、口を開いたのは列人である。
「・・・合宿だ。」
「「え!」」
「これから合宿だ。お前らの家事スキル全般、生活能力を徹底的に改善する!
文句は一切受け付けない!ここにいる者は全員強制参加だ!」
絶叫する列人に貴族2人が往生際悪く言い募る。
「いや、そこまでする必要あるのかい?」
「そうよ、人を雇えれば解決する問題だし。」
「うるせえよ、テメーら。ここはド田舎なんだよ。
雇う人がいないんだよ。舐めてんのかコラー!」
「落ち着いてよ。列人お兄さん。
この二人は筋金入りの貴族で世間知らずで生活無能力者なんだから。」
「そうよ。幼児以下の生活能力も持っていない、高貴と無能を履き違えているポンコツなんだから。
一つ一つキチンと説明しないとわからないわ。」
「アミ、モカ、君達はそんな風に僕らを思っていたのかい?」
「友達の本音をこんな形で聞くなんて、正直ショックだわ。大体モカも元々は貴族でしょう。
あなたは私達をボロカスに言うほどの能力があるのかしら?」
3人のあんまりな言いようにミランダが抗議すると亜美がそれに答える。
「多分だけど、百香お姉さんはこの中で2番目に生活能力高いよ。」
「へ、それってアミよりもって事?」
「アミ、あなた炊事、洗濯、なんでも出来たわよね。それよりも、って事?」
「うん、私、前の世界でよくお菓子を作ってもらったり家事教えてもらったりしてた。」
「ちなみに一番は?」
「列人お兄さん。」
「「嘘でしょう!!」」
亜美の回答にジーニアスとミランダは驚愕する。
まず、亜美は一般の水準でもかなり高いレベルで家事全般をこなせる。
これはヒーローであれば誰でもできるレベルである。
次に百香はそのヒーローに対して家事を教育できるレベル、つまり教官である。
最後に列人は補給担当等その道のプロと比較しても遜色ないレベル、まさにプロフェッショナルである。
だが、亜美の発言に列人が訂正を加える。
「いや、俺は二番目だ。一番はバクラだぞ。」
「「「「えええええ!!」」」」
「・・・・・」
これには全員絶叫する。
バクラは大柄、強面、色黒、マッチョ、と知らない人が見ればマフィアのボスである。
その男が家事ができる。しかもなんでもできると思っていた亜美よりも高いレベルで。
生活能力がミジンコの二人は信じられない物を見る目でバクラを見る。
しかし、なぜかバクラは周りの視線等全く気にせず、黙り込んでいる。
さすがにおかしいと思った列人がバクラに声を掛ける。
「お~い。バクラ。どうした、さっきから黙り込んで。」
「・・・なあ、アル。合宿はどこでやるんだ?」
「一応俺の家でやる予定だが。」
この時、バクラの表情が険しく、というより殺人鬼の様な形相に変わる。
この表情を見て、ある事を思い出した列人は自分の失敗を悔やむ。
「すまん、バクラ。うっかりしてた「俺の家でやる。」」
「「「「え!」」」」
列人がなにか言いかけた事に対して、被せ気味にバクラが発言し、自分の家で合宿をする事を提案する。
他の4人はいきなりのバクラの発言に呆気に取られ、列人1人だけが苦虫を噛み潰した様な表情をしてバクラの言葉を待つ。
「この村で俺の家が一番大きい。部屋数も人数分以上あるから寝るところにも困らないだろう。
それに家が広い方が掃除とか教えるのに都合がいいし、アルの家だとマリアさんに迷惑を掛ける。
ここは俺の家が最適だろう。」
バクラは自分の家での合宿を提案した理由を説明していく。
一見まともな言い分に一同はホッとする。
先ほどの殺人鬼の表情があまりにも印象的だったからだ。
だが、1人だけホッとしていない者がいた。列人である。
依然バクラの言葉を苦い表情でしかし黙って聞いていた。
「俺はこれから帰って準備をしてくる。お前らはもう少しゆっくりしてから来い。
それからアル、くれぐれも馬鹿な真似はするなよ。」
「するかよ、そんな自殺行為。」
「わかっているならいい。くれぐれも頼むぞ。」
「そうだ、フィオも誘って構わないか?エレメンタルズの合宿だからあいつもいないとな。」
「・・・確かにな。ただフィオは夕方までは仕事だからそれからだな。」
そう言い残してバクラはギルドを後にする。
他の4人はバクラと列人のやり取りの意味が分からず、首をかしげる。
「よし、取り敢えず3人は寮の方に外泊の許可を取ってきてくれ。
取ったら俺の家に集合だ。百香、俺達も母さんに許可を取りに行くぞ。
あと、フィオとエヴァさんにもな。」
列人は全員に行動を促した後、まずはフィオに合宿の件を話す。
百香はこの時、列人の行動が妙に不自然だと感じてが、やることも多いので取り敢えず黙って列人について行く事にした。
フィオは最初に合宿の話を聞いた時は嬉しそうだったが、合宿場所がバクラの家だと話すと神妙な表情になり、
「そうですか。分かりました。覚悟を決めていきます。」
「すまない。事情を知っている人間がどうしても欲しかった。
エヴァさんの許可は俺から取っておく。」
等と妙に重い空気で列人とやり取りしていた。
それから列人と百香はフィオの家に向かい、エヴァからフィオの合宿参加の許可を取りに行った。
エヴァに合宿の話をすると、やはりバクラの家で開催すると言う所でなんとも言えない表情をした。
その後、列人達は自分達の家に戻り、マリアにも許可を取る。
許可は降りたがやはりバクラの家での開催と言う部分でマリアも少し表情を変えた。
さすがに今までのやり取りが気になった百香が列人に質問する。
「ねぇ、列人。なんかさっきから様子が変だけど何かあるの?」
「みんなが来てからまとめて説明する。」
インベントリリュックの中に食材と着替え、家事道具一式を入れながら列人は答える。
着替えはジーニアス、ミランダの分も忘れない。
あの二人が着替えを用意してくるとは思えないからである。
これから行われる合宿では一切ミスは許されない。
列人の顔つきは戦場に向かう前の戦士のものだった。
合宿の準備を終え、列人の家に亜美、ジーニアス、ミランダが到着した。
亜美が生活道具一式を持っているのに対して、貴族2人は手ぶらだった。
このことに早速列人は頭を抱えたくなった。
「なあ、ジーニー、ミラ。合宿の準備はどうした。」
「へ!なんのことだい。ちゃんと寮に許可はもらってきたよ。」
「他に何か必要だったのかしら?」
「亜美ちゃん、教えてあげなかったの?」
「一度怒られればいいと思った。」
全く何も分かっていない貴族2人と少し不機嫌な亜美に列人はため息をつきたくなる。
「あのな。ジーニー、ミラ。今回の合宿はいきなり決まったことなんだ。
バクラの家にお前らの生活道具が揃っていると思うか?
自分の物は最低限自分で用意しないと相手に迷惑が掛かるだろう。」
「でも普通は急なお客様が来た時の為にそういう物は余分にあるんじゃないの?」
列人の説明にミランダが悪びれもせず、頓珍漢な質問を返してくる。
列人は自分の血圧が上がっていくのを感じながら、なんとか堪え説明を続ける。
「いいか、ここはド田舎でこれから合宿するのは平民の家なんだ。
平民は基本自分の事で精一杯だから予定のない客をもてなすのは難しいんだ。」
「なるほどね。でも結局のところ、なにが必要なんだい?」
事情がわかったところで何を準備したらいいかわからないので、結局のところどうあがいても手ぶらで来たのだろう。
ここで列人軽く深呼吸をして気分を落ち着かせる。
「取り敢えず、道具は俺の方で準備をしている。
服は俺と百香のものだからお前らが着ている様な質のいいものじゃないが我慢しろ。」
「そうか、助かるよ。でもどうして僕らが何も用意してないってわかったんだい?」
「そうよね、もしかしてレットってストーカー。」
この2人の発言に今まで抑えていた怒りが解放される。
つまり列人はキレた。
「そのくらいわかるんだよ!!舐めんなよ。生活無能力者共!!
今着てるものとか昨日と一緒だろうが!
それに今までの食事全部外食だろう!
そんな人間が合宿の準備ができるとか端から思ってねえよ!
でもまさか手ぶらとは思わなかったよ!
せめて誰かに聞くとかして少しはやる気見せろよ!ポンコツ共!」
「「すみませんでした。」」
「はあ、だからちゃんと準備しようって言ったんだよ。」
「あぁ!てめーら。亜美ちゃんの忠告無視して手ぶらで来たのか。
いっぺん締められてーのか、あぁ!」
「「申し訳ありませんでした。」」
伯爵家の人間に対してここまでボロクソ言える平民はおそらく列人だけであろう。
その上、亜美の忠告を無視した事を知り、暴言は留まる事を知らない。
そんな列人に対してただただ謝るしかない貴族2人。
ここでは身分など紙くず以下である事をこの2人は重々承知しているのである。
そこへ百香からの助け舟が出る。
「列人、もうすぐ出発時間よ。説明お願い。」
百香の言葉に列人は舌打ちをしながら、説教という名の暴言を中断する。
「まだ言い足りないが時間がない。手短に行くぞ。
心して聞いてくれ。下手すると村が滅びる。」
「「「「はぁ!!!」」」」
列人の衝撃発言に4人は思わず声を上げる。
当然だ、たかだか仲間の家に行くだけなのにどうしてそうなるのか意味がわからない。
4人が固まっていると家の玄関の方からノックと声がした。フィオである。
「アルくん、お待たせしました。一大事だったのでネスさんが早退させてくれました。
私も一緒に行きます。出かける前にみんなの荷物のチェックもしないと。」
ドアを開けると慌てた様子のフィオが入ってくる。
勿論手には必要な道具全般がしっかり握られている。
そして全員分のチェックをし、自分が持ってきたものから足りないものを補充する。
「さすが、アルくん。必要なものは全部揃ってますね。
モモカさんは櫛とか小物が少し足りませんね。
アミさんは調理道具が少し多すぎですが、まあ、あって困るものじゃないしいいでしょう。
あとそこの2人はなんで何も準備してないんですか。アルくんがいなかったら死んでますよ。」
「「ごめんなさい。」」
列人に怒られた事をフィオにも怒られ、2人はしょんぼりするがフィオは意に介さず、列人と打ち合わせを始める。
「アルくん、説明はもう終わった。まだなら急いだほうがいいですよ。」
「おお、そうだった。みんな、今から説明と注意をする。
フィオ、不足があったら補足頼む。今回はお前が一番頼りだ。」
「はい、任せてください。」
この時、百香はフィオの行動に違和感を感じる。いつものボケがない。
こういう時フィオは必ず、
『はい、お嫁さんとして旦那様のサポートはしっかりします。』とか言うはずなのに、今は真剣そのものというより鬼気に迫った感じだ。
これから始まる合宿に大いに不安を感じる百香であったが、それをよそに列人の説明が始まった。
次回はバクラがはっちゃける予定です。




