075_お前は知らないかも知れないけど人間は岩を割れない
修行回その2です。
今回はバクラの訓練風景です。
075_お前は知らないかも知れないけど人間は岩を割れない
バクラの霊力修行2日目が終わった瞬間の事
バクラは深い絶望に包まれていた。
別に訓練が辛かったわけではない。そう、辛くないのである。
何を言っているのかわからない方がほとんどだと思うが、バクラは訓練が辛くなかったことに絶望していたのだ。
それはつまり、自分もデタラメ人間の仲間入りをした事に絶望したのである。
今日だけは早く帰って妻に人間辞めた事を告白して泣きつこう。
こんな情けない俺を妻は愛し続けてくれるだろうか。
バクラが世界一愛し、世界一いい女だと思っているメリッサの愛を0.0001秒も疑わせるほどに絶望していた。
この程度で絶望できる辺り、バクラは今相当に病んでいた。
「お~い。バクラ~。戻ってこ~い。」
「しかし凄い落ち込み様ね。
列人式ヒーロー育成術オリジナル版中級編をこなしただけなのに。」
「お兄さん、お姉さん。きっとこなせた事がショックだったんだよ。
常識のある人間なら自分が人間辞めた事にショックを受けるはずなんだよ。」
「ねえ、君達正気なのかい。あんな訓練とは名ばかりの殺人未遂を平気でやっておいて。」
「本当よ、私達がやった入門編も相当にきついのに。中級編とかしたら私達、死ぬ自信があるわよ。」
ではこれからジーニアスが殺人未遂と評した訓練の内容をご覧に入れよう。
その日の早朝、村の広場には昨日と同様の6人が集合していた。
早速列人がバクラにインベントリリュックを差し出しながら、訓練の内容を説明する。
「バクラ、まずはこのリュックを持ってランニングだ。」
「なんだ割とまともだな。ん!随分重いがこりゃインベントリリュックだよね。
一体なにが入っている。」
「うん、いい質問だ。それには重りとして『岩』が入っている。」
「おい、今『石』じゃなくて『岩』と言ったか?」
「ああ、『岩』だね。ちなみに2トンだ。」
「おい待て!俺普通に持ててんだけど。すまない、ジーニアス。
これちょっと持ってみてくれないか、ここに置くからな。」
ズドン!
バッグが地面にめり込みリュックと同じ形の小さな穴を作った。
ジーニアスが恐る恐る持ち上げようとするがびくともしない。
その光景にバクラは冷や汗を流しながらジーニアスに質問してみた。
「なあ、ジーニアス一応聞くけど本気なんだよな。」
「当たり前じゃないですか。なんで片手でこんなもの持てるんですか。」
ジーニアスは顔を真っ赤にしながら必死に持ち上げようとしている。
とても冗談でやってるようには見えない。
「ああ、すまない。もういいぞ、ジーニアス。」
そう言ってリュックを肩に担ぐ。少し重いが特に問題ない。
すると列人が笑顔でバクラにこれからの訓練内容を告げる。
「じゃあ、それを持って山頂まで行こうか。俺についてきてくれ。」
「ああ、わかった。道が細いから少し後ろを走るぞ。」
そう言ってバクラは列人の少し後ろを走る。
登っている山はコルト山脈とは逆にある標高1000m級の山だ。
普通はこの高さの山でも往復を考えれば半日掛かる。
今日は取り敢えず持久力の訓練なのかな、等とバクラが考えていたがどうも様子がおかしい。
バクラ自身は普通に列人に合わせて走っているだけなのだが周りの景色の動きが異常に速い。
それに山の傾斜がおかしいし、獣道を突っ走っている。
どうやら山道を登るのではなく頂上に文字通りまっすぐ向かっているようだ。
普通は山道を距離にして10キロ程度登るが、3キロ程度しか進んでいないのにもう頂上が見えている。
ほどなく頂上に到着、開始から10分程度しか経っていない。
「じゃあ、バクラ。リュックの中の『岩』を出してくれ。」
「ああ、わかった。」
ドスン!
列人に言われるがまま、リュックをひっくり返すと岩が出てきた。
バクラは自分が今までこれを持っていたと思うと震えるのを感じた。
「次はこの岩をできるだけ細かく叩き割ってくれ。」
バクラはその言葉に耳を疑った。岩を割るってどうやってやるんだ。
「なあ、アル。聞き間違いじゃないよな。この岩を割れって聞こえたんだが。」
「ああ、そう言った。」
「素手でか?」
「あ、術は使っていいからな。」
「そういう問題じゃねえ。
お前は知らないかも知れないけど人間は岩を割れないようにできてるんだ。」
「またまたご冗談を。大丈夫ってやれば出来るって。」
「はぁ、どうせやるまで終わらせてくれないんだろう。」
「うん。」
「仕方がない。」
バクラはハンター時代に使っていた攻撃技を霊力で再現することにした。
霊力を右掌に集め密度を高める。
そのまま右腕を岩に向かって突き出し強烈な掌底を岩に霊力ごと叩きつける。
『破岩掌』
現役時代にバクラが愛用していた技の一つ。
その掌底は岩を破壊するが『如き』威力であった為付いた技名
そう、あくまでも『如き』だったのだが、
ドガシャーーーーーーーーーーン!!
バラバラバラーーーーーーーーーーーーーー!!
本当に割れてしまった。それもかなり細かく。
やった本人であるバクラが一番唖然とする。
「よし、まずまずだな。ほら、やればできただろう。」
「・・・・・」
指示した列人の方はさも当然のような態度であるが、実際に割ってしまったのだから、その態度に物申す事もできない。
「でも少し大きいのも残っているな。もう少し小さく割るか。」
そう言って列人は人の頭程度の大きさの岩だったものを石ころサイズまで砕いていく。勿論素手で。
それから列人はバクラに列人の正面10mほどの位置に立つように指示
「じゃあ、これからこの石をそっちに投げるから防ぐなり避けるなりしてくれ。」
「はあああああ!!」
抗議の声をあげるバクラを無視して列人は次々に小石を投げていく。
避けた小石は50mほど後ろの木に刺さっている。こんなものまともに当たったら死ぬ。
最初の方はなんとか避けていたが次第に早くなっていき避けきれなくなる。
「くっそーーーー!『アイアンウォール』」
現役時代最も愛用していた防御魔法を霊力で再現。
霊力の壁が列人の投石を『粉砕』していく。
小石では突破が困難と判断した列人が暴挙に移る。
「おお、硬いな。じゃあこれはどうだ『炎槍』」
あろう事か数々の敵を焼き殺してきた炎の槍をバクラに向けてブッ放す。
「冗談じゃねえぞ、『アイアンウォール』出力最大」
バクラはアイアンウォールの出力を上げて炎槍に対抗する。
炎槍はアイアンウォールにぶつかると空中に霧散する。アイアンウォールの方は無傷だ。
「おお、これでも無傷か。少し出力を上げるぞ。『炎槍』×10」
「テッメー!ふざけんなよ!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!!!!!!
激しい爆発音と共にバクラの目の前が真っ白になった。
バクラはさすがにこれで自分は死んだと思ったが結果は無傷。
アイアンウォールにも傷一つ入っていない。
「これはちょっと予想外だな、さすがにヒビくらいは入れられると思ったんだがな。」
列人が笑顔でアイアンウォールの強度を確かめようとバクラの方に近づく。
すると突如アイアンウォールが消え、その向こうで青筋を立てたバクラが仁王立ちしている。
「アル~!テメー!覚悟はいいだろうな。」
「・・・・バクラさん、もしかしてお怒りでしょうか。」
「あたりめーだ!大馬鹿野郎!」
次の瞬間列人の脳天に強烈な拳骨が炸裂。列人は目の前で星が瞬くのを見た。
しばらく経って、百香、亜美、ジーニアス、ミランダも追いついてきたのでその場は休憩となった。
バクラがどんどん人間離れしていきます。
ちなみにこの世界で岩を割る人間はいるにはいますが極少数です。




