068_その名は『百花』
今回は戦闘前のつなぎの回です。
068_その名は『百花』
ウルフの殲滅を終え、列人達が戻ると夕食の準備を終えた百香達が待っていた。
「お待たせ、みんな。飯にするか。」
「ええ、お疲れ様。食事前に手を洗うから3人とも手を出して。」
列人が百香に向かって手を出すと、ジーニアスとミランダもよくわからないままそれに従った。
「はい、『メディスンハーブ』、よし綺麗になった。じゃあ、食事にしましょう。」
百香の『メディスンハーブ』は傷の治療だけではなく殺菌もできる。
手洗い石鹸替わりに重宝している。
この日の食事は野菜のシチューとバンの街が買ってきたパンと先ほどのウルフの肉を香辛料で焼いたもの。
ちなみにウルフの肉は列人の手によって後からグレートサイクロン号に積み込む予定。
食事をしていると先ほどの戦いに興奮するジーニアスが1人ではしゃいでいるのに対して、ミランダは終始静かだった。
列人は気になってミランダに声を掛ける。
「なあ、ミランダさん。ちょっといいかな。」
「・・・はい、なんでしょうか?レットさん。」
「すまない。怖い思いをさせて。」
「!!」
ミランダは列人の言葉に驚きを隠せなかった。
そんなミランダの様子を見ながら、列人は構わず言葉を続ける。
「時々、忘れてしまうけど、俺の力って普通じゃないんだよな。
君はこの中で一番常識人みたいだし、その事を一番実感したんじゃないかな。」
「・・・・」
「実は、亜美ちゃんも百香もあの程度の事なら簡単にできるんだ。」
「・・・・」
「君は亜美ちゃんが怖いかい?嫌いになったかい?」
この列人の発言にミランダは頭に血が上るのを感じた。
「ちょっと、言っていい事と悪い事がありますよ!
なんで私がアメリアを怖がったり嫌いになったりしないといけないの!」
「そうだね。だから俺の事も別に怖がる必要はないよ。
俺にとって亜美ちゃんの友達は味方だから。」
「・・・・」
ミランダはこの時自分が列人を傷つけたのではないかと思った。
ミランダに話しかける列人はとても優しく、少し寂しそうだった。
そんな空気をぶち壊す者がいた。
「アルくん。また女の子を口説いているんですか。
お嫁さんである私の目の前で私に断りもなく。」
「本当に、列人って見境ないわね。
他の子を口説くにしてもまずフィオちゃんと結婚してからにしなさい。」
「列人お兄さん。私は別に一夫多妻に反対ではないけど、やっぱり1人の女性をちゃんと愛したほうがいいと思うよ。」
「お前ら、なんで今の話の流れでそうなるんだ。だいたいまたってなんだ。
それから百香、テメーはわかってて揶揄ってるだろう。」
「ひゅ~、何のことかしら。」
百香は下手くそな口笛を吹いて誤魔化す。
この光景にミランダが思わず肩を震わせ笑い出す。
「ははははは、おかしい、バカみたい、何やってるんだろうなぁ、私。」
「わぁ、どうしたの。ミランダ嬢。急に笑い出して。」
急に笑いだしたミランダにジーニアスが驚いて声をあげる。
「そうよね。こんな能天気な人達が怖いだなんてどうかしてるわ。」
「どうした。ミランダさん。気でも触れたか?」
「レットさん、人を病人扱いしないでいただけます。
実はレットさんの噂をとある女性から聞いていたのですけど、その女性が言うにはレットさんに中傷された上恫喝されたらしいのよ。」
「ちっ、あの乞食令嬢、またそんな嘘八百を。」
「最初聞いた時から気になっていたんですけど、その乞食ってなんですか?」
ここで皆でナタル嬢とのやり取りを説明する。
「ははは、なにそれ、完全に自業自得じゃない。」
「しかしあのお嬢さん、よくその内容を自分の武勇伝の様に語れたね。ある意味感心するよ。」
「私もそれ思った。しかも『学園』で話した内容って私が聞いたのよりグレードアップしてるから。」
「時間が立つほどに妄想に拍車が掛かるタイプなのかな。」
「なんか先に始末しないと俺が国一番の大悪党になりそうだな。」
「始末とか言ってる時点であなたは悪党よ。」
「国一番の悪党の妻、危険な香りがしてかっこいいです。」
「フィオ、お前は単品で犯罪者だからな。」
「え!フィオさんが犯罪者ってどういう事なの?」
「実はこいつな・・・・」
「「うわぁ~~それはひどい。」」
6人は思い思いに話を弾ませながら交流を深めていき、食事が終わる頃にはすっかり打ち解けていた。
しかし、そんな楽しい時間も終わりを迎え、これから始まる作戦の準備のため、近くの森に移動し野営の準備をするのであった。
野営地でテントを張り終えた時の事、百香のとある一言から作戦会議が始まった。
「・・・ねぇ、今回、列人はフィオちゃんの守りに専念してくれないかしら。」
「どうした百香、俺が前衛の方が確実だと思うが。」
当然列人は異を唱えるが百香はそれを見越した上で話を続ける。
「それは列人の言う通りだけど、最近私が実戦不足なのよね。
このままじゃ、いつまでたっても戦闘の勘が取り戻せないわ。
今回は前衛を担当したいの。
それに、襲撃者とは少し『お話』しておきたいし。」
「・・・ああ、そういう事か、じゃあこっちは任せて好きにしろ。」
列人の了承に残りの者が反論する。
「ちょっと!2人ともなに勝手に話を進めているの!
百香お姉さんって後衛でしょう。わざわざ前に出る必要あるの!」
「そうだね、モニカ嬢も後衛だったし、戦闘スタイルを考えるとリスクが大きい。」
「だいたいモモカさん、後衛のあなたが自分から前へ出たいってどういう事なの。
相手は危険な暗殺者なのよ。あなたにもしもの事があったらどうするのよ。」
どうやら後衛が前に出る事に対して不満のようだ。
百香の身を案じれば当然である。その意見に対して列人が回答する。
「ああ、お前ら百香なら心配いらないぞ。
百香、久しぶりに『百花』の戦闘、見させてもらうぞ。」
「ちょっと列人、恥ずかしいからその二つ名言うの禁止って言ってたでしょう。」
「ああ、すまん。昔の事だったから忘れていた。
そうだ、心配なら亜美ちゃんもフォローに入ってくれ。
俺は今回ここから動かないから。」
「・・・うん、わかった。」
列人の言葉に亜美は不満そうに返事をした。
「それから、ジーニアスくんとミランダさんはお留守番ね。
百香の戦いの見学、あいつの戦いはきっと今後の君達の参考になるから。」
「それはどういう事かな?レットさん。」
「まあ、その辺は百香が出発してから話すよ。本人の前じゃあれだし。」
そう言って話をはぐらかしながら作戦の準備を進めていく。
「じゃあ、皆交代で寝よう。最初の見張りは俺がやる、その次は百香、亜美ちゃんの順番。
ジーニアスくんとミランダさんは疲れているだろうし、フィオは非戦闘員だから見張りは免除。
その代わり明日の朝ごはんよろしく。」
列人はわざとらしく大声で襲撃者に聞こえる様に見張り順を宣言する。
列人の考えだと敵のターゲットは百香、ジーニアス、ミランダの内の誰かだが、可能性が一番高いのは百香である。
そのためわざと深夜の時間帯に百香を配置する事で敵が襲撃しやすい様に誘導した。
また、今回の襲撃者が前回バンの街に来た時と同じ組織なら列人は実力が知られている為、列人が見張りの時はまず襲ってこない。
見張りが変わって列人が寝静まった頃を襲うはずだ。
列人の宣言の直後、百香と亜美はすぐに眠りにつくがジーニアスとミランダは寝つきにくそうだ。
貴族様はこの辺が慣れていないから困ると列人は密かに思った。
フィオについては宣言前から爆睡中。
他のメンバーが百香が前に出る事に反対している中、全く意に介さず黙々と寝床の準備をしさっさと寝てたあたり、列人との付き合いがこの中で一番長いだけの事はある。
列人の見張りは何事もなく終わり、百香の順番になる。
この時百香と一緒に亜美も起こし、亜美はテントの中に待機させる。
ジーニアスとミランダは寝付いたばかりなので、襲撃があるまで寝かせておく。
フィオはそもそも起こす気がない。当然列人は寝ない。
亜美は起きてからずっと列人をジト目で睨んでいるが、列人は知っていて敢えて無視する。
それから1時間ほどが経過、外に動きがあった。襲撃者の動きを百香が捉えた。
テントの外から百香が列人にいつもの何気ない様子で報告する。
「列人、敵が森からこちらに向かっているわ。
迎撃するからあなた達は指示があるまで待機で、」
「了解、亜美ちゃん。取り敢えず外に出る準備しておいて。
俺が出ると警戒されるから。」
「・・・うん、わかった。」
「ジーニアス君、ミランダさん起きて。作戦開始だよ。」
列人は亜美に指示を出し、ジーニアスとミランダを起こす。
亜美はまだ拗ねた様子で返事をし、ジーニアス達が起きた所で口を開く。
「列人お兄さん、いい加減今回の作戦について説明してくれる。
なんで百香お姉さんをわざわざ前衛にしたの。しかも百香お姉さんを殺そうとしている相手に。
その上フォローするはずの私を待機させている。」
「亜美ちゃん、百香の戦闘能力についてはどこまでしている。」
「・・・こっちで知り合って一緒に戦った時以外知らないよ。
百香お姉さん基本後衛やっていたから。」
「そうか、それじゃ誤解されても仕方がないね。
あいつは基本、どこに配置しても戦えるんだ。
後衛を勤めていたのは俺が前衛しかできないから。」
「え、レットさん。あの巨大な炎の槍で攻撃していたよね?
あれで後衛ができないってどういう事。」
「あれは近中距離用の牽制の術だから決定打には欠けるし、前衛で戦った方が早いからね。
それに亜美ちゃんは遠距離特化タイプみたいだったから、その護衛も兼ねて後衛に配置していたんだ。」
「あの威力で牽制用って、本当に規格外なのね。」
「じゃあなんで初めから私に話してくれなかったの?
私が知らないところで勝手に話を進めるし。」
「ああ、それで拗ねてたんだね。てっきり総司達が話していると思ってたからさ。」
「別に拗ねてません。」
列人の言葉に亜美がそっぽを向く。
亜美は前世では大人だったが、やはりお兄さんとお姉さんには甘えたいのである。
自分の知らないところで内緒話をされれば拗ねたくもなる。
列人は苦笑いをしながら話を進める。
「少し百香の話をしようか。
あちらの世界での百香の二つ名は『百花』。
多彩な術とあらゆる状況に対応できる応用力からその名がつけられたんだ。
でも百聞は一見に如かずだな。
そろそろ百香も行動を始めただろうし、俺達はここから百香の様子を確認しよう。」
列人はそう言ってテントの中の者に百香の戦いを見る様に促した。
なお、これでもフィオは爆睡中である。
次回は百香の戦闘回です。
百香が単独でどう戦うのか、乞うご期待。




