066_優しい殺気
本日2話投稿予定1話目
今回久しぶりに列人が真面目な会話をします。
066_優しい殺気
百香の現状を確認した貴族2人に列人はある事を確認する。
「今までの話を踏まえたうえで君達が『モニカ』の味方である事はわかった。
では一つ確認したいんだが、君達は『百香』の味方か、それとも敵か?」
ジーニアスとミランダ、百香と亜美は列人の空気が変わるのを感じた。
先ほどまでのゆるい空気が一気に吹き飛んだ。
咄嗟に百香が列人を制止しようと机から身を乗り出す。
「ちょっと、列人。いきなりどうしたのよ。
そんな怖い顔したらみんなびっくりするでしょう。」
「百香、悪いが少し黙っててくれ。亜美ちゃんもだ。
これはとても大切な確認なんだ。」
この時列人から放たれる刺すような空気が一層強くなった。
みんな冷や汗を流し、顔をこわばらせている。
だが、この空気の中全く動じないものが1人いた。フィオである。
フィオはケーキを口に運びながら能天気に皆に語りかける。
「モモカさんもアミさんも落ち着いてください。
ジーニアスさんもミランダさんも慌てないでください。
だってアルくん、ちっとも怖くないじゃないですか。」
「フィオ、悪いが真面目な話中なんだ。
少し静かにしていてくれないか。」
「ジーニアスさん。ミランダさん。
正直に自分の気持ちを伝えれば大丈夫ですよ。
アルくん、すっごく優しい顔していますから。」
フィオの言っている事が4人には訳が分からなかった。
今にも人が殺せそうな空気を放つこの男が少女には優しい顔に見えるらしい。
列人は思わずため息をついた。
「ふぅ、フィオ。余計なことを言わないでくれ。
もう一度確認する。君たちは百香の味方か。それとも敵か?」
ジーニアスは意を決して列人と向き合う。
これは直感だがミランダではだめだ。彼女は周りの事を気遣いすぎる。
今必要なのは偽りのない実直な意見だ。彼に嘘は通じないし、嘘をつくつもりもない。
フィオという少女が言った通り、正直な気持ちを伝えればいい。
大丈夫、この殺気はモモカさんを心配しての事だ。
「そうだね。正直なところ、モモカさんの敵か味方かと聞かれてもこまるかな。」
「ちょっと、ジーニアス!」
「ミランダ嬢、ここは僕に任せてくれるかな。」
「・・・・」
ジーニアスの強い意思を持った眼差しにミランダは一歩下がる。
ミランダがこの場を任せてくれたと判断し再び列人にジーニアスは向き合う。
「まず僕たちはモモカさんを知らない。当然だよね。今会ったばかりだから。
僕たちは知っているのはあくまでもモニカ嬢だ。
今までの事からモモカさんとモニカ嬢は明らかに別物だ。
姿形が同じだという理由で、安易に味方か敵かを決めるのは早計だと思うよ。」
「・・・それは、・・・確かに君の言う通りだな。」
「だが会ってわずかな時間だが、モモカさんの事を好ましく思う自分がいるのを感じた。
味方か敵かという質問には答えられないが、味方でありたいとは思っているよ。
これが僕の回答だが如何かな。」
ジーニアスの答えを聞き、列人が息を吐き出しながら答える。
「ふぅ、よかった。君達とは敵対したくなかった。心底安心したよ。」
そして、先ほどまでの張り詰めた空気が一気に霧散する。
列人の表情は言葉通り心底ホッとした様な表情だった。
「よし、これから君達は俺達の仲間として扱うからそのつもりでな。
ちょっとみんなこっちに寄ってくれ。少し小声で話したい。」
そう言って列人は全員を手招きし、皆が列人の言葉に耳を寄せる。
「ジーニアス君、ミランダさん、君達つけられているぞ。
しかも気配からして百香を襲った暗殺者だ。」
列人の発言にジーニアスとミランダが息を呑む。
列人は人差し指を唇の前につけ、静かにするようにジェスチャーする。
「君達をもしこのまま放り出せば暗殺者に狙われる可能性があった。
正直味方になってくれてホッとしたよ。亜美ちゃんの友達を見殺しにせずに済んだからな。」
「だから言ったじゃないですか。アルくん優しい顔してるって。」
「フィオ、そういう事は言わなくていい。」
「ふふ、アルくんってば照れ屋さん。」
「百香お姉さん、気づいた。」
「いえ、全然。」
「だよね。フィオさんすごい。」
「・・・・・」
ジーニアスとミランダが自分たちが命の危機に晒されていた事を知り、ゾッとする中、脳天気に話す4人である。
列人達この後の予定について話し合うことにした。
その時に列人からある提案がされた。
「よし、このあとだが買い物だけを済ませて街を出よう。」
列人の提案にジーニアスは渋い顔をしながら異を唱える。
「宿泊しないで帰還というのには僕は賛同しかねるな。
まず、今から買い出しをしてそれからの帰還とのことだが、買い出しをしていたら夕方になってしまう。
それから街を出るとなると帰っている途中で夜になる。
つまり襲撃の危険性が高くなるわけだ。
それなら少し値段は高くついてもセキュリティの高い宿に泊まるのがベストだと思うよ。」
ジーニアスの意見を聞き、普通はこういう感覚なのだなっと列人は感じ新鮮な気分になった。
そしてジーニアスの懸念に対して答える。
「確かに襲撃を避けたいのであればそれでもいいかもしれない。
でもそれには問題点が2つある。
一つ目は襲撃者が街中の被害も考えずに攻撃した時、関係ない人達を巻き込む。
もう一つは襲撃者が逃げるための隠れる場所が街中には多すぎるという点だ。
故に今回は野宿をする事で襲撃者を誘い出し殲滅する。
可能であれば数人生け捕りにして大元の情報を聞き出す。」
それを聞いたジーニアスが考え込む。
「確かにそれが可能であれば理想的だが問題がいくつかある。
まず、敵の戦力がわからないこと。
数がわからないと殲滅できたかわからないし、こちらで対応できない大戦力だった場合、死の危険が付き纏う。
次に周りに人がいない所とはつまり物がない場所だからかえって逃げやすくなる可能性がある事。
最後にここには非戦闘員がいる事。」
ジーニアスの疑問に対して列人が答える。
「まず、敵の戦力については問題ない。
おそらく俺達より戦力が高いものはいないだろうし、数の把握は百香の能力で対応可能だ。
逃げられる危険性についても問題ない。
亜美ちゃんの弓があればまず逃げられないだろう。
最後に非戦闘員3人についてだが、これは百香に守ってもらうしかないな。」
この発言にミランダとジーニアスが異議を唱える。
「少し待ってよ。非戦闘員が3人ってどういう事なの。」
「いや、フィオとジーニアス君とミランダさんの3人で合ってるよね。」
「僕らは戦えますよ。レットさん。アメリアとモモカさんならわかるだろう。」
非戦闘員扱いされたジーニアス達が亜美と百香に話の矛先を向ける。
「ごめんなさい。できれば今回は遠慮してほしいかな。」
「そうね。悪いけど今回は本気の殺し合いだから私達に任せてほしいの。」
「そういう事だ、気持ちはわかるけど学生がやるような事じゃない。
ここは大人に任せてくれないか。」
「訳のわからない事を言わないでくれ。
アメリアだってモモカさんだって僕らと同い年だ。
それにあなただって僕らとそう変わらない。」
この時列人は失敗したと思った。
経験はともかく肉体の年齢はそう変わらないのを忘れていた。
同じ年のしかも女の子を戦わせて自分は守られているだけというのはこの年頃の男の子には堪えるだろう。
「ああ、今のは俺が悪かった。
ジーニアス君とミランダさんはフィオを守ってくれ。」
「・・・わかりました。ジーニアスもいいわね。」
「・・・わかりました。レットさん。」
ミランダがこの場を取り持ちジーニアスも不承不承納得した。
「・・・よしわかった。君達も俺達の実力がわからないと不安だろう。
買い出しが終わったら街を出て少しモンスター狩りをしよう。
その時に俺達の実力を見せるよ。
君の興味の対象である魔力を使わない魔法でね。」
列人の言葉を聞いた瞬間、ジーニアスの目が一瞬輝いたが、これに釣られたと思われたくないのかすぐに拗ねた表情に戻った。
列人は自分にもこんな時期があったなぁ、と昔を懐かしみながら準備を整えるべく街へと向かった。
なおこの時、馬鹿みたいな買い物の量にジーニアスとミランダは開いた口が塞がらなくなるのであった。
ジーニアスとミランダは『アナスト』の攻略対象、つまりゲームにおける主人公パーティの一員ですのでそれなりに戦闘能力を有しています。
ただしこちらの世界では優秀ですが、ヒーロー相手にするには心許ない程度です。
フィオは殺気とかは一切わかりませんので、列人の表情の微妙な変化だけで列人の心理状態を掴んでいます。
フィオはあれで10年近く列人と付き合っていて、ある意味この中で列人の事を一番熟知しています。




