064_食べ過ぎにはご用心
今回は亜美の『学園』での様子を少し書いてみました。
064_食べ過ぎにはご用心
注文したケーキを食べながら一同は話を始めた。
最初に口を開いたのはジーニアスである。
「アメリア、まずこの場はプライベートだ。
学園と同じ様に身分を気にせず普通に話してくれ。
ではまず、君はどうして相談もなく勝手に『学園』をやめたんだ。」
「そうよ、殿下もトーマスも気にしていたわよ。」
「ごめんなさい。私、モニカ様が無実だと信じていたから。
それなのにそれを証言する事ができなくて、それで『学園』に居づらくて。
それに身分は関係ないと建前ではうたっている『学園』ですら平民は下に見られています。
その結果、私の証言が認められずモニカ様をお助けできなかったと思うと己の無力さを感じずにはいられません。」
亜美のなんとも悔しそうな(事情を知っている人間には白々しい)この言葉にジーニアスとミランダは苦い思いが過ぎった。
この国の貴族の裁判において、平民の証言は採用されない。
今回の裁判では状況証拠と周りの貴族生徒の証言でモニカは有罪となった。
モニカは王子の婚約者であるにも関わらずそれに執着しない態度が他の貴族の目に付き、一定数の敵を作っていた。
その貴族達がこぞってモニカに不利な証言をした結果が修道院送りである。
だがこんな裁判がまかり通ったのも貴族が作った法律の欠陥によるものである。
今回の一件も貴族主義が起こした冤罪だと思うとやりきれない気持ちになるし、その責任の一端が貴族である自分達にあると考えると悔しくもなる。
その結果が友人の1人が退学し、もう1人の友人が行方不明である。
最も本当のところはこの裁判はモニカの有罪ありきで仕組まれたものだったのだが、その事をジーニアスとミランダは知らない。
パクパク、むしゃむしゃ。
二人が後悔の念に囚われている隣でケーキを咀嚼する音が聞こえる。
列人、百香、フィオの3人である。
「ちょっとフィオちゃん、私のケーキ取らないでよ。」
「モモカさんのそのケーキ美味しそうなんですもん。
私のケーキもどうぞ、美味しいですよ。」
「あ、本当。美味しい。」
「お前ら、少し静かにしてやれ。向こうはしんみりしてるんだから。」
「あ、ごめんなさい。列人。あなたそのケーキいらないなら頂戴。」
「はいよ、しかしよく入るなぁ。お前も4つ目だろう。」
「だって、ここのケーキ本当に美味しいんだもの。」
「そうですよね。アルくんはこの美味しいケーキを私だけお預けするんですよ。
ホントにひどいですよね。」
「いや、列人じゃなくても止めるから。フィオちゃんは食べ過ぎよ。」
「ちょっと3人とも、静かにしてよ。こっちはしんみりしてるんだから。」
「あ、すまん。亜美ちゃん。俺達は黙っておくから話続けていいよ。」
さすがに騒がしすぎだと、亜美が3人に物申す。
そして何事もなかったかの様にジーニアスとミランダに目を向ける。
「えっと、申し訳ありません。どこまで話しましたか。」
「いや、君の退学の言い分はわかったよ。それに関しては僕らにも責任がある。
責めるような言い方をして悪かったね。」
「ええ、そうね。でも友人のあなたが急にいなくなってショックだったのはわかってほしいの。」
むしゃむしゃ、もぐもぐ。
「フィオ、お前何勝手に追加で注文してるんだよ。」
「違います。これはモモカさんの分です。」
「そうよ、列人。それにあなた、金持ちなのにケチくさい事言うんじゃないわよ。」
「お前さっきと言ってること違うじゃねえか。ケーキの魔力に負けたか。
ケチとかじゃなくて俺が怒られるんだよ。母さんとエヴァさんに。」
「なによ、小さい男ね。自分のお嫁さんくらい母親と姑から守ってあげなさいよ。」
「モモカさんの言うとおりです。お嫁さんの私を守ってください。」
「うるせえよ。だいたいこっちが奢ってるのにお前ら態度がふてぶてしすぎないか。」
「ちょっと!静かにしてよ!友達の前で恥ずかしいよ!」
「「「ごめんなさい。」」」
ふたたび怒られてさすがに大人しくなる3人。
こんな風に亜美が怒る姿を初めて見てジーニアスとミランダは唖然とする。
「アメリア、見ない間に随分雰囲気が変わったけど、もしかしてそちらが素なのかな。」
そう、亜美も『学園』ではそれなりに猫を被っていたのである。
「それにそちらのモモカさん、だったかしら。凄く聞き覚えがある声なのだけど。」
ミランダの発言に4人は冷や汗をかく。さすがにあれだけ騒げば気づくだろう。
「そうだね、でも僕らの知っている彼女は、あんなふうに楽しそうに人をからかうような事はしなかったと思うけど。
(でもすごく似てるな。)」
「そうよね。きっと気のせいよね。(でも似てる、というよりほぼ同じ?)」
なんとか助かった様だ。声が同じとはいえ、この能天気な会話が二人の知る『無気力令嬢』と完全には結びつかなかったらしい。
「はぁ、もう隠せないから素でいくね。2人はどうしてここにいるの。
今は『学園』は普通にやってるはずだよね。」
「なんでって、急にいなくなった君に会いに来たんだよ。
ここの街の領主の娘でナタル嬢っていただろう。
彼女が君にあったって聞いたからさ。」
「そうよ。友達を心配するのは普通じゃなくって。」
「だからって、態々『学園』を休んでまできたの!
ダメじゃない、ちゃんと学びの機会は大切にしないと!」
「確かにそうだね。でも君は研究に没頭しすぎて人付き合いを疎かにする僕に対して、
『研究もいいですけど、周りの人の事もたまには見てあげてください。
その人が新しい学びをもたらしてくれるかもしれませんから。』と言ったんだよ。」
ジーニアスは思い出していた。
研究室に寝食を忘れて引き籠もりすぎて誰にも発見されずに飢え死にしそうになった時、亜美がおにぎりを持ってきながら言った言葉を。
その後続いた言葉が『人は食べないと死ぬと言う事を私から学びましたね。』だった。
「そうね。周りを気にしすぎて流されるままの私には、
『調和を大切にする心は尊いですが、時には自分の望むままに行動するのも良いですよ。
自分の望みを知れば、それが力になりますから。』って言ったかしら。」
ミランダは思い出していた。
この言葉を言われたのはクラスの女子で買い物に行った時の話で、赤色の石のついたネックレスを買おうとした時に、一緒に来ていた別の女子に『髪と瞳に合せて青の物にしては如何ですか。』等とすすめられて、その通りにしそうになった時である。
正直、青色の小物は手持ちに十分あったのでそれ以上必要ないと思っていたのだが、すすめを断るのも忍びなく欲しくもない物を買おうとしていた。
周りに流されて自分の意に沿わない事をしようとしていた心に向けられた忠告だったと今のミランダは考えている。
2人は時々説教臭い少女の言葉に救われる思いがしていたのである。
「つまる所君の言っていた通り行動したわけだ。
君と言う友人に会いたくてね。」
「・・・・」
そんな3人のやり取りを見て、列人達が優しく亜美に語りかける。
「よかったな。亜美ちゃん。いい友達に恵まれて。」
「そうね。でも私はなんかこの子達騙してるみたいで気が引けるんだけど。」
「そうだね、もしかしたら百香お姉さんの事も話していいかもしれないね。」
「そうだな。そういう日が来るといいな。」
亜美はあの『学園』にも確かに大切な絆があった事を噛み締めるのであった。
ちなみに亜美は『アナスト』の攻略方法を全く頼りにしていません。
説教臭いのは素です。
亜美はあれで前世では80まで生きていましたので、どうしても子供相手だと説教臭くなります。
ゲームの『アナスト』のヒロインはもっと可愛らしい感じで攻略対象と仲良くして(媚を売って)います。




