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059_運動不足とセカンドオピニオン

久しぶりに現在のエレメンタルズの話です。


今回は健康診断の話。ヒーローだからこそ健康管理は大切です。

059_運動不足とセカンドオピニオン


ゲオルグがコル村に来て1週間が経過した。

その間、ゲオルグはコルト病の対策方法を伝授し、村人の健康診断を行なった。

ゲオルグは医者としての腕と知識に優れているだけではなく、診察と治療に医療魔術を取り入れたこの世界屈指の医師である。

それでもさすがに300人を一人で診察するのでそれなりに時間が掛かってしまう。

ゲオルグが村に慣れ、エレメンタルズの面々の本性を少し分かってきたところで、本日はエレメンタルズ5人の健康診断である。


バクラの場合


「バクラ殿は胃が少し傷んでいますね。

胃薬を出しておきますが、適度にストレス解消をしてください。」


「ゲオルグ先生、悩みの原因については言及しないんですね。」


「ええ、あれはどうにもなりませんから。」


2人はバクラのストレスの原因もとい、残りのエレメンタルズを見ながらため息をつく。


フィオの場合


「フィオさんは少し寝不足でしょうか?

集中力が落ちる時が時々見られますね。

あと少し近眼が進んでます。

書類作業が多いのはわかりますがたまには遠くも見るようにしてください。」


「アルくんと結ばれる日の事を想像すると悶々として眠れなくって。

あとアルくん情報を検索していたら端末につい顔が近づいちゃうんですよ。」


「取り敢えず私が50過ぎの初老で良かったですが、若い人の前でそういうことを言わないようにしてください。

あと私は医者ですが犯罪者のカウンセリングは専門外です。

自分の犯罪を暴露するのはやめてください。」


自分の妄想の世界にトリップして恍惚の表情を浮かべるフィオに、いつか騎士団に捕まるのでは無いかと心配になるゲオルグである。


亜美の場合


「アミさん、あなたは特に問題ないようですが、身体測定の結果をそんなに見てどうしました。」


「私のバストサイズの記載に不備があります。

実際はあと0.3ミリ大きいはずです。」


「いえ、測定の誤差でしょうし気にする事ないと思いますよ。」


「違います。この記載だとAになってしまうんです。

私のバストはBなんです。測りなおしを要求します。」


この後亜美 (スレンダーボデー)は納得するまで13回測りなおした。


百香の場合


「モモカさんは少し体重が落ちすぎですね。

可能であれば食事を増やすか運動を減らすかするのが望ましいですね。」


「やった!!!」


「モモカさん、如何しましたか?」


「この忌々しい脂肪の塊のサイズがEからDになっている。

このまま頑張って減らせばいつかは前世と同じBに。」


「うわぁ、こっちはアミさんと逆パターンですか。

モモカさん、大変言いづらいんですが、体の構造上それ以上は減りませんよ。」


「なん、だと!」


この時、百香は決して女子がしてはいけない劇画風の顔をしていた。


最後に列人の場合


「レット殿はフラストレーションつまり欲求不満の兆候が見られます。

何か不満に心あたりはありますか?」


「え!アルくんって欲求不満なんですか。

それなら私と今夜その不満を解消しませんか?」


「はい、フィオさん。

今はレット殿の診察中ですので部屋の外に出てください。」


「なんかあいつのボケ、どんどんエスカレートしている気がするがいろいろ大丈夫か。

主に倫理的な意味で。」


「それともう一つ、私自身この診断が正しいか物凄く疑問なのですが、レット殿に運動不足の兆候が見られます。」


「「「「嘘だ~~~~!!!」」」」


「はい、皆さん。気持ちはわかりますが部屋から出ていってください。

私が自分の診察を一番疑っているんですから。」


「ああ、運動不足ですか。そういえば最近というか2年ほど本気を出してませんから。

どこかに適度なサンドバッグ(殴っても死なない生き物)が転がっているといいんですが。」


「そうですか。見つかるといいですね。(あれは絶対物騒なことを考えている)」


列人はこの後自分の健康の為という大義名分の元、森の奥地へと強敵(サンドバッグ)探しに向かうのであった。

列人が森の危険生物を乱獲する光景がありありと思い浮かべられ、ギルド職員の過労死待ったなしであった。

以前百香が診断した絶対安静とは反対の診断結果を下されたことになんとも言えない表情を百香は浮かべる。


森へ健康の為の運動(生態系破壊)に向かった列人を見送りながら、ふとフィオが疑問を口にする。


「ゲオルグ先生の診断でアルくんって運動不足だったんですよね。

でもアルくんって、モモカさん達とほぼ毎日激しい模擬戦してますよね。

どうして運動不足なんでしょうか?」


「確かにそれは俺も気になっていた。」


「それは私も思いました。

レッド殿とモモカさんとアミさんの3人はあの傍から見たら常軌を逸している模擬戦をしているわけです。

モモカさんとアミさんは特に異常がなかったのに対して、レット殿だけ運動不足というのも疑問でした。」


フィオの疑問にバクラとゲオルグが同意する。

ゲオルグが行なったのは通常診察と魔術診察の両方であり、その的中率はほぼ100%である。

故にレットの診察結果に対して一番疑問に思っているのは実はゲオルグ本人なのである。


「ああ、ゲオルグ先生。それについては私が説明するわ。」


「ええ、お願いします。正直非常に気になります。」


「まずあの模擬戦っていつも野次馬がいるでしょう。

だから私達全然本気じゃないのよ。」


「うん、うん。」


「「「はぁ~~~~!!!」」」


「どういうことだ。俺が見た限りではSランクのハンターでもあの動きができる人間はそうそういないぞ。」


「全く、あなた達エレメンタルズはとんでもないですね。」


「そもそも、本気ってどれだけすごいんですか?

それと気になったんですが、誰が一番強いんですか?」


百香の本気じゃない発言に亜美は頷き、残りの3人は驚きと疑問を口にする。


「誰が一番強いかぁ。百香お姉さんはどう思う。

多分私と同じ意見だと思うけど。」


「列人ね、悔しいけど。それも断トツで。」


「やっぱりそうか。私達とは経験値が違うよね。」


「だからでしょうね。列人だけ運動不足になったのも。」


「えっと、でもモモカさんって向こうではアルくんの同僚だったんですよね。

つまり同じくらい強いんじゃないですか?」


「向こうでも個人戦闘能力に関しては列人の方が上だったわ。

特に近接戦闘についてはヒーローでも上位だったわ。」


ちなみに先ほどからゲオルグの前でヒーローの話を平気でしているが、健康状態を見てもらう必要上、前世の記憶については説明済みである。


「さすが私の旦那様です。」


「まあ、フィオの妄言は置いとくとしてだ。

上位って事はそれより上がいたということか?」


「ええ、でもその話は置いておきましょう。

話すと長くなるし、訓練と称した一方的な可愛がり(公然虐待)を思い出して鬱になるから。」


「そうだね。あれは思い出したくないね。」


百香と亜美が顔色を悪くしてわずかに震えるのを見てバクラとフィオは戦慄し、慌ててゲオルグが声を掛ける。


「モモカさん、アミさん、思い出したくないのであれば無理に言わなくてもいいですよ。

それより、レット殿の話の続きをしましょう。」


「そうですね、先生。えっと列人と私達の違いだったかしら。」


百香が気を取り直して話を続ける。


「大きな違いは転生後の行動ね。私は転生して2ヶ月程度だからこちらでの戦闘経験は少ない。

亜美ちゃんも比較的安全な王都周辺でしか戦ってない。

列人はこの国で最も危険なコルト大森林で10年間戦い続けている。」


コルト大森林とはコル村の北にある森で、百香が初めてゴブリン討伐したのもここだ。

森の浅い場所なら一般人でも入れるが、深いところになると危険生物がウジャウジャいる。

10年前アルフレットの父親が亡くなったのも、ここから一部モンスターが溢れたせいである。


「しかもその10年間は常に1人で戦っている。

その為、今のあいつの能力は単独での戦闘に特化されており、おそらく私達がいるよりあいつ1人のほうが単純な戦闘能力は高い。」


「え!なんで1人のほうが強いんですか?

だってモモカさんもアミさんもとても強いですし、アルくん別に他の人との連携って苦手じゃないですよ。」


「そうね。確かにあいつは集団戦闘もこなせるわ。

でもね、私たちがいるとあいつは炎の能力を全力で使えないのよ。

あいつの精霊『火之迦具土神』の持つ女性殺しの能力のせいでね。」


この時フィオは思わず自分の腕を見る。

かつて列人を助けようとして火傷した腕。

今は百香の治療で治っているが、その時列人は酷く深刻な顔をしていた。

フィオはそのことに少し怖くなる反面、とても嬉しく思った。

列人が自分の事を案じて真剣に考えてくれていたと思ったからだ。

フィオが少し顔を綻ばせていると、


「フィオちゃん、なんで今の話で嬉しそうにしているの。」


「だってアルくんってやっぱり優しくて、私の事もちゃんと考えてくれているんですよ。」


百香はわかっていてあえてフィオに質問する。

なんで列人はさっさとフィオと結婚しないんだろうと考えつつ話を続ける。


「列人と私達の違いはこんなところかしら。列人のフラストレーションもその辺に起因するのかもね。

強さの順で行くと列人が断トツで強くて、私と亜美ちゃんがたぶん同じくらい。

ただし役割が違うので何とも言えないところね。

ちなみにだけど亜美ちゃんは列人がヒーロー時代になんって言われていたか知ってる?」


「百香お姉さん?ちょっと聞いたことないかな?

私がヒーローになる前の事はあんまり情報が入ってこなかったから。」


「モモカさん、私も気になります。」


「列人は別名『死なない死にたがり』って呼ばれていたの。」


百香が告げたあまりに物騒な二つ名に一同は声を失った。


「ちなみにだけど、亜美ちゃん。総司の弓の腕は知ってるわよね。

総司っていうのは亜美ちゃんの師匠なんだけど、みんなに説明してくれるかな。」


「?、はい。こちらの人にわかりやすく説明すると、ハイウルフ100頭を弓だけで10秒以内に殲滅できます。

しかも1発も外さず。」


「はあ!なんだそいつは。お前らの周りはそんな化物だらけだったのか。」


亜美の説明に思わずバクラが声をあげる。

こちらの人間にとって、ハイウルフとはとにかく素早くて飛び道具が当たらない事で有名である。

それを大量にしかも1発も外さずに倒すのがいかに規格外であるか、元ハンターのバクラが一番わかるからだ。


「ちなみにね、総司が列人から10m離れた時の矢の命中率って0.01%以下、

つまり運が良くて1万発に1発当たるかどうかっていう計算になるのよ。」


「はあ!なんだその頭のおかしい数字は!」


「列人の最もすごい所はその洞察力と回避能力、いくら敵に囲まれても攻撃を受けない所なの。

あいつの戦闘スタイルは敵陣深く突撃して大立ち回りをした後、敵の攻撃を一手に受ける囮役になることなの。」


「それで『死なない死にたがり』なわけか。正気とは思えんな。

見てる方も心臓に悪いだろう。」


「ええ、本当にね。この事で何度あいつと総司と私で口論になった事か。

あいつは人の心配とかそういうのをまるっと無視するのよね。

そういう無神経な所が嫌いなのよ。」


一同は百香の『嫌い』という言葉に目を丸くする。

それと同時に列人が如何に無茶して周りを心配させるか知っているから納得もする。

少ししんみりした雰囲気の中、『メッセージアイリス』の呼び出しがあったのでそれに応じると、列人の能天気な声が聞こえて来て今までの空気が全てぶち壊れる。


「こちら列人、百香か。すまないちょっと頼みたいことがある。」


「こちら百香、頼みたいことって何よ。どうせ碌でもないことでしょう。」


「実は運動がてらモンスター狩りをしてたんだが、討伐した素材が多すぎて運べなくなったんだ。

悪いけどこっちに来てソリを作って欲しいんだ。場所は『メッセージアイリス』でわかるだろう。」


「・・・列人、本当は聞きたくないんだけど、何を狩ったの?」


「ああ、レッドドラゴン2匹とフレイムリザード100匹。

今回は炎耐性を貫通する熱量に挑戦してみた。」


列人のあまりの発言に一同は絶句した。いち早く復活したのはバクラだ。


「モモカ、替われ。」


「・・・はい、どうぞ。」


バクラのあまりの剣幕に百香は素直に『メッセージアイリス』を渡した。


「おい!アル!テメーふざけんなよ!またギルド職員を過労死させる気か!

だいたい焼け焦げたレッドドラゴンとか売り捌く時にどう説明するんだ。」


「ああ、バクラか。大丈夫だ、炎で焼いたって言っても首の皮だけだ。

そこ以外は焼けてないから素材の状態は良好だぞ。」


「そういうことを言ってるんじゃねえ。どこにレッドドラゴンを焼ける炎使いがいるってんだよ。

少しは自分の非常識さを自覚しろ!」


「そう言われてもここにいるわけで。」


「知ってるんだよ!こんな馬鹿な事が出来るのはお前だけだってことくらい!

帰ったら説教だからな。覚悟しておけよ!」


そういってバクラは乱暴に『メッセージアイリス』の通信を切った。


「すまない、モモカ。悪いがアルを迎えに行ってやってくれ。アミも頼む。」


「「・・・・了解。」」


「バクラ殿、胃薬の追加を用意しましょうか。」


「すまない、ゲオルグ先生。」


「マスター、私ギルドに連絡入れて準備してもらっておきます。」


「ああ、頼んだ、フィオ。」


こうして、列人のやらかしに振り回される一同であった。

やはり列人は多少運動不足になっても一人にすべきではないと思うバクラだった。

百香ちゃん、まさかの誤診・・というかこんな結果誰がわかるかよ!

列人の霊力の不調はまさかの運動不足が原因でした。


『024_赤色は過去を語る』で語っていた裏切られた思いってこんな事。

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